第1章

【1】相続を取り巻く環境

現在、相続を取り巻く環境はどうなっているのかを見ておきましょう。まず、令和4年度の死亡者数は1,582,033人となり前年より129,744人(8.9%)増えました。

出生者数は799,728人で前年より5.1%減となり、戦後最大の人口減となりました。また、相続税の申告件数は増税となった平成27年1月から増加傾向にあります。相続税の申告状況で見ると改正前の平成26年度は4.4%ですが、平成27年度には8.0%、令和3年には9.3%と毎年増加しています。

次に相続財産の内訳ですが、平成24年度と令和3年度を比べると、現金・預貯金等を相続する割合が年々増えています。(図参照)

逆に不動産が占める割合が年々減っていることが分かります。

それに加えて、65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している高齢者数は、2025年には700万になると予想されています。「認知症施策の動向について」(厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室による令和3年月6日発表)では、判断能力が低下することによる資産凍結問題・相続発生時の遺産分割が難航する問題などが、年々増加し深刻化すると予想されています。以降で、認知症がどう相続に関係するかは詳しく説明しますが、これらは相続を学ぶ上でもきちんと押さえておきたいポイントです。

同時に、人口減が相続に与える影響も見ておきましょう。

人口が減少する原因は色々と考えられますが、その中でも生涯未婚率の増加や出生率の低下があげられます。出生率については先ほど説明した通りです。

2020年度の国勢調査の結果では、生涯未婚率は男性25.7%、女性16.4%となっており、50歳の時点では男性は4人に1人が女性は約6人に1人が未婚です。

合計特殊出生率は2021年1.30となり、6年連続で前の年を下回ったことが厚生労働省の2021年度人口動態統計でわかりました。

未婚率と少子化の影響を受けて、核家族化がますます進むことで、単独世帯も増加しています。単独世帯は2040年には約40%に達するという予測も出ていて、そのことが孤死・孤立死の増加に繋がっています。厚生労働省の人口動態統計によると50人1人が孤独死あるいは孤立死していることになります。

今後は、「おひとり様」の相続対策がいかに大切かわかります。

それに付随する、実家の空き家問題・墓の継承問題などもあり、相続を取り巻く環境は複雑化・深刻化していると言えるでしょう。

【相続という漢字を紐解く】

辞典で調べると

1 家督・地位などを受け継ぐこと。跡目を継ぐこと。「宗家を―する」

2 法律で、人が死亡した場合に、その者と一定の親族関係にある者が財産上の権利・義務を承継すること。現行民法では財産相続だけを認め、共同相続を原則とする。

3 元々の語源は仏教用語で「因果が連続して絶えないこと」

解説すると、すべての現象は諸行無常で、変化して一瞬一瞬生滅すると説かれておりその流れは継続していること。相(すがた)を続ける、つまり非連続の連続、という意味。その仏教語が現代では引き続き起こること、受け継ぐことという意味となって、一般にも用いられるようになった。

【2】相続とは

相続とは、人の死亡により、その人の持っている財産及び権利義務のすべてを承継することです。財産及び権利義務を承継する人を相続人、亡くなった人を被相続人と言います。

財産には不動産や現預金などプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。このときに財産を承継する人のことを相続人と言い、亡くなった人のことを被相続人と言います。

【3】相続の流れ

相続が発生すると、上記の図表のように遺言の有無によって手続きの仕方は違ってきますが、相続人及び相続財産の確定後に、遺言や遺産分割協議書の内容にて相続財産の移転をします。相続財産の移転とは、不動産の名義を取得する相続人の名前に名義の変更や、預貯金や有価証券の名義を同じく取得する相続人に移転することを言います。

相続税が基礎控除を超える場合には、相続税の申告納税も行う必要があります。

また、死後事務と言って、家賃や介護費用・医療費等の精算、各種クレジットカードの解約や健康保険の返却など役所関係の届け出も必要となります。

まずは、大まかな流れだけ把握しておきましょう。

【4】相続対象財産

相続対象財産とは、相続人が引き継ぐことができる財産や権利のことを指します。具体的には、以下のようなものがあります。

■プラスの財産

・不動産

相続対象となる不動産には、土地や建物、マンション、アパートなどが含まれます。

・預貯金

相続対象となる預貯金には、普通預金や定期預金、貯蓄預金、外貨預金などがあります。

・有価証券

相続対象となる有価証券には、株式や債券、投資信託などが含まれます。ただし、証券会社などに預けている場合には、その証券会社によって取り扱いが異なるため、相続人は取引先との契約内容を確認する必要があります。

・車両

相続対象となる車両には、自動車やバイク、船などが含まれます。

・宝石・美術品・骨董品などの家財一式

1つあたりの価値が5万円以下であれば「家財一式」とし、1つあたりの価値が5万円を超える場合は、個別で評価をすることになります。

・ゴルフ会員権

ゴルフ会員権は、主に社団法人制・預託金制・株主会員制と、3つに分類されるため被相続人の財産にゴルフ会員権が見つかった場合には、いずれに該当するか確認しましょう。

・特許権・著作権などの知的財産

知的財産権はその内容により、相続財産の対象となるものと対象外となるものがあります。また、知的財産には一定の存続期間(原則的保護期間)が定められています。

■マイナスの財産

・負債

借金・住宅ローン・買掛金など

・税金関係

未払いの所得税・住民税・固定資産税など未払いの税金

・その他

未払い分の家賃・地代、未払いの医療費など

■相続財産にならないもの

被相続人の権利や義務に属するものは相続財産となりません。

ただし、本来は相続財産ではないものでも経済的効果が認められるもの(生命保険金・死亡退職金など)は、「みなし財産」として相続税が課せられます。

・系譜(家系図)、祭具(仏壇・位牌など)、墳墓(墓地・墓石)など祭祀財産

祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとされており、相続財産にはなりません。

・生命保険金

契約者(保険料を負担していた者)及び、被保険者が被相続人の場合の死亡保険金は受取人固有の権利となり、相続財産にはなりません。ただし、「みなし財産」として相続税が課せられる場合があります。

・死亡退職金

死亡退職金は原則として、受取人の固有財産となるため受取人が指定されている死亡退職金は相続財産にはなりません。ただし、「みなし財産」として相続税が課せられる場合があります。

・遺族年金

遺族に対して支給される遺族年金(遺族厚生年金、遺族基礎年金)は、原則として所得税も相続税も課税されません。

・香典

一般的には喪主が葬式費用を支払うためのものと考えられるため相続財産になりません。

【5】法定相続人

法定相続人とは、亡くなった人の遺産を相続する資格を持つ人のことを指します。民法で遺産を引き継ぐ人(相続人)の範囲や順番、引き継ぐ割合(相続分)などのルールが決められています。

<法定相続人と相続順位>

配偶者は常に相続人となります。

第1順位:子や孫(直系卑属)

被相続人に子がある場合には、子と配偶者が相続人となります。

ただし、子が被相続人より先に亡くなっている場合は、直系卑属(孫・ひ孫等)が相続人となります。

第2順位:親・祖父母(直系尊属)

被相続人に子、及びその直系卑属がいない場合は、直系尊属(父母・祖父母等)と配偶者が相続人となります。

第3順位:兄弟姉妹・甥姪

被相続人に子およびその直系卑属がなく、直系尊属も死亡している場合は、兄弟姉妹と配偶者が相続人となります。ただし、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合は、その兄弟姉妹の子(甥・姪)が相続人となります。なお、直系卑属の代襲相続は世代の下限はありませんが、第3順位の代襲相続は一代限りとなっています。

<代襲相続のポイント>

・兄弟姉妹の代襲は一代限りとなる。

・直系卑属の代襲は世代の下限はない。

・相続人と被相続人が同時死亡の場合も代襲する。

・相続放棄すると代襲はしない。

相続分については、必ずこの割合で相続しなければいけないわけではなく、法的に有効な遺言がある場合や相続人全員の合意があれば、法定相続割合通りに分ける必要はありません。

【6】遺産分割

人が亡くなり相続が開始すると、亡くなった人の財産は、法定相続人がそれぞれの法定相続分で一度共有することになります。これは、あくまで一時的な状態であり、財産を具体的に配分する手続きが「遺産分割」です。なお、相続人が一人しかいない場合は、全ての財産はその相続人のものとなるため「遺産分割」は不要です。

(1)遺産分割の基準

遺産の分割に関しては民法906条にこのように書かれています。

『遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。』要するに、必ずしも法定相続分で分ける必要はないということです。また、遺産分割の期限は定められていませんが、長引くと預貯金の解約や不動産の売却が難航することもあるため(相続人の一人が判断能力をなくすなどで)なるべく早く、遺産分割はした方がいいでしょう。

(2)遺産分割の方法

遺産分割の方法には3つの手続き、4つの分割方法があります。まずは、3つの手続きから見ていきましょう。

■遺産分割の手続き

(1)遺言による遺産分割

遺言がある場合は原則として遺言の内容に従って遺産を分けます。また、民法第964条に「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。」とあります。つまり、遺言書の内容は法定相続分よりも優先されることになります。遺言が自筆証書遺言の場合は、開封せずに家庭裁判所で検認の手続きをとる必要があります。

(2)遺産分割協議による遺産分割

相続人たちが遺産を分ける方法や割合を話し合い、合意した上で文書化することです。遺産分割は相続人全員で行う必要があります。一部の相続人で行った遺産分割協議は無効となります。話し合いの結果、合意が得られたら、遺産分割協議書にまとめて相続人全員が署名捺印します。

(3)遺産分割調停と遺産分割審判

相続人間の意見が合わずに遺産分割協議で合意に達しなかった場合に、争いを解決するための手続きです。遺産分割調停は、相続人たちが話し合いをする場であり、中立的な第三者である調停委員が仲裁を行います。調停委員は、相続人たちの話し合いを聞き、遺産分割協議が成立するように妥協案を提案する役割を担います。遺産分割調停は、裁判所が行う手続きではなく、相続人たちが自主的に申し立てる手続きです。

一方、遺産分割審判は、裁判所が行う手続きであり、裁判官が争いを解決することになります。遺産分割審判は、相続人たちが合意に達しなかった場合や、遺産分割調停で妥協案が成立しなかった場合に申し立てることができます。遺産分割審判では、相続人たちが主張する証拠を集め、証拠調べや口頭弁論を行い、最終的に裁判官が遺産分割の判断を下しますが、多くの場合、法定相続分となることが多いようです。

■遺産分割の方法

(1)現物分割

不動産や株式・車などの財産をそのまま相続する遺産分割方法です。

現物分割は遺産分割で一般的な方法です。例えば、自宅不動産は配偶者が相続し、

自動車と有価証券は長男が相続するなどを現物分割といいます。

【メリット】

・手続きが簡単

相続人が特定の遺産を引き継ぐだけのため、売却などの手続きが不要で、手続きがシンプルです。不動産や株式、車などを相続しても、相続した人の名義に変更するだけです。

・評価を巡るトラブルを回避できる

現物分割する際は、相続人が不動産をそのまま取得するので、不動産の評価を行う必要がありません。

【デメリット】

・不公平になる可能性がある

現物分割では1人の相続人が土地や建物を相続するため、不動産のような分割が難しい遺産を現物分割する際は、他の遺産との価値に差があると、不公平感が生まれることがあります。

・分筆した場合、不動産の評価が下がることがある

現物分割する際に、土地を分筆することで分筆した土地一つ一つが狭くなり、道路に面しなくなったりすることで、不動産の価値が下がることがあります。また、土地の評価が下がることで、売却が難しくなる可能性もあります。

(2)代償分割

特定の相続人が特定の財産、例えば不動産を取得した代わりに、他の相続人に対して一定の代償財産を交付する分割方法です。例えば、長男に自宅不動産を相続させる代わりに、次男に対して代償金を支払うという方法がよく行われます。

【メリット】

・公平感を生むことができる

不動産などを受け継いだ相続人と、不動産の代わりに代償金などをもらう相続人に不公平が生じないよう分割できるというメリットがあります。

・不動産など分けにくい財産を残せる

不動産を相続する相続人は、土地や自宅などの遺産をそのままの形で取得できます。これは、他の相続人にとっても、分割しにくい不動産などの遺産をスムーズに処理できるというメリットになります。

【デメリット】

・代償金を支払う相続人に資金力が必要

代償金を受け取る相続人は代償金から相続税を払えばいいが、現物財産を相続する人は、自分の資産から代償金や相続税を払うことになるため、資金力が必要となります。

・贈与税などの税金がかかる場合がある

遺産分割協議書に代償分割について記載がないと、代償金の全額が贈与とみなされ、贈与税が発生することがあります。

(3)換価分割

不動産や株式など相続財産の中でも分割しにくいものを売却し、現金化した後に相続人同士で遺産分割を行う方法です。例えば、父が被相続人で、相続人が長男と次男、遺産が3,000万円の自宅不動産の場合、この自宅不動産を3,000万円で売却し、その売却代金を長男と次男が1,500万円ずつ分ける方法です。

【メリット】

・公平に分けやすい

売却金を法定相続分に応じて分配するため、法定相続分に即して公平に遺産を分けやすいです。

・資金不足でも分割しやすい

代償分割を選ぶ際のデメリットで説明した資金力に関しても、換価して現金化するため問題とならないです。

・納税資金の確保がしやすい

換価分割によって不動産や株式などを売却し、まとまった資金を得ることで、相続税を期限内に納税できます。

【デメリット】

・売却時に安価になる可能性

相続税納税のために売却を急ぐ必要が生じる場合、売り急ぎ状態となり相場よりも安い値段での売却となってしまう恐れがある。

・手間と経費がかかる

換価分割を選択した場合は、相続人全員が合意し売却の必要があります。その際は、遺産分割協議をして、不動産を売却することに相続人全員が合意の上売却となる。また、不動産仲介会社へ支払う手数料や印紙代、測量費用・境界確定費用などの諸経費がかかる。

(4)共有分割

不動産などの分割が難しい遺産の全部または一部を複数の相続人で共有する形で相続する方法です。ただし、後々処分しにくくなる問題が生じることがあります。例えば、相続財産が自宅不動産のみの場合、長男と次男がそれぞれ1/2ずつの割合で共有取得する方法です。この共有分割は、相続人間で揉める可能性があるため、実務上はお勧めしないことが多い分割方法です。

【メリット】

・公平感を生むことができる

相続財産が不動産しかなく、かつ代償分割や換価分割といった方法も選択できない場合でも、共有とすることで平等な遺産分割をすることができる。また、売却時の売却益も持分に応じた資金を分配することができる。

・遺産分割協議が速やかに完結する

不動産を一時的に共有状態にすることによって、遺産分割協議を速やかに完結できる。

・手間と費用がかからない

換価分割の際のデメリットにある不動産売却の手間や不動産会社への手数料・印紙代や測量費用・境界確定費用もかからない。

【デメリット】

・権利関係が複雑になる

共有者の一人が亡くなると、その相続人が共有持分を相続することになる。その相続人が亡くなると、さらにその相続人が共有持分を相続することになる。つまり、共有者が増える上に、関係の薄い者同士が共有者になるため、共有者が誰なのか把握が困難になってしまう可能性がある。

・管理が困難になる

共有不動産について管理行為(賃貸借契約の解除や賃料の変更等)をするには、共有者の持分価格の過半数の同意が必要。そのため、建物の経年劣化などで建物を改修したい場合も過半数の同意が得られなければ勝手に改修はできないため、管理が困難になる。

・売却しにくい

共有不動産を売却するには、共有者全員の同意を得なくてはならないため、売却そのものが困難となる可能性が高くなる。

このように、遺産分割の方法はそれぞれにメリットとデメリットがあるため、きちんとそのことを理解してどの方法を選択するかが重要です。相続人たちが適切な選択をするためには、事前に情報収集や話し合いを行い、遺産分割に関する専門家の意見も参考にすることが望ましいでしょう。

(5)相続放棄

相続放棄とは、相続人自らが相続する権利を放棄することを意味します。相続放棄するこ

とにより、相続人は相続財産に関する権利や義務を放棄することができます。

例えば、被相続人が多額の借金を残していた場合などに相続放棄が有効です。

・相続放棄の流れ

相続が発生した日(相続開始日ではない)から原則3ヶ月以内に、財産を放棄する相続人が家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出します。

①相続人であることを知る

②被相続人の「相続財産」を調査し、相続放棄をするかを検討

③相続放棄の手続きに必要な書類(戸籍謄本など)を市区町村から取り寄せ、「相続放棄申述書」を作成

④家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を郵送または直接提出

⑤家庭裁判所から「照会書」が届いたら、「回答書」に記入して返送

⑥家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届き、相続放棄が完了

・相続放棄が認められないケース

以下の場合は、単純承認とみなされ、相続放棄が認められないことがありますので、注意が必要です。

□相続人が相続財産の全部、または一部を処分した場合

□相続人が相続財産の全部または一部を隠匿、消費した場合

例えば、「入院給付金」「高額療養費」などの受取人は、通常は被相続人のため、これらを受け取った相続人は、相続放棄ができなくなる恐れがあるため注意が必要です。

また、遺産分割協議に参加した場合や被相続人あての請求書を支払った場合も、相続放棄ができなくなることがあります。

・相続放棄しても認められるもの

相続放棄をした相続人であっても、「相続財産でないもの」は受け取ることができます。「相続財産ではないもの」とは未支給年金、遺族年金、遺族基礎年金、死亡退職金、生命保険金などです。

ただし、生命保険金や死亡保険金を受け取った場合、非課税枠はなくなります。

・相続放棄の際の注意点

<不動産の相続放棄>

不動産に課される毎年の固定資産税や土地の維持管理費は払わなくても良くなりますが、次に引き継ぐ人が見つかるまで、管理義務責任は残ります。相続人全員が相続放棄すると、利害関係人(=相続放棄した者)の請求により、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任してくれます。相続財産管理人が選任され、その者が相続財産の管理を開始すれば、相続放棄した者は財産管理から解放されます。

しかし、相続財産管理人が財産の管理を開始するまでは、相続放棄した者が管理し続けなければなりません。また、家庭裁判所に申し立てしなければ、相続財産管理人の選任も行われません。

さらに、相続財産管理人の選任にはある程度の費用がかかります。選任の申し立てを弁護士や司法書士に依頼する場合、士業への報酬がかかります。さらに、弁護士や司法書士が相続財産管理人に選任された場合にも報酬がかかります。

<相続放棄の範囲>

先順位の相続人が相続放棄をした場合、次順位の相続人が相続権を取得します。第三順位の相続人である兄弟姉妹(または甥・姪)が相続放棄すると、法定相続はその時点で相続が実行されないまま終了します。

つまり、相続放棄をする場合は順位が繰り上がるため、第三順位の相続人まで知らせておかないと親族間でトラブルになることがあります。

第2章 相続税計算の仕組み

【1】相続税の計算

相続税は、財産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた場合に課税されます。相続税の計算は、次の流れで行います。

■相続税の基礎控除額

相続税の対象となる財産合計額から、相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額である「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えた場合には、その超えた部分について相続税がかかります。

「法定相続人の数」については、民法における相続人の数をベースとしていますが、以下の点で違いがあります。なお、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を計算する際の「法定相続人の数」も同様です。

・養子縁組をして民法上の相続人を増やした場合でも、実子がいるときの養子の数は1人まで、実子がいない場合の養子の数は2人までとなります。

・相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとして計算します。

相続税の対象となる財産の合計額から相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額以下である場合には、相続税はかからず、相続税の申告書を提出する必要もありません。

■相続税の計算の仕組み

(1)計算の手順

相続税は、最初に被相続人に対する相続税の総額を計算します。次に、その相続税の総額を、各相続人が引き継いだ財産の割合で分配することによって各相続人に割り振ります。割り振られた相続税額に対して、各相続人の属性や個別の事情を考慮した加算・減算の規定が適用されます。

(2)相続税の総額

相続税の対象となる財産の合計額から相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人数」を超える場合には、その超える部分を一旦、法定相続分で分けたとします。次に分けた後の金額について、それぞれに当てはまる相続税の税率をかけて相続税を計算します。計算された相続税を合計したものが「相続税の総額」です。

(3)各相続人の税額

「相続税の総額」は相続人全員について算出された相続税の合計額です。その合計額を実際に各相続人が引き継いだ財産の割合によって分配します。被相続人の財産を30%引き継いだ場合は、その相続人は相続税の総額の30%を負担します。被相続人の財産を何も引き継がなかった相続人には相続税はかかりません。

(4)各相続人の納付税額

各相続人に割り振られた税額について、例えば、財産を引き継いだ相続人が配偶者の場合は「配偶者控除」という規定により、その相続人に対する税額が減額されます。財産を引き継いだ相続人に障がいのある子がいれば、「障害者控除」という規定により、障がいのある子に対する税額が減額されることになります。

このように各相続人の属性や個別の事情を考慮した税額加算や税額控除が適用され、各相続人の納付税額が決定します。

■相続税の申告要否の判定基準

財産の評価額の合計が基礎控除以下であるかを判定するにあたり、主な相続財産である宅地・建物・預貯金・有価証券・生命保険金の評価額の目安も確認しておきましょう。

■相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除額は以下の算式で計算されます。

【相続税の基礎控除額】

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人が妻と子2人であれば、法定相続人の数は3人です。この場合、相続税の基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。

【2】財産の評価額

■宅地

宅地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」があります。簡単に説明すると、「路線価方式」は市街地にある宅地の評価方式で、「倍率方式」はそれ以外の地域の宅地の評価方式になります。

【路線価方式】

路線価方式は、「路線価」が定められている地域の宅地の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面している宅地の1平方メートル当たりの標準的な評価額のことで、毎年7月1日にその年の路線価が国税庁より公表されます。路線価は国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」というサイトで確認できます。宅地の評価額は、路線価をその宅地の形状等に応じた調整率で補正した後、宅地の地積をかけて計算します。簡易的に評価額を算定する場合には補正を考慮せず、単に「路線価×その宅地の地積」で計算すればいいでしょう。

【倍率方式】

倍率方式は路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式での宅地の評価額は、その宅地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算します。固定資産税評価額は市(区)役所または町村役場から送られてくるその年分の「固定資産税納税通知書・課税明細書」(名称は各自治体により若干異なります)に記載があります。また、各自治体の固定資産税課の窓口で「固定資産税評価証明書」(名称は各自治体により若干異なります)を発行してもらうこともできます。固定資産税評価額にかける倍率は、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」というサイトで確認することができます。

(参照:https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm)

□建物

建物は固定資産税評価額により評価します。

□預貯金

預貯金は原則として亡くなった日の残高で評価します。従って、亡くなった日の残高証明を金融機関で取得するようにします。

□有価証券

有価証券は、原則としてそのときの時価で評価します。証券会社に預けている有価証券については、3ヶ月から4ヶ月ごとに送られてくる取引報告書に所有している有価証券の時価が記載されているのでそれらを参考にするか取引残高証明書を依頼します。

□生命保険金

保険証券を参考に、生命保険金を確認します。なお、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠がありますので、その金額を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

【3】相続税の6つの控除と2つの特例

相続税を計算する際には、主に6つの控除と2つの特例があります。まずは、6つの控除を見ていきましょう。

(1) 基礎控除

全ての相続人に適用される遺産に係る基礎控除で、「3,000万円+600万円×法定相続人数」となります。相続等によって財産を取得した各人の課税価格の合計額がこの基礎控除額以下である場合は、原則として相続税の申告納税は不要です。

(2) 配偶者の税額軽減(配偶者控除)

配偶者だけが利用できる制度で、配偶者の相続財産が1億6,000万円、もしくは法定相続分の範囲内までは相続税が非課税になる制度です。差し引く金額の方が大きい場合は課税されません。配偶者控除を受けることができる配偶者は、相続開始の時点(被相続人が亡くなった時点)で、配偶者が相続を放棄しても適用があります。この配偶者は法律上の婚姻の届出をした者に限られ、いわゆる内縁関係の者には適用されません。配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書において税額軽減の明細を記載する方法で行い、相続税の申告書を提出する際に遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど配偶者が取得した財産がわかる書類を添付する必要があります。

(3) 未成年者の税額控除

相続人が18歳未満の未成年である場合に相続税の額から一定額が控除される制度です。未成年者だとしても相続税は発生しますが、未成年者には教育費や養育費などさまざまなお金がかかるため、こうした事情を考慮し、税額控除の仕組みがあるのです。相続人に未成年者がいる場合、18歳に達するまでの年数に応じて、1年につき10万円が未成年者控除として相続税額から控除されます。

未成年者控除の控除額の算式は次のとおりです。

「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」

(注)相続開始時の年齢は満年齢とし、1年未満の端数は切り捨て。

例えば、10歳の相続人なら、「(18-10)×10万円=80万円」の税額控除となります。

(4) 障害者の税額控除

障害者の税額控除は、相続人が85歳未満の障害者の場合(一定の要件を満たす必要があります)に、相続税額から一定額が控除される制度です。

障害者控除の控除額の算式は次のとおりです。

・一般障害者の場合

「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円」

・特別障害者の場合

「(85歳-相続開始時の年齢)×20万円」

(注)相続開始時の年齢は満年齢とし、1年未満の端数は切り捨て。

また、控除額が相続税額よりも大きい場合は、他の相続人でかつ扶養義務者の相続税額から控除できます。

例えば、50歳の障害者である相続人の場合は、「(85-50)×10万円=350万円」、特別障害者の場合は、「(85-50)×20万円=700万円」が相続税額から控除されることになります。

(5) 相次相続控除

相次相続控除とは、最初の相続の発生から10年以内に次の相続が発生した場合に、相続税額から一定額を差し引くことができる制度です。たとえば、2年前に父が亡くなり、今年母が亡くなって相続が開始した場合、前回の相続で母が1,000万円の相続税を納めていた場合、その約8割に当たる約800万円の税額控除が受けられることになります。

控除額の計算式は以下の通りです。

「A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10」

A:今回の被相続人が前回の相続時に課された相続税額

B:今回の被相続人が前回の相続時に取得した純資産額

C:今回の相続で相続人や受遺者の全員が取得した純資産額の合計額

D:控除を受ける相続人が今回の相続で取得する純資産額

E:前回の相続から今回の相続までの期間(端数切捨て)

また、相続を放棄した者および相続人としての権利を失った場合は相続人ではないため、遺贈により取得した財産がある場合でもこの控除は適用されません。

【6】贈与税額控除

相続税と贈与税を二重に払わなくて済むように、相続税から控除できる制度です。

贈与された財産に対し、既に贈与税を納めていた場合、贈与税額控除により既に納めた贈与税を差し引くことができます。贈与税額控除には適用要件があり、すべて満たす必要があります。

【贈与税額控除の要件】

①被相続人から相続財産を引き継いだ

②被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた

③贈与税の申告と納税を行っている

【贈与税額控除の必要書類】

相続税申告書の第4表の2「暦年課税分の贈与税額控除額の計算書」と相続税申告書の第14表「純資産価格に加算される暦年課税分の明細書」が必要

■2つの特例について

(1)小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合には、80%又は50%まで評価額を減額できる特例です。例えば、被相続人の自宅の敷地の相続税評価額が1億円だったとします。この土地に小規模宅地等の特例を適用すると2,000万円の評価となります。土地の評価額は高額となる場合が多く、その場合、当然相続税も高額になります。相続税が支払えず、生活の基盤でもある自宅がなくなってしまわないよう大幅に評価減できる特例措置が設けられています。

【小規模宅地等の特例の対象となる土地の要件】

①特定居住用宅地等(住宅で使っている土地)

特定居住用宅地等とは、亡くなった人または亡くなった人と生計を一にしていた親族が住んでいた土地であること。土地の面積330㎡までの部分について評価額が80%減額される。

②特定事業用宅地等(事業をしていた土地)

特定事業用宅地等とは、被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が事業を行っていた土地のこと。土地の面積400㎡までについて、80%減額される。

③貸付事業用宅地等(貸している土地)

貸付事業用宅地等とは、被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が、貸付業をしていた土地のこと。賃貸マンションやアパート、貸駐車場等が該当する。土地の面積200㎡までについて、50%減額される。

【小規模宅地等の特例の適用を受けるための必要書類一覧】

適用には、原則申告期限までに遺産分割協議が成立していることが必要です。

・マイナンバーカード

マイナンバーカードがない場合は、番号を確認する書類としてマイナンバーが記載された住民票の写し、または通知カード写し、及び身元を確認する書類として、運転免許証・身体障害者手帳・パスポート・在留カード・公的医療保険等の写しのいずれか1つ。

・被相続人のすべての相続人の戸籍謄本(写し可)あるいは法定相続情報の写し

・遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

・すべての相続人の印鑑証明書(原本)

(2)納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)

農地を相続または贈与した場合は、相続税または贈与税で農地の納税猶予の特例を適用することができる特例です。農業で使われる農地は面積が広大なため、相続税や贈与税が課税されると税額が高く支払いができない可能性があります。また、納税のために農地を処分してしまうと農業後継者がいなくなる問題が出てくるため設けられた特例です。

一定の条件が設けられており、制度を利用できるのは「農家を継ぐ相続人」に限ります。農業をやめると、利子付きで納税しなければなりません。また納税「猶予」とありますが、条件を満たせば納税は実質的に免除となります。条件は以下のとおりです。

【被相続人の要件】以下のいずれかに該当していること

・死亡の日まで農業を営んでいた

・農地等の贈与税の納税猶予を適用した農地等の生前一括贈与をした

・死亡の日まで相続税・贈与税の納税猶予の適用を受けていた者で、障害、疾病などの事由により営農が困難な状態で、賃借権等の貸付けをし、税務署長に届出をしている

・死亡の日まで特定貸付けを行っていた

【相続人の要件】以下のいずれかに該当していること

・相続税の申告期限までに農業を開始し、その後も引き続き農業を行う場合、農業委員会が証明した人(適格者証明書の交付を受けた者)

・農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの事由により営農が困難な状態であるため賃借権等の貸付けをし、税務署長に届出をしている

・相続税の申告期限までに特定貸付けを行っている

また、原則として相続を放棄した相続人は適用を受けられません。

次の場合には納税の猶予が取り消され、猶予されていた贈与税と利子税を納めなければならないため注意が必要です。

・農業をやめた場合

・受贈者が贈与者の推定相続人でなくなった場合

・継続届出書を提出しなかった場合

・生産緑地の買取の申出があった場合

・特定生産緑地の指定の解除があった場合

・都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当した場合

以上のように6つの控除と2つの特例は、適用要件など含めて仕組みが複雑なものが多いため必ず税理士に相談をし、しっかりと確認を行い選択することが大切です。

また、6つの控除と2つの特例とは別に生命保険料や死亡退職金には非課税枠もあります。被相続人が生命保険に加入しており、死亡保険金を相続人が受け取った場合や同じく死亡退職金を受け取った場合について解説します。

(1)死亡保険金

生命保険金はみなし相続財産として、相続税の対象となります。

ただし、生命保険金は契約者・被保険者が被相続人で受取人が相続人の場合、以下の非課税枠があります。

500万円×法定相続人数=非課税

この非課税を超えた部分は相続税の課税対象となります。

例えば、契約者:被相続人、被保険者:被相続人、受取人:配偶者で、死亡保険金が3000万円だった場合、相続人が配偶者と子2名だとすると、500万円×3=1500万円までが非課税となります。また、以下の場合には非課税枠はありません。

次の例のように、死亡保険金は受け取る人によって税金の種類が変わります。

①妻の生命保険料を夫が支払い、妻死亡で保険金受取が夫・・・夫には所得税

②妻の生命保険料を夫が支払い、妻死亡で保険金受取が子・・・子には贈与税

(2)死亡退職金

企業などから受け取る死亡退職金もみなし相続財産として、相続税の対象となります。

死亡退職金とみなされるのは、

・死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの

・生前に退職し、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの

生命保険金と同様、500万円×法定相続人数=非課税

となります。

生命保険金の非課税枠と死亡退職金の非課税枠は併用可能です。

第3章 相続対策

よく、相続セミナーなどで参加者の方から「我が家は大した財産がないので、相続対策は必要ない」と聞きます。確かに、基礎控除以内の財産であれば「納税資金対策」や「節税対策」は必要ないということになります。

相続税が実際にかかる人の割合は、2022年12月の国税の「2021年分における相続税の申告事績の概要」の公表によると、相続税の課税割合は、2014年度には4.4%でしたが、2015年度には8.0%、2021年度には9.3%と毎年増加しています。2021年度の相続税の課税対象者の割合は、前年度比で0.5ポイント増加し、9.3%となりました。

実際に課税があった被相続人(死亡者)の数は100人のうち約9人ということになりますので、決して多いとは言えません。ほとんどの方は、「納税資金対策」と「節税対策」が必要ではないということがこのデータからもわかります。では、大した財産がない方の場合、相続対策は必要ないかというと、それは違います。「納税資金対策」と「節税対策」が必要ない場合でも「相続対策」は必要です。

それは、「相続対策」と言われるものには4種類あるからです。また、2020年度の司法統計の遺産分割調停の新受事件件数は全国の総数は1万2760件。裁判所の遺産分割調停・審判の金額別割合を見ると、遺産が5000万円以下の割合は最高裁判所司法統計によると次の通りです。

2016年度 75.5%

2017年度 75.5%

2018年度 76.2%

2019年度 76.7%

2020年度 77.6%

相続財産が多いから揉めているというよりは、むしろ5000万円以下の財産で揉めていることが分かりますし、少しずつではありますが右肩上がりとなっています。このことからも「相続対策」がすべての人に必要であると言えます。

【1】相続対策の検討手順

相続対策を行う上では以下の手順に従って行います。

①現状の把握

現状の把握にはさらに二つあります。

・相続財産の把握

何がどこにいくらくらいあるのかを把握します。

(例:不動産は自宅用と農地があり、さらに先祖から名義を変えていない山林がある。現預金は○○銀行と○○JAに合計1,000万円など)

・思いの整理

誰に何を相続させたいのか、させたくないのか、自分自身の考えを整理します。

②現状分析及び問題点の把握

①を受けて、隣地との境界が未確定のままの不動産が何筆あるか、先祖名義のままの山林は誰と遺産分割する必要があるかなど現状把握し、また、行方不明者が推定相続人にいるのでどうしたらいいか、不動産が多く現金が少ないので納税資金をどう確保するかなどの問題点を把握します。

③問題解決策を考え、それを実行する。

②で把握した問題を解決するために、士業や相続コンサルタントを入れて遺言作成・相続人調査・節税対策などを立て、実際に実行します。

④定期的なメンテナンス

相続人の数の増減(子が先に亡くなる・あるいは孫が増えるなど)、想いが大きく変化した(不仲だった子との仲が回復したなど)、あるいは財産が大きく増減した(不動産の一部を売却してアパートを建てたなど)場合には、一度立てた対策を見直し、適宜、修正や再度対策の立て直しをします。

【2】4つの相続対策

相続税対策には遺産分割対策、節税対策、納税資金対策、認知症対策の4つがあります。

かつては、相続対策は遺産分割対策、節税対策、納税資金対策の3つとされていましたが、

近年、認知症患者数が年々増加していることから、認知症対策が加わり4つとされています。

①遺産分割対策

分割対策における一般的な悩みは、

〇遺産をめぐって残された家族が争わないようにしたい

〇法定相続分と違う分け方をしたい

〇相続人ではない孫などに遺産を遺したい

といったものがあります。

亡くなった後、遺産をめぐって相続争いにならないように、また、自分の財産を誰に承継させるのかを決める分割対策のことです。

遺産分割対策は、遺産をどのように分割するかということです。対策方法として主に、

☑遺言作成

☑生前贈与

が挙げられます。

遺言に関しては次章で、生前贈与に関してはこの章の次の節、節税対策で詳しく説明します。

②節税対策

相続税は累進税率であるため、財産額が大きければ大きいほど税負担が重くなります。そのため、相続税を少しでも減らしたいときに行う対策のことです。相続税を節税するための対策は主に以下の4つがあります。

☑生前贈与

☑養子縁組

☑不動産の活用

☑生命保険の活用

③納税資金対策

納税資金対策とは、相続税が相続発生後10ヵ月以内に現金一括納付が原則となっているため、納税資金が不足した場合に相続人に負担をかけることになってしまうことから、納税資金の確保に役立つ対応方法のことです。

対策としては主に2つあります。

☑相続時の資金を増やす

☑生前に資金を増やす

④認知症対策

相続が発生すると、被相続人の財産が凍結されますが、その際に認知症で判断能力がない人が相続人にいる場合、遺産分割協議が難航する恐れがあります。また、相続発生前においては、相続対策をするべき人(親など)が認知症で判断能力が失われると、相続対策そのものができなくなります。それらに備える対策が、今後認知症発症が増加の一途をたどる現状において重要となってきました。認知症対策は主に3つあります。

☑遺言作成

☑民事(家族)信託

☑委任契約・任意後見契約

【3】生前贈与

この項では、相続対策において遺産分割対策及び節税対策で重要な役割を果たす生前贈与について詳しく解説していきます。

まず、生前贈与とは生きているうちに自分の財産を第三者に譲り渡すことです。この場合、贈与する相手は相続人だけではなく、孫や嫁、あるいは親しい友人やNPO法人などに対しても贈与することができます。

生前贈与を活用することが遺産分割対策となる理由としては、相続時にトラブルのもとになりそうな財産を生前に贈与しておくことで、相続時のトラブルを回避できる可能性があるからです。たとえば、自宅不動産がトラブルのもとになる可能性があるなら、先に贈与することで相続財産ではなくなるため回避されるということになります。

また、節税対策としての生前贈与の効果は、財産を生前に減らすことにより相続財産を結果として減らせるため、相続税も減るということになります。

生前贈与には以下の方法があります。

・相続時精算課税制度

・暦年贈与

・教育資金贈与

・おしどり夫婦贈与

・住宅取得等資金の贈与

・贈与税の配偶者控除

■相続時精算課税制度

この制度は、原則として60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子や孫などへの贈与について選択できる制度で、2,500万円までの贈与が非課税で、2,500万円を超えた部分に対しては一律で20%の贈与税がかかります。また、「相続時精算課税」という名称の通り、相続発生時に相続税を計算する際には、制度の適用を受けた贈与すべてを相続財産に戻して、相続税の課税対象となります。その際、既に支払った贈与税については、相続税から控除されます。また、相続時精算課税制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年贈与に戻すこともできません。

ただし、令和5年度税制改正大綱により、相続時精算課税制度も見直されることになりました。具体的には、相続時精算課税を利用しても、2024年からは毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与総額が110万円を超えなければ、贈与税は課税されず、贈与税の申告も不要です。さらに、年間110万円までの贈与には、相続税が課税されることもありません。

この改正後でも基本的な仕組み自体は変わっておらず、「一律20%」や「2,500万円まで非課税」という点も変わりません。しかし、「年110万円控除」枠が新設されることで少額でも手軽な生前贈与が可能となりました。

【相続時精算課税制度を選択した場合の、贈与税の計算式】

贈与税 = (贈与額 - 控除額(最高2,500万)) x 0.2

例えば、贈与額が5,000万円の場合、贈与税は(5,000万円 - 2,500万円) x 0.2 = 500万円となります。

【初回贈与時に必要な手続き】

相続時精算課税制度の適用を受けるには、初回贈与の年の翌年3月15日までに、次の書類を提出する必要があります。

・贈与税の申告書

・相続時精算課税選択届出書

・受贈者の戸籍謄本(抄本)

・受贈者が贈与者の孫の場合は子の戸籍謄本(抄本)

・受贈者の戸籍の附票の写し

・贈与者の住民票の写し

【メリット】

・2,500万円を超える部分についての贈与税額が低く抑えられる。

例えば、

暦年課税制度:(1億円 - 110万円)×55% - 400万円 = 5,039万5,000円

相続時精算課税制度:(1億円 - 2,500万円)×20% = 1,500万円

となり、相続時精算課税制度を活用した方が贈与税を抑えられることになる。

・値上がりが確実な財産がある場合

相続時に組戻し計算される際には、贈与時の価格で計算されるため、将来値上がりすることが確実な財産を事前に生前贈与することで、「相続時の時価 - 贈与時の時価」の差額分だけ相続税を節税できる。

【デメリット】

・暦年課税制度が使えなくなる

相続時精算課税選択届出書を提出すると、暦年課税制度の適用は受けられません。

・贈与を忘れると遺産分割協議と相続税申告をやり直す必要がある

相続時精算課税選択届出書を提出後の贈与は何年前の贈与でも相続税の課税対象となり、対象となる贈与を忘れて相続税の申告をした場合、税務署から指摘され、遺産分割協議や相続税の申告をやり直すことになるため要注意。

・相続人でない孫などは、相続税は2割加算となる

相続人でない孫などが財産をもらうと、後日相続税の申告・納税義務が生じ、「相続税 + 相続税×20%」を納めなくてはならない。ただし、代襲相続で受け取った場合は2割加算とはならない。

■暦年贈与

暦年贈与とは、毎年繰り返して贈与を行うことです。暦年贈与のうち一定額(受贈者1名につき1年で110万円)の範囲内は贈与税が非課税となるため、相続税を節税する際によく活用されます。また、暦年贈与を行う際には、毎年、贈与する人と贈与される人との間で贈与契約を締結し、契約書を残しておくことが望ましいです。この契約書は法的に贈与が成立するための根拠となります。

2023年度の税制改正大綱により、暦年贈与の持ち戻し期間が2024年以降は3年から7年に延長されることになりました。これは、死亡日以前3年間に贈与した財産が、相続の際、相続財産に持ち戻すこととなっている暦年課税制度を使って行う生前贈与の相続財産への加算期間が、3年から7年になります。よって、本テキストでは新制度で解説していきます。死亡日以前、7年間に贈与した財産は、相続の際に相続財産に持ち戻すこととなっています。贈与した金額が年110万円以下の基礎控除の範囲内でも、贈与者の死亡日以前7年間であれば、相続税の対象になります。また、延長した4~7年の4年間の持ち戻しの額は、この期間に贈与した財産額から100万円を控除した額になります。2024年1月1日以降に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されるため、2026年12月以前に相続開始の場合、加算期間は3年であり改正の影響を受けませんが、相続開始日が2027年1月以後、加算期間は延長され、令和13年(2031年)以降、加算期間が7年となります。

【メリット】

・相続人でない孫などへの贈与が加算の対象外のため、相続人以外のものへの贈与での節税効果が見込める。

【デメリット】

・持ち戻し期間延長のため、より早く暦年贈与をしなくては節税効果が見込めなくなった。

■教育資金贈与

教育資金の贈与は、正式には「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」という制度で、原則として30歳未満の人が祖父母や親から学校の授業料や塾代(塾代の場合は500万円上限)などの教育資金1500万円を上限に一括で贈与を受ける場合、贈与税が非課税となる優遇措置が2026年3月31日までとなりました。

【教育資金の範囲】

① 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学(園)試験の検定料

② 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴う必要な費用

③ 教育(学習塾など)に関する対価や施設の使用料など

④ スポーツ(サッカー、剣道など)または文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る対価など

⑤ ③または④の指導で使用する物品の購入に要する金銭

⑥ ②に充てるための金銭で、学生等の全部または大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの

⑦ 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費

【教育資金贈与の要件】

①直系尊属からの贈与が必須

②金融機関に専用口座の開設が必要(一人一口座)

③現金を引出すには、口座を開設した金融機関に領収書の提出が必要

④30歳になるまでに入れた金額を使い切る

また、孫等が、1500万円以下の額について金融機関等の営業所等を経由して「教育資金非課税申告書」を提出することによって、贈与税が非課税となります。

【メリット】

・1500万円以内の教育資金の贈与には贈与税がかからない

・子や孫、曽孫などの多額な教育資金を確保することができる

・贈与者が高齢の場合には一度に大きな贈与をすることで、贈与の後に、贈与者が亡くなった場合でも、相続税も贈与税もかからずに、継続して教育資金として使うことができる

【デメリット】

・金融機関に口座を設けて贈与資金を預け入れたり、資金を使う場合は領収書を提出したり手間がかかる

・使用用途は教育に限定されている

・受贈者の子や孫などが30歳までに使い切れない場合、贈与税がかかる

■おしどり夫婦贈与

おしどり贈与とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用されます。通常、暦年贈与と呼ばれる贈与を行った場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されます。しかし、おしどり贈与の適用を受ければ、基礎控除とは別に2,000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2,110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができることになります。

【おしどり夫婦贈与の要件】

①夫婦の婚姻期間が20年以上であること

②居住用不動産または居住用不動産の取得資金の贈与であること

③贈与された年の翌年3月15日までに居住用不動産に住んでおり、その後も居住する見込みがあること

④おしどり贈与を適用するには、贈与税の申告が必要。

おしどり贈与を適用して贈与税が0円となる場合でも、贈与税の申告書を作成して提出しなければならないため申告書忘れには要注意。

【メリット】

・相続税対策に活用できる

・生前贈与加算が不要

・相続発生後も配偶者の住居を確保できる

・自宅を売却したときの譲渡所得税を低くできる

【デメリット】

・登録免許税・不動産取得税などのコストがかかる

・配偶者が先に亡くなった場合、配偶者名義の財産は相続税の課税対象になる

【4】不動産の活用

相続対策として、不動産活用が効果的であると言われる理由は、現金を相続した場合、3000万円の相続税評価額は3000万円となりますが、3000万円で購入した不動産は相続税を計算する際には、3000万円より評価額が低くなります。これは、相続税法に基づく「税法上の財産評価額の引き下げ」という仕組みをうまく利用しているからです。それらを踏まえて、具体的にどのような活用法があるか確認していきましょう。

■不動産の評価方法

不動産は一物4価と言って、評価の仕方が複数あります。また、相続税評価額は、土地と建物に分けて計算し、土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額で評価されます。

【不動産の4つの価格】

①実勢価格(時価):不動産を売買する際に、実際に取引が成立した価格のこと。

②公示価格:価格の動向指標として、国土交通省が毎年示す標準的な価格のこと。

③相続税評価額(路線価):相続税の評価をする際に使用する価格のこと。公示価格の8割が目安となる。

④固定資産税評価額:固定資産税を決める際に使用する価格のこと。公示価格の7割が目安となる。

相続税を計算する際は、土地については③を使用し、建物については④を使用します。例えば、②公示価格で3000万円の不動産は、③相続税評価では約2400万円となります。相続税の評価は下がりますが、①の時価も下がって不動産の価値が下がるわけではありません。

■相続対策における不動産の活用方法

①収益物件の購入

賃貸アパートなどの収益物件を購入した場合、売却などにあたり自分の好きに使える状態ではないため、相続税評価額は自宅を建築するよりも下がります。

【建物の固定資産税評価額の計算式】

貸家=建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(通常30%)×賃貸割合)

借家権割合:国税庁が発表している数値

賃貸割合:その貸家が賃貸されている割合、稼働率

【貸家用の土地の評価額の計算式】

貸家が建てられている土地の評価額

=更地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

【借地にしている場合の優遇措置】

路線価とともに書かれている記号が借地権割合になります。

借地権割合は右図のとおりです。

②小規模宅地等の特例による評価減

小規模宅地等の特例を活用して相続税の評価減となることは第2章の「相続税の仕組み」(3)相続税の6つの控除と2つの特例でも解説したとおりですが、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合には、80%または50%まで評価額を減額できます。この特例を活用することにより、不動産を有効活用すれば相続税を大きく圧縮することが可能です。

【5】養子縁組

養子縁組は、相続対策として利用されることがあります。ただ、これにはメリットもあればデメリットもあります。以下でメリットとデメリットをしっかり確認していきましょう。

【メリット】

・基礎控除額が増える

養子縁組によって法定相続人の数が増えることで、その人数分だけ基礎控除額が増え、結果、相続税節税に繋がる。

・生命保険金・死亡保険金の控除額が増える

生命保険・死亡退職金は、「みなし相続財産」として相続税の対象となるが、生命保険金・死亡退職金について、法定相続人の数に応じた非課税枠が設けられている。

(500万円×法定相続人数までは非課税)

そのため、養子縁組で法定相続人が増えることにより節税となる。

・配偶者や子以外にも財産を承継させることが可能

法定相続人以外のものに財産を承継させるには、遺言などによって遺贈を行う必要がありますが、例えば孫などに財産を残したい場合は、養子は法定相続人となるためそれが可能となります。

【デメリット】

・遺産分割が複雑化する恐れ

孫などを養子にすることを他の相続人に伝えていないまま、相続が発生すると、遺産分割協議が難航する恐れがある。

・孫養子の場合は相続税が2割加算となる

また、相続税を計算する場合、養子は実子がいる場合には1名まで、実子がいない場合は2名までしか基礎控除ではカウントされません。ただし、民法上では養子の数に制限はありません。節税を目的とした養子縁組は税務署から指摘を受けることも考えられるため、養子縁組をする際はメリットとデメリットをよく考えて慎重に行う必要があります。

【6】生命保険の活用

第2章の相続税の仕組みのところでも少し触れましたが、生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象ですが、500万円×法定相続人数までは非課税など相続対策においては様々な効果があります。

この項では生命保険の相続対策における様々な効果について解説します。

生命保険の相続対策における効果には主に以下の9つがあります。

1.残したい人に確実に現金(保険金)を残せる

2.優れた換金性

3.代償分割での活用

4.生前贈与での活用

5.遺留分対策

6.納税資金としての活用

7.非課税枠を活用しての節税

8.遺産分割原則対象外

9.相続放棄での活用

では、一つずつ見ていきましょう。

(1)残したい人に確実に現金(保険金)を残せる

生命保険金は受取人固有の財産のため、契約者が指定した受取人に確実に保険金を届けることができます。この性質を活用して、例えば身体が弱く安定した収入を得ることが難しい子に多めに財産を残すときに活用できます。また、介護をしてくれた嫁など本来、相続人ではないものを受取人として指定することで、現金を残せます。ただし、保険会社によっては相続人以外を受取人に指定できないこともあるため、事前確認が必要です。

(2)優れた換金性

生命保険は保険会社指定の必要書類が全て揃うと、会社によって差はありますが平均4~5営業日後には受取人の指定した口座に保険金が振り込まれます。保険会社によっては、即日保険金の一部を支払う制度もあります。この優れた換金性を活用して、葬儀費用の支払いに充てることもできますし、口座が凍結されて、現金が引き出せなくなった場合にも当座の生活費に充てることも可能です。

(3)代償分割での活用

不動産などの分けにくい財産が多い場合に遺産分割における代償金の原資として、生命保険が活用できます。この場合、不動産を取得する相続人を受取人として、他の相続人には生命保険を原資として代償金を支払います。遺産分割協議書の書き方などに注意が必要なため士業のアドバイスを受けた方がいいでしょう。

(4)生前贈与での活用

子や孫に現金を贈与し、その現金で子や孫が資産性の高い生命保険に加入することで資産形成に役立てることができます。贈与された現金は基本、何に使ってもいいためがん保険や医療保険の保険料に充てることもできます。

(5)遺留分対策

生命保険が受取人固有の財産であるという特性を生かして、他の相続人の遺留分を減らすことができます。ただし、原則遺留分対象外となるため行き過ぎた対策は特別受益として持ち戻しの対象となることもあるため注意が必要です。

(6)納税資金としての活用

相続税を支払う原資として死亡保険金を活用することができます。生命保険金は支払った保険料よりも死亡保険金が多くなることがあるため、将来かかる相続税を計画的に用意することができます。特に不動産が多く、現金が少ない場合も死亡保険金を相続税支払いに充てることができます。ただし、契約する年齢や保険会社ごとに受け取れる保険金の額が変わるため、事前にしっかりとシミュレーションし税理士にも相談しておくことをお勧めします。

(7)非課税枠を活用しての節税

500万円×法定相続人数までは非課税のためその特性を生かして相続税の節税に使えます。ただし、養子の相続人がいる場合の非課税枠は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとなります。

(8)遺産分割原則対象外

生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の原則対象外となります。そのため、生命保険金が含まれる財産の場合、遺産分割の対象とはならず、遺産分割協議書への記載も不要です。ただし、以下の例外的な状況では遺産分割の対象となります。

・生命保険金の受取人が指定されていなかった場合

保険金は法定相続分の割合で分割されます。また、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡している場合、受取人の相続人全員が保険金受取人となり、遺産分割協議が必要です。なお、(保険法第46条)。

(9)相続放棄での活用

死亡保険金は死亡した方の相続財産ではなく、受取人の固有の財産であるため、相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができます。ただし、相続放棄をして生命保険金を受け取った場合は、生命保険の非課税枠が適用されません。

また、相続放棄をした本人は非課税の適用を受けることはできませんが、非課税金額を計算する際の法定相続人の数には相続放棄をした人も含まれます。

相続税がかかる場合は、相続放棄をしても相続税を支払う必要があります。

このように、相続対策において生命保険には様々な効果があります。生命保険が相続対策に役立つことを十分に理解しましょう。

【7】認知症に備える対策

認知症患者が年々増え続けていることは、第一章相続の基礎知識(1)相続を取り巻く環境で説明した通りです。

では、認知症になると具体的に何が困るのか、そして何に備える必要があるのかを見ていきましょう。

認知症と一言に言っても様々な状態があります。

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下して、日常生活全般に支障が出てくることを指します。

認知症には4つの種類があります。

①アルツハイマー型の認知症

認知症の中では一番多く見られ、脳の神経細胞が徐々に減っていきます。記憶に関係する海馬を中心に脳の萎縮が見られ、もの忘れから始まりゆっくりと進行していきます。

②レビー小体型認知症

レビー小体という物質が脳に溜まることで、脳神経細胞に障害が起き、認知機能や運動機能を低下させ、調子の良い時と悪い時を繰り返しながら進行していきます。

③血管性認知症

脳梗塞、脳出血など、脳血管障害が原因で起こり、脳の障害の部分によって症状が異なります。もの忘れや言語障害などが現れやすく、一方で一部の認知機能は保たれているため、症状がまだらに現れることが特徴です。

④前頭側頭型認知症

前頭葉と側頭葉が萎縮し、前頭側頭型認知症の症状ではもの忘れはほとんど見られず、同じ行動の繰り返しや、性格の変化、感情の抑制が効かなくなるなど、他の認知症にはない症状が現れます。

このように認知症といっても様々な症状があり、認知の状態も様々です。

認知症=判断能力がないというわけではありませんので、相続対策においては認知の状態がどの程度なのかは重要となってきます。

ただ、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されているため、相続対策をする上で認知症対策は重要です。

認知症対策が重要な理由は、認知症になり判断能力が低下すると、財産管理ができなくなることや自分で意思決定ができなくなるため、相続発生後にも遺産分割協議ができないなど様々な支障が出てくるからです。

認知症に備える対策には主に以下のものがあります。

(1)委任契約(財産管理委任契約)・任意後見契約

(2)民事(家族)信託

(3)遺言作成

(4)法定後見制度

一つずつ確認していきましょう。

(1)委任契約(財産管理委任契約)・任意後見契約

■委任契約(財産管理委任契約)とは、

財産管理委任契約は、自身の財産管理や療養看護にかかる生活上の法律行為について他の人(家族や第三者)に委任できる契約のことです。

委任者が受任者に自分の財産の一部もしくは全てについて、管理内容を決めます。例えば、判断能力はしっかりとしていても足腰が弱っていたり、入院・療養中により外出がままならないといった状態の時に契約当事者間の合意により自由に設定することができます。

契約内容に従って、預貯金の引き出しや各種支払い・介護サービスの契約などを受任者に

依頼できます。

【よくある委任内容】

・銀行からの預金引き出し

・諸々の費用の支払いなどの手続き

・要介護認定の申請、介護サービスの契約・契約変更・解除、費用の支払いなど

・介護施設への入所手続き

・役所での住民票や戸籍の取得、税金申告

・賃貸不動産の家賃収入の管理など

【メリット】

・本人の判断能力が衰えていない場合でも利用できる

・信頼できる人に財産管理委任契約を任せることで、身内や他の人が財産を使い込むことを防げる

・委任状を書く手間を省ける

財産管理委任契約を結んでいない場合に、第三者に銀行での手続き等を依頼する際は、その都度、委任状を書く必要があるが、その手間を省くことができる

・財産管理の開始時期や内容などを自由に決めることができる

【デメリット】

・財産管理委任契約書を公正証書にしなければ、社会的信用が十分でない

・不動産の管理はできるが売買の際は、本人確認が必要

・法定後見人のような本人が詐欺や誤った契約をした場合の取消権はない。

■任意後見契約

任意後見契約とは、十分な判断能力がある間に判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておくことです。委任する内容は公正証書によって決めておきます。

先に解説した、委任契約(財産管理委任契約)とセットで作成することが多く、これを移行型と呼びます。任意後見の移行型とは、意思能力が喪失する前を「財産管理委任契約」で、意思能力が喪失した後を「任意後見契約」でカバーする方法のことです。

イメージとしては以下のとおりです。

【任意後見制度の種類】

・移行型

任意後見契約の中で最も使い勝手がいいのが移行型です。任意後見契約の締結と同時に、生活支援、療養看護、財産管理などに関する委任契約の締結をするものです。

・即効型

契約締結後、すぐ家庭裁判所に任意後見監督人の選任申し立てを行い、後見を開始するものです。判断能力が低下気味で、すぐにでも任意後見を始めたいという場合には、これを選びます。

・将来型

任意後見契約が締結されてから開始するまでの間、つなぎとなる別の委任契約がないタイプで任意後見契約のみを締結するというものです。

任意後見は、私文書での契約書では認められていないため、必ず公証人が関与するもとで作成する「任意後見契約公正証書」でなければ、効力が生じません。

では、作成の流れを確認しておきましょう。

①受任者を決める

家族の誰かにするのか、士業や相続コンサルといった専門家に依頼するのかを決める。受任者は複数人でも可能。

②後見事務の範囲を決める

財産の管理・生活に関する契約、支払い・医療、介護に関する契約、費用の支払いなど、何を依頼するのか具体的な内容を決める。契約にないことを後見人はできないため範囲については、しっかりと決めておく必要がある。

③任意後見契約書(案)の作成

契約の当事者が案を作成することもできますが、弁護士・司法書士・行政書士といった専門職に契約書の作成を依頼した方がスムーズに契約書が作成できるでしょう。

④公証役場に任意後見契約書(案)と必要書類を提出

当事者の最寄りの公証役場に連絡後、公証人と打ち合わせをし、内容を擦り合わせて最終的な任意後見契約書ができる。また、公証役場で指示された必要書類を提出する。

主に必要とされる書類は次のとおりです。

〇本人の印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票

〇任意後見受任者の印鑑登録証明書、住民票

⑤公証役場で任意後見契約書を作成

本人と任意後見人となる人が公証役場に出向き、公証人の面前で契約を締結する。公証人が内容を読み上げ、その内容に問題がなければ本人と任意後見人となる人が印鑑を押し完成。

次に、本人の意思能力が低下し任意後見契約を開始させるための手続きについて説明します。

・任意後見監督人選任の申し立て

任意後見監督人の選任により、任意後見契約の効力が生じるため、本人所在地の家庭裁判所に選任の申し立てをする。申し立てができるのは、本人・配偶者・4親等以内の親族・後見人の予定者となります。

任意後見監督人が選任されると、任意後見受任者は「任意後見人」となり、任意後見契約に基づいて業務を開始する。

【任意後見監督人とは】

任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約に従って適切に業務を行っているかを監督する役割を担います。任意後見人から財産目録などの提出を求めることで監督を行います。任意後見監督人には、本人の親族ではなく、弁護士などの専門職の第三者が選ばれることが一般的です。

【メリット】

・任意後見人を自分で選べる

判断能力がある間に、本人が希望する人を後見人として選ぶことができます。

・本人の希望に沿った契約内容を設定できる

任意後見人の権限は、任意後見契約で定められた事項に限定されるため、本人が希望する内容を契約に盛り込むことが可能です。つまり、判断能力が低下した後も、本人の意思を反映した財産管理などが可能となります。

【デメリット】

・取消権が認められていない

法定後見人には取消権が認められていますが、任意後見人にはその権利が存在しないため、任意後見人が本人の行為を取り消して契約を無効にすることはできません。

・死後の財産管理や事務はできない

任意後見人の権限は、本人の死亡によって終了するため、法定後見人は本人が亡くなった後も一定の範囲で財産管理や死後事務を行うことができますが、任意後見人は亡くなった後の事務や財産管理ができません。

■民事(家族)信託

民事信託と家族信託®は、時折区別して語られることがありますが、厳密には同じ制度です。家族信託は一般社団法人家族信託普及協会が商標登録しているため、ここでは民事信託として説明をしていきます。

民事信託とは、特定の者が一定の目的に従って財産の管理または処分など必要な行為を行うことです。「財産管理」と「財産承継」のための制度と言えます。信託銀行が取り扱う信託商品や商事信託と違い、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行うものとされています。民事信託と任意後見は、どちらも契約を締結することで誰かに財産管理を任せるという点で同じですが、民事信託は、認知症になったかどうかに関係なく、開始することができ、任意後見では制限されている財産の運用や売却も行えます。

【民事信託の用語説明】

民事信託には3人の登場人物が必要です。場合によっては4人となることもあります。まずは民事信託に出てくる用語を説明します。

委託者:財産を持っていて、信託財産となる財産を提供する人

受託者:信託財産を受け取り、信託契約に基づいて信託財産を管理・運用する人

受益者:信託財産の利益を受け取る権利を有する人

※信託監督人:受託者を監督する人

【活用事例】

先祖代々の不動産を子のいない長男に相続させたい場合、遺言では遺言者の財産を長男に相続させることはできるが、その後、長男が亡くなった際に、長男の嫁に不動産が行くことを禁じることはできない。

その際に、民事信託を組成し、長男亡き後は、長男の嫁に不動産を承継させず、その後長男の嫁が亡くなれば、次男の子(孫)にその不動産が戻るように指図することができる。

もちろん、嫁に行く前に次男や孫に戻るよう指図することもできる。

次に民事信託作成の流れを確認していきましょう。

①信託の内容を決める

信託する目的や誰を受託者・受益者にするか、またどの財産を信託するかを決める。財産は一部でも全部(ただし、農地など信託できない財産もある)でも指定できるため、例えば収益物件である不動産だけを信託財産とすることも可能。また、信託期間を定めることも可能。信託が終了した際には清算を行い、残余財産の帰属先を決めておく。

②信託の内容が決まったら、それをもとに信託契約書を作成。

この信託契約は法律上、決められた書式はないが公正証書にしておくほうが安全。

③公正証書にする場合は公証役場にて委託者・受託者が内容を確認後、署名押印

④信託財産の登記申請

金融機関にて信託専用口座を開設・自宅の火災保険の名義変更手続き、及び不動産の「信託登記」などを行う。

【メリット】

・生前の財産管理が自由にできる

信託財産は「家族のために活かす」「投資などの資産運用を行う」など、選択も自由に設定が可能。また、認知症になった際にも財産の管理・運用・売却など、受託者を通じて行える。

・遺言ではできない財産の帰属先を決められる

遺言では自分の財産を誰に渡すかを決めることはできるが、財産を貰った相続人が、その財産を次に誰に渡すかまで決めることができない。しかし、民事信託では3代先まで決定することができる。

・企業の経営者が、企業の株式を信託して事業承継に利用できる

会社などの事業継承において自分の持ち株を誰に渡し、経営権は誰に託すのかなど、信託を設定することにより、条件付きの財産承継などを行うことが可能。

【デメリット】

・身上監護権がない

信託の受託者は治療、療養、入院手続きや施設の入居手続き等に関する法律行為ができない。

・不動産登記など費用がかかる・心理的抵抗が起こる

民事信託の内容を決定し公正証書にするために士業への報酬や公正証書作成費用及び不動産がある場合の登記関係費用がかかる。また、不動産の名義が受託者名に変わることへの心理的な抵抗が起こることもある。

・損益通算はできない

信託している不動産と信託していない他の不動産所得との間での損益通算は認められなくなる。また、信託財産となっている不動産の損失を翌年以降に繰り越しすることもできない。

■遺言作成

「自分の財産を法定相続分通りに分けたくない」「誰に何を相続させたいか決まっている」「争う相続を回避するため遺言で意思を示しておきたい」と考えていたとしても認知症などで判断能力がなくなると遺言作成ができなくなるのです。

遺言については次章で詳しく解説しますが、まずは大前提を理解しておきましょう。

遺言が作成できる人の条件を見ていきましょう。

【遺言能力】

・15歳以上であること(民法961条)

・法律行為である遺言は判断能力が必要

・医師の立ち合いがあれば被後見人でも遺言は可能(民法973条)

ただし、あくまで判断能力があることが前提。

このように15歳以上の判断能力のある者が遺言を作成できるということになっているため、認知症対策として早めの遺言作成が好ましいでしょう。

■法定後見制度

法定後見制度とは、家庭裁判所によって選任された後見人など(成年後見人、保佐人、および補助人)が、認知症などによって判断能力が低下した本人に代わり、財産管理や法律行為を行う制度のことです。本人の意思を尊重しながら、本人の利益を最大限に考慮して行われます。また、法定後見制度は、任意後見制度とは異なり、家庭裁判所によって選任された後見人が財産管理や法律行為を行うことができる点が大きく異なります。

【法定後見と任意後見の違い】

法定後見と任意後見の違いはいくつかありますが、後見人を事前に自分で決めておけるか、判断能力がなくなってから家庭裁判所が決めるかが一番大きな違いでしょう。そのほかに関しては表を参考にしてください。

【法定後見の種類】

法定後見制度により、判断能力が低下した人のサポートを行う人として選任されるのが成年後見人、保佐人、補助人です。

・後見人

認知症などで常に判断能力が失われた状態にある人に対して、自身で法律行為ができない場合、家庭裁判所により選任されるのが成年後見人(民法7条)。

・補佐人

本人の判断能力としては後見相当ではないが、判断能力が著しく不十分な状態の人に対して補佐をする人(民法11条)。

・補助人

判断能力が不十分であり、重要な契約を一人でするには不安がある場合は、補助人が選任される(民法15条)。

法定後見を受けるには、家庭裁判所に後見人等の選任の申立てをします。

その申立てにより家庭裁判所の審判が確定し、家庭裁判所が後見人等を選任したら、法定後見が開始します。そして特別なことがない限り、本人が死亡するまで続きます。

【申し立ての流れ】

申し立て人となれるのは、本人・配偶者・四親等以内の親族・市区町村長です。

申し立て人は以下の手順に従って手続きをします。

・医師の診断書を取得する

本人の判断能力がどの程度で、どのような支援が必要なのかを確認するために必要。

・必要書類を集める

主に「申立書類一式」と「住民票などの書類」となるが、家庭裁判所ごとに必要書類が異なることがあるため事前にHPなどで要確認。

・申立書類を作成する

家庭裁判所のホームページからダウンロードして作成。

・面接日を予約する

申立て後に申立人や成年後見人の候補者の面接を行うため予約をする。

・面接

申立書のコピー、申立書に押した印鑑、本人確認のための身分証、その他裁判所に指示された物を持参し、「申立事情説明書」に基づいて、申立てに至る事情、本人の生活状況、判断能力及び財産状況、本人の親族らの意向等について面接を受ける。

また、直接本人に申立の内容等について意見を聞く場が設けられることもある。

・審判

成年後見等の開始の審判をするとともに最も適任と思われる人を成年後見人等に選任(親族が選任されることもある)。その際、複数の成年後見人等が選任されることや、監督人が選任されることもある。

・後見登記

後見等開始の審判の確定後、家庭裁判所が法務局に審判内容を登記してもらうように依頼する。

・職務説明

親族が成年後見人に選任された場合、職務説明の案内がある。

・後見終了

本人が亡くなると、後見等が終了。成年後見人等は裁判所に本人が亡くなったことを連絡するとともに、法務局に「終了の登記」の申請を行い未清算の後見事務費用等を清算して本人の相続財産を確定させた上で、本人の相続人に管理していた財産を引き継ぐことになる。

【8】おひとり様の対策

■相続の基礎知識

相続を取り巻く環境の中でも説明したとおり、おひとり様が年々増え、また孤独死・孤立死の問題も深刻化してきています。平成30年の内閣府の調査によると、60歳以上の男女の約3分の1の人が孤独死を身近な問題として「まあ感じる」「とても感じる」と回答しています。

では、おひとり様というのはどういう人のことを指すのでしょうか。

【おひとり様の定義】

☑生涯未婚で親も兄弟もいない

☑離婚して一人暮らし

☑配偶者が亡くなり一人暮らし

☑家族がいるが遠方に住んでいるあるいは疎遠

家族がいてもすぐに助けを得られない場合はおひとり様と定義することがあります。

実際、単身世帯だけではなく将来、単身世帯になる人を含めると実に約60%の世帯がおひとり様及びお一人さま予備軍という結果が65歳以上の者のいる世帯構造の年次推移からも読み取れます。

では、おひとり様は何が問題なのでしょうか?

【おひとり様の問題点】

<生前>

・入院・手術の際の同意書を誰に書いてもらうか

入院や手術をする際は身元保証や手術の同意書を求められることが多いが、それを誰に依頼するのかが問題となる。

また、入院に際しての準備や入院中に細かいことをお願いする人がいないため不便なことも出てくる。

相続人や親しい親族がいない場合はもちろんのこと、子が海外にいるなどすぐに駆け付けられない場合も同様に困ることになる。

・介護の問題

高齢者施設などに入居する場合も、病院と同じく身元保証人が必要となる。老人ホームなどの施設に入所する場合、本人の理解力が低下しているものが多く、金銭管理が難しくなっていることもあり、それをどうするかが問題となる。

・財産管理の問題

身近に親族がいない場合を含め、判断能力の有無にかかわらず、財産の管理がきちんと行えなくなった場合、誰にそれを依頼するかを決めておかなければ銀行から現金を引き出したり、支払いなどをすることが困難となる。

・孤独死・孤立死の問題

自宅で急に倒れた際に救急車が呼べず手遅れとなり、発見が遅れて死亡に至る可能性が大きい。また長期にわたり発見されず、遺体の損傷が激しくなると自宅が売却できない、あるいは賃貸物件の場合、貸主に対しての損害賠償問題が生じる。

<死後>

・法定相続人がいないおひとり様の財産は国家に帰属する

遺言などで自分の財産の行き先を決めておかなければ、法定相続人がいないおひとり様の財産は国庫に帰属となる。

2021年の1年間に相続人不在で政府の国庫に帰属された遺産は647億円に上る。

・法定相続人のいないおひとり様の死後事務問題

まず、死亡届を誰が提出するかが第一関門となる。

死亡届を出すことができるのは

・故人の配偶者

・故人の6親等内の親戚

・3親等内の姻族関係者

・家主(家屋管理人)・地主(土地管理人)など

・生前に財産管理を任されていた、後見人・保佐人・補助人など

・任意後見受任者及び任意後見人

だが、このいずれもいなければ病院の院長などが該当するが、自宅で持病もなく孤独死をした場合は警察による検視が行われ警察署長が死亡地の市町村長に当該死体について死亡の報告をすることをもって死亡届の代わりとされる。それ以外にも、遺品整理・自宅の処分・ペットがいる場合のペットのことなど死後事務をどうするのかを決めておかなければ自分自身が考える最後とならない可能性は高い。

【解決策と仕組み】

では、おひとり様はどのように備えるべきでしょうか?さまざまな仕組みをうまく活用することで問題点を解決することができますので、それらを確認していきましょう。

■見守り契約

見守りには主に2つの目的があります。

①任意後見を開始するまでの間、定期的に連絡を取り、身体の衰えや判断能力などを確認すること

②単身世帯の場合、自宅で倒れても発見が遅れることが多いため、そのリスクを回避するために定期的な連絡を取ることで孤独死・孤立死を予防すること

実際には、メール・電話などで安否確認をしたり、定期訪問をしたりと、その人の状態に合わせてプランニングします。見守りの頻度を毎日にするのか週一にするのかも状況に合わせて判断します。警備会社などさまざまな会社が提供しているものを利用することもできます。実務では見守り契約という契約書を交わします。

【メリット】

・孤独死・孤立死の予防

・健康状態の悪化・判断能力などの低下にいち早く気づいてもらえる

【デメリット】

・身の回りの世話は頼めない

・銀行や役所に代わりに行けない

・単体での契約では不完全であり、財産管理委任契約や任意後見契約との組み合わせで初めて効力を発揮できる

■財産管理委任契約・任意後見契約(移行型)

前項で説明した通りですが、身体が思うように動かず金融機関に出向いたり、支払いをしたりといった財産管理を判断能力のあるうちから委任し、万が一判断能力がなくなった際には本人が事前に決めておいた人(専門家含む)に後見をお願いできる仕組みを作っておくことが大切です。ただし、任意後見では成年後見とは異なり、身上監護ができないため、おひとり様にとってはこれだけでは不十分です。そのため、次に説明する身元保証サービスの仕組みも取り入れることが大切です。

■身元保証サービス

身元保証人を頼める人が身近な人や親族に全くいないときは、民間の身元保証サービスを利用する方法もあります。入院や介護施設入所時の身元保証、遺体の確認・引き取りといった死後事務なども契約しておけば任せられます。身元保証人だけではなく、死後の手続きまで任せられるのがメリットです。

ただし、民間の身元保証サービスは、事業者によって料金体系やサービス内容が異なります。中にはまとまった費用がかかるところもあるため、事前によく確認する必要があります。

■死後事務委任契約

死後事務とは、亡くなった後のさまざまな手続きのことです。遺言書ではカバーできない葬儀や納骨、行政への届け出など、生前にどの手続きをどこまで依頼するかを決め、第三者と契約しておくことで、亡くなった後に契約通りの手続きが実行されます。この契約のことを死後事務委任契約といいます。

・死後事務委任契約…財産継承以外の事柄に効力を持つ

・遺言書…相続財産の権利関係に法的効力をもたらす

【死後事務の業務内容】

死後事務を依頼できる人は士業でなくてもよく、家族がいないおひとり様の場合、知人や親類に依頼することも可能です。ただし、業務内容が多岐にわたり負担も大きいため、専門家に依頼する方がスムーズに手続きができるでしょう。

基本的な業務内容は以下のとおりです。

〇各種連絡

・事前に依頼されていた人に亡くなったことを連絡

・葬儀社へ遺体搬送の連絡

〇病院・介護施設の支払い、退院・退所手続き

・病院や施設から死亡届に必要な死亡診断書を取得

・医療費・入所費などの清算手続き

・病院・施設などの対応手続き(遺品の引き取りなど)

〇役所への死亡届の提出

・市区町村に死亡届を提出

・埋葬許可書の申請及び受理

・除籍手続き

〇葬儀・火葬の手続き

・生前の希望に沿って、葬儀及び火葬を行う

・喪主代行をオプションで務めることもある

〇行政関係の手続き

・健康保険、公的年金などの資格抹消手続きなど

〇住居引き渡しまでの管理

・賃貸の場合は不動産会社に連絡し賃料清算・明け渡し手続き

・売却の場合は不動産会社に売却の依頼

・遺品整理

〇公共料金等の解約手続き

・公共料金、固定電話、携帯電話、新聞、クレジットカードなどの解約及び利用料の清算などの諸手続き

〇住民税や固定資産税の納税手続き

・死亡年度分の住民税及び固定資産税の納税通知書を市区町村から受領及び納税

〇パソコン・携帯電話の情報抹消手続き

・プライベートな情報やデータを完全に抹消し破棄

その他にもオプションで、自家用車がある場合やペットを飼っていた場合などは車の売却・廃棄の手続きやペットを事前に決めておいた内容に沿って引き渡しまでの世話などをすることもあります。

何をどこまで依頼するかを生前にきちんと依頼者と決めておき、契約は公正証書で交わします。

■尊厳死宣言公正証書

「尊厳死」とは、回復の見込みのない患者に対し、生命維持のための治療を差し控えまたは中止し、人間としての尊厳を保たせて死を迎えさせることをいいます。

「尊厳死宣言公正証書」とは、自らの考えで尊厳死を望み、延命措置を差し控え、中止する等の宣言をし、公正証書にするものです。いざという時に判断をする家族がいないおひとり様は自分自身が望まない治療となることを回避するための選択肢として準備してもいいでしょう。ただし、尊厳死について明確に規定した法律は存在しないため、尊厳死宣言公正証書を用意していても必ず実現されるわけではないのが今の日本の現状です。

■遺言及び遺言執行

相続人がいないおひとり様の財産は国庫に帰属すると説明しましたが、生前に自分自身の財産を遺言で行き先を決めることができます。もし、世話になった知人や相続人には当たらない遠縁に遺贈したい、あるいは寄付をしたいという意思がある場合は公正証書遺言に遺言執行者を任命しておくことで、その意思を実現することができます。

次章で遺言について詳しく解説するため、ここでは遺言+遺言執行者でおひとり様の財産が国庫に帰属されずに済むということだけ理解しておきましょう。

このように、おひとり様の生前対策は様々な仕組みを取り入れて複合的に行うことが大切です。どれか一つ欠けてもおひとり様の終活・相続は本人の望む結果とならないため、なるべく早い段階でしっかりとした仕組み作りを行うことが大切です。

【9】エンディングノートの活用

エンディングノートは、自分の人生の終末に関する希望を記録したノートです。万一のために、介護・医療・葬儀など自分の希望や通帳や印鑑の保管場所、スマートフォンの暗証番号など、自分が亡くなった後に家族が困らないようにしておくためのノートです。ただし、エンディングノート自体には遺言のような法的効力はありません。

エンディングノートは主に以下の構成になっています。

■自分自身のことについて

・生年月日

・本籍地

・血液型

・家族について

・家系図

・学歴、職歴、資格

・マイナンバー

・運転免許証番号、健康保険証番号

・自分史

・趣味・特技

・好きな食べ物、嫌いな食べ物

■財産関係について

取引している金融機関一覧や不動産などの財産について、家族がどこに何があるかわかるようにしておく。また、各種暗証番号や通帳・印鑑の保管場所を書いておく。

・預貯金

・金庫などに保管している現金

・不動産(共有などがあればより詳細情報を書いておく)

・有価証券

・貴金属

・負債(負債がある場合は必ず明記)

■終活についての希望

介護をどうして欲しい、葬儀はどうしたい、墓の希望などを書いておくことで家族がいざという時困らないようにしておく(おひとり様は特にしっかりと書いておくことで第三者に希望が伝わりやすくなる)。ペットがいる場合はペットについても希望を書く。

■思いを残す

家族への感謝の気持ちや自分が今までどのような思いで生きてきたかを書くことができる。

エンディングノートは、自分自身の希望や家族が困らないために有効なツールですが、経産省がまとめた普及啓発の報告書によると、エンディングノートの必要性を認知している人は全体の6割に昇りますが、実際に書いている人はこのうちの2%に過ぎないという結果でした。その主な理由は以下のとおりです。

・今すぐに必要なわけではないから。

・今書いても将来内容を変更することになるかもしれないから。

・書くページ数が多すぎて面倒だ。

確かに市販のエンディングノートには100ページを超えるものもあります。また、自分自身が亡くなることを想定して書くのは気が重いものですが、生前対策としてエンディングノートが果たす役割は大きいことは理解しておきましょう。

第4章 遺言の知識

遺言とは、生前に死後の財産の行き先などを定めるために行われる意思表示です。遺言書は、生前に自分が亡くなった後の財産の行き先などを決めておくための文書です。遺言書を作成することで、相続争いを予防する効果が期待できるほか、自分の望んだ相手に財産を渡すことが可能となります。遺言書は、民法によって方式が定められており、民法の方式によって作成していないものは、「遺言書」ではありません。そのため、遺言書を作成する際には、民法で定められた方式に従わなければなりません。また、遺言書では法定相続分ではない割合で財産を残すことが可能です。

(民法902条 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。)

【1】遺言の種類及び注意事項

遺言書の作成方式は、民法によって3種類、定められています。基本的には、3つのいずれかの方式によって作成しなければ、遺言の有効性が認められません。また、それぞれの方式にはメリット・デメリットが存在するので、遺言作成の目的に応じて適切な方法を選択することが大切です。また、遺言は、大きく分けると普通方式と特別方式があります。普通方式には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。特別方式には、危急時遺言(「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」)および隔絶地遺言(「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」)があります。それぞれの内容を見ていきましょう。

■普通方式

(1)自筆証書遺言

その名の通り、自分自身で自筆して書く遺言のことです。普通方式の遺言の中でも最も手軽に残せる遺言です。その一方で自筆証書遺言には厳格な要件があります。「要件」とは、法律効果を生じさせるための条件のことです。要件が守られていない場合、無効となることもあります。

民法968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

上記を要約すると

①財産目録以外は全て自筆で筆記

②日付・氏名を自書しシャチハタ以外の印を押印

③財産目録に関しては代筆及びワープロ等でも可能

その場合は、目録が両面の場合は両面に署名し、押印

④加除・訂正の場合は、その場所を指示して、変更した旨を記し、署名・押印

【メリット】

・手軽に作成できる

遺言作成時に証人が不要なため、いつでもどこでも作成することができます。また、考えや財産の状況が大きく変化した際にも手軽に書き直すことができます。

・費用がかからない

公正証書遺言と違い、専門家や公証役場・証人への支払いが不要です。

・内容を他人に知られずに作成できる

承認が必要ないため、第三者に内容を知られることがありません。

【デメリット】

・紛失・改ざんの恐れがある

原則として自分自身で保管するため、紛失や第三者による改ざん、隠ぺいの恐れがあります(ただし、*自筆証書遺言の保管制度で防ぐことができます)。

・遺言無効の可能性

自筆証書遺言は専門家のアドバイスのもと作成されないことが多く、要件や方式の間違いなどにより、無効となる可能性があります。

【自筆証書遺言書保管制度】※

2020年7月10日より、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が施行され、法務局で自筆証書遺言を保管できるようになりました。

□注意事項

・用紙は、A4サイズの紙

・文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの

・消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用

・各ページにページ番号を記載

・縦置きまたは横置き、縦書きでも横書きでもかまわない

・片面のみに記載

・複数枚にわたる場合は綴じ合わせない

・複数枚にわたる場合、各ページにページ番号を記載(ページ番号は必ず余白内に書く)

・必ず、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をとる

□申請手続き

遺言書保管制度を利用する際には、事前に法務省のHPからダウンロードした申請書を作成し、必要書類を添えて、申請先の法務局に提出する必要があります。

(法務省HP: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00048.html)

□保管申請先法務局

保管申請先の法務局は以下のいずれかになります。

・遺言者の住所地を管轄する法務局

・遺言者の本籍地を管轄する法務局

・遺言者が所有する不動産を管轄する法務局

□必要書類

①遺言書

②申請書

③本籍の記載のある住民票(遺言者の戸籍謄本・附票)

④本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)

⑤3.900円分の収入印紙(法務局で購入)

□遺言書原本の保管期間

・遺言者の死亡の日から50年間

・遺言者の生死が不明の場合、遺言者の出生から170年間(政令により、遺言者の出生の日から120年経過時が死亡の日とされ、そこから50年間)

なお、保管に際しては方式について外形的な確認(全文、日付、氏名の自署、押印の有無など)が行われますが、遺言の内容が有効なものであるかどうかの確認は行われません。また、この制度を利用した自筆証書遺言は検認を省略できます。

(2)公正証書遺言

公正証書遺言は、原則として公証役場で作成します。2人以上の証人の立ち会いのもと、遺言者は遺言の内容を公証人に口述(話す)し、それをもとに公証人が遺言を作成します。

第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 証人二人以上の立会いがあること。

2 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

3 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させること。

4 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

5 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

上記を要約すると

①公正証書遺言の作成には2名以上の証人が必要

ただし、未成年者・推定相続人・受遺者・推定相続人・受遺者の配偶者、親や子どもなどの直系血族・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人は証人になれない

②原案は弁護士などの士業が作成したものを公証人が正式な書式に直して作成することがほとんどだが、公証役場に遺言者が直接出向いて作成することも可能

③内容を遺言者に読み聞かせて、間違いのないことが確認できたら、遺言者・証人・公証人がそれぞれ署名・押印をする

また、遺言者が高齢で筆圧が低下しているなどで署名できない場合は、公証人が代わりに署名します。

【公正証書遺言作成までの流れ】

□必要書類の準備

・発行から3ヶ月以内の印鑑登録証明書または運転免許証・パスポート

・遺言者の戸籍謄本

・遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本

・財産を相続人以外に遺贈する場合は、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)

・財産に不動産がある場合は、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書

及び現預金・株式の場合は、金融機関名や残高が分かるもの

・証人を知人に依頼する場合は、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ

・遺言執行者を指名する場合は、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ

・公正証書遺言の作成時には、遺言者の実印(印鑑登録していない場合は、認印)及び、証人の認印

□遺言の内容を専門家などに依頼して原案を作成

遺言者自身が誰に何を相続させたいか、あるいは遺贈したいかを専門家のアドバイスを受けて原案を作成します。もしくは、公証人のアドバイスを受けて作成します。

□証人2名以上を用意

自分で用意できない場合には公証人に紹介してもらいます。

□公証役場に遺言作成日の予約をする

遺言者・証人・公証役場全ての予定が合う日程を調整します。

□遺言作成当日

公証役場あるいは公証人に出張してもらい遺言作成します。

□報酬支払

公証役場には所定の費用を支払います。

証人に報酬が必要な場合も報酬を支払う

□公正証書遺言の受取り

原本は公証役場にて保管され、

謄本と正本を受け取る

正本は遺言執行者を指名してい

る場合は遺言執行者に預ける

【メリット】

・有効性が高い

公証人をはじめとした専門家が手がけるため、無効になる可能性が低い

・検認が不要

自筆証書遺言や秘密証書遺言のように遺言執行時における家庭裁判所の検認が不要(民法1004条2項)

・紛失・改ざん・隠ぺいの恐れがない

公証役場で原本を保管するため、万が一、謄本・正本を紛失・隠ぺいされても再発行が可能。また、改ざんされることがない。

【デメリット】

・費用がかかる

士業などの専門家に原案を作成してもらった場合はその報酬や財産額に応じた公証役場での費用及び証人への報酬がかかる

・書き直しに手間がかかる

思いの変化や財産の大きな増減などの場合、遺言を訂正、あるいは書き直す場合にも専門家・公証役場等への報酬が再度かかり、再度書類を用意して公証役場にて作成するため手間がかかる

・遺言の内容を第三者に知られる

公証人・証人には遺言の内容を知られることになる

(3)秘密証書遺言

自筆証書遺言・公正証書遺言に次ぐと実務上あまり使われない遺言ですが、秘密証書遺言は遺言内容を自分自身が死ぬまで秘密にしておきたい場合に使われます。

民法970条

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

2 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

3 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨

並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。

4 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及

び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

【メリット】

・遺言の内容を秘密にすることができる

・遺言書の本文の自筆が不要のため、長文を書くことが難しい遺言者でも、署名が可能で

あれば作成できる

・偽造や改ざんの可能性を防げる

規定の手続きを経ずに開封すると無効になる(民法1004条3項)

【デメリット】

・遺言の内容に公証人が関与しないため、要件や方式の間違いなどにより、無効となる可能

性がある

・家庭裁判所での検認が必要

・紛失する可能性

保管自体は遺言者自身が行うため、紛失の可能性がある

□特別方式

特別方式の遺言には、「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2種類があります。どちらの遺

言も、あくまで特別な状況下にある場合に認められる特殊な遺言のため、遺言者が普通の方

式によって遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存する時には、無効化となります。

①危急時遺言

危急時遺言は、病気・ケガ・遭難などの特別な事情によって命の危険が迫っている場合に利用できる遺言です。危急時遺言は、遺言者が置かれた状況によって、さらに「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」の2種類に分けられます。

・一般危急時遺言

病気やケガなどにより命の危機が迫っている状態で作成する遺言です。本人が遺言を作成することができない場合、証人のうち1人に口頭で伝えて遺言を書いてもらい、その他の証人が署名を行うことで遺言として成立します。そのため、遺言書を作成するにあたり証人が3人以上必要となります。証人となる人は利害関係者以外でなければならず、推定相続人が証人にならないよう注意が必要です。一般危急時遺言の場合、20日以内に遺言を書いた人の住所地の家庭裁判所で確認手続きを行います。期限内に手続きをしないと無効となってしまうので注意が必要です。

・難船危急時遺言

船や飛行機に乗っていて、遭難などに遭い、命の危険が迫っている状態で行う遺言の方式です。一般危急時遺言よりもより緊急性が高いことから証人の人数は2名となります。本人が遺言を書くことができない場合には証人に口頭で伝えて書いてもらうことも可能です。証人は遺言の趣旨を筆記して、署名・押印します。一般危急時遺言とは異なり、20日以内という期間制限はありませんが、遅滞なく家庭裁判所の確認手続きを受ける必要があります。

【家庭裁判所での確認手続き方法】

家庭裁判所で行われる確認手続きは、提出された遺言が遺言者の意思によるものだと確認するために行われます。危急時遺言の場合にはこの手続きが必要となります。また、手続きを行う際には以下の書類が必要です。遺言を執行する際には、再度、家庭裁判所で検認を行います。

・遺言確認裁判申立書

・申立人の戸籍謄本

・遺言者の戸籍謄本

・証人の戸籍謄本

・遺言書の写し

・遺言者が生存している場合は医師の診断書

【危急時遺言の効果】

危急時遺言を残した人が亡くなった場合には、家庭裁判所にて検認を行い、遺言を執行します。病気やケガが回復し、普通様式遺言作成が可能となった時点から6カ月以内生存していた場合は危急時遺言の効果はなくなります。

②隔絶地遺言

隔絶地遺言は、伝染病などで隔離されている状態の人や、航海や船で仕事をしている人などが作成する遺言です。危急時遺言とは異なり、生命の危機が迫っている状態とまではいかなくても、陸地から離れているなどにより普通方式の遺言を作成することができない状態にある場合に作成する遺言です。そのため、危急時遺言と異なり、命の危機が迫っている状態ではないことから本人が作成する必要があります。隔絶地遺言には「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」の2種類に分けられます。

・一般隔絶地遺言

一般隔絶地遺言は、伝染病などで遠隔地に隔離され、通常の遺言方式を利用するのが難しい場合に認められています。作成時には、警察官1名と証人1名の立会が必要です。作成した遺言には遺言者、立会人それぞれの署名捺印が必要です。

・船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言は、船の中で遺言書を作成したい場合に利用できる遺言形式です。船長または乗務員1人と証人2人以上の立ち合いのもとで、遺言者本人が遺言書を作成した場合のみ遺言書としての効力が認められます。また、船長または乗務員と証人の署名・押印が必要となります。

【2】遺留分とは

遺言作成時に気を付けなければならないことの一つに「遺留分」というものがあります。これは、一定の相続人(配偶者・子ども・親等)に最低限の相続分が必ず相続できるように保障されている権利のことです。相続人となる人や各相続人の相続分については民法に定められていますが、これは遺言によって変更することができます。また、生前贈与や死因贈与によって相続財産が減少したり、無くなることもあります。たとえば、後妻と後妻との間の子に全ての財産を相続させるという遺言を遺したとしても前妻との間の子には最低限もらえる取り分があるということになります(民法1042条1項)。

【遺留分を請求できるもの】

・配偶者

・子

・子の代襲相続人

・直系尊属

ですが、兄弟姉妹には遺留分はありません。また、仮に相続発生時に、被相続人の子がまだ胎児の状態であった場合も、遺留分が認められます(民法886条1項)。ただし、死産の場合には遺留分はありません(同条2項)。相続欠格事由に該当、または廃除されると遺留分を失います。遺留分権利者であっても、相続欠格事由に該当する行為をした場合や、被相続人から廃除された場合は、相続人ではなくなるため遺留分も失います。

【遺留分割合】

遺留分割合は基本的に法定相続分の1/2です。直系尊属(親や祖父母)しか相続人がいない場合は、遺産総額の1/3が遺留分割合となります。遺留分権利者が複数人いる場合は、総体的遺留分に対して法定相続分を乗じて、個人の遺留分割合を算出します。これを個別的遺留分といいます。

【遺留分侵害額請求権】

遺留分が侵害されていることが分かった場合、被相続人から遺贈・死因贈与・生前贈与等で財産を譲り受けた人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求、民法1046条)。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

「遺留分侵害額請求」は相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅します。また、遺留分を侵害する贈与や遺言の存在を知らない場合でも、相続開始を知った日から10年経つと、遺留分侵害額の請求権は時効により消滅します。

■遺留分侵害額請求権の手続き方法

遺留分侵害額請求を行う場合、まず相手方に対して内容証明郵便を送付します。内容証明郵便によって相手方に遺留分侵害額の支払いを催告すると、消滅時効が6か月間猶予されます(民法150条1項)。遺留分に関する話し合いがまとまらない場合は、裁判所に対して遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停では、調停員が、当事者双方の主張を個別にヒアリングし、当事者間での交渉を仲介します。それでも、まとまらなければ遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。

【遺留分放棄とは】

被相続人の生前に相続を放棄することはできませんが、遺留分は放棄することができます。しかし、遺留分放棄をするためには、家庭裁判所へ申し立てを行う必要があります。

■手続きの流れ

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「遺留分権利者本人」が申し立てます。必要書類は以下の通りです。

・家事審判申立書

・不動産の目録

・現金・預貯金・株式などの財産目録

・被相続人予定者の戸籍謄本

・申立人の戸籍謄本

家庭裁判所に遺留分放棄の申し立てをした後は、以下の流れとなります。

・裁判所から審問期日の通知

・審問期日に家庭裁判所に出頭

・遺留分放棄の許可または不許可の通知

家庭裁判所の審問期日では、裁判官が申立人とで面談を行います。遺留分放棄の申し立てに至った事情や相続財産の状況などについて口頭での説明し、申立書の内容を踏まえて、遺留分放棄の申し立てが申立人の真意によるものであるかどうか、遺留分放棄の要件を満たすかどうかなどを判断します。

【3】遺言執行者とは

遺言執行者とは、「遺言を執行する者」です。民法では、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められています(民法第1012条1項)。また、遺言執行者が職務としてした行為は、相続人に対して直接効力が生じます(民法第1015条)。このように、遺言執行者は、特定の相続人や受遺者の味方をするのではなく、あくまで亡くなった方の遺言の内容を遺言書どおりに実行されるように必要な手続きを行う人のことです。

【遺言執行者になれるものの条件】

遺言執行者になるには特別な要件はなく、未成年者および破産者以外であれば誰でも遺言執行者となることができます(民法1009条)。また、法人も遺言執行者になれます。

【遺言執行者の選任方法】

遺言執行者の選任は、遺言者が遺言書であらかじめ指名する方法と「遺言書で第三者に指定を委ねる方法」「家庭裁判所に選任申立てを行う方法」があります。

【遺言執行者の権限】

遺言執行者の権限は、2019年7月1日施行の民法改正により、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理および遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と明確化されました(民法1012条1項)。

■相続登記

特定財産承継遺言があった場合、遺言執行者が相続登記の申請をすることができます。つまり、遺言執行者は単独で相続登記手続きをすることができます(民法第1014条2項)。また、不動産の相続登記以外にも車の登録や動産の引き渡しなども行えます。ただし、「特定財産承継遺言」である場合にのみ認められているので注意が必要です。「特定財産承継遺言」とは、特定の財産を相続人の一人、または数人に相続させることです。例えば、『Aの土地を長男に相続させる』とした場合、遺言執行者は遺言で指定されたA土地についてのみ、相続登記の申請ができます。

■預貯金債権の払い戻し・解約

特定財産承継遺言に記載されている財産が預貯金の場合、解約や払戻しが法律上できることが民法改正によって明確に規定されました(民法第1014条3項)。ただし、解約権限が遺言執行者に与えられるのは、預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます。例えば、10,000万円の預金のうち5,000万円を長男に相続させるという遺言の場合には、預貯金債権の全部ではないため5,000万円の払戻し手続きはできますが、預貯金全体の10,000万円の解約をすることはできません。

■遺贈手続き

特定遺贈された場合、相続人が遺贈義務者となりますが、遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者のみが遺贈の手続きを行うことができます(民法第1012条2項)。

■復任権

復任権とは他の人に任せることができる権限のことです。改正前では遺言執行者は遺言によって選任されたり、裁判所によって選任されるもので、第三者に任務を任せることは望ましくないとされていましたが、民法改正により遺言者が遺言書によって復任を禁止していない限り、遺言執行者の責任で第三者に任務を任せることができるようになりました(民法第1016条)。

【必ず遺言執行者が必要なケース】

以下の遺言事項は、遺言執行者にしか執行できません。

①遺言によって子を認知する場合(民法781条、戸籍法64条)

②遺言によって相続人を廃除、または廃除の取り消しをする場合(民法893、894条)

③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第152条の2項では、遺言により一般財団法人を設立する意思が示されるとされていますが、この場合、一般財団法人の設立には遺言執行者の指定が不可欠です。

①遺贈や遺言による寄付

②遺産分割方法の指定

③祭祀承継者の指定

④相続人間が疎遠・仲が悪い

⑤相続人に海外にいるものがいる

など、関係者間の調整が必要なケースでは法律上必ず遺言執行者が必要ではないものの、遺言執行者が選任されていた方がスムーズに運びます。

【業務の流れ】

①就任承諾

遺言執行者に指名されている場合でも遺言執行者を受任するかどうかは選べます。まずは、就任を承諾するところからが開始となります。

②就任通知書を作成・交付

遺言執行者に指名されており就任を承諾した場合は、就任通知書を作成し相続人全員に送付します。

③遺言の内容を相続人に通知

就任通知と同時に遺言の内容を遅延なく相続人全員に通知する必要があります。実務では就任通知と遺言のコピーを同時に送付します。

④相続人調査・相続財産調査

遺言があっても戸籍を収集し誰が相続人になるのかを調査し、被相続人の財産をすべて調査します。

⑤遺言者の財産目録を作成

財産目録は財産の一覧表のようなもので、被相続人の財産の内容を相続人に知らせる必要があるため、作成した財産目録は相続人に送付します。

⑥遺言内容を実行

遺言に記載されたとおりに遺産の分配、預金の払い戻し、不動産の相続登記などを行います。

⑦任務完了後に文書で報告をする

遺言に記載されていた内容をすべて実行し終えたら、任務完了報告を相続人全員に送付します。報酬がある場合は、報酬に関しての請求書を同封します。

遺言どおりの内容でトラブルなく相続を進めたいと考える場合は、遺言執行者を指名しておくことが良いでしょう。遺言執行者として適切な人がいないという場合には、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。

【4】まとめ

遺言に関する知識を解説してきましたが、日本では遺言を作成する人が少ないというデータがあります。2022年3月30日に、日本公証人連合会のHPによると令和3年度の公正証書遺言の作成件数は100,602件、一方、令和2年7月10日から始まった自筆証書遺言の保管の件数は、2021年4月1日~2022年3月31日までで、16,954件です。

法務省の調査によると、55歳以上で自筆証書遺言を作成したことのある人は3.7%、公正証書遺言を作成したことのある人は3.1%となっています。

(参照:生命保険文化センター https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/816.html)

アメリカの普及率が50%、イギリスでは75歳以上の80%が遺言を作成しているということなので、日本の普及率は低いと言えるでしょうか?

(参照:法務省による各国の相続法制に関する調査業務報告書

では、遺言を残しておいた方が良い人はどんな人なのか確認していきましょう。

□離婚をしていて前妻(前夫)との間に子がいる

前妻・前夫との間の子も相続人となるため現在の妻(夫)や子と面識がない場合など揉める可能性がある。

□結婚しているが子はいない

相続人が親や兄弟姉妹と配偶者となり、遺言がない場合は遺産分割協議をする必要がある。また、親や兄弟姉妹がいない場合は特別縁故者か国庫に財産が行くことを防ぐためにも遺言書は必要。

□相続人が海外や遠方に住んでいる

海外や遠方に相続人がいる場合は、遺産分割協議など手続きに時間がかかることが想定される。特に海外に相続人が住んでいるケースでは印鑑証明の代わりにサイン証明などが必要となり、手続きが難航することを避けるためには遺言書に遺言執行者を指名しておくとスムーズ。

□相続人に未成年者がいる

相続人が未成年者の場合、その未成年者の代理人が遺産分割協議に参加することになる。夫(妻)が亡くなり妻(夫)と未成年の子が相続人となるケースでは、妻(夫)が代理人になることは利益相反となるためできない。したがって、このような場合には、家庭裁判所に申立てを行い、未成年者の代理人(「特別代理人」という。)を選任してもらい、その者と遺産分割協議を行う。それを避けるために遺言書があれば遺産分割協議が必要なくなる。

□相続人に認知など判断能力のないものがいる

判断能力がない(または不十分な)相続人のために、家庭裁判所に成年後見の申立てをして、「成年後見人」を選任してもらう必要がある。判断能力がない(または不十分な)相続人の法定代理人として、成年後見人が遺産分割協議に参加し、手続きを進めていくこととなるが、遺言書を作成することで回避できる。

□相続人の仲が悪い

そもそも、相続人の仲が悪い場合は遺産分割協議そのものが難航する恐れがある。それを回避するためにも遺言書を作成しておけば相続手続きは簡単になる。

□不動産(未上場株)など分けにくい財産が多い

分けにくい相続財産も遺産分割協議で難航する恐れがある。遺言書で誰に相続させるかを明記しておけばそのことを回避できる。

□相続人に行方不明者がいる

遺言書がない場合、家庭裁判所に申立てをして、当該音信不通者・行方不明者のための「不在者財産管理人」を選任してもらってから、不在者財産管理人と一緒に遺産分割協議を進めていく必要がある。遺言書があれば、このような手続きを回避でき、相続手続きがスムーズになる。

□事実婚もしくは同性婚である

そもそも、事実婚・同性婚の場合は法定相続人とならないため、遺言書を作成し、遺贈しなければ相続財産を残すことができない。

□財産を相続人以外(孫や他人など)にも残したい

相続人ではない孫や嫁(婿)に財産を残すには遺言で遺贈する必要がある。

□財産を多く相続させたい相続人がいる

法定相続割合とは違う割合で相続させたい場合には、遺言書で割合を指定することで法定相続分より多くの財産を残すことが可能になる。

□財産を相続させたくない相続人がいる

遺言書を作成する際、遺留分を侵さなければ、法定相続分とは違う割合で財産を残すことができるため、財産を相続させたくない相続人の割合を少なくできる。

□財産を寄付したい(生涯独身などで相続人が不在など)

寄付や遺贈をしたい場合には遺言書を作成することで可能。

このように、財産の大小に関わらず遺言書を作成しておくべき人が一定数います。また、これらのケースでは遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容をよりスムーズに実現することができます。

また、遺言書は、遺言者の判断能力がしっかりある状態で作成しなければなりません。認知症などにより判断能力が失われた場合は、有効な遺言書を作成できなくなります。上記に該当する人は特に早めの遺言作成が良いでしょう。遺言書を作成しても、何度でも作成し直すことができます。目安として退職時や還暦などに差しかかったら一度、遺言書を作成しておき、その後事情が変われば作成し直せば良いでしょう。

第5章

【1】相続発生後のタイムスケジュール

相続発生後は、死亡届の提出など一般的な手続きから始まり、電気・ガス・水道といった公共料金や契約の名義変更、年金・一時金の請求、場合によっては故人の確定申告、相続税の申告と納税など、手続きは多岐にわたり煩雑です。手続きには期限が決まっているものも多いため、スケジュールに沿って計画的な対応が必要となります。では、大まかな流れを、順を追ってみていきましょう。

■相続発生後、速やかに行うこと

・被相続人の死亡(相続開始)

死亡届の提出は、死亡診断書等を取得し、故人の死亡地・故人の本籍地・提出する人の住所のいずれかの市区町村に提出後、火葬の許可を申請します。

・関係者への連絡、葬儀の準備

・通夜、葬儀(葬式費用の領収書等の整理・保管)

■相続発生後14日以内に必要な手続き

・健康保険、厚生年金保険資格喪失手続

・国民健康保険、後期高齢者医療制度、国民年金資格喪失手続

・介護保険の資格喪失届

・世帯主変更届

・退職手続き~故人が会社に勤めていた場合は死亡後できるだけ早く勤務先に連絡して退職の手続きをする

・金融機関への連絡~ただし、連絡すると口座は凍結されてしまうため、まだ引き落としが残っている場合は要注意

□期限はないができるだけ速やかに

・遺言の有無の確認

☑遺言ありの場合は、遺言の種類の確認

自筆証書遺言の場合、家庭裁判所にて検認手続きが必要

公正証書遺言の場合、自筆証書遺言の場合いずれも相続人の調査及び対象財産の確認調査を行い、相続人の確定と財産の確定をする。

・遺言なし

相続人の調査及び対象財産の確認調査を行い、相続人の確定と財産の確定をする。

□3ヶ月以内

・香典返し

・四十九日忌法要 この頃までに納骨。

・相続の放棄または限定承認

□4ヶ月以内

・被相続人の確定申告及び納付

確定申告書の提出義務のある方が亡くなった場合、相続人は「所得税の確定申告」を行う。なお、消費税の申告が必要な方は、相続の発生があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告を行う。

□10ヶ月以内

・遺言がない場合、遺産分割協議

遺産分割協議には期限はないが、特に相続税がかかる場合は、10ヶ月以内に完了していることが望ましい。

・被相続人の相続税の申告及び納付

相続税申告が必要な場合は、相続の発生を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税を行う必要がある。配偶者の税額の軽減の適用を受ける場合や小規模宅地等の特例を受ける場合にも申告が必要となる。

・遺産分割協議や遺言の内容に従い、財産の移転手続きをする

□1年以内

・一周忌の法要

・遺留分侵害額請求

その他、生命保険契約がある場合は生命保険金の請求や自宅の遺品整理・売却など諸々の手続きが必要です。適宜、専門家の助けを借りるなどして期限があるものに関しては期限内に完了させましょう。

【2】死後事務

死後事務委任契約は生前に結んでおく契約ですが、死後事務サポートは亡くなった後の死後事務や相続の手続きを相続人から委任を受け、各専門家と協力しながら死後のあらゆる手続きをサポートすることです。

死後事務サポートには主に以下の業務があります。

□遺体の引き取り~葬儀の手配

場合によっては納骨まで代行することもある

□各種役所での手続き(前項の手続きを参照)

□戸籍の収集

□不動産の名義変更サポートや売却サポート

□各種金融機関での手続き

残高証明の取得・取引履歴の取得・財産移転手続き、口座解約など

□クレジットカードや各種会員証の解約手続き

□遺品整理

何をどこまでサポートするかは、依頼者である相続人と打ち合わせをしっかりと行い決定します。

死後事務委任契約や遺言執行者とは違い、相続人全員から委任状が必要な業務が多い上にコンプライアンスにも留意して行う必要があります。

【コンプライアンス】

死後事務サポートに関わらず、相続の手続きにはコンプライアンスに留意する必要があります。

手続きによっては士業の助けも必要となるため、それぞれの士業が、何ができ、何ができないのかをしっかりと把握しておきましょう。

第1章 税金の基本

【1】税金の基本

■税金とは

日本国憲法は、すべての国民には健康で文化的な生活をする権利があると定めています。そして国には、生活のあらゆる面において、社会福祉や社会保障を充実させ、公衆衛生を向上させることを求めています。そのために、国や都道府県、市区町村は、民間企業などでは供給することが難しいと考えられる公共的なサービスを提供しています。例えば、道路の整備や学校教育、病院での治療や介護サービス、警察による犯罪の取り締まりや火事の際の消防などです。当然、それらの公共サービスの実施には多くの費用がかかります。その費用を国民がみんなで出し合い、負担しているのが「税金」です。しかし、一般的な取引とは違い、私たちはその公共サービスの料金を利用するつど支払うわけではありません。その料金は、国民共通の経費として扱われ、一定のルールにしたがって国民に割り振られます。なお、日本ではそのルールを法律で定めなければならないことになっています(租税法律主義)。

【2】税金の歴史

税金を学ぶにあたっては、「そもそもどのような歴史があって、現在の姿があるのか」という流れを確認しておくことが大切です。そのことにより、現在の姿に対する理解が深まるとともに、将来的な方向性も予測しやすくなるからです。

現代につながる「税金」の始まりは、日本が近代国家への歩みを始めた明治時代に見ることができます。それまでの日本における税の中心は年貢であり、原則として米を納める「現物納」でした。しかし、現物納では米の豊作や凶作によって税収が大きく変動し、財政収入が安定しません。そこで、明治新政府は安定的な財政基盤の確立を目指し、1873年(明治6年)から「地租改正」という税制度の改革を行いました。これにより、土地からの収益を基にして定めた地価に一定率を乗じた税(地租)を「金銭納」させるようにしたのです。いわゆる「税金」の始まりです。

その後、日本の商工業の発展に伴い、税金は農民に対する地租中心の課税から、商工業者に対する所得課税へと移行していきます。その間、1894年(明治27年)に起こった日清戦争、次いで1904年(明治37年)に起こった日露戦争の戦費調達のために相次いで増税が行われています。近年、注目を集める相続税も日露戦争の戦費調達を目的として1905年(明治38年)に制定されています。当時、地租に代わり主要な税金となったのは酒造に対して課される酒税でした。その後、1918年(大正7年)に現在でも主要な税金の1つである所得税が、酒税を抜いて初の税収1位となっています。昭和時代に入っても1937年(昭和12年)に日中戦争が起こって以降、膨大な戦費調達のための増税が続きます。それに伴い税制自体も複雑になっていきました。諸外国の例にもれず、日本の税制も戦争を契機として定められてきたのです。この時代、税金は主に戦費調達の手段として扱われていたことになります。

そして、第二次世界大戦の敗戦により、日本の税金は大きな転機を迎えます。終戦直後の日本経済は、物資の供給不足により深刻なインフレに陥り、国民の納税意識の低下から、税収の確保もままならない状況でした。そこで、経済を安定させるために抜本的な税制改正が必要とされ、アメリカから税制の専門家を招聘することになりました。招聘されたシャウプ博士を団長とする使節団は精力的に調査活動を行い、公平かつ恒久的な税制を目指して様々な提言を行いました。これを「シャウプ勧告」といいます。シャウプ勧告では、所得税を中心とする税体系の構築や地方税制の再編による地方自治の強化、適正な申告納税制度の実現のための青色申告制度の導入など、現在の税制につながる提言が行われています。

戦後日本の税制は、シャウプ勧告に基づき所得税を中心とした税体系を構築してきました。しかし、少子高齢化に伴う社会福祉や社会保障の重要性が増し、新たな財源の確保が求められるようになりました。そこで、それらの公的サービスにかかる費用をあらゆる世代の国民が広く公平に分かち合うという観点から、1989年(平成元年)に消費税が導入されました。消費税はその後の税制改正において段階的に税率の引き上げが行われ、2020年(令和2年)には所得税を抜いて税収1位となっています。今後もインボイス制度(P.○○ 参照)の導入による課税事業者の増加などにより、日本の主要な税金の1つであり続けるでしょう。また、消費税率の引き上げに合わせるように相続税も増税となっています。具体的には、過去の改正において一貫して引き上げられてきた相続税の基礎控除額(P.〇〇参照)が2015年(平成27年)から大幅に引き下げられています。それにより、相続税の課税件数は引き上げ前の2倍程度になりました。これは、消費税が広く国民に負担を求める税金であることから、その痛税感を和らげるために富裕層に対する税金のイメージが強かった相続税の課税を強化したとも考えられます。近年では相続税の補完税(P.〇〇参照)とされる贈与税の税制改正も行われ、相続税は新たな財源として注目されています。

このように、日本の社会経済の変動に伴って、税金も様々に移り変わってきました。税金が戦費調達の手段であった戦前と異なり、現在の福祉国家としての日本がどのような公共サービスを国民に提供していくかによって、税金の在り方も変わっていくでしょう。

【3】税金の基本原則

(1)租税法律主義

私たち日本国民には、日本国憲法第30条に定められた納税の義務があります。

(納税の義務)

第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

しかし、国や地方自治体は法律に基づかないと国民に税金を課すことはできません。これを「租税法律主義」と言い、日本国憲法第84条に規定されています。

(課税の要件)

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

この「租税法律主義」には、「自分たちのことは自分で決める」という民主主義の精神を実現する意義があります。例えば、江戸時代は国民の知らないところで幕府や領主が年貢などの税を定めて徴収していました。しかし、民主国家である日本において国や地方公共団体が税金を課すためには、国民の代表である国会議員が国会で法律を定め、その法律に基づいて課税しなければなりません。国民の立場から言えば、法律に定められていない限りは課税されないということです。これにより、国や地方自治体が場当たり的に課税することはできず、「法的な安定性」が保たれます。また、あらかじめ法律で定めることにより、国民はどのような場合にどれくらいの税金が課されるのかを予測することができ、いわゆる「予測可能性」が保障されることになります。

(2)租税公平主義

私たち日本国民は、日本国憲法第14条第1項によって「法の下の平等」が保障されています。

(平等原則)

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

平等原則は、封建的な身分制度や差別などを禁止し、すべての人は平等であるとする近代憲法の基本原則の一つです。この条文から、「税負担は納税者の担税力に応じて公平に配分されるべきであり、納税者は税法規の適用に関して平等に取り扱われなければならない」という税の領域における平等原則が導かれます。これを「租税公平主義」と言います。「租税公平主義」における「公平」には「水平的公平」と「垂直的公平」の意味合いがあります。「水平的公平」とは同じ負担能力がある納税者には同じ負担を求めるということです。また、「垂直的公平」とは負担能力の大きな納税者には大きな負担を求めるということです。

【4】税金の分類

(1)国税と地方税

税金には、国に納める国税と都道府県や市区町村に納める地方税があります。国税の代表的なものとして所得税、法人税、相続税、消費税などがあります。また、地方税は道府県税と市区町村税に分類され、道府県税には道府県民税(住民税)や不動産取得税、自動車税などがあります。さらに、市区町村税には市区町村民税(住民税)や固定資産税、地方消費税などがあり、それぞれ都道府県や市区町村に納めることになります。国税、道府県税、市区町村税は別々の税金ですが、同じものが課税の対象とされている場合もあります。例えば、個人の所得は国税なら所得税、道府県税なら道府県民税(住民税)、市区町村税なら市区町村民税(住民税)というように重複して課税の対象とされています。

(2)直接税と間接税

直接税とは、税金を「納める人」と「負担する人」が同じ税金を言います。これに対して、間接税とは、「納める人」と「負担する人」が異なる税金を言います。直接税には所得税、法人税、相続税などがあり、間接税として代表的な税金としては消費税があります。所得税や法人税は個人や法人の所得が多ければ増えるため、直接税の税収は景気に左右される傾向にあります。一方、消費税の税収は所得税や法人税ほど景気に左右されないため、間接税は直接税に比べ税収が安定していると言えます。

(3)収得税・消費税・資産税・流通税

収得税は収入に対して課される税金で、所得課税とも言われます。国税では所得税や法人税が代表的であり、地方税では住民税や事業税が該当します。財産税は所有している財産に課される税金で、国税では相続税や贈与税、地方税では固定資産税がこれに当たります。

ここでいう消費税は、物を購入した際に課される税金で、消費税、酒税、たばこ税などがあります。流通税は財産が移転した際に課される税金で、登録免許税や印紙税、不動産取得税などが代表的です。

(4)普通税と目的税

普通税とは、使途が特定されておらず、自由に使い道を決められる税金のことを言います。多くの税金は普通税であり、国や都道府県、市区町村の一般的な経費に充てられます。これに対し、あらかじめその使途が特定されている税金のことを目的税と言います。例えば、都市計画税は、都市計画法などに基づいて行う都市計画事業などに必要な経費に充てることを目的とした目的税です。

【5】税金と法律

(1)税金に関する法律

日本は租税法律主義を採用しているため、税金は法律に従って徴収しなければなりません。しかし、「民法」、「刑法」、「商法」と同じように「税法」という法律があるわけではありません。国税に関する法律は「所得税法」、「法人税法」、「相続税法」、「消費税法」といったように税金の種類ごとに独立して定められています。また、それらの個々の規定のほか、国税に共通する課税や納付の手続きを定めた「国税通則法」や、納税者が納付をしない場合における徴収の執行手続きを定めた「国税徴収法」、特定の政策を実現するために期間限定で適用する「租税特別措置法」があります。

なお、これらの法律に適用要件や税金計算の詳細までが定められているわけではなく、それらは別途、内閣が定める「政令(施行令)」や財務大臣が定める「省令(規則)」に定められています。例えば、所得税では所得税法施行令(政令)や所得税法施行規則(省令)があります。政令と省令は、法律と合わせて「法令」と呼ばれています。さらに、法令の解釈を統一するために国税庁が全国の税務署に指示をした「基本通達」や「個別通達」があります。これらの通達は法令ではないため納税者を拘束するものではありません。しかし、税務署はこれらの通達に基づき課税・徴収を行うため、実務上の取扱いはこの通達に影響を受けることになります。

地方税は国税のように税金の種類ごとに定められておらず、「地方税法」という法律に集約されています。固定資産税や住民税、事業税といった税金の規定や、あらゆる手続きの規定が地方税法に定められています。ただし、地方税は法律だけで完結するのではなく、各地方公共団体が「条例」で課税や徴収についての詳細を定めることによって完結します。つまり、地方税法だけで直接に課税するのではなく、地方税法を前提として各地方公共団体が定めた条例と一体となって課税するという体系が取られています。

(2)税制改正と税法ができるまで

税金に関する法令は毎年改正されています。いわゆる「税制改正」と呼ばれるものです。翌年度の税制改正は、8月頃までに各省庁から提出される税制改正要望や概算要求(翌年度の予算の要求)などを踏まえ、11月頃から始まる政権与党による「税制調査会」で議論されます。そして、12月上旬に「与党税制改正大綱」が発表されます。これは、実質的には政府の税制改正案であり、税制改正の骨格を示すものです。税制改正大綱の内容は、国税については財務省主税局により、地方税については総務省自治税務局によって原案が取りまとめられ、翌年1月に政府から税制改正法案として通常国会に提出されます。法案は3月下旬までに可決・成立され、4月から施行されるというのが一般的なスケジュールです。このように、あくまで国民の代表である国会議員が国会において法律を定め、その法律に基づいて課税するという「租税法律主義」の形が取られています。

【6】税金に関する行政の仕組み

税金に関する行政機関として、真っ先に思い浮かぶのは税務署でしょう。しかし、税務署だけが税金に関する業務を行っているわけではありません。税金に関する行政機関としては、以下のようなものがあります。

・財務省主税局

国税に関する法律の企画・立案や税金の収入見積もりなどを行っています。

・国税庁

国税の課税・徴収に関する企画・立案や税法解釈の統一を行い、これを国税局に指示します。また、国税局と税務署における課税・徴収の事務について指導・監督しています。

・国税局

国税庁の指導・監督のもと、税務署における課税・徴収の事務について指導・監督を行います。また、自らも大口案件について課税・徴収の事務を行います。

・税務署

国税庁や国税局の指導・監督のもと、実際に課税・徴収の事務を行う第一線の行政機関です。税金に関する行政機関としては、私たち納税者にとって最も身近な存在です。国税に関する質問や相談がある場合は、住所地を管轄する税務署が対応してくれます。

・総務省自治税務局

地方税に関する企画・立案や運営指導を行っています。

・都道府県税事務所

道府県税の課税や徴収の事務を行っています。道府県民税に関する質問や相談がある場合は、住所地の事務所が対応してくれます。

・市税事務所・市区町村役場の税務課

市区町村民税の課税や徴収の事務を行っています。市区町村民税に関する質問や相談がある場合は、住所地の事務所または税務課が対応してくれます。

【7】税金の納税方式

(1)2つの納税方式と源泉徴収制度

税金を納める方式には、申告納税方式と賦課課税方式の2つがあります。また、申告納税方式の例外として源泉徴収制度があります。

・申告納税方式

納税者が税額を自分で計算した上で税務署に申告し、納税する方式です。毎年の所得税の確定申告をイメージすると分かりやすいでしょう。自分の所得の状況を最もよく知る納税者本人が申告し、納税するという最も民主主義に則った方式と言えます。戦前の日本では賦課課税方式が採られていましたが、現在では所得税、法人税、相続税、消費税など、ほとんどの国税で申告納税方式が採用されています。

・賦課課税方式

国や地方公共団体が税額を計算し、納税者に通知する方式です。納税者は送付されてきた通知書に従って納税します。納税者に毎年通知書が送られてくる固定資産税が代表的です。そのほか、個人の住民税や個人の事業税など多くの地方税(P○.〇参照)は賦課課税方式を採用しています。

・源泉徴収制度

所得税は原則として申告納税方式により納税します。しかし、給料など個人の一定の収入については、それらを支払う会社や事業者が所得税を天引き(源泉徴収)しなければならないことになっています。源泉徴収された所得税は、源泉徴収した者から国に納付されます。この制度を源泉徴収制度と言います。また、住民税を給料から天引きする制度もあり、こちらは特別徴収制度と言います。住民税を特別徴収した会社や事業者は、従業員に代わって市区町村に納付します。

(2)確定申告と年末調整

所得税は申告納税方式を採用しているため、納税者が自ら税額を計算し、税務署に申告し、納付しなければなりません。この申告は毎年2月16日から3月15日の間に行うことになっており、これを一般的に所得税の「確定申告」と言います。確定申告の対象となるのは、前年の1月1日から2月31日までのすべての所得です。本来はすべての納税者が、この「確定申告」をする必要があります。しかし、実際に確定申告を行っているのは、個人の自営業者や不動産の賃貸料収入がある人などに限られています。これは、一般のサラリーマン(給与所得者)には「年末調整」という制度があり、確定申告をする必要がないからです。サラリーマンの所得税は毎月の給料や賞与から源泉徴収されます。しかし、源泉徴収される所得税は概算で計算されているため、勤め先の会社や事業者が1年間の正しい税額と源泉徴収した税額との差額を年末に精算してくれることになっています。これを「年末調整」と言います。この年末調整により、一般のサラリーマンの所得税は確定し、勤め先の会社や事業者から税務署に申告されるため、確定申告をしなくてもよいことになります。年末調整では、生命保険料控除や地震保険料控除、住宅ローン控除など、毎月の源泉徴収には反映されない控除も含めて1年間の所得を再計算します。したがって、年末調整をすると所得税が戻ってくるケースが多くなります。なお、サラリーマンでも1年間に支払いを受けた給料と賞与の合計額が2,000万円を超える人や、2か所以上の会社や事業者から給料の支払いを受けている人、給料以外の副収入の所得が20万円を超える人などは確定申告をする必要があります。

また、医療費控除やふるさと納税(ワンストップ納税を除く)などの寄附金控除は年末調整で適用を受けることができないため、確定申告が必要となります。住宅ローン控除の適用を受ける初年度も同様に確定申告が必要です。

【8】税金の誤りに対処する方法

(1)税金を少なく申告したとき

税務署に申告書を提出した後、税金を少なく申告したことに気づいた場合、申告期限前であれば申告書を再提出し、修正後の税額を納めます。申告期限後に気づいた場合は、「修正申告書」を提出し、追加で納税します。この場合、申告期限の翌日から納税した日までの期間に応じた延滞税がかかります。延滞税については、後日、税務署から納付書が送られてくるため、それに従って納付します。なお、延滞税の割合はその年の金利情勢によって決められます。令和4年中については、納期限の翌日から2ヶ月までの期間は2.4%、それを超える期間は8.7%となっています。

(2)税金を多く申告したとき

税務署に申告書を提出した後、税金を多く申告したことに気づいた場合、申告期限前であれば申告書を再提出し、修正後の税額を納めます。

申告期限後に気づいた場合は、「更正の請求書」を提出し、還付を受けることになります。なお、「更正の請求書」を提出できるのは、申告期限から5年以内です。

(3)申告を忘れたとき

申告期限までに申告書を提出していなかった場合は、できるだけ早く申告書を提出します。この場合は原則として、納めるべきであった税額の5%相当額の無申告加算税が課せられます。また、税金を少なく申告したときと同様に延滞税がかかります。

(4)税金を払えなかったとき

申告期限までに納税ができなかった場合は、納税する日までの期間に応じた延滞税がかかります。そして、原則として申告期限から0日以内に、税務署から督促状が発送されます。さらに10日を経過しても納税されない場合は、財産の差し押さえなどが行われることになります。

(5)税務調査

所得税、法人税、相続税、消費税など、ほとんどの国税では申告納税方式が採用されています。申告納税方式では納税者が税額を自分で計算するため、税法の適用を誤ったり、計算を間違うこともあるでしょう。また、事実を隠したり、仮装したりして故意に税金を少なく申告することも考えられます。そのような状況を放置すれば公平な課税ができないことになるため、申告納税制度を適正に機能させることを目的として、税務当局による税務調査が行われています。税務調査には任意調査と強制調査があります。任意調査は国税局や税務署の調査部門により行われるもので、一般的に税務調査といえば任意調査を指すことになります。任意調査には文字どおり強制力はありませんが、税務当局には納税者に質問し、関係する書類を調査する権限があります。また、納税者は正当な理由なくして税務調査を拒むことはできません。強制調査は国税局査察部(通称「マルサ」)による調査です。大口かつ悪質な脱税が疑われる納税者に対し、裁判所の令状を得て強制的な証拠物件の差し押さえや捜索が行われます。納税者は調査を拒否することができません。調査により脱税行為が認められた場合は、検察官への告発を経て、裁判所によってそれが犯罪行為かどうか、また、どのような刑罰を課すのかが判断されることになります。

(6)税務調査により税額を修正したとき

税務調査により税金を少なく申告していたことが判明したときは、税務当局より修正申告書の提出を求められます。この場合は、延滞税とともに、新たに納めることとなった税額の10%または15%相当額の過少申告加算税が課せられます。また、申告すべきであったのに、申告をしていなかったことが判明した場合には、申告書の提出を求められます。そして、延滞税とともに、納めるべきであった税額の15%または20%相当額の無申告加算税が課せられます。

第2章 いろいろな税①

税金の種類~所得税

【1】所得税とは

所得税は、私たち個人の1年間(1月1日から12月31日まで)の「所得」に対してかかる税金です。混同しやすいですが、ここでいう「所得」は「収入」とは違います。「所得」とは1年間の収入から経費を差し引いた、いわゆる「利益」のことをいいます。一口に「利益」と言っても、そのもととなる収入は、会社で働いたことによる給料や、不動産を賃貸することによる賃料、有価証券の売却代金など様々です。そして、その性質によって税金を担うことができる力、すなわち担税力に違いがあります。そこで、所得税ではその性質に応じて所得を10種類に区分し、それぞれの所得ごとに計算方法や課税の対象となる範囲を定めています。例えば、退職金は老後の生活保障という性質があるため課税上も優遇されており、退職所得控除といわれる控除をしたうえで、その2分の1を課税対象としています。一方、銀行預金の利息は余裕のあるお金を運用に回した際の収入であり、特に経費がかからないことから、収入金額がそのまま利子所得となります。

【2】所得税の納税義務者

所得税の納税義務者は、原則として個人です。なお、その個人の日本での居住形態により、課税の対象となる所得の範囲には違いがあります。

【3】所得税の申告期限と納期限

所得税の確定申告の申告期限(申告書を提出する期限)は翌年の3月15日です。また、納期限(所得税を納付する期限)も同日です。申告書の提出や所得税の納付は毎年2月16日から行うことができます。なお、申告期限や納期限が土曜日、日曜日、祝日などの場合は、その翌日が期限となります。

【4】所得税のしくみ

(1)所得税の計算方法

所得税では、収入を10種類に区分したうえでそれぞれの所得金額を計算し、原則としてそれらを合算します。そして、その納税者の家族構成や生活状況などの個人的事情を考慮するために「所得控除」といわれる控除額を差し引き、残った所得が課税の対象となります。

課税の対象になった所得に税率をかけて所得税額を算出します。なお、税率は、所得が高ければ高いほど、その高い部分の税率が高くなる「超過累進税率」となっています。所得税額を算出したのち、住宅ローン控除などの「税額控除」を行います。税額控除は、所得から一定額が控除される所得控除と違い、税率を乗じたあとの所得税額から直接控除されます。したがって、税額に与えるインパクトは所得控除よりも大きくなります。控除後の税額に2037年(令和19年)までの限定措置として復興特別所得税が2.1%上乗せされます。そこから源泉徴収された税額や、前払いである予定納税額を差し引き、最終的に納付する税額が確定します。

(2)10種類の所得金額

・利子所得

預貯金や公社債からの利子などによる所得をいいます。利子所得は収入金額がそのまま利子所得となります。利子所得はその支払いを受ける際に所得税・復興特別所得税(15.315%)及び地方税(5%)が源泉徴収されます。それにより納税が完結するため、原則として確定申告をする必要はありません。

・配当所得

株式の配当金や株式投資信託の分配金などによる所得をいいます。配当金などによる収入金額から株式などを取得するための借入金の利子を差し引いた金額が配当所得となります。配当所得はその支払いの際に、支払額に対して次の区分に応じて所得税などが源泉徴収されます。

・上場株式等の配当等(大口株主等が支払いを受けるものを除く)

所得税・復興特別所得税(15.315%)及び地方税(5%)

・上場株式等以外の配当等

所得税・復興特別所得税(20.42%)

・不動産所得

マンションの家賃や駐車場の賃貸料など、土地や建物などの貸し付けによる所得をいいます。賃貸による総収入金額から必要経費を差し引いた金額が不動産所得の金額となります。賃貸料収入には礼金や共益費を含み、必要経費には不動産収入のために直接必要な固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などがあります。

・事業所得

製造業、卸売業、小売業、サービス業など事業を行っている個人の、その事業による所得をいいます。事業による総収入金額から必要経費を差し引いた金額が事業所得の金額となります。必要経費には事業収入を得るために直接必要な売上原価や、人件費、家賃、減価償却費などがあります。なお、不動産の貸し付けによる所得は不動産所得となります。

・給与所得

給料や賞与による所得をいいます。一般のサラリーマンとしての所得は給与所得となります。給与所得は、事業所得や不動産所得のように必要経費を差し引くことができない代わりに、給料・賞与の額に応じて定められた給与所得控除額を収入金額から差し引くことができ、その控除後の金額が給与所得の金額となります。なお、給料・賞与からは、給料・賞与の額と扶養親族などの数に応じた所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。

・退職所得

退職により勤務していた会社から受ける退職金などによる所得をいいます。退職による収入金額から、勤続年数に応じて定められた退職所得控除額を差し引いた残額に2分の1を乗じた金額が退職所得の金額となります。なお、退職金からは所得税が源泉徴収されます。その源泉徴収額は、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に提出しているかどうかで異なります。

・「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合

退職金の支払者により退職所得の金額が計算され、その金額に応じた所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。これにより、納税が完結するため、確定申告をする必要はありません。

・「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合

退職金の支払額に対して20.42%の所得税・復興所得税が源泉徴収されます。

・山林所得

山林の伐採や材木の売却による所得をいいます。山林の伐採や材木の売却による総収入金額から必要経費を差し引いた残額から、最高50万円の特別控除額を差し引いた金額が山林所得の金額となります。

・譲渡所得

土地、建物、有価証券などの資産の売却による所得をいいます。ただし、事業用の商品などの棚卸資産や材木の売却による所得は譲渡所得にはなりません。売却による収入金額から原価である資産の取得費と、売却のための必要経費を差し引いた金額が譲渡所得となります。譲渡所得には様々な特別控除の規定が設けられており、それらの規定が適用される場合には、その控除後の金額が譲渡所得の金額となります。

・一時所得

生命保険の満期金や解約返戻金、懸賞金や競馬や競輪の払戻金などによる所得をいいます。総収入金額からその収入を得るために支出した金額を差し引いた金額から、最高50万円の特別控除額を差し引いた金額が一時所得の金額となります。

・雑所得

雑所得とは上記の所得のいずれにも該当しない所得をいいます。例えば、公的年金等による所得やサラリーマンの副業による所得は雑所得となります。公的年金等による所得の金額は、公的年金等による収入金額から受給者の年齢や年金収入額に応じて定められた公的年金等控除額を差し引いた金額となります。それ以外の収入による雑所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いた金額となります。

(3)15種類の所得控除

・基礎控除

納税者本人に認められる最低限の所得控除です。日本国憲法は、すべての国民には健康で文化的な最低限度の生活をする権利があると定めています。それを実現するため、原則として48万円の控除が認められています。ただし、納税者の合計所得金額が2,400万円を超える場合は控除額が制限され、2,500万円を超えると控除されないことになっています。

・配偶者控除

納税者と生計を一にする配偶者がいる場合には、原則として38万円の控除を受けることができます。「生計を一にする」は、「同じ財布で家計を賄っている」と言い換えればイメージしやすいでしょう。ただし、配偶者の合計所得金額が48万円(収入が給与のみの場合は給与収入が103万円)を超える場合は適用がありません。また、納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は控除額が制限され、1,000万円を超えると控除されないことになっています。

・配偶者特別控除

配偶者の合計所得金額が48万円を超えるため、配偶者控除の適用を受けられない場合でも、配偶者の所得金額に応じて一定額の控除が受けられるようになっています。これを配偶者特別控除といいます。ただし、配偶者の合計所得金額が133万円以下(収入が給与のみの場合は給与収入が201万5千円未満)であることが条件となっています。また、配偶者控除と同様に、納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は控除額が制限され1,000万円を超えると控除されないことになっています。

・扶養控除

納税者に生計を一にする16歳以上の扶養親族(配偶者を除く)がいる場合には、原則として一人当たり38万円の控除を受けることができます。扶養親族の年齢が19歳以上23歳未満である場合には、控除額が25万円プラスされ、一人当たり63万円の控除を受けることができます。これらは、扶養親族が高校・大学の就学中においては、特に学費の支出による家計の負担が多くなることを考慮したものです。なお、扶養親族の合計所得金額が48万円(収入が給与のみの場合は給与収入が103万円)を超える場合は適用がありません。

・障害者控除

納税者本人、配偶者、または扶養親族が障害者である場合には、一定の要件のもと控除を受けることができます。控除を受けることができる金額は、原則として障害者一人当たり27万円です。特別障害者に該当する場合には、控除額が40万円となります。障害者控除を受けることができる配偶者・扶養親族の要件は、ほぼ配偶者控除・扶養控除の対象となる配偶者・扶養親族の要件と同じです。なお、障害者控除は本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合や扶養親族が16歳未満である場合も適用を受けることができます。

・寡婦控除

納税者本人が寡婦(かふ)である場合には、27万円が控除されます。ここでいう「寡婦」とは以下のいずれかに該当する人をいいます。

・夫と離婚したあと結婚をしておらず、扶養親族がいる人で、かつ合計所得金額が500万円以下の人

・夫を亡くしたあと婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人(扶養親族の要件はなし)

なお、以下の「ひとり親控除」の対象となる寡婦には適用がありません。

・ひとり親控除

納税者本人がひとり親である場合には、控除額は35万円です。ここでいう「ひとり親」とは結婚していない人または配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべての要件に該当する人を指します。

・その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと

・生計を一にする総所得が48万円以下である一定の子がいること

・合計所得金額が500万円以下であること。

・勤労学生控除

納税者本人が勤労学生である場合には、控除額は27万円です。ここでいう「勤労学生」とは以下のすべての要件に該当する人を指します。

・給与所得などの勤労による所得があること

・合計所得金額が75万円(収入が給与のみの場合は給与収入が130万円)以下で上記の勤労による所得以外の所得が10万円以下であること

・高校や大学など、特定の学校の学生や生徒であること

・社会保険料控除

納税者が、納税者本人や生計を一にする配偶者、その他の親族の社会保険料を支払った場合には、その支払った社会保険料の全額が控除されます。社会保険料には、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療保険、介護保険、国民年金、厚生年金の保険料や掛金などがあります。なお、支払った社会保険料には給料から天引きされた社会保険料も含まれます。

・小規模企業共済等掛金控除

納税者が、小規模企業共済の掛金、確定拠出年金の企業型年金や個人型年金の掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金を支払った場合には、その支払った掛金の全額が控除されます。

・生命保険料控除

納税者が、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合には、一定の金額が控除されます。これを生命保険料控除といいます。控除の対象となる保険契約は、納税者本人・配偶者・その他の親族のいずれかが受取人になっているものです。2012年(平成24年)1月1日以降に契約したもの(新契約)とそれ以前に契約したもの(旧契約)とで、控除額の計算方法には違いがあります。新契約のみに加入している場合、旧契約のみに加入している場合、新契約と旧契約の両方について加入している場合のいずれについても控除を受けることができますが、控除の最高額は合計で12万円となっています。

・地震保険料控除

納税者が、地震保険料を支払った場合には、一定の金額が控除されます。これを地震保険料控除といいます。2006年(平成18年)までに契約した長期損害保険契約の保険料も控除の対象となりますが、控除の最高額は合計で5万円となっています。

・医療費控除

納税者が、納税者本人や生計を一にする配偶者、その他の親族の医療費を支払った場合には、その支払った医療費のうち一定額が控除されます。これを医療費控除といいます。この医療費控除の適用を受けるためには確定申告が必要となります。医療費控除の金額は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費から、高額医療費や入院給付金などで補填される金額を差し引いた実際の負担額が10万円(その年の総所得が200万円未満の人は、総所得の5%)を超える部分の金額です。ただし、控除額は最大で200万円となっています。

医療費控除の対象となる医療費は、医師または歯科医師による診療や治療の対価とされ、治療や療養に必要な医薬品の購入費用なども対象となります。対象となる医療費と対象とならない医療費の具体例は次のとおりです。

・寄附金控除

納税者が、国や地方公共団体、公益財団法人などに寄付をした場合には、その支払った寄付金のうち一定額が控除されます。これを寄附金控除といいます。この寄附金控除の適用を受けるためには確定申告が必要となります。寄附金控除の金額は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った寄附金(その年の総所得の40%を限度)から、2,000円を差し引いた金額です。また、寄附金控除の対象となる寄附金には次のようなものがあります。

・国や地方公共団体に対する寄附金

・公益社団法人、公益財団法人などに対する寄附金のうち、財務大臣が個別に指定したもの

・日本赤十字社や自動車安全運転センターに対する寄附金

・公益社団法人や公益財団法人に対する寄附金

・社会福祉法人に対する寄附金

・政党や政治資金団体などに対する寄附金のうち、一定のもの

・認定NPO法人に対する寄附金のうち、一定のもの

・雑損控除

納税者や、納税者と生計を一にする配偶者、その他の親族で総所得が48万円以下の人が、地震や台風、大雨などの自然災害や、火事、盗難または横領によって家や家財に損害を受けた場合には、一定の金額が控除されます。これを雑損控除といいます。雑損控除の金額は、損害額(損害前の資産の時価と損害のために支出した費用の合計額)から保険金などで補填される金額を差し引いた実際の損害額が、その年の総所得の10%を超える部分の金額と、損害のために支出した費用の額から保険金などで補填される金額を差し引いた実際の負担額が、5万円を超える部分の金額とのいずれか大きい金額です。

(4)税額控除

・住宅ローン控除

住宅ローン控除は、個人が住宅ローンを利用してマイホームの新築・購入やリフォームを行った場合に、その住宅ローンの年末時点の残高に応じて一定額が税額控除される制度です。住宅ローン控除は租税特別措置法に規定されており、住宅取得を促進するという政策を実現するために期間限定で適用されます。令和4年度の税制改正により、2022年(令和4年)1月1日から2025年(令和7年)12月31日までの間に入居した場合には、新築住宅であれば原則として13年間、中古住宅であれば10年間にわたり、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が税額控除されます。なお、控除額の計算のもととなる年末時点の住宅ローン残高には限度額があり、その住宅の環境性能や居住年により2,000万円から5,000万円まで開きがあります。また、マイホームをリフォームした場合も適用があり、一定の要件のもと、10年間にわたり年末時点の住宅ローン残高の0.7%が税額控除されます。この際の住宅ローン残高の限度額は2,000万円です。適用にあたっては、一般のサラリーマン(給与所得者)でも、適用初年度は確定申告を行う必要がありますが、2年目以降は年末調整での適用が可能です。

・その他の税額控除

税額控除にはその他にも様々な種類があります。例えば、個人が株式の配当金を受け取った場合などに一定の税額控除を受けることができる「配当控除」や、住宅ローンを利用せずに、長期的に良好な状態で使用できる住宅を新築・購入した場合の「認定住宅等の新築等をした場合の特別控除」、特定の寄附をした場合の「公益社団法人等寄附金の特別控除」、「政党等寄附金の特別控除」、「認定NPO法人等寄附金の特別控除」などがあります。これらの税額控除の中には租税特別措置法において規定され、期間限定で適用されるものも多いため、毎年の確定申告の際には適用できるものがないか確認しておく必要があります。

税金の種類~相続税

【1】相続税とは

(1)相続税とは

人が亡くなると、その人の財産は、民法で定められた一定範囲の親族や、遺言で指定された人に承継されます。その承継には対価を伴わず、無償で財産が移転することになります。相続税とは、その財産の無償移転に着目し、移転した「財産」に対してかかる税金です。ここで、亡くなった人のことを「被相続人」、一定範囲の親族のことを「相続人」、遺言で指定された人を「受遺者(じゅいしゃ)」といいます。また、相続人が財産を承継することを「相続」といい、遺言で財産を承継させることを「遺贈(いぞう)」といいます。承継する財産には、不動産や現預金などプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産、いわゆる債務も含まれます。相続税は、民法に規定されているルールを前提に計算することに特色があります。民法には、人が亡くなった場合に、その人の財産や債務についてどのように取り扱うかが定められています。相続税では、そのルールに従って財産を引き継いだ結果に基づいて、それぞれの相続人や受遺者にかかる税金を計算します。したがって、相続税の計算にあたっては、民法に規定されているルールを理解することが必要となります。相続税は、税制改正により2015年(平成27年)から課税範囲が拡大され、被相続人の10人に1人は申告が必要な税金となりました。改正前は一部の富裕層だけが関係する税金というイメージがありましたが、現在は一般的な家庭にも身近な税金となっています。日本は超高齢社会となって久しく、今後も死亡者数の増加が見込まれています。2024年(令和6年)からの贈与税の改正と相まって、相続税は、ますます注目される税金となっていくでしょう。

【2】相続税の納税義務者

相続税の納税義務者は、相続または遺贈により財産を承継した個人です。なお、日本に住所のある人は、原則として日本国内の財産だけでなく、海外にある財産に対しても相続税がかかります。また、日本人であっても、被相続人・相続人とも10年以上引き続いて海外に住所があるような人は、日本国内にある財産に対してのみ相続税がかかります。

【3】相続税の申告期限と納期限

相続税の申告期限は、相続人や受遺者が、被相続人が亡くなったことを知った日から10ヶ月以内とされており、納期限も同様です。なお、申告期限や納期限が土曜日、日曜日、祝日などの場合は、その翌日が期限となります。また、相続税は一回で納付することを原則としますが、一回で納付することが難しい場合は、一定の要件のもと、分割払いである「延納」が認められています。そして、延納をしてもお金で納付することが難しい場合は、一定の要件のもと、承継した財産そのもので納付する「物納」も認められています。

【4】相続税の仕組み

(1)民法の基礎知識

相続税の計算にあたっては、民法に規定されているルールを理解することが必要となります。まず、相続人になれる人についてルールが定められています。民法の規定により相続人となれる人のことを「法定相続人」といいます。法定相続人は配偶者相続人と血族相続人の2つに分けられ、被相続人の配偶者は、配偶者相続人として無条件で法定相続人となります。これに対し、血族相続人は法定相続人となれる人の順位が決まっています。具体的には、子がいれば子が法定相続人となり(第1順位)、子がいなければ親が(第2順位)、子も親もいなければ兄弟姉妹が(第3順位)法定相続人となります。つまり、子という先の順位の法定相続人がいれば後の順位である親や兄弟姉妹は法定相続人にはなりません。法定相続人の範囲と順位をまとめると次のようになります。

なお、法定相続人であっても実際に財産を承継するかどうかは別問題です。法定相続人には、財産を承継しないという選択肢もあります。相続では、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も承継されることになります。したがって、被相続人の借金が財産よりも多いような場合は、相続そのものをしたくないというケースもあるでしょう。そのため、法定相続人は、相続人となること自体を放棄することもできます。これを「相続放棄」といいます。相続放棄をする場合には、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。法定相続人が相続放棄をせずに、すべての財産を承継する場合、それぞれの相続人が財産を引き継ぐ割合を相続分といいます。相続分は民法においても定められており、これを法定相続分といいます。法定相続分は、配偶者相続人と血族相続人の組み合わせと、血族相続人の人数に応じて次のように定められています。なお、必ずしも法定相続分どおりに遺産分けをしなければならないというわけではありません。遺産の分け方は、遺産の性質、相続人の年齢や職業、生活の状況などを考慮して、すべての相続人の合意をもって決めればよいことになっています。法定相続分は、あくまでも民法が定める遺産の分け方の目安であって、強制力を持つものではありません。なお、遺産の分け方については、被相続人が遺言に定めることによって決めておくことができます。

(2)相続税がかかる財産

・本来の相続財産

相続税の対象となる財産は、原則として、被相続人が亡くなったときに所有していた土地、家屋、有価証券、預貯金、現金(タンス預金も含みます)などお金で見積もることができるすべての財産です。被相続人が家族の名義で預け入れしていた預金なども相続税の対象となります。相続税の計算は、まず、それらの財産を評価することから始まります。財産の評価額は時価によることになっていますが、実務上は国税庁が定めた評価方法を用いて計算することになります。

・みなし相続財産

被相続人が亡くなったことにより支払われる生命保険金は、保険会社から直接、保険金受取人に支払われるため、被相続人から引き継いだ財産ではありません。したがって、本来は相続の対象となる財産ではありません。しかし、相続税を計算するうえでは、生命保険金を受け取った人が、その保険料を支払った人から実質的に財産を引き継いだと考えます。したがって、被相続人が保険料を支払っていた生命保険については、その保険金受取人が、被相続人から生命保険金という財産をもらったとみなして、相続税の対象とすることになっています。また、被相続人が務めていた会社から支払われる死亡退職金は、被相続人が務めていた会社から支払われるものであり、被相続人から直接引き継いだ財産ではありません。しかし、実質的に被相続人から財産を引き継いだことには変わりがないため、生命保険金と同じく相続財産とみなして相続税の対象とされています。

・亡くなる前3年以内に被相続人から贈与された財産

被相続人から相続や遺贈によって財産を引き継いだ人が、その被相続人が亡くなる前3年以内に贈与を受けた財産に対しては、相続税をかけることになっています。これは、相続税の対象となる財産が、生前に贈与されることによって、本来、相続税をかけるべき財産に相続税をかけられなくなることを防ぐためです。生前に贈与した財産であっても、亡くなる前の直近3年間分は相続と同じ扱いにして、相続税の課税漏れを防ごうというわけです。なお、贈与の際に贈与税を支払っている場合には、その贈与税は相続税から差し引かれます。また、2025年(令和7年)1月1日以降の贈与については、対象となる期間が亡くなる前7年以内に延長され、課税の範囲が広がることになっています。

・相続時精算課税制度の適用を受けた財産

「相続時精算課税制度」(P.○○参照)という贈与税の特例の適用を受けた財産は、その財産を贈与した人が亡くなった際に、その贈与をした人の相続財産として相続税の対象とすることになっています。この場合、「亡くなる前3年以内」というような期間の制限はなく、この制度を選択した年分以降に、その人から贈与を受けた財産についてはすべて相続税の対象となります。

(3)相続税がかからない財産

・墓地や墓石、仏壇など

相続税の計算においては、原則として、被相続人が亡くなったときに所有していたすべての財産が対象となります。しかし、一定の財産については相続税がかからないことになっています。まず、墓地や墓石、仏壇、仏具、位牌などに対しては、相続税がかかりません。これは、「こんなものまで税金をかけるのか」という国民感情に配慮したものです。なお、日常の礼拝に使わないような、例えばもっぱら観賞するための金の仏像などについては課税の対象となります。

・国や地方公共団体に寄附した財産

相続や遺贈によって引き継いだ財産を、相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、公益財団法人、公益社団法人、社会福祉法人、認定非営利活動法人(認定NPO法人)などの公益法人に寄附した場合は、一定の要件のもと、その寄附をした財産について相続税の対象としないことになっています。

・生命保険金のうち一定額

前述のとおり、生命保険金は相続財産とみなされ、相続税の対象となります。しかし、生命保険金には残された家族の生活保障という意味合いもあります。その点に配慮し、「500万円×法定相続人の数」までの金額については、相続税がかからないことになっています。なお、それを超える生命保険金については相続税の対象となります。

・死亡退職金のうち一定額

死亡退職金も相続財産とみなされ、相続税の対象となります。また、生命保険金と同じ趣旨で「500万円×法定相続人の数」までの金額については相続税がかかりません。なお、それを超える死亡退職金については相続税の対象となります。

(4)相続財産から控除できるもの

・控除できる債務

被相続人が亡くなったときに支払わなければならないことが確実であった債務は、相続税の計算において相続財産から控除することができます。例えば被相続人が亡くなったときに返済が残っているアパートローンや、亡くなった後に支払った入院代や老人ホームの施設利用代、亡くなるまでの期間の水道光熱費やクレジットカードの支払い、固定資産税や住民税などの公租公課で未払いのものなどが該当します。なお、マイホームの住宅ローンで、団体信用生命保険によって被相続人が亡くなった際に一括返済されるものは債務として控除することができません。また、他人の借金の保証人になっているような場合でも、実際に債務を肩代わりして支払い、もともとの債務者からも返済を受けられない状態でなければ確実な債務とはいえないため、原則として、控除することはできません。

・葬式費用

葬式費用は被相続人の債務ではないため、本来は債務控除の対象ではありません。しかし、日本の慣習として、人が亡くなった場合には、通常必要となる費用といえます。そのような性質の費用であることに配慮して、相続税の計算においても相続財産から控除できることになっています。ただし、控除できる葬式費用はお通夜と告別式の費用、それらに伴う飲食代などに限られ、初七日や四十九日などの法要にかかった費用は控除することができません。

また、火葬費用やお寺へのお布施、戒名代は控除できますが、香典のお返しのための費用、墓地や墓石、仏壇などを買うための費用は控除できません。これは、そもそも墓地や墓石、仏壇などは相続税の非課税財産であるためです。よって、その購入のための費用も債務控除の対象とされていません。

(5)財産の評価方法

相続税の対象となる主な財産の評価方法は以下のとおりです。

・宅地

宅地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」があります。大まかに言うと市街地の宅地は「路線価方式」、郊外地の宅地は「倍率方式」で評価します。路線価方式は、国税庁が道路ごとに定めた路線価(1平方メートル当たりの標準的な評価額)をもとに、その宅地の位置や形状などに応じた補正を行ったうえで、地積をかけて評価します。倍率方式は、その土地の固定資産税評価額に、地域ごとに、かつ、宅地、田、畑などの地目ごとに国税庁が定めた倍率をかけて評価します。

なお、被相続人が住んでいた自宅の敷地や、被相続人が事業を行っていた土地、貸し付けていた土地など、相続人が生活をしていくために最低限必要な宅地などに対しては、一定の要件のもと、評価額を50%または80%減額できる規定があります。これを「小規模宅地等の特例」といいます。

・建物

建物は固定資産税評価額により評価します。

・預貯金

預貯金は被相続人が亡くなった日の残高で評価します。ただし、定期性の預金については、前回の利払い日から亡くなった日までの利息(既経過利息)も加算します。

・有価証券

有価証券は、原則として被相続人が亡くなった日の時価で評価します。上場株式については、亡くなった日の終値のほか、亡くなった日を含む月の終値の月平均額、その前月の月平均額、その前々月の月平均額のうち、最も低い価格で評価します。

・自動車

自動車は、一般的には被相続人が亡くなった日の中古車市場での価格で評価します。

(6)相続税の基礎控除額

相続税には「基礎控除額」という非課税枠が設けられており、「②相続税がかかる財産」から「④相続財産から控除できるもの」を差し引いた残額が、この基礎控除額を超えない場合は相続税がかかりません。相続税の基礎控除額は以下の算式で計算されます。

(3,000万円 + 600万円×「法定相続人の数」 )

なお、ここでいう「法定相続人の数」は、民法で定める相続人の数をベースとしていますが、以下の点で違いがあります。なお、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を計算する際の「法定相続人の数」も同様です。

・養子縁組をして相続人を増やした場合でも、実子がいるときの養子の数は1人までに、実子がいないときの養子の数は2人までに制限されていること

・相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数とすること

(7)相続税の計算方法

相続税の計算においては、「③相続税がかからない財産」を除いた被相続人のすべての財産に対する相続税の総額をまず算出します。その上で、その相続税の総額を、それぞれの相続人が実際に引き継いだ財産の割合で按分することによって、各相続人に割り振ります。そして、その相続人の属性や個別の事情を考慮して税額の加算または軽減の規定が適用されます。ここで相続税の総額は、「②相続税がかかる財産」から「④相続財産から控除できるもの」を差し引いた残額が、「⑥相続税の基礎控除額」を超える場合に、その超える部分の金額を、実際に引き継いだ財産の割合ではなく、民法に定める法定相続人が、法定相続分に応じて相続したものとして計算します。これは、客観的な基準によって相続税の総額を計算することにより、相続放棄の有無や財産の分け方などによって意図的に相続税を引き下げることができないようにするためです。そして、法定相続分に応じて相続したものとした金額について、それぞれ相続税の税率をかけて相続税を計算します。計算された相続税を合計したものが相続税の総額となります。

(8)相続税の加算と軽減

それぞれの相続人に割り振られた税額について、その相続人の属性や個別の事情を考慮して加算や軽減の規定が適用され、各相続人の税額が確定します。例えば、被相続人の兄弟が財産を引き継いだ場合、その兄弟については、税額が20%増しになります。これを「相続税額の2割加算」といいます。これは、配偶者や子が相続した場合と比べ、相続財産を今後の生活の糧にしなければならない必要性が薄いと考えられるからです。逆に、被相続人の配偶者が財産を引き継いだ場合には、その必要性は高いと考えられます。そこで、配偶者が引き継いだ財産が1億6,000万円以下または法定相続分以下であれば、「配偶者控除」の規定により、相続税はかからないことになっています。そのほか、財産を引き継いだ相続人が未成年や障害者であれば、それぞれ「未成年者控除」や「障害者控除」といった規定により、税額が減額されることになります。

税金の種類~贈与税

【1】贈与税とは

贈与は、自分の財産を無償で与えるという意思を相手に示し、相手がこれを受け入れることにより成立します。贈与税とは、贈与による財産の無償移転に着目し、移転した「財産」に対してかかる税金です。ここで、財産を贈与した人のことを「贈与者」、財産を受け取った人のことを「受贈者(じゅぞうしゃ)」といいます。贈与税は相続税の課税漏れを補うための税金(補完税)とされています。相続税は、人が亡くなったときに所有している財産に対してかかる税金です。もし、贈与税がなかったとしたら、生前に財産をすべて贈与し、亡くなったときに所有している財産をなくしてしまえば相続税はかからないことになります。これでは相続税は意味のない税金になってしまいます。そのような課税逃れを防ぐために、生前に財産を贈与した場合は、贈与税が課税されることになっています。このため、贈与税の税率は、相続税よりも高くなっています。なお、「贈与税法」という法律はなく、贈与税は相続税とともに「相続税法」において規定されています。

【2】贈与税の納税義務者

贈与税の納税義務者は、贈与により財産を取得した個人です。なお、日本に住所のある人は、原則として日本国内の財産だけでなく、海外にある財産に対しても贈与税がかかります。また、日本人であっても、被相続人・相続人とも10年以上継続して海外に住所があるような人は、日本国内にある財産に対してのみ贈与税がかかります。

【3】贈与税の申告期限と納期限

贈与税の申告期限は、贈与を受けた翌年の3月15日です。また、納期限も同日です。申告書の提出や所得税の納付は毎年2月16日から行うことができます。なお、申告期限や納期限が土曜日、日曜日、祝日などの場合は、その翌日が期限となります。

【4】贈与税の仕組み

(1)贈与税の計算方法

贈与税の計算方法には、暦年課税方式と相続時精算課税方式の2つがあります。どちらの課税方式によるかは選択制となっており、相続時精算課税制度を選択しない限りは暦年課税方式で課税されます。また、相続時精算課税制度を選択した場合は、その対象とした贈与者からの贈与についてはすべて相続時精算課税方式により課税されることになり、暦年課税方式に戻ることはできません。

(2)暦年課税方式

暦年課税方式は、贈与税の原則的な計算方法です。「暦年(れきねん)」とは暦における1年のことです。暦年課税方式では、受贈者が1暦年中(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の評価額を合計し、その合計額から年間110万円を上限とした贈与税の基礎控除額を差し引いた上で、その残額に税率をかけて計算します。暦年課税方式では、贈与者にかかわらず、財産を受け取った受贈者ごとに税金を計算します。例えば、同じ年中に2人の贈与者から100万円ずつ贈与を受けた場合、贈与者ごとに各100万円に対して贈与税を計算するのではなく、受贈者が贈与を受けた財産の合計額である年間200万円に対して贈与税を計算します。贈与税の税率は、基礎控除額を差し引いた残額が多額になればなるほど、税率が高くなります。また、贈与税を計算する場合の財産の評価方法は、相続税を計算する場合の財産の評価方法と同じです。なお、1年間に贈与を受けた財産の評価額の合計が110万円以下の場合、贈与税はかかりません。税務署に贈与税の申告書を提出する必要もありません。

贈与税の計算方法(暦年課税方式)

{1暦年中に贈与を受けた財産の評価額の合計額-基礎控除額(110万円)}×税率=その年分の贈与税額

贈与税の速算表(暦年課税)

(3)相続時精算課税方式

相続時精算課税方式は、贈与税の計算方法の特例にあたり、相続税と贈与税を精算する相続時精算課税制度を前提とした課税方式です。暦年課税方式との選択制になっており、例えばある贈与者からの贈与については相続時精算課税制度を選択し、別の贈与者からの贈与については相続時精算課税制度を選択しない(つまり、暦年課税方式を選択する)、ということも可能です。そして、相続時精算課税制度を選択した場合には、選択した年分以降に、その対象とした贈与者から贈与を受けた財産のすべてが、その贈与者が亡くなった際に、その贈与者の相続財産として相続税の対象となります。相続時精算課税制度は、相続税の補完税としての贈与税の役割に従い、相続税と贈与税を一体として課税することにより、相続税の課税逃れをなくすことを目的としています。相続時精算課税方式では、1暦年中(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の評価額の合計から、累計2,500万円を上限とした特別控除額を差し引いた上で、その残額に20%の税率をかけて税金を計算します。そして、特別控除額の2,500万円は、贈与者ごとの非課税枠になっています。つまり、2人の贈与者からの贈与について相続時精算課税制度を選択した場合には、それぞれの贈与者からの贈与について2,500万円ずつ、計5,000万円の非課税枠があります。そして、それぞれの贈与者から贈与を受けるたびにその贈与者についての特別控除額の残りが減っていき、贈与の累計が2,500万円を超えた場合には、納税が発生することになります。このように、相続時精算課税方式では、贈与者ごとに、かつ財産を受け取った受贈者ごとに税金を計算します。なお、2025年(令和6年)1月1日以降の贈与については、暦年課税方式と同じく相続時精算課税方式でも年間110万円の非課税枠が設定されています。これにより、相続時精算課税制度を選択した場合でも、年間110万円以下の贈与については贈与税の申告は不要となり、かつ、贈与者が亡くなった際も、その贈与者の相続財産にはなりません。

贈与税の計算方法(相続時精算課税方式)

{1暦年中に贈与を受けた財産の評価額の合計額-特別控除額(累計2,500万円)}×税率(20%)=その年分の贈与税額

(※)2025年(令和6年)1月1日以降の贈与

{1暦年中に贈与を受けた財産の評価額の合計額-基礎控除額(110万円)-特別控除額(累計2,500万円)}×税率(20%)=その年分の贈与税額

(4)贈与税がかからない場合

・扶養義務者間で生活費または教育費に充てるために贈与された財産

親子間や兄弟間で、その生活費や教育費に充てるために贈与された財産については贈与税がかからないことになっています。ただし、通常必要と考えられる範囲を超えた贈与については贈与税の対象となります。

・贈与税の配偶者控除

相続税と同じく、贈与税にも配偶者控除の規定があります。結婚をしてから20年以上の夫婦の間で、マイホームまたはマイホームを購入するためのお金を贈与した場合には、基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円までの配偶者控除が認められています。なお、配偶者控除の適用を受けるためには、所定の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。

・住宅取得資金贈与の非課税

父母や祖父母から子や孫へマイホームの取得資金を贈与した場合には、基礎控除額110万円のほかに、住宅の性能に応じて500万円または1,000万円まで贈与税が非課税となる特例があります。この住宅取得資金贈与の特例の適用を受けるためには、一定の要件を満たした上で、所定の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。

・教育資金贈与の非課税

教育資金は、上記の扶養義務者間での生活費または教育費の非課税の規定により、必要な度に贈与を受ければ贈与税はかかりません。しかし、将来的に必要になるであろうそれらの資金を、まとめて父母や祖父母から贈与を受ける場合にも、贈与税が非課税となる特例があります。この教育資金贈与の特例は、原則として30歳未満の子や孫が、父母や祖父母から学校の授業料や塾代などの教育資金について贈与を受けた場合に、1,500万円(学校以外に支払われるものについては500万円)を上限に、贈与税を非課税とするものです。なお、この特例の適用を受けるためには、一定の要件を満たした上で、金融機関を経由して「教育資金非課税申告書」を提出することが必要です。

・結婚・子育て資金贈与の非課税

結婚や子育てのための資金は、上記の扶養義務者間での生活費または教育費の非課税の規定により、必要な度に贈与を受ければ贈与税はかかりません。しかし、将来的に必要になるであろうそれらの資金を、まとめて父母や祖父母から贈与を受ける場合にも、贈与税が非課税となる特例があります。この結婚・子育て資金贈与の特例は、原則として18歳以上50歳未満の子や孫が、父母や祖父母から結婚式の費用や不妊治療費などの結婚・子育て資金について贈与を受けた場合に、1,000万円(結婚関係の資金は300万円)を上限に、贈与税を非課税とするものです。なお、この特例の適用を受けるためには、一定の要件を満たした上で、金融機関を経由して「教育資金非課税申告書」を提出することが必要です。

第3章 いろいろな税②

税金の種類~消費税

【1】消費税とは

(1)消費税とは

消費税は、個人や法人が行うモノやサービスの「消費」に対してかかる税金です。原則として、事業者への代金の支払いを伴うモノやサービスの消費はすべて課税の対象となるため、対象範囲の広い税金といえます。それゆえに、私たちの生活に最も身近な税金といえるでしょう。私たちは、日常の生活のなかで消費をするたびに消費税を負担しています。しかし、消費税を納めているのは私たち消費者ではありません。消費税は、私たち消費者にモノやサービスを提供したお店や会社が納めています。つまり、「負担する人」と「納める人」が違うわけです。このように、「負担する人」と「納める人」が異なる税金を間接税といい、消費税はわが国の代表的な間接税です。例えば、私たちがレストランで1,100円のランチを食べたとしましょう。このとき、私たちは100円分の消費税を負担していることになります。しかし、実際に100円を税務署に納めるのはレストランです。レストランは、一旦、私たちから消費税を預かってくれているのです。しかし、レストランも材料の仕入れや光熱費の支払いの際に消費税を支払っているはずです。それら原材料費の合計が440円だとすると、そのうちの40円は仕入れ先がレストランから預かり、消費税として納めることになります。したがって、レストランが100円をそのまま納めてしまうと、結果的に40円が二重に納められることになってしまいます。そのような税金の累積を防ぐために、レストランは消費税を納める際に、自分が負担した40円を100円から差し引き、60円を納めればよいことになっています。このように、売上にかかる消費税(レストランの売上代金1,100円のうち100円)から仕入れにかかる消費税(レストランの仕入代金440円のうち40円)を差し引くことを「仕入税額控除」といいます。これにより、実質的には消費者が負担する税金を、生産者から消費者までにいたる取引に介在する事業者が、それぞれの時点で分担して納めることになります。消費税は「消費」に対してかかる税金であるため、所得税や法人税ほど景気に左右されないという特徴があります。そのため、日本のみならず、諸外国の税収においても中心的な税金となりつつあります。

【2】消費税の納税義務者

消費税の納税義務者は、日本において商品やサービスを提供する事業者です。これらの事業者は、個人・法人に関わりなく、原則として消費税の納税義務者となります。消費税の納税義務がある事業者のことを「課税事業者」と言います。ただし、個人であれば前々年、法人であれば前々事業年度(事業年度が1年未満の場合には1年換算)における消費税の対象となる売上が1,000万円以下である事業者は、消費税の納税義務が免除されることになっています。このような事業者のことを「免税事業者」と言います。また、開業1年目や2年目の事業者は、そもそも納税義務の免除判定の基準となる「前々年」や「前々事業年度」がないことになるため、それらの事業者についても、原則として消費税の納税義務はありません。

【3】消費税の申告期限と納期限

個人事業者の消費税の確定申告の申告期限は翌年の3月31日であり、納期限も同様です。また、法人の消費税の申告期限と納期限はともに事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内とされています。なお、申告期限や納期限が土曜日、日曜日、祝日などの場合は、その翌日が期限となります。

【4】消費税のしくみ

(1)消費税がかかる取引とかからない取引

消費税は対象範囲の広い税金であることはすでに述べたとおりです。消費税法においては、その範囲を次の4つの要件をいずれも満たす取引としています。

・国内において行うものであること

・事業者が事業として行うものであること

・対価を得て行うものであること

・商品の売り渡しや貸し付け、またはサービスの提供であること

例えば、サラリーマンの給与は「事業者が事業として行った」結果、対価を受け取ったものではありません。そもそもサラリーマンは「事業者」ではないからです。したがって、サラリーマンの給与には、消費税がかからないことになります。また、消費税は国内において消費されたものに対して課税されるものであるため、例えば私たちが外国で購入したものに対して、日本の消費税はかかりません。これらの取引は、そもそも消費税の世界とは無関係のものであるため、課税対象外の取引となります。一方、上記の4つの要件を満たし、消費税の対象となるものの、あえて消費税をかけないことにしている取引もあります。例えば土地の貸し付けです。商品の貸し付けは、本来、消費税の対象となる取引ですが、土地を貸しても土地を消費してしまうわけではありません。したがって、「消費」という概念にはなじまないものになるため、土地の貸し付けには消費税がかからないことになっています。また、「こんなものまで課税されたらたまらない」という取引もあります。例えば、病院での診療報酬や学校の授業料、住宅の家賃などです。これらの取引は、社会政策上の配慮から消費税をかけないことになっています。

(2)消費税の計算方法

・原則課税

消費税の計算方法は、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を差し引くことによって計算することを原則としています。この原則課税の計算方法が、消費税の基本的な考え方に即した計算方法といえるでしょう。原則課税では、一課税期間の売上にかかる消費税と仕入にかかる消費税をそれぞれ集計する必要があります。消費税は対象範囲の広い税金であるため、売上はもちろん、電気代や交通費、振込手数料などといった様々な経費の集計が必要となります。

・簡易課税

小規模な事業者にとって原則課税で消費税を計算することは、大きな事務負担になることが考えられます。そこで、個人であれば前々年、法人であれば前々事業年度における消費税の対象となる売上が5,000万円以下である事業者は、選択により簡易な方法で消費税を計算することが認められています。この簡易課税の計算方法では、仕入にかかる消費税について、原則課税のように経費を集計することに代え、業種ごとに定められた「みなし仕入率」により計算することになっています。

具体的には、業種を卸売業、小売業、飲食店業など6種類に分類し、それぞれに定められたみなし仕入率を、売上にかかる消費税にかけることによって仕入にかかる消費税を計算します。このようにして計算した仕入にかかる消費税を売上にかかる消費税から差し引くことにより、簡易的に消費税を計算することができます。簡易課税によることにより、様々な経費を集計する必要がなくなるわけです。なお、この簡易課税を選択する場合には、その課税期間が始まるまでに税務署に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。また、いったん簡易課税を選択すると、2年間は簡易課税を継続しなければならないことになっています。

(3)消費税の税率

消費税の税率は10%と8%の複数税率となっています。これは、2019年(令和元年)10月1日から消費税が8%から10%に引き上げられたのに合わせ、食料品など一部の生活必需品に対して軽減税率が導入されたためです。軽減税率が導入された理由は、消費税が増税されたことによる消費者の負担を抑えるためです。消費税は食料品などの生活必需品にもかかるため、所得が高い人より所得が低い人の方が、生活をする中での消費税の負担割合が高くなるという「逆進性の問題」があると言われています。そこで、①酒類・外食を除く飲食料品と、②週2回以上発行される新聞(定期購読するもの)に対しては消費税を据え置くことにより、その逆進性を緩和しようとしたわけです。軽減税率の導入により、事業者はどちらの税率を適用するべきかを判断するとともに、税率ごとに消費税を計算することも必要になっています。なお、消費税10%の内訳は、国税分が7.8%で残りの2.2%は地方消費税、8%の内訳は国税分が6.24%で残りの1.76%は地方消費税です。地方消費税は最終的に各都道府県に財源として配分されることになります。

(4)インボイス制度とは

・なぜインボイス制度が必要なのか

「インボイス」とは、大まかに言えば請求書のことです。いわゆる請求書ではありますが、適用されている消費税率や税率ごとの取引金額など一定の事項が記載された請求書を、特に「インボイス(適格請求書)」と呼んでいます。2019年(令和元年)10月1日から軽減税率が導入され、日本の消費税は複数税率となりました。消費税が単一税率であれば、請求書や領収書に適用税率の記載がなくとも、買い手の事業者は自分が支払った消費税がいくらなのかを計算することができます。しかし、複数税率になると、それらに適用税率の記載がなければ、買い手の事業者は自分が支払った消費税がいくらなのかわかりません。その結果、正しく仕入税額控除を計算することができないことになります。

そこで、売り手の事業者において適用税率や税率ごとの取引金額など一定の事項が記載された請求書(インボイス)を発行することで、買い手の事業者が自分の支払った消費税を正しく把握できるようにし、それを買い手が保存することを、買い手における仕入税額控除の要件としました。これを適格請求書等保存方式(インボイス制度)と言います。

・インボイス制度になって変わること

インボイス制度の下では、事業者は、インボイスの発行事業者として登録しなければインボイスを発行することができません。インボイスには、発行事業者の登録番号を記載しなければならないことになっているためです。登録番号の記載のないものはインボイスとして認められません。したがって、買い手の事業者が仕入税額控除をするためには、売り手の事業者がインボイスの発行事業者であることが必要となります。

このような事情から、もし、売り手の事業者が、買い手の事業者から発行事業者となることを求められた場合、ビジネスにおける力関係によっては、買い手の事業者はインボイスの発行事業者としての登録を余儀なくされるでしょう。ここで問題となるのは、インボイスの発行事業者は、すべて消費税の課税事業者として取り扱われるという点です。もともと免税事業者であった事業者も、インボイスの発行事業者になることにより、消費税を納税しなければならなくなるということです。これは、免税事業者にとって実質的な増税とも言えます。できることなら、免税事業者のままであることを望むでしょう。かといって、発行事業者になることを断れば、取引そのものを打ち切られることも考えられます。このように、インボイス制度の導入は、ビジネスにおいても大きな変化を伴うことになります。

そこで、その移行には経過措置が設けられており、インボイスの発行事業者となっていない免税事業者からの仕入についても、2026年(令和8年)9月30日までは仕入にかかる消費税の80%相当額、2029年(令和11年)9月30日までは仕入にかかる消費税の50%相当額を仕入税額控除できることになっています。また、免税事業者がインボイスの発行事業者になった場合には、その事業者は、個人事業者については2026年(令和8年)分まで、法人事業者については2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間までは、簡易的に売上にかかる消費税の20%を納税額としてもよいという特例が設けられています。

いずれにせよ、政策的な見地から今後も免税事業者の範囲は制限され、課税事業者が増加していくでしょう。それに伴い消費税の税収も増加することが予想されます。

税金の種類~法人税

【1】法人税とは

法人とは、法律によって人(「自然人」といいます)と同じように権利や義務が認められた組織です。法人税は、その法人の1事業年度(通常1年間)の「所得」に対してかかる税金です。「所得」とは1事業年度の収益から費用を差し引いた、いわゆる「儲け」のことです。その意味で、法人税と所得税は、同じ収得税(広い意味での所得税)の一種です。個人の所得に対してかかる税金が所得税であり、法人の所得に対してかかる税金が法人税です。法人を法律上の「人」と捉えれば、法人税はいわば「法人版の所得税」と言えます。ただし、所得税と法人税では、計算方法や課税の対象となる範囲が異なります。所得税では所得を10種類に区分し、その性質に応じて計算方法や課税の対象となる範囲を定めています。しかし、法人税では所得を区分せず、すべてを合算して計算します。これは、株式会社などの営利法人は、事業活動によって利益をあげることのみを目的とした存在であり、個人と違い事業活動以外の側面を持たないためです。したがって、わざわざ所得を区分して計算する必要はありません。また、所得税の税率は、所得が高ければ高いほど、その高い部分の税率が高くなる「超過累進税率」となっています。しかし、法人税の税率は所得の大きさにかかわらず一定です。

【2】法人税の納税義務者

法人税の納税義務者は、日本国内に本店や主となる事務所がある法人です。このような法人を「内国(ないこく)法人」といいます。一口に内国法人と言っても、一般的な株式会社から地方公共団体のような公共法人、学校のような公益法人、協同組合などがあります。そこで、法人税では内国法人を5つに分類し、その分類によって納税義務の有無や課税の対象となる範囲、税率について異なる取り扱いをしています。例えば、一般的な株式会社などは「普通法人」に分類され、すべての所得が課税の対象とされています。これに対し、公益法人等や人格のない社団等については収益事業から生じた所得のみが課税の対象となっています。そして、公共法人は、その性質から法人税が課されないことになっています。そのほか、内国法人以外の法人を「外国法人」といいますが、外国法人は日本国内で稼いだ所得のみが課税の対象とされています。

【3】法人税の申告期限と納期限

法人税の申告期限と納期限はともに事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内とされています。なお、申告期限や納期限が土曜日、日曜日、祝日などの場合は、その翌日が期限となります。

【4】法人税の仕組み

(1)所得と利益の違い

法人税は、その法人の所得に税率をかけて計算します。混同しやすいですが、ここでいう「所得」は財務会計上のいわゆる「利益」とは違います。法人は、その事業活動を正確に開示することを目的として、財務会計を行います。具体的には、法人のある時点の財務状況を表した貸借対照表や、一定期間の経営成績を表した損益計算書などの財務諸表を作成します。貸借対照表には資産・負債・資本が表され、損益計算書には収益から費用を差し引くことにより「利益」が表されます。法人税を計算する場合の「所得」は、この財務会計上の「利益」に近いものですが、全く同じではありません。なぜなら、財務会計が、その法人の営業活動を正確に開示することを目的として行われるのに対し、法人税の「所得」は公平な課税を行うために計算されるものであるからです。「益金」から「損金」を差し引くことにより計算されますが、益金と収益は必ずしも同じではなく、損金と費用も必ずしも同じではないということです。したがって、「所得」と「利益」にはズレが生じることになります。そこで、法人税を計算する場合には、財務会計上の利益を出発点とし、収益であるけれども益金ではないものや、費用ではあるものの損金にならないものを調整することにより、法人税上の「所得」を導き出すことになっています。

(2)法人税の税率

法人税を計算する場合の税率は、法人の分類に応じ、次のように定められています。なお、普通法人の税率は原則として23.2%ですが、事業年度末の資本金が1億円以下で、かつ、資本金が5億円以上の法人の100%子会社などでない法人については、所得のうち年800万円以下の部分に対する税率が軽減されています。

さらに、2025年(令和7年)3月31日までに始まる事業年度については、租税特別措置法により、その税率は一定の条件を満たす中小企業において、所得のうち年800万円以下の部分に対する税率が15%に軽減されています。

税金の種類~個人住民税

【1】個人住民税とは

個人住民税は、私たち個人の1年間(1月1日から12月31日まで)の「所得」に対してかかる税金です。その意味において、個人住民税と所得税は、同じ収得税(広い意味での所得税)の一種です。両者の大きな違いは、国に対して払う税金(国税)なのか地方公共団体に対して払う税金(地方税)なのか、という点です。個人の所得に対してかかる国税が所得税であり、地方税が個人住民税というわけです。個人住民税は、さらに市区町村民税と道府県民税に分かれます。所得税と個人住民税は、その計算方法や課税の対象となる範囲は基本的に同じですが、所得控除の金額や税率に違いがあります。なお、個人住民税には、このように所得に対してかかる「所得割」のほかに、所得にかかわりなく一定額が課税される「均等割」があります。

【2】個人住民税の納税義務者

個人住民税の納税義務者は、その年の1月1日において市区町村(都道府県)に住所がある個人です。住所がない人でも、市区町村(都道府県)に家や事務所を持っていれば均等割が課税されます。また、生活保護を受けている人や、障害者や寡婦などで前年の合計所得金額が135万円以下(収入が給与のみの場合は給与収入が204万4千円未満)の人などは、個人住民税が非課税となります。

【3】個人住民税の申告期限と納期限

(1)申告期限

個人住民税の申告期限は翌年の3月15日です。ただし、所得税の確定申告書を提出した人は、住民税の申告書を提出したものとみなされるため、別途、住民税の申告書を提出する必要はありません。なお、一般のサラリーマン(給与所得者)は勤め先の会社や事業者から、「給与支払報告書」が住所地の市区町村に提出されるため、個人住民税の申告をしなくてもよいことになっています。また、公的年金等以外に所得のない人も、日本年金機構などから「公的年金等支払報告書」が住所地の市区町村に提出されるため、同様に申告をしなくてもよいことになっています。なお、申告書の提出先はその年の1月1日における住所地の市区町村です。

(2)納期限

個人住民税の納付の方法には、サラリーマン(給与所得者)や年金所得者に対する特別徴収と、それ以外の納税者に対する普通徴収があります。

・普通徴収

市区町村から送付されてきた納税通知書に基づいて、市区町村民税と都道府県民税の合計額を4期に分けて納付します。納期限は6月、8月、10月、翌年の1月中とされ、市区町村ごとに条例で定められています。

・特別徴収

サラリーマン(給与所得者)や年金所得者に対しては、給料や年金から個人住民税の天引きが行われます。これを「特別徴収」といいます。サラリーマン(給与所得者)に対しては、その年の6月から翌年の5月まで、毎月の給料を受け取る際に、前年分の個人住民税が特別徴収されます。また、年金所得者に対しては、偶数月の年金の受け取りの際に、前年分の個人住民税が特別徴収されます。なお、納付先はその年の1月1日における住所地の市区町村です。年の途中で引っ越しをして住所地が変わった場合でも、納付先の市区町村は1年間変わりません。

【4】個人住民税のしくみ

(1)均等割

均等割は市区町村民税として3,000円、都道府県民税として1,000円を標準とし、市区町村や都道府県ごとに条例で定められています。

(2)所得割の計算方法

所得割の計算方法は、基本的に所得税と同じです。ただし、所得控除の金額や税率などについては、以下のような違いがあります。

(3)所得控除

・基礎控除

所得税の基礎控除は原則として48万円ですが、個人住民税の基礎控除は原則として43万円です。所得税と同じく、納税者の合計所得金額が2,400万円を超える場合は控除額が制限され、2,500万円を超えると控除されないことになっていますが、制限される控除額には差があります。

・配偶者控除

所得税の配偶者控除は原則として38万円ですが、個人住民税の配偶者控除は原則として33万円です。配偶者の合計所得金額が48万円(収入が給与のみの場合は給与収入が103万円)を超える場合は適用がない点や、納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は控除額が制限され、1,000万円を超えると控除されない点は所得税と同じですが、控除額には差があります。

・配偶者特別控除

所得税の配偶者特別控除は最大で38万円ですが、個人住民税の配偶者特別控除は最大で33万円です。配偶者の合計所得金額が133万円以下(収入が給与のみの場合は給与収入が201万5千円未満)であることが条件となっている点や、納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は控除額が制限され、1,000万円を超えると控除されない点は所得税と同じですが、控除額に差がある場合があります。

・扶養控除

所得税の扶養控除は原則として38万円ですが、個人住民税の扶養控除は原則として33万円です。扶養親族の年齢が19歳以上23歳未満である場合には、控除額が12万円プラスされ、一人当たり45万円(所得税は63万円)の控除を受けることができます。

・障害者控除

所得税の障害者控除は原則として障害者一人当たり27万円ですが、個人住民税の障害者控除は原則として26万円です。特別障害者に該当する場合には、控除額が30万円(所得税は40万円)となります。

・寡婦控除

所得税の寡婦控除は27万円ですが、個人住民税の寡婦控除は26万円です。

・ひとり親控除

所得税のひとり親控除は35万円ですが、個人住民税のひとり親控除は30万円です。

・勤労学生控除

所得税の勤労学生控除は27万円ですが、個人住民税の勤労学生控除は26万円です。

・生命保険料控除

所得税の生命保険料控除は最大で12万円ですが、個人住民税の生命保険料控除は最大で7万円です。新契約のみに加入している場合、旧契約のみに加入している場合、新契約と旧契約の両方について加入している場合の控除額の計算方法にも差があり、所得税に比べ、全体的に控除額は少なくなります。

・地震保険料控除

所得税の地震保険料控除は最大で5万円ですが、個人住民税の地震保険料控除は最大で2万5千円です。長期損害保険契約の保険料も控除の対象となりますが、所得税に比べ、全体的に控除額は少なくなります。

(4)税額控除

・住宅ローン控除

個人が所得税の住宅ローン控除の適用を受けた際に、その控除額が所得税よりも多いときは、控除額が余ってしまうことになります。そのような場合には、その控除額を、その個人の住民税から差し引くことになっています。ただし、差し引くことができる控除額は、最大で97,500円です。

・その他の税額控除

個人住民税においても、所得税と同じく「配当控除」や「寄附金税額控除」などの税額控除の規定があります。特に、「寄附金税額控除」のうちの特別控除額は「ふるさと納税」として私たちの生活にもなじみが深いものになっています(ふるさと納税については「(5)ふるさと納税のしくみ」を参照)。

(5)所得割の税率

所得割の税率は、市区町村民税は6%、道府県民税は4%を標準とし、市区町村や都道府県ごとに条例で定められています。なお、政令指定都市については、市区町村民税は8%、道府県民税は2%とされています。

税金の種類~ふるさと納税

(1)ふるさと納税とは

個人住民税はその年の1月1日における住所地の市区町村に納税されます。したがって、地方で育ち、就職のために都市部に住所地を移した人の個人住民税は、生まれ育った地方公共団体ではなく、都市部の地方公共団体に納税されることになります。しかし、その人は、社会人になるまでの行政サービスは地方で受けています。そうすると、生まれ育った地方公共団体には、その人が社会人になるまでの行政サービスに対する税収が入らないことになります。このような状態を解消するために、「ふるさと納税」の制度が設けられています。

(2)ふるさと納税の計算方法

ふるさと納税は、地方公共団体に対する寄附の制度です。そもそも、地方公共団体に対して2,000円を超える寄附をした場合は、所得税の「寄附金控除」や個人住民税の「寄附金税額控除」の適用を受けることができます。所得税では2,000円を超える部分の金額が所得控除され、個人住民税では2,000円を超える部分の金額の10%が税額控除されます。しかし、従来の制度は、2,000円を超える部分の全額が控除されるものではありませんでした。そこで、個人住民税の「寄附金税額控除」に特例控除額を設けることにより、2,000円を超える部分の金額も控除されるようにしたのが「ふるさと納税」です。したがって、ふるさと納税は、税金の制度としては「納税」ではなく「寄附金控除」といえます。ふるさと納税による寄附金控除は、①所得税の寄附金控除、②個人住民税の寄附金税額控除(基本控除額)、③個人住民税の寄附金税額控除(特例控除額)の3つに区分されます。①と②で控除しきれなかった部分を③で控除することにより、一定の限度額までは、2,000円を超える寄附金の全額が控除できるようになっています。ただし、全額が控除できる寄附金の額については、その人の所得水準や家族構成などによって上限があります。したがって、2,000円を超える全額を控除したい場合は、事前に確認しておくことが必要になります。

(3)ふるさと納税の手続き

ふるさと納税をするためには、まず、どの地方公共団体に寄附するかを決めなければなりません。「ふるさと納税」という名称になっていますが、必ずしも生まれ育った地方公共団体に寄附しなければならないわけではありません。全国どの地方公共団体に対しても寄附をすることができ、複数の地方公共団体に寄附をすることも可能です。

寄附先によっては、地元の特産品などの返礼品を準備している地方公共団体もあり、寄附先を決める場合のインセンティブになっています。ふるさと納税をする場合には、原則として寄附をした年の翌年に所得税の確定申告をする必要があります。なお、5以下の地方公共団体への寄附であれば、「ふるさと納税ワンストップ特例」を利用することにより、確定申告なしで適用を受けることができます。この場合は寄附の都度、「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」を寄附先に提出する必要があります。

税金の種類~固定資産税

(1)固定資産税とは

固定資産税は、個人や法人による固定資産の「所有」に対して課される税金です。ここでいう固定資産とは「土地」・「家屋」・「償却資産」を総称したものです。また、「償却資産」とは、「土地」・「家屋」以外の固定資産で、事業用のものを指します。例えば、駐車場の賃貸をしている場合の駐車場のアスファルト舗装や、商品を製造するための機械などがこれに該当します。自動車は、別途自動車税が課税されるため、固定資産税はかからないことになっています。固定資産税は、その固定資産が所在する市区町村が課税する市区町村税です。固定資産の所有者は、その固定資産が所在する市区町村から、道路の整備や火事の際の消防、災害からの復旧など様々な行政サービスを受けています。そこで、それらの行政サービスに応じた負担をするため、固定資産の所有者は、その固定資産が所在する市区町村に対して固定資産税を払うことになっています。また、固定資産税は、国や地方公共団体が税額を計算し、納税者に通知する賦課課税方式の代表的な税金でもあります。原則として、固定資産を所有するすべての個人や法人にかかるため、私たちの生活にも身近な税金といえるでしょう。

なお、東京都の23区内に所在する固定資産については、23区ではなく東京都が都税として固定資産税を課すことになっています。

(2)固定資産税の納税義務者

固定資産税の納税義務者は、その年の1月1日における固定資産の所有者です。なお、土地や家屋については、登記簿に所有者として登記されている個人や法人のほか、登記簿に登記がされていないものの所有者に対しても課税されます。

(3)固定資産税の申告期限と納期限

①申告期限

固定資産税は賦課課税方式の税金であるため、固定資産税の申告書の提出は不要です。ただし、償却資産については登記簿などからその所有者や資産内容を把握することができないため、納税者自身が、その年の1月1日に所有している償却資産を1月31日までに市区町村に申告しなければならないことになっています。

②納期限

市区町村から送付されてきた納税通知書に基づいて、4期に分けて納付します。納期限は4月、7月、12月、翌年の2月中とされ、市区町村ごとに条例で定められています。なお、都市計画区域内にある土地または家屋について課される都市計画税は、固定資産税と同時に納付することになっています。

(4)固定資産税の仕組み

①固定資産税の計算方法

固定資産税は「土地」・「家屋」・「償却資産」の評価額に税率をかけて計算します。土地及び家屋は、総務大臣が定める評価基準に基づいて、市区町村が評価します。評価額は原則として3年に1度評価替えが行われ、評価替えの年度以外の年度については原則として評価額は据え置かれます。また、償却資産は所有者からの申告に基づき、毎年、市区町村が評価します。マイホームについては土地・建物とも特例が設けられており、土地については評価額が6分の1または3分の1に軽減され、家屋についても新築後一定の期間は固定資産税を2分の1とする特例があります。また、前年度と比較して負担が増えすぎないよう、一定の調整をする措置もとられています。なお、一つの市区町村に所有する固定資産の評価額の合計が、土地については30万円、家屋については20万円、償却資産については150万円未満の場合は固定資産税をかけないことになっています。

②固定資産税の税率

固定資産税の税率は1.4%を標準とし、市区町村ごとに条例で定められています。なお、固定資産税と同時に納付することになっている都市計画税の税率は0.3%以下とされ、市区町村ごとに条例で定められています。

第4章 年金

【1】年金について

年金とは、老後や健康に問題が生じたときに、安心して暮らせるようお金を受け取れる仕組みです。年金には「公的年金」と「私的年金」の2種類があります。

■公的年金の仕組み

公的年金制度は、社会保障制度の1つであり、日本に住む20歳~60歳までの働ける世代の人(現役世代)全員が加入し、支払った保険料を高齢者や本当に保障が必要な人たちの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方(賦課方式)を基本として運営されています。

日本の公的年金制度は、「国民皆年金」となっており、20歳以上の全員が加入する国民年金(基礎年金)と、会社員や公務員が加入する厚生年金などによる「2階建て」の構造になっています。

自営業者など第一号被保険者は、毎月定額の保険料を自分で納め、会社員や公務員などの第二号被保険者は、毎月定率の保険料を会社と折半で負担し、保険料は給料から天引きされます。専業主婦など扶養されている第三号被保険者は、厚生年金制度などで保険料を負担しているため、個人としては保険料を負担する必要はありません。老後には、全ての人が老齢基礎年金を、厚生年金などに加入していた人は、加えて老齢厚生年金などを受け取ることができます。

公的年金制度は、基本的に日本に住む20歳から60歳の全員が保険料を納め、その保険料を高齢者や障害者などへ年金として給付する仕組みとなっています。

(1)第1号被保険者

自営業者・学生・フリーター・無職等とそれらの配偶者 → 国民年金のみに加入

(2)第2号被保険者

会社員・公務員・私立の教職員 → 国民年金と厚生年金に加入

(3)第3号被保険者

第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者 → 国民年金のみに加入

■公的年金が必要な理由

人生には、加齢、障害、死亡等、様々な要因で自立した生活が難しくなってしまうリスクがあります。これらはいつ起こるか予測が難しいため、個人のみで備えるには限界があります。そのため、社会全体で備える制度として公的年金があります。

もし、仮に年金制度がない場合、自分自身や家族の加齢による介護、病気やケガが原因による障害や死亡といった様々なリスクに対して、親の老後を仕送りで支えたり、自分だけで必要なお金を用意しなければなりません。しかし、自分が何歳まで生きるのか、長い生涯で経済の状況や社会の在り方がどう変化していくのかは予測できません。

個人や家族だけで対応しようとしても、必要な額の貯蓄ができなかったり、生活を切り詰めすぎてしまったり、場合によっては家族や子どもに頼ることができなくなったりすることも起こるでしょう。これらに対しては、社会全体で世代を超えて支え合うことで、その時々の経済や社会の状況に応じた給付を実現することが可能です。

このように、公的年金制度は、予測できない将来へ備えるために、社会全体で支える仕組みとして必要なものです。

■国民年金基金

国民年金に上乗せして厚生年金に加入している会社員等の給与所得者と、国民年金だけに加入している自営業者などの第1号被保険者とでは、将来受け取る年金額に大きな差が生じます。この年金額の差を解消するため、自分で入る公的な個人年金として国民年金基金制度があり、国民年金の第1号被保険者の老後の所得保障の役割を担うものとなっています。

掛金は、全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税が軽減されます。

■私的年金

私的年金とは、公的年金の上乗せの給付を保障する制度です。1階・2階の公的年金にプラスする3階部分の年金と言われています。老後により豊かな生活を送るため重要な役割を果たしています。国民年金基金、確定拠出年金、確定給付企業年金、民間の保険会社などが販売している個人年金保険を指します。企業や個人は、多様な制度の中から任意で自分のニーズに合ったものを選択することができます。

主な私的年金種類

確定給付企業年金(DB)

企業が従業員と給付の内容を約束し、老後に従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる確定給付型の企業年金制度である。企業等が厚生労働大臣の認可を受けて法人(企業年金基金)を設立する「基金型」と、労使合意の年金規約を企業等が作成し、厚生労働大臣の承認を受けて実施する「規約型」がある。基金型は企業年金基金が、規約型は企業等が、年金資産を管理・運用して年金給付を行う。

企業型確定拠出年金(DC)

企業が拠出した掛金は個人ごとに明確に区分され、掛金と個人の運用指図による運用収益との合計額が給付額となる企業年金制度である。従業員のために企業等が規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受けて実施する。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人が自身で決めた額の掛金を積み立てて運用し、60歳以降に受け取る年金。公的年金に加えてプラスできるもう一つの年金で、掛金が全額所得控除となる大きな税制優遇が特徴。

厚生年金基金

企業が従業員と給付の内容を約束し、老後に従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる確定給付型の企業年金制度の一つ。企業や業界団体等が厚生労働大臣の認可を受けて設立する法人である厚生年金基金が、年金資産を管理・運用して年金給付を行う。国の年金給付のうち老齢厚生年金の一部を代行するとともに、厚生年金基金独自の上乗せを行うもの。

個人年金保険

老後の必要な生活資金に対し、公的年金に上乗せ補完する目的で、自身で民間の保険会社等と契約し準備する保険。

【2】年金の受給の種類

給付される年金は、受給理由により次の3つの種類があります。それぞれ給付されるためには、保険料納付要件や加入期間などの要件があります。

• 老齢年金

• 障害年金

• 遺族年金

■老齢年金

原則として65歳以上になることで受給できる年金です。国民年金被保険者が受け取る「老齢基礎年金」、厚生年金被保険者が受け取る「老齢厚生年金」があります。

老齢基礎年金の年金額は、20歳から60歳までの40年間保険料を納めると、満額となります。老齢基礎年金を受給するためには、保険料を納めた期間などによって計算される受給資格期間が10年以上必要となります。以前は納付期間が25年以上必要でしたが、2017年8月以降は10年以上の納付期間があれば受給可能となりました。

老齢厚生年金は、老齢基礎年金を受給できる方で、厚生年金に加入したことがある方が対象となります。老齢厚生年金の年金額は、厚生年金の加入期間と加入中の平均給与に比例した額となります。

【老齢年金の受給開始年齢】

老齢年金の受給開始は原則65歳となっていますが、男性は昭和36年4月1日、女性は昭和41年4月1日以前の生まれの方は、生年月日により特別支給の老齢厚生年金を受給できます。また、年金は標準報酬月額から算出される報酬比例部分と、加入期間から算出される定額部分に分かれており、それぞれ受給開始年齢が異なります。

【繰り上げ受給と繰り下げ受給】

老齢年金は原則として65歳から受給開始する年金ですが、受給開始時期を60歳~75歳に変更することも可能です。

受給開始を早める「繰り上げ受給」を利用する場合、1か月あたり0.4%受給額が減額されます。上限の60か月繰り上げると、トータル24%受給額が減額します。原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り上げ請求をする必要があります。

※昭和37年4月1日以前生まれの方は、1か月あたり0.5%(最大30%)減額

65歳より前に仕事を辞めた場合、年金が支払われるまで貯蓄を切り崩す生活となり、貯蓄が十分でない場合は、生活費が足りなくなることも予想されます。繰り上げ受給を選択した場合は60歳から受給でき、年金で医療費や生活費の一部を賄うことができるでしょう。

一方デメリットとして、障害の程度が重くなった場合に、障害基礎年金を受け取れなくなったり寡婦年金も受け取れなくなります。また、65歳になるまで遺族厚生年金と同時に受給することはできません。国民年金に任意加入することや、保険料を追納することもできなくなります。一度繰り上げ受給の申請をすると、請求を取り下げることはできませんので、慎重に検討が必要です。

逆に受給開始を遅らせる「繰り下げ受給」を利用すると、1ヶ月あたり0.7%受給額が増額されます。上限の120か月繰り下げると、トータル84%受給額が増加します。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができます。ただし、遺族年金や障害年金を受け取る権利がある場合は、老齢基礎年金の繰り下げができません。繰り下げ受給は、66歳から75歳(昭和27年4月1日以前生まれの方は70歳)になるまでの間に請求することができ、その増額率は生涯変わりません。また、増額された年金は、繰り下げ請求した月の翌月分から受け取ることができます。繰り下げの効果は生涯続くため、長生きするほど増額の効果が大きくなります。繰り下げている期間は年金が受け取れないため、年金がなくても生活が成り立つように貯蓄などで準備をするか、働くなどして収入を得る必要があります。もしせっかく繰り下げ受給したのに早く亡くなってしまうと、受取総額が減ってしまいます。健康状況なども考慮し、検討する必要があります。また年金受給時には、所得税や住民税、社会保険料がかかります。受け取る額が増えると支払う税金も増額しますので、手取りの額が思っていたより少ないとならないように、予め試算し検討することが大切です。加給年金額と振替加算額は繰り下げの増額対象にならず、繰り下げ中は受け取れないことも注意点です。

自分の寿命が何歳なのかは誰にもわからないことです。年金の繰り上げ受給、繰り下げ受給に関しては、受給できる金額と期間を考えた上で、十分な検討が必要です。

【加給年金】

加給年金とは、厚生年金の加入期間が20年以上ある人が65歳になり厚生年金を受け取る際、その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者か18歳未満の子供がいる場合に受け取れる年金です。配偶者がまだ自身の年金受取前だったり、子供の教育費がかかる状態で収入が減ってしまうと、生活に困ってしまいます。そんな状況を避けるために上乗せ支給される制度です。年金の「扶養手当」「家族手当」のようなものと考えると、わかりやすいです。配偶者や子がその人に生計を維持されていることを示す必要があるため、前年の収入が850万円未満、または所得が655万5,000円未満である必要があります。厚生年金の制度であるため、国民年金のみの自営業の方などは対象になりません。

【振替加算】

加給年金の対象者である配偶者が65歳になると、加給年金は打ち切られますが、昭和30年4月2日~昭和41年4月1日生まれの方は、ご本人の老齢基礎年金の額に加算がつきます。ご本人が老齢基礎年金のほかに、老齢厚生年金や退職共済年金を受給できる場合で、厚生年金保険などの加入期間が20年以上あると、振替加算は支給されません。

■障害年金

障害年金は、病気や怪我によって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。国民年金加入中に障害の原因となった病気や怪我の初診日があり、障害等級が1級または2級の場合は「障害基礎年金」が支給されます。生まれつきの障害や20歳前に障害を負った場合は、20歳から障害基礎年金が支給されます。厚生年金加入中に初診日があり、障害等級が1級、2級または3級の場合には「障害厚生年金」が支給されます。障害等級が1級、2級の場合には障害基礎年金に上乗せで障害厚生年金が支給されることになります。障害の状態が3級の場合は、障害厚生年金のみ支給されます。初診日から5年以内に病気や怪我が治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときには障害手当金(一時金)が支給されます。障害基礎年金・障害厚生年金・障害手当金を受けるためには、次の保険料納付要件を満たす必要があります。

(1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること

(2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

法令により、障害の程度(障害等級1~3級)が定められています。

※身体障害者手帳の等級とは異なります。

1級

身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

他人の介助が必要で、身の回りのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動が制限されている方や、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方。

2級

身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

他人の助けを借りる必要はないものの、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害。

3級

労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

日常生活にはほとんど支障はないが、労働に制限がある方。

障害手当金

傷病が治ったもので、労働が制限を受けるか、労働に制限を加えることを必要とする程度のもの

障害年金の金額は年度(4月から翌年3月)ごとに物価や賃金などの変動に応じて変わります。支給される障害年金の額は、加入していた年金や障害の程度、また、配偶者の有無や子どもの数などによって異なります。18歳到達年度末(高校卒業時)までの子どもがいる場合は子の加算が付きます。子どもが障害等級1級または2級であるときは、子の加算は18歳年度末から20歳まで延長して支給されます。障害年金は非課税のため、老齢年金のように所得税や住民税を控除されることはありません。

障害厚生年金の年金額は、厚生年金加入期間中の標準報酬額と加入期間で算出されます。1級は報酬比例の年金額の1.25倍、2級は報酬比例の年金額が支給されます。生計維持関係にある65歳未満の配偶者(事実婚を含む)がいるときは、配偶者が一定の年収基準(前年の年収が850万円未満など)を満たしている場合、配偶者加給年金が加算されます。配偶者自身が20年以上の加入期間の老齢厚生年金・退職共済年金または障害基礎年金・障害厚生年金を受給しているときは受け取ることができません。

障害年金の支給が開始されて以降、障害の状態が変わったときには、その障害の程度に合わせて年金額が変更されます。

障害基礎年金を受けている方が、異なる年金を受けられる状態になったときは、下記の図のいずれかを選択することになります。

■遺族年金

遺族年金は、国民年金や厚生年金の被保険者、あるいは被保険者であった人が亡くなった場合に、その人に生計を維持されていた遺族に支払われます。残された家族にとっては、生活費を確保するための大切な保障です。遺族年金にはいくつかの種類があり、亡くなられた方や年金を受け取る方の条件・状況などによって受け取れる年金の種類が異なります。遺族年金を大きく分けると以下の2種類になります。

(1)遺族基礎年金

(2)遺族厚生年金

(1)遺族基礎年金

遺族基礎年金は、故人が国民年金加入者であった場合、要件を満たせば受給できるものです。故人に生計を維持されていた「子のある配偶者」や「子」に対して支払われます。

「子」の条件は、18歳に達した年度の3月31日を迎えていない子または1級または2級の障害状態にある20歳未満の子で、現に婚姻していない者をいいます。生計が維持されていたと認められるためには、原則として遺族の前年の収入が850万円未満であること、または所得が655万5000円未満であることが要件となります。

遺族基礎年金を受給するには、故人が以下4つのうちいずれかに該当する必要があります。

1.国民年金に加入していること

2. 国民年金に加入していた人で日本国内に住所があり年齢が60歳以上65歳未満

3.老齢基礎年金を受給中

4.老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている

5.2の要件を満たすには、亡くなった日の2ヶ月前までの被保険者期間の中で、保険料納付期間と保険料免除期間の合計が、3分の2以上であること、もしくは、亡くなった日の2ヶ月前までの1年間に保険料支払いを滞納していないこと、が条件となります。

令和4年度時点の年金額は、下記のとおりです。

・子のある配偶者が受け取るとき

老齢基礎年金満額(777,800 円)+子の加算額

・子が受け取るとき(次の金額を子の数で割った額が、1 人あたりの額)

老齢基礎年金満額(777,800 円)+2 人目以降の子の加算額

1人目及び 2 人目の子の加算額 各 223,800 円 (年額)

3 人目以降の子の加算額 各 74,600 円 (年額)

(2)遺族厚生年金

遺族厚生年金は次の5つの要件のいずれかを満たしている場合に支給されます。

1.厚生年金保険の被保険者が死亡したとき

2.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から 5 年以内 に死亡したとき

3.1 級・2 級の障害厚生年金の受給権者が死亡したとき

4.老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と免除期間をあわせて25 年以上である人に限る)が死亡したとき

5.保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が 25 年以上である人が死亡した とき

1・2の場合は、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの被保 険者期間について、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上ある ことが必要です。

支給対象者は、死亡した人に生計を維持されていた次の遺族のうち、最も優先順位の高い人が受け取るこ とができます。

• 配偶者、子(18 歳になった年度の 3 月 31 日までにある人、又は 20 歳未満で障 害年金の障害等級 1 級または 2 級の状態にある人であり、婚姻をしていない人)

• 父母(死亡当時に 55 歳以上である人に限る)

• 孫(18 歳になった年度の 3 月 31 日までにある人、又は 20 歳未満で障害年金の障害 等級 1 級または 2 級の状態にある人であり、婚姻をしていない人)

• 祖父母(死亡当時に 55 歳以上である人に限る)

遺族基礎年金では、子どもがいない配偶者は受給できませんでしたが、遺族厚生年金は子どもがいない配偶者も受給出来ます。しかしながら受給する配偶者が30歳未満の妻であれば5年間しか受給できません。妻の死亡時に55歳未満の夫は、遺族厚生年金を受け取れません。一方その子どもが遺族厚生年金を受け取ることができます。遺族基礎年金を受け取れる夫(子どものいる夫)で妻の死亡時に55歳以上である場合は、60歳までの支給停止は行われず、60歳前の年齢でも遺族厚生年金を受け取ることができます。

【中高齢寡婦加算】

中高齢寡婦加算とは、以下のいずれかに該当する妻に対し、40歳から65歳までの間、遺族基礎年金の4分の3の額(583,400円(2022年度の年額))が加算される制度です。

• 夫が亡くなった時、40歳以上65歳未満で、生計を一緒にしている子がいない場合

• 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳に達した年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合

【寡婦年金】

寡婦年金とは、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間および国民年金の保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなった時に、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻が60歳から65歳の間に支給される制度です。

寡婦年金の額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3の額となります。

【死亡一時金】

死亡一時金は、第1号被保険者としての保険料納付済期間が3年以上ある者が死亡した場合に遺族に支給される制度で、保険料の掛け捨て防止の観点から設けられています。

以下の要件を満たす場合に、死亡一時金が支給されます。

• 死亡日の前日までの第1号被保険者としての保険料納付済期間と保険料半額免除期間の月数の2分の1に相当する月数(保険料4分の1免除期間の月数の4分の3に相当する月数、保険料半額免除期間の月数の2分の1に相当する月数および保険料4分の3免除期間の月数の4分の1に相当する月数を合計した月数)が36カ月以上である者の死亡等

• 老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれも受けずに死亡した場合

• 遺族が遺族基礎年金を受けられない場合

【3】年金制度の役割

公的年金は、現役世代が保険料を出し合い、高齢者の年金を負担する「世代間扶養」の仕組みで成り立っています。個人の自助努力によって老後に備えることも大切ですが、自助努力のみで生活設計を完全に行うことには限界があります。長い老後の生活を安心できるものにするため、社会全体で高齢者等の生活を支えていく仕組みとして形成されてきた制度です。老後の所得保障の柱としての役割を果たしています。

■保険の仕組み

自分が何歳まで生きるのか、老後の物価水準や生活水準がどうなっているかということは、誰にも事前にはわからないことです。それに対し公的年金は、終身(一生涯)にわたって必要な期間年金を受給でき、かつ賃金スライドや物価スライドの仕組みにより、物価や賃金が変動したとしても実質的に価値ある年金を受給できる仕組みになっています。さらに、生涯を追った場合や家族を残して死亡した場合に備え、障害年金や遺族年金もあります。

これらは「保険」の機能であり、人生の様々なリスクに備え、社会全体で支えあっている仕組みとなります。

公的年金には貯蓄や保険などと比べて以下のような特徴があります。

(1)生涯にわたって亡くなるまで受給できる

人は何歳まで生きるかは誰もわかりません。老後のためにと考え貯蓄をしても、その額を使い切ってしまう可能性もあります。逆に老後のためにと過度な貯蓄をし、現役時代の生活が苦しくなってしまうこともあるでしょう。公的年金は終身で受給できる仕組みであるため、現役時代に過剰な貯蓄を行う必要がなく、長生きしたために生活が苦しくなる長生きリスクにも備えることができます。

(2)経済の変化に比較的強く実質的な価値が保障された年金を受給できる

充分な貯蓄をしていたとしても、将来インフレや給与水準の上昇によって、その価値はとても低いものになってしまうかもしれません。公的年金はその時々の経済状況に応じた実質的な価値が約束された給付となっています。経済の変動にある程度強い仕組みとなっているのです。

(3)障害を負ったり家計の担い手が亡くなった場合も障害年金や遺族年金を受給できる

人生ではいつ何時何が起こるかわかりません。突然の事故や病気で、身体に障害を負ってしまい普通に働くのが難しくなるかもしれません。また、一家の主が小さな子供や配偶者を残して突然亡くなってしまう可能性もあります。このような事態に備え、公的年金は老後に対する備えのみならず、障害を負った人や遺族への保障も行っています。それが障害年金/遺族年金です。

公的年金が経済に占める割合はどのくらいになるのでしょうか。

老後の生活実態を見ると、高齢者世帯の収入の約6割を公的年金・恩給が占めています。また約5割の高齢者世帯で、収入のすべてが公的年金・恩給となっています。老後生活の主要な柱としてなくてはならない存在となっています。

また、年金総額は50兆円を上回り、国民の3人に1人が年金を受給しています。国民所得比では14%前後となっており、年金が家計消費の2割を占める地域もあります。

公的年金制度は、高齢期の生活の大部分を支えるものとして、極めて重要な役割を果たしており、日本の経済を支える役割も非常に大きいことがわかります。

■社会的扶養の仕組み

現行の公的年金制度は、年金支給のために必要な財源を、現役世代が納めた保険料収入から用意しており、これを賦課方式と言います。今の現役世代が高齢になったら、その下の世代が納めた保険料から年金を受け取ることになります。その時の現役世代の保険料を原資とするため、インフレや給与水準の変化に対応しやすく、実質的な価値=「決まった額ではなく、物価、所得水準に応じた経済的価値」を維持できます。社会的扶養は、現役世代の間で高齢者の扶養の負担を均等化する効果もあります。もし私的扶養の状況だと、孫世代が両親だけでなく祖父母の扶養まで負うことになった場合など、特に一人っ子には非常に重い負担となってしまいます。また、不幸にも子に先立たれてしまった場合や子がいない人の場合は、私的扶養を前提にしていると困難な状況となります。よって社会的扶養の仕組みで、社会全体の支え合いでリスクに備えているのです。

■所得再分配機能

所得再分配とは、国民の暮らしを守るために大企業や高額所得者など所得の大きいところにはより多く保険料や税を負担してもらい、それを社会保障給付などの形で渡すことで、所得の低い人も生活しやすいようにする仕組みです。所得の格差を埋める機能があります。

厚生年金保険では、社会保障制度として所得に応じた保険料の負担となっています。一方で受給する際には、老齢厚生年金は現役時代の報酬に比例しますが、老齢基礎年金の額は一定額で変わりません。定額給付である老齢基礎年金があることにより、厚生年金保険制度を通じて世代内の所得再分配機能が働いているのです。また、基礎年金給付費の2分の1が国庫負担により賄われており、所得が高い人ほど税金を多く払っていることから、税を通じた所得再分配機能が働いていると言うことができます。

【4】年金の運用

少子高齢化が進むなか、このままでは保険料の引き上げや給付水準の低下が避けられない状況となっています。そこで日本の年金制度を持続可能なものとするために様々な仕組みが取り入れられています。

①保険料の上限固定

少子高齢化が進むことにより現役世代の負担が重くなりすぎてはいけないので、国民年金の保険料の上限は、17,000円、厚生年金の保険料率は18.3%が上限となっています。

厚生年金保険料は労使折半となっており、事業主は従業員に支払う給与等から被保険者本人負担分を源泉控除して保険料を納めます。

②基礎年金の半分は国庫負担

基礎年金の給付額の2分の1は国庫負担(国の税金)でまかなわれています。

③年金積立金の活用

未来世代の年金給付に充てるため一定の積立金を保有し、おおむね100年間で積立金を計画的に活用(運用)しています。

④マクロ経済スライドの導入

年金給付は賃金や物価の変動などを基準として改訂されます。人口の減少や平均余命の伸びなど社会情勢にあわせて年金の給付水準を自動的に穏やかに調整できるよう「マクロ経済スライド」が導入されています。

■GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

GPIFは、③の年金積立金の活用に備え、積立金の管理・運用を行っている公的な機関です。Government=政府、Investment=投資、Pension=年金、Fund=基金 の頭文字をとってGPIFと言います。「年金積立金を運用している公的な機関」を意味します。

GPIFでは、長期にわたって持ち続ける「長期運用」、国内外のさまざまな種類の資産に分けて投資をする「分散投資」、これらの組み合わせにより安定した収益の確保を目指しています。

現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかった余剰金が、未来の世代のために積み立てられています。GPIFではこの積立金を運用して安定して増やしていく役割を担っています。年金積立金は運用益とともにおおむね100年の財政計画の中で、将来世代の年金給付の約1割を補うために使われます。

公的年金の保険料収入と年金給付は、賃金水準の変化に応じて変動するため、年金積立金の運用が年金財政の安定に貢献するためには、長期的にみて賃金上昇率を上回る運用収益を確保する必要があります。そのため、長期的な運用目標として「賃金上昇率+1.7%を確保すること」が要請されています。GPIFが運用を開始した2001年以降、運用利回りと賃金上昇率から算出した実質的な運用利回りは21年間で3.78%となっており、過去の実績は目標を上回り財政の安定に貢献しています。これまでの累計収益額は約100兆円となっており、リスクを抑えたポートフォリオで確実に長期運用の成果を出しています。

【5】世界の年金と日本の年金

これまで日本の年金制度について学んできましたが、日本の年金制度は世界の国々と比べるとどのような違いがあり、どれくらい評価されているのでしょうか。

■グローバル年金指数

世界には様々な形の年金制度があります。各国の社会環境が大きく異なるため、年金制度を比べて評価することは難しいですが、組織・人事コンサルティング会社のマーサーと投資専門職団体のCFA協会では、「マーサーCFA協会グローバル年金指数(MCGPI)」を毎年発表しています。グローバル年金指数は、世界各国の年金制度を50以上の項目で、十分性、持続可能性、健全性の3つの観点から評価したものです。世界の人口の65%にのぼる44の国と地域の退職所得制度を調査しランキングしています。

2022年の10月に発表されたランキングでは、日本は44か国中35位でした。かなり低い順位となっています。項目ごとの数値を見ると、十分性が58.0、持続可能性が44.5、健全性が63.0となり、総指数は54.5で、総評価はCとなりました。2021年の総評価はDだったため、改善傾向となります。近年は確定拠出年金(DC)やiDeCoなどの普及により年々数値は上がっていますが、ランキング上位の国々に比べると、まだ日本の年金制度の評価は低くなっています。数値からは、日本の年金制度は持続可能性という部分で不安があると判断されていることがわかります。日本の年金制度は賦課方式であり、現役世代の納めた保険料を高齢者の年金の支払いに充てています。賦課方式は給与水準の変化やインフレに対応しやすい一方で、少子高齢化の影響を受けやすいという一面があります。年金を受給する高齢者に対して、それを支える現役世代の数がどんどん少なくなっているという現実が、持続性が低いと評価されている一因でしょう。

■主要国の年金制度

世界の主要国の年金制度はどのような内容になっているのでしょうか。2022年の各国の制度を見てみましょう。

【日本】

被保険者: 全居住者

保険料率: 国民年金 月額16,590円

厚生年金保険 18.3%(労使折半)

最低加入期間:10年

財政方式: 賦課方式

支給開始: 国民年金 65歳

厚生年金保険 男性64歳 女性62歳

※男性2025年、女性2030年までに65歳に引上

【アメリカ】

被保険者: 無業者を除いて居住者は原則加入

保険料率: 12.4%(労使折半)

最低加入期間:40四半期(10年相当)

財政方式: 賦課方式

支給開始: 66歳

※2027年までに67歳に引上

アメリカでは、日本のようにすべての人に加入義務があるわけではなく、無職の人や所得の低い人は年金制度に加入する必要がありません。加入期間の単位はクレジットで表され、年間の収入に応じて最大4クレジットまで取得できます。加入期間が40クレジット(1クレジット3か月相当のため10年相当)以上あると、退職年金の受給資格が得られる仕組みです。扶養者がいる場合、条件に当てはまれば家族年金も受け取ることができます。

【英国】

被保険者: 一定以上の所得のある居住者

保険料率: 25.8%(本人12% 事業主13.8%)

最低加入期間:10年

財政方式: 賦課方式

支給開始: 66歳 ※2028年までに67歳、2046年までに68歳に引上

イギリスの年金制度は2016年に大きく改革が行われました。それまで2階建ての制度だったものが、1階建てになりました。16歳以上で加入しますが、対象となるのは一定以上の所得がある人なので、収入のない人は対象外です。保険料は年金のためだけの保険料ではなく、老齢・障害・死亡・出産・失業・労災などを扱う国民保険の保険料として徴収されます。納付する保険料は報酬に比例する一方で、給付金額は全員一律となるため、高所得者から低所得者への所得の再分配効果が高い制度となっています。

【ドイツ】

被保険者: 居住している被用者は原則加入

保険料率: 18.6%(労使折半)

最低加入期間:5年

財政方式: 賦課方式

支給開始: 65歳11か月

※2029年までに67歳に引上

ドイツでは、雇用者は加入する必要がありますが、医師・弁護士などの一部の自営業者も加入義務があります。無職の人や主婦は加入できません。ドイツも日本と同じように高齢化が進み社会問題となっています。日本の確定拠出年金と同じように企業・個人で任意加入できる積立方式の年金制度として、リースター年金が2001年に創設されました。本人の積立金拠出にマッチングする形で国庫補助が行われ、税制上の優遇措置も受けられる形になっています。

【オランダ】

被保険者: 老齢年金・遺族年金→全居住者

障害年金→被用者

職域年金→被用者半強制

保険料率: 老齢年金:17.90%

(法定上限18.25%)

※2019年時点 遺族年金:0.60%

障害年金:9.65%

最低加入期間:なし

財政方式: 老齢年金:賦課方式&一部積立方式

遺族年金:賦課方式

障害年金:賦課方式

支給開始: 67歳 以降平均寿命と連動

グローバル年金指数ランキングで常に上位に入り、世界でも有数の年金制度の充実した国と言われているのがオランダです。政府・年金基金・労使の三者で制度検証と運営を行っており、3階建ての構造になっています。1階部分は基礎年金部分となり、単身者では法定最低賃金の70%(夫婦では100%)水準の年金額が給付されます。年金保険料は約18%と非常に高いですが、その分もらえる年金額も多くなっています。2階部分は1階部分を補完する職域年金となっていますが、オランダではこの職域年金への加入率が自営業者も含め9割を超えており、それゆえ年金制度の持続性が担保されていると言えます。3階部分は1階2階部分を個人で補完する個人年金です。構造自体は日本と似ている部分も多いですが、年金資産の潤沢さや所得代替率の高さ(現役時代の収入に対する年金額)などから、グローバル年金指数でも大きく差をつけられてしまっています。

日本の年金には、「少子高齢化」や「世代間格差」といった問題が存在しています。世界各国でも平均寿命が延びており、資金の確保が大きな課題となっています。公的年金にのみ依存せず、自分の老後のために個人的な対策を講じることで、将来の不安を軽減する必要があると考えられます。

第5章 社会保険

【1】公的医療保険制度

日本の医療保険制度は、「国民皆保険」と言って原則国民全員が生後すぐから健康保険制度に加入します。日本には「国民健康保険」「健康保険(被用者保険)」「後期高齢者医療制度」などがあり、職業や年齢によって加入できる保険が異なります。公的医療保険とは、加入者およびその家族が医療を受けた際に、公的機関が医療費の一部を負担してくれる制度です。収入に応じて保険料を出し合うことで、そこから医療費を支出する仕組みになっています。共通する主な給付には以下のようなものがあります。

(1)療養の給付

病気やけがの場合には、保険で治療を受けることができます。医療費の負担額は年齢により、70歳未満は3割、70~74歳未満は2割(現役並み所得者は3割)、75歳以上は1割(現役並み所得者は3割、一定以上の所得がある方は2割)となります。

(2)高額医療費

医療機関や薬局で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。入院時の食事代や差額ベッド代・日用品代などは適用外となります。上限額は年齢や所得によって異なります。同じ人の複数の受診や、同じ世帯の別の方の受診について1か月単位で合算することができます。支給の申請は過去2年間にさかのぼって申請することができます。

(3)出産育児一時金

健康保険や国民健康保険などの被保険者またはその被扶養者が出産したときに、一定の金額が支給される制度です。現在は原則として子供一人当たり42万円の支給になります。出産に要する経済的負担を軽減するための制度であり、支給額については出産費用などの状況を踏まえ、被用者保険は政令、市区町村国保は条例で規定されます。

(4)葬祭費・埋葬費

故人が医療保険制度に加入していた際に、葬儀費用の一部を負担してもらえる制度です。受給には申請が必要となります。健康保険の場合は「埋葬費」として給付金は5万円となります。被扶養者が亡くなった場合は、「家族埋葬料」として、5万円が被保険者に給付されます。埋葬料を受ける人がいない場合「埋葬費」として上限5万円が実際に埋葬を行った方に給付されます。国民健康保険の場合は「葬祭費」となり、給付金は数万~7万円前後で各自治体によって異なります。名称は変わりますが、被保険者が亡くなった際に受け取れる給付金という制度は同じです。

ここからは、それぞれの医療保険制度の違いを確認していきましょう。

■健康保険(被用者保険)

健康保険は、勤務先が所属する健康保険団体が保険者となります。規模の大きな企業の場合は、自社やグループで健康保険組合(組合健保)を設立し、運営していることが多いです。組合健保には独自の付加給付などがあり、比較的手厚い制度となっていることが多くあります。組合健保のない会社の従業員は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入します。その他にも船員が対象の船員保険や、公務員や教職員が対象の共済組合があります。被保険者に生計を維持されている被扶養者(配偶者や親、子など)は、自身の収入が130万円以下であれば、被保険者の健康保険に無料で一緒に加入することができます。これがいわゆる130万円の壁です。収入が130万円を超えると、自分で国民健康保険に加入するか、健康保険に加入する必要が出てきます。

保険料は、毎年4月~6月標準報酬月額で1級から50級までの50級に分け、その額に保険料率をかけて算出します。その金額が9月から翌年8月まで適用されます。保険料の全額が自己負担となる国民健康保険とは異なり、労使折半となります。健康保険には、被保険者が出産する際の①出産手当金や、病気やケガで長期間仕事ができなくなってしまった際の②傷病手当金などの支給があります。

(1)出産手当金

被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に出産手当金が支給されます。出産の日以前42日から出産の翌日以後56日目までの会社を休んだ期間が対象となります。支給額は、標準報酬日額×3分の2×対象日数で算出されます。

(2)傷病手当金

被保険者が病気やケガで仕事を4日以上休み、その間充分な給与を受けられないときに傷病手当金が支給されます。傷病手当金は、次の条件をすべて満たしたときに支給されます。

• 仕事とは関係ない病気やケガの療養のための休業であること

業務災害・通勤途上のケガについては、労災保険の扱いとなります。

• それまで就いていた仕事に就くことができないこと

医師の意見等をもとに判断されます。

• 4 日以上仕事に就けなかったこと

連続3日間仕事を休んだ4日目以降の日に対し支給されます。

• 休んだ期間について給与の支払いがないこと

給与が全額支払われている場合は、傷病手当金は支給されません。

給与の日額が傷病手当金の日額より少ないときは、差額が支給されます。

期間は、支給開始日から通算して1年6か月を限度として支給されます。支給額は標準報酬日額×3分の2×支給日数で算出されます。

■国民健康保険

国民健康保険は、他の医療保険制度(健康保険や後期高齢者医療制度など)に加入していないすべての方を対象とした制度です。住んでいる都道府県・市区町村が保険者(保険を与える側)になる市区町村国保と、業種ごとに組織される国民健康保険組合があります。国民健康保険には健康保険のような「扶養」という概念はなく、扶養家族がいる場合にはその人数分の国民健康保険に加入する必要があります。保険料は市区町村国保の場合、各自治体によって保険料率を設定しており、所得によっても金額が変わってきます。国民健康保険組合の場合は、各組合で保険料を設定しています。健康保険では保険料は労使折半でしたが、国民健康保険はすべて世帯主の負担となります。

また、健康保険にあった出産手当金や傷病手当金などは、国民健康保険にはありません。健康保険に比べ保険料の負担が多い傾向にありますが、場合によっては軽減や減免などに該当し、保険料を抑えることができることもあります。

■後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度は、75歳以上の人(65歳以上75歳未満の一定の障害を持つものを含む)を対象とした公的医療制度です。75歳になると、それまで加入していた健康保険や国民健康保険などの制度から後期高齢者医療制度へ移行されます。保険料は被保険者個人単位で算定し、被保険者全員が均等に負担する「均等割額」と、被保険者の前年所得に応じて負担する「所得割額」を合計した額になります。療養費の窓口負担は原則1割ですが、一定以上の所得のある方は2割、現役並みの所得がある方は3割の負担となります。

【2】雇用保険

雇用保険とは、労働者が失業して所得がなくなった場合に、生活の安定や再就職促進を図ることを目的とした強制保険制度です。仕事がなくなったときに備える公的保険と言えます。雇用保険に加入できる条件は3つです。

• 31日間以上働く見込みがあること

• 所定労働時間が週20時間以上であること

• 昼間学生ではないこと(例外あり)

上記を満たしていればパートやアルバイトなどの非正規雇用者も雇用保険に加入します。この条件に当てはまる労働者を雇用した場合には、原則として会社は必ず雇用保険の加入手続きをしなければなりません。保険料は会社と従業員が負担します。保険料率と負担する割合は、業種の種類で定められています。

雇用保険による給付は失業等給付と呼ばれ、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付の 4 種類に分けられます。それぞれの特徴を確認しましょう。

■求職者給付

被保険者が倒産やリストラ、自己都合などによって離職した場合に、失業者の生活の安定を図るとともに、求職活動を促進することを目的として支給するいわゆる失業給付金です。受給の条件は下記です。

• 失業状態である(就業の意思がある状態)

• 退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12カ月以上ある

• ハローワークに求職の申し込みをしている

給付日数は90日から360日と幅があり、年齢や被保険者であった期間及び離職理由などにより決定します。受給期間は、原則として離職の日の翌日から起算して1年間の間に所定給付日数分が支給されることになりますが、妊娠・出産・病気・ケガ・介護などの理由により引き続き30日以上職業に就くことができない場合には、その日数を受給期間に加えることができます(最大3年間)。

基本手当の日額は、離職前6か月の賃金を平均した1日分の45%~80%となり、下限額と年齢により上限額が決められています。退職の理由によって給付金の受給開始時期が異なります。

• 会社都合による退職:7日間の待機期間満了後から

• 自己都合による退職:7日間の待機期間+2カ月間の給付制限期間を経てから

求職者給付には基本手当の他にも、ハローワークの受講指示により公共職業訓練などを受講している間に基本手当のほかに受給できる「技能習得手当」や、ハローワークで求職の申し込みをした後に傷病のため15日以上続いて職業に就くことができない状態になった場合に、基本手当の日額に相当する額が支給される「傷病手当」などがあります。

■就職促進給付

就職促進給付は、離職後に再就職したときに給付されます。再就職手当、就業促進定着手当、就業手当などがあります。

(1)再就職手当

基本手当の受給資格がある方が、所定給付日数の3分の1以上を残して安定した職業に就いた場合に一定の要件に該当すると支給されます。

支給残日数が3分の2以上の方:支給残日数×70%×基本手当日額(上限あり)

支給残日数が3分の1以上の方:支給残日数×60%×基本手当日額(上限あり)

(2)就業促進定着手当

再就職手当の支給を受けた人が、その再就職先に6か月以上雇用され、再就職先での6ヶ月の賃金が、離職前の賃金よりも低い場合に、給付されます。

上限額:基本手当日額×基本手当の支給残日数×40%※

(※再就職手当の給付率が70%の場合は、30%)

(3)就業手当

基本手当の支給残日数が3分の1以上かつ45日以上あり、再就職手当の支給の対象とならない職業(常用雇用等以外の形態等)に就いた場合、その職業に就いている日について、一定の要件に基づき支給されます。

就業日×30%×基本手当日額(一定の上限あり)

就職促進給付は他にも、ハローワーク等で紹介された職業に就いたり、指示した公共職業訓練等を受講するために、転居する必要がある場合に移転の費用が支給される「移転費」、ハローワーク等の紹介で遠隔地にある求人事業所を訪問して面接等をした場合に交通費や宿泊料が支給される「広域求職活動費」、ハローワークの指導により教育訓練を受け修了した場合に支払った教育訓練経費の一部が支給される「短期訓練受講費」、障害のある方など就職が困難な方が安定した職業に就いた場合に支給される「常用就職支度手当」、面接や教育訓練受講のために保育サービス等を利用した場合に費用の一部が支給される「求職活動関係役務利用費」等があります。

■教育訓練給付

働く方の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、教育訓練受講に支払った費用の一部を支給します。また専門実践教育訓練を受講する45歳未満の方に対しては、基本手当が支給されない期間について、諸経費を負担し支給します。

(1)一般教育訓練給付金

雇用保険の支給要件期間が3年以上(初めての場合は1年以上)あること、離職日の翌日以降受講開始日までが1年以内であること、前回の受給から今回受講開始日前までに3年以上経過していることなどの一定の要件を満たす雇用保険の被保険者または被保険者であった方(離職者)が、厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合に支給されます。支給額は、教育訓練経費の20%(上限10万円)です。4千円を超えない場合は支給されません。

(2)特定一般教育訓練給付金

キャリアアップ効果の高い講座を対象に給付率を倍増させ、支給額を教育訓練経費の40%(上限20万円)とした特定一般教育訓練給付金は令和元年に新設されました。要件は一般教育訓練給付金と同様で、厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合に支給されます。

(3)専門実践教育訓練給付金

雇用保険の支給要件期間が3年以上(初めての場合は2年以上)あること、離職日の翌日以降受講開始日までが1年以内であること、前回の受給から今回受講開始日前までに3年以上経過していることなどの一定の要件を満たす雇用保険の被保険者または被保険者であった方(離職者)が、厚生労働大臣の指定する専門実践教育訓練を受講し修了した場合に支給されます。支給額は、教育訓練経費の50%(年間上限額40万円、総支給上限額120万円)となります。4千円を超えない場合は支給されません。受講修了後、あらかじめ定められた資格取得等し、1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合には、追加で20%が支給されます。トータル70%相当の額が支給されることとなりますが、3年間で168万円が上限となります。(2年の場合は112万円、1年の場合は56万円が上限)

(4)教育訓練支援給付金 ※令和7年3月31日までの時限措置

初めての専門実践教育訓練の受講であり開始時に45歳未満など一定の要件を満たす方が、訓練期間中失業している日について支給されます。支給額は、訓練受講中の基本手当の支給が受けられない期間、基本手当の日額の80%を失業の認定を受けた日数分支給されます。

■介護休業給付金

配偶者や親、祖父母、子などの対象家族を介護するために休職が必要な被保険者に対し、一定の要件を満たした場合に支給されます。最大93日間を限度に、3回まで分割して取得が可能です。職場に復帰することが前提となるため、休業取得時に退職が確定している場合は対象となりません。介護休業開始前の2年間に、雇用保険に加入している期間が12ヶ月以上であることが条件です。期間雇用者の場合は、さらに介護休業開始予定日から93日が経過する日から6ヶ月経過する日までに労働契約が終了しないことが条件となります。

対象となる介護休業

• 負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある家族を介護するための休業であること

• 被保険者が、その期間の初日及び末日を明らかにして事業主に申し出を行い、これによって被保険者が実際に取得した休業であること

支給要件

• 支給単位期間の初日から末日まで継続して被保険者資格を有していること

• 支給単位期間に、就業していると認められる日数が10日以下であること

• 支給単位期間に支給された賃金額が、休業開始時の賃金の80%未満であること

支給額は、休業開始時賃金日額×支給日数×67%で計算されますが、休業期間中に事業主から賃金が支払われている場合で、その額が賃金月額の13%を超える場合には、休業開始時賃金日額×支給日数の80%相当額と賃金の差額が支給されます。休業開始時賃金月額には上限額および下限額があり、さらに支給額にも限度額があります。これらは毎年8月1日に変更される場合があります。

■育児休業給付金

これまで、被保険者が原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たすと育児休業給付金の支給を受けることができるのが主な制度でしたが、2022年(令和4年)10月1日から育児・介護休業法の改正により育児休業給付制度が変わりました。大きな変更点として、「出生時育児休業(産後パパ育休)」が創設されたこと、「育児休業の分割取得」が可能となったことがあります。

【出生時育児休業(産後パパ育休)】

子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる産後パパ育休を取得した場合に、出生時育児休業給付金が受けられます。2回まで分割取得が可能です。

支給要件

• 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上ある完全月が12か月以上あること

• 休業期間中の就業日数が、最大10日(超える場合は就業時間数80時間)以下であること ※休業期間が28日間より短い場合は、比例して短くなります。

• 子の出生日から8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、労働契約期間が満了することが明らかでないこと

支給額は、休業開始時賃金日額×休業期間の日数(28日が上限)×67%で計算されますが、休業期間中に事業主から賃金が支払われている場合で、その額が賃金月額の13%を超える場合には、休業開始時賃金日額×支給日数の80%相当額と賃金の差額が支給されます。休業開始時賃金日額の上限額は15,190円となります(令和5年7月31日までの額)。

【育児休業の分割取得】

これまでの育児休業制度では、分割での取得はできませんでしたが、法改正により2回に分割して取得することができるようになりました。大きな変更点としては以下になります。

• 1歳未満の子について、原則2回まで、育児休業給付金を受けられるように

• 3回目以降については原則給付金を受けられないが、特別な事由に該当する場合は、再取得が可能となる

• 育児休業の延長事由があり、かつ、夫婦交替で育児休業を取得する場合(延長交替)は、1歳~1歳6か月と1歳6か月~2歳の各期間において夫婦それぞれ1回に限り育児休業給付金が受けられる

2回までの分割が可能で、3回目以降の育児休業に関しては原則給付金を受けられませんが、以下の事由に該当する場合は、回数制限から除外されます。

• 別の子の産前産後休業、育児休業、家族の介護休業が始まったことで育児休業が終了した場合で、新たな休業が対象の子または家族の死亡等で終了した場合

• 配偶者が、死亡、負傷等、婚姻の解消で対象の子と同居しないこととなった等の理由で、養育することができなくなった場合

• 対象の子が、負傷、疾病等で2週間以上の期間にわたり世話を必要とする状態になった場合

• 対象である1歳未満の子について、保育所等での保育利用を希望し申込みを行っているが、当面それが実施されない場合

支給要件

• 1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること

• 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上ある完全月が12か月以上あること

• 一支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること

• 養育する子が1歳6か月に達する日までの間、労働契約期間が満了することが明らかでないこと

支給額は、休業開始時賃金日額×支給日数×67%(181日目以降は50%)で計算されますが、休業期間中に事業主から賃金が支払われている場合で、その額が賃金月額の13%を超える場合には、休業開始時賃金日額×支給日数の80%相当額と賃金の差額が支給されます。休業開始時賃金日額の上限額は15,190円、下限額は2,657円となります。(令和5年7月31日までの額)

「出生時育児休業(産後パパ育休)」や「育児休業の分割取得」の制度により、業務都合や会社の状況を加味して休業ができ、さらにパートナーへのサポートが必要なタイミングや交代での休暇取得が可能となるため、仕事と育児の両立を実現しやすくなりました。

【3】介護保険

高齢化が進むにつれ、介護を必要とする人が増加しています。核家族化や介護による離職、介護する家族の高齢化等も社会問題となりました。こうした中、以前は子供や家族が行うものとされていた親の介護ですが、家族で負担するのではなく社会全体で支える仕組みを作るという考えのもと、2000年に介護保険制度が創設されました。

【介護保険の基本的な考え方】

• 自立支援

単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とします。

• 利用者本位

利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度です。

• 社会保険方式

給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用します。

65歳以上の方を第1号被保険者、40歳から64歳までの方を第2号被保険者として区分されます。40歳から64歳という年齢は、ご自身も老化に起因する疾病により介護が必要となる可能性が高くなることから、この年齢から保険料の負担が始まり、健康保険と一緒に徴収されます。職場の医療保険に加入している方は、給与に介護保険料率を掛けて算出され、事業主がその半分を負担します。医療保険と同じように被扶養配偶者は保険料を納める必要はありません。国民健康保険に加入している方は、所得割と均等割、平等割、資産割等から計算され介護保険料率も異なります。65歳以上の方は、年金からの天引きとなります。

介護サービスを受けられるのは、要介護認定または要支援認定を受けた第1号被保険者と、老化に起因する疾病(指定の16疾病)により介護認定を受けた第2号被保険者です。

介護保険で受けられるサービスには、要介護1~5と認定された方が利用できるサービス(介護給付)と要支援1~2と認定された方が利用できるサービス(予防給付)があります。

介護保険の保険者は市区町村と特別区になります。財源は、公費5割・保険料5割となっています。利用者の自己負担額は、所得により1割から3割と幅があります。給付できる金額には限度額があり、介護度が重いほど限度額も大きくなります。限度額以上のサービスを受ける場合には、自己負担となります。

介護保険のサービスを受けるには、まず申請をして要介護(要支援)認定を受ける必要があります。認定調査員が自宅もしくは病院にて日常生活の状況を確認し、身体機能や認知機能のチェックを行います。調査の内容は全国共通です。また、主治医から心身の状況について意見書を作成してもらいます。「介護認定審査会」により要介護または要支援の判定が行われ、認定結果が通知されます(30日以内)。介護認定審査会は保険・福祉・医学の学識経験者により構成されています。要介護と認定された人はケアマネージャーに介護サービス計画であるケアプランを作成してもらいます。要支援の認定を受けた人は、地域包括支援センターにて介護予防サービス計画書(介護予防ケアプラン)を作成してもらいます。作成されたプランに基づいたサービスを利用します。

【4】労災保険

労災保険とは、労働者を保護するための保険で、正式には労働者災害補償保険と言います。労働者の業務上の事由または通勤による傷病等に対して必要な保険給付を行い、また被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。原則として雇用人数や日数、雇用形態に関係なく、労働者を1人でも雇用している事業場には、必ず加入することが義務付けられています。パートやアルバイト、日雇い等、すべての労働者が労災保険の給付対象者となります。保険料は全額事業主負担となり、労働者の負担はありません。保険料は前年度に支払われた全労働者の賃金総額に労災保険率をかけて算出されます。保険料率は業種ごとに設定されており、災害リスクを加味し、リスクの高い業種は保険料率も高くなっています。金融業、保険業、不動産業が2.5/1,000なのに対し、金属鉱業、非金属鉱業、石炭鉱業等は88/1,000と、非常に高くなっています。

■業務災害

労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を業務災害と言います。業務災害に対する保険給付は労災保険が適用される事業場に雇用され、事業主の支配下にあるときに業務上の理由により発生した災害に対して支払われます。「業務上」の判断にあたっては、業務遂行性と業務起因性が考慮されます。

【業務上の負傷】

(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合

この場合は特段の事情がなければ業務災害と認められますが、次のような場合は認められません。

• 就業中に私用または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それが原因の災害を被った場合

• 故意に災害を発生させた場合

• 個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合

• 天変地異により被災した場合

(2)事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合

休憩時間や就業前後は業務中ではないので、この間に私的な行為によって発生したものは業務災害と認められません。設備や管理状況などに起因して起こった災害は業務災害となります。

(3)事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合

出張などの事業場外で業務に従事している場合、積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務災害が認められます。

【業務上の疾病】

業務と疾病との間に相当因果関係があると認められる場合に、給付の対象となります。労働者が事業主の支配管理下にある状態で疾病が発生した場合ではなく、事業主の支配管理下で有害因子を受けたことによって発生したものが該当します。原則として発症した疾病について、次の3つの要件が当てはまった場合に認められます。

(1)労働の場における有害因子の存在

業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業態様、病原体等の諸因子を指します。

(2)有害因子へさらされた条件

健康障害を起こすのに足りる有害因子の量と期間にさらされたかどうか。またどのような形態でばく露を受けたかによっても左右されるので、これを含めた条件の把握が必要となります。

(3)発症の経過及び病態が妥当であること

業務上の疾病は、少なくともその有害因子へさらされた後に発症したものでなければなりません。しかし、その有害因子の性質、条件等によって、短期間で発症するものもあれば、相当期間を経て発症するものもあります。したがって発症の時期は、有害因子にさらされている間やその直後のみに限定されるものではありませんが、医学的に妥当なものでなければなりません。

■複数業務要因災害

現在は多様な働き方を選択する者が増えてきており、事業主が同一人でない二つ以上の事業に使用される労働者が増加している。複数事業労働者を使用するそれぞれの事業における業務上の負荷のみでは業務と疾病等の間に因果関係が認められない場合に、複数事業労働者を使用する全事業の業務上の負荷を総合的に評価し、労災と認定できるか判断します。

■通勤災害

通勤災害とは、労働者が通勤(帰宅)中に事故に遭い、傷病や障害、死亡することです。この場合の「通勤」とは、(1)住居と就業場所との間の往復、(2)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動、(3)就業場所から他の就業場所への移動を、合理的な経路及び方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。業務の性質を有する移動の場合は、通勤災害ではなく業務災害となります。通勤の途中で逸脱または中断があると、その後は原則として通勤とはなりません。しかし、日常生活上必要な行為を最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、経路に復した後は再び「通勤」となります。

■第三者行為災害

労災保険の給付の原因である事故(災害)が第三者の行為などによって生じたものであって、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているもののことを第三者行為災害と言います。

第三者行為災害に該当する場合、被災者は第三者に対し損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても給付請求権を取得することとなります。しかしながら、同一の事由について両者から重複して損害のてん補を受けることはできず、二重てん補とならないよう調整が行われます。例:自動車事故の自賠責保険等

■労災保険給付の種類

(1)療養(補償)等給付

業務や通勤が原因で負傷したり、病気にかかって療養を必要とするとき、業務災害の場合は療養補償給付が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者療養給付が、通勤災害の場合は療養給付が、支給されます。現物給付としての「療養の給付」と、現金給付としての「療養の費用の支給」の2種類があります。原則は「療養の給付」です。労災病院や労災指定病院等にかかれば、原則として傷病が治るまで「療養の給付」の場合は無料で療養を受けられ、「療養の費用の支給」の場合はその療養にかかった費用が支給されます。

(2)休業(補償)等給付

業務または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のため労働することができず賃金を受けていないとき、4日目から業務災害の場合は休業補償給付が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者休業給付が、通勤災害の場合は休業給付が、支給されます。業務災害の場合、休業初日から3日間は事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行わなければなりません。

• 単一事業労働者の場合

休業補償給付、休業給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数

休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)×休業日数

• 複数事業労働者の場合

休業(補償)等給付=(給付基礎日額相当の合算額の60%)×休業日数

休業特別支給金=(給付基礎日額相当の合算額の20%)×休業日数

休業特別給付金は、社会復帰支援として支給されます。給付基礎日額は、事故や疾病の発生した日の直前3か月間の賃金の総額(ボーナス等を除く)を、その期間の日数で割った1日当たりの額です。労災保険における給付基礎日額の最低保障額が決められており、被災労働者の給付基礎日額がこの額に満たないときは適用されます。

(3)障害(補償)等給付

業務または通勤が原因となった負傷や疾病が治ったとき、身体に一定の障害が残った場合には、業務災害の場合は障害補償給付が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者障害給付が、通勤災害の場合は障害給付が、支給されます。障害の程度により大きく2つに分けることができ、支給される給付金の内容に違いがあります。

• 障害等級第1級から第7級に該当

障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金

• 障害等級第8級から第14級に該当

障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金

(4)遺族(補償)等給付

業務または通勤が原因で亡くなった労働者の遺族に対し、業務災害の場合は遺族補償給付が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者遺族給付が、通勤災害の場合は遺族給付が、支給されます。遺族(補償)給付は「遺族(補償)年金」「遺族(補償)一時金」の2種類があります。遺族(補償)年金は、被災労働者の収入で生計を維持していた配偶者や子ども、父母や孫、祖父母、兄弟姉妹のうち再優先順位の受給権者に支給されます。ただし、妻以外の遺族については一定の年少または高齢であるか、一定の障害の状態にあることが条件になります。

【遺族(補償)年金の受給権者の順位】

1.妻または60歳以上か一定障害の夫

2.18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子

3.60歳以上か一定障害の父母

4.18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫

5.60歳以上か一定障害の祖父母

6.18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定障害の兄弟姉妹

7.55歳以上60歳未満の夫

8.55歳以上60歳未満の父母

9.55歳以上60歳未満の祖父母

10.55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

遺族(補償)一時金は、被災労働者死亡の当時、遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合に特定の範囲の遺族に支給されます。また、受給権者が最後順位者まですべて失権し、受取済み遺族(補償)年金額が給付基礎日額の1,000日分に満たなかった場合も支給されます。

(5)葬祭料(葬祭給付)

葬祭を行った遺族などに対して、業務災害の場合は葬祭料が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者葬祭給付が、通勤災害の場合は葬祭給付が、支給されます。支給額は315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額となり、この金額が給付基礎日額60日分に満たない場合、給付基礎日額の60日分が支給されます。

(6)傷病(補償)等年金

業務または通勤が原因となった負傷や疾病の療養開始後1年6か月を経過した日またはその日以後、療養開始後1年6か月を経過しても治癒(症状固定)にならず、傷病等級(第1級~第3級)に該当するときに、傷病補償年金(業務災害の場合)、複数事業労働者傷病年金(複数業務要因災害の場合)または傷病年金(通勤災害の場合)が支給されます。

(7)介護(補償)等給付

障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級の方と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」にあてはまり介護を受けている場合、業務災害の場合は介護補償給付が、複数業務要因災害の場合は複数事業労働者介護給付が、通勤災害の場合は介護給付が、支給されます。

(8)二次健康診断等給付

労働安全衛生法に基づく定期健康診断等で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を1年度内に1回、無料で受診することができる制度です。腹位又はBMI(肥満度)、血圧、血糖、血中脂質の4項目全てに異常の所見が認められた場合、又は上記4つの検査のうち、1つ以上の項目で異常なしの所見があるが、産業医等が就業環境等を総合的に勘案し、異常の所見が認められる診断する場合は、二次健康診断及び特定保健指導を受けることができます。ただし既に脳・心臓疾患の症状を有している者及び特別加入者を除きます。

【二次健康診断の検査内容】

(1)空腹時血中脂質検査

(2)空腹時血糖値検査

(3)ヘモグロビンA1c検査 ※一次健康診断で受検していない場合

(4)負荷心電図検査または胸部超音波検査のいずれか一方の検査

(5)頸部超音波検査(頸部エコー検査)

(6)微量アルブミン尿検査

※一次健康診断の尿蛋白検査で、疑陽性または弱陽性の場合に限る

【特定保健指導の内容】

二次健康診断の結果に基づき、脳・心臓疾患の発症の予防を図るため、医師または保健師の面接によります。すでに脳・心臓疾患の症状を有していると診断された場合は実施されません。

(1)栄養指導

(2)運動指導

(3)生活指導

第1章 投資とは何でしょうか

【1】証券について

■証券とは

証券は、何らかの権利を表すことを証明する券のことです。中でも、財産的価値のある権利を表す証券には、株式、債券、約束手形、小切手が含まれます。これらは有価証券と呼ばれます。有価証券は譲渡することにより、その有価証券が持っている財産的権利を簡単に移転させることができるのが特徴です。金融商品として取り扱う証券については、金融商品取引法第2条で、国債、社債、株券、新株予約権証券、投資信託の受益証券などが有価証券として具体的に定義されています。

■直接金融と間接金融

証券がどのような場で使われているのかを理解するために、金融市場についての理解を深めましょう。金融市場とは、資金の取引が行われる場全体を意味しますが、資金の流れについて着目して直接金融と間接金融に分けられています。

■直接金融とは

資金を必要としている会社が、一般の投資家などに直接呼びかけて資金を集めることです。資金の提供者である投資家が直接投資先を選び資金を提供します。代表的な金融商品は、株式や債券があります。つまり、証券市場を通じて資金を調達する取引は直接金融です。

■間接金融とは

会社が銀行などの金融機関から資金を集めることです。銀行から借りる資金は銀行自身の資金ではなく預金者から集めた資金です。つまり、預金者が直接会社に資金を提供するのではなく、銀行などの金融機関が預金者に代わって資金を提供します。

【2】証券取引所

■証券取引所とは

証券取引所は、株式の売買などを行う場で、公正な価格を形成し、活発で流動的な取引が行われるようにするという役割を担っています。証券取引所では、株式の売買が主にオークション(競争)方式で行われています。例えば株式を買う場合は、より高い値段の注文(売る場合はより安い注文)を優先させる価格優先、同じ値段であれば、早く出た注文を優先させる時間優先のルールに従って売買を成立させています。

国内証券取引所のうち東京証券取引所は、もっとも株式の売買高が多く、ニューヨークやロンドン、上海などの証券取引所と並ぶ世界有数の証券取引所です。

■証券会社とは

証券会社とは、「株の発行元の会社と投資家」、または「投資家と投資家」の間に立って、株式の売買の取次ぎや引受けなどを行う直接金融の金融会社です。

証券会社は大きく分けて、店舗証券とネット証券の2つがあります。店舗証券とはお店を構えて、窓口や営業マンなどと実際に会って、株の取引を行うことができる会社のことです。

一方のネット証券は実店舗を持たず、インターネットを通して株の取引を行うことができる会社のことです。ネット証券はインターネットが普及し始めた1990年代後半に誕生し、ネット証券によって株取引が多くの人の身近なものになりました。店舗証券とネット証券には、それぞれメリットがあります。店舗証券のメリットは、専門家のアドバイスを受けることができることです。初めて株式の売買をするときは、不明な点が多く不安です。そのような場合には、専門知識を持つ証券会社のスタッフからアドバイスを受けて、安心して株取引を行うことができます。ネット証券のメリットは手軽さと低い手数料です。証券会社に足を運ばなくても、インターネット環境があれば自宅で株取引ができるため、手間がかかりません。また、ネット証券は店舗証券のように、店舗を構えたり営業職の人間を抱えたりする費用がかかりません。そのため、売買手数料を抑えることができます。

■証券会社の仕事

(1)委託売買(ブローカー)業務

投資家から株式や債券の売買注文を流通市場に取り次ぐことです。株式の売買時の仲介を行います。仲介する際には投資家から委託手数料等を受け取ります。

(2)自己売買(ディーリング)業務

証券会社が投資家となって調査などを行い、独自の判断により自社の資金で株式や債券などを売買することです。

(3)引受け及び売出し(アンダーライティング)業務

株式会社などが株式や債券を新たに発行するとき、証券会社が多くの投資家に売り出すことを目的に、その全部または一部を買い取る業務です。仮に売れ残った場合には、証券会社が引き取ります。

つまり、引受けとは、証券会社が株式会社から株式や債券を買い取って、発行・募集の手続きを行うということです。一方、売出しは、すでに発行されている証券を対象にして、同様の業務を行うことです。

(4)募集・売出し(セリング)の取扱い業務

募集・売出しの取扱い業務とは、新たに発行される証券やすでに発行されている証券を、多くの投資家に買ってもらうために勧誘する業務です。引受け及び売出し業務と似ていますが、最終的に売れ残った証券を証券会社が引き取る必要がない点が異なります。

【3】株って何?

■株とは

株とは、企業が資金を集める手段です。企業が事業を拡大したり、新しいことに挑戦したりする際に資金が必要になります。そのため、発行した株を買ってもらうことで資金を集めます。現在、市場に公開されている株式は電子化されており、手にとって見られる紙製の券(株券)は存在しません。株式を保有している人を株主と呼びます。なお、株と株式は同じ意味です。

株は「証券取引所」で取引されています。証券取引所は世界各国にあります。日本では、東京証券取引所が中心です。その中でも、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分があります。これらは市場のコンセプトによって分けられています。

■新市場のコンセプト

プライム市場

多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。

スタンダード市場

公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。

グロース市場

高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場です。

2022年4月4日にこの区分となりました。それ以前は、第一部、第二部、マザーズ及びJASDAQの4つの市場区分がありました。

■上場企業とは

株を証券取引所で売買できる企業のことです。株式市場で株が売買されるようになることを上場と言います。その会社に信用がなければ、上場されません。非上場の企業は約400万社あります。上場している企業が3500社あります。厳しい審査をクリアした企業の株は、誰でも売買できるようになります。つまり、上場して市場からお金を集めることができるようになります。そのため、基本的には株を買うということは、この上場企業の株を買うということになり、その企業の株主になります。株主になるということは、その会社の所有者になるということです。株主総会に出席して意見を述べたり、企業の方針などの決議での議決権を持ったりできます。ただし、議決権は保有する株数によるので、保有する株数が少なければ、その企業を自由にできるわけではありません。

【4】株の歴史

■株式会社の起源

1602年にオランダで設立された「東インド会社」は株の起源とされています。当時ヨーロッパでは、貴重なコショウや香料などの香辛料を東インド(現在のインドネシア)から輸入していました。しかし、長い航海の間に船が難破したり、海賊に襲われたりすることもしばしばあり、全財産を失う商人もいました。

そこで、その損失の負担を多くの人で分散する仕組みとして株式会社の概念が生まれました。多くの人から資金を集めて会社を設立し、船の建造や渡航中の生活物資の購入、香辛料の買い付けなどの費用に充てることができました。

多くの人が少しずつ資金を出し合ったため、もし船が難破などで損害が発生しても、はじめに出した資金以上に損をすることがなく、一人で大きな損失を抱える危険がなくなりました。資金を出した人には、その証明として株式を発行し、その資金の割合に応じて、貿易で得た利益を分配したのです。

【5】私たちの生活と投資について

■投資を知ると私たちにどう役立つのか

投資の知識を学び、投資を行うことが私たちの生活にどう役立つのかを知るために、お金の使い方を「投資」、「貯金」、「何もしない」の3つに分けて比較し、考えてみましょう。

25歳の3名の方に毎月1万円の使い道を尋ねたところ、2000年から2020年の20年間、Aさんは毎月1万円を全世界株式に投資し、Bさんは毎月1万円を銀行に預け、Cさんは毎月1万円を投資も貯金もせずにすべて使うとしました。この20年間ずっと同じ使い道を続けた結果はどうなるでしょうか。

Aさんは、全世界株の投資で8.46%の利率で運用できたとした場合、1万円×12カ月×20年間=240万円の元本が624万円になります。

(MSCI ACWIグロス金融庁ホームページ:つみたてNISA早わかりガイドブック参照)

Bさんは、普通預金の金利0.001%が20年間続いたとした場合、240万239円となります。

Cさんは、すべて使ってしまったため、0円のままです。

※いずれも税金の考慮なし。

2000年 2020年

Aさん 240万円 624万円

Bさん 240万円 240万239円

Cさん 0万円 0万円

過去20年間投資をしていた場合、240万円が624万円となりました。毎月1万円を投資に回すだけで、貯金に比べて大きくプラスになることがわかります。これは投資をすれば必ずプラスになるということを言っているのではありません。投資の結果はすべて自己責任です。投資はリスクがあるため、プロの投資家でもマイナスになったり、失敗をしたりすることがあります。投資はリスクがあるけれど、ギャンブルではないため、投資に関連する世界や日本の経済、金融のことを正しく理解し学んだ上で始めれば、資産運用の結果を良いものにすることができます。大事なお金を減らさないようにと投資をしないという選択肢ももちろんあります。しかし、投資のことを知らないで、失敗を恐れるあまり投資をしないのは、将来のお金を増やす機会を自ら逃しているということになります。

将来、生活にかかる費用は今よりも増加すると予想されています。また、ライフイベントにはまとまったお金が必要となります。お金を増やす方法を考えることは必須ともいえるでしょう。まずは投資を含む金融リテラシーの向上を目指し、その上で、自分に合った方法を判断することが重要です。その上でお金と上手に付き合って、楽しく人生を過ごしていきましょう。

【6】日本の歴史とこれから

■日本のお金に関する歴史

日本では、NISAやiDeCoなどをはじめとして、投資が身近になりつつありますが、まだ全ての人が投資をしているわけではありません。まず日本の投資の歴史と現状を確認し、投資が推進されている理由を見てみましょう。

(1)過去の日本における銀行の貯金金利

1970年代には、旧郵政省・日本郵政公社(現ゆうちょ銀行)の郵便貯金で、最高で8%の利息(定額郵便貯金3年以上の場合)が付いていました。

例えば、1990年に100万円を1年間預けていれば、年利率を6.3%とすると、106万3,000円になりました(税金は考慮していません)。つまり、郵便貯金や銀行に預けるだけでお金が増えることが普通であり、特に投資をしなくても良かったのです。現在のゆうちょ銀行の定額預金(※金利0.002%・2023年3月現在)では100万円を1年間預けた場合、利息は20円となり、さらにその利息には約20%(分離課税の場合)の税金がかかり、ほとんど増えません。しかし、過去には預貯金だけでも十分資産形成ができていた時代があったのです。

(2)世界の時価総額

次に、1989年と2020年で世界の企業の時価総額上位の順位を比較してみます。

1989年では、世界の上場企業トップ10の中に日本の企業が7社入っていました。しかし、2020年ではアップル、マイクロソフト、アマゾンなどアメリカの企業が上位にきており、日本の企業はトップ10に1社も入っていません。約30年が経ち、日本の産業全体の国際競争力が低下していることがわかります。次に、世界各国の平均賃金と日本の平均賃金の推移を確認します。

(3)世界の平均賃金

赤色の棒グラフが日本、青色の棒グラフがOECD加盟国の平均賃金です。日本の平均賃金がOECD加盟国よりも低いことがわかります。アジアの中では、韓国よりも順位が下となっています。

(4)平均給与の推移

対前年伸び率を見ると、近年では2020年(令和元年)と2021年(令和2年)が大幅に下がっていますが、これは新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動への影響を表していると考えられます。この2年間以外では、2011年(平成23年)以降緩やかではあるものの伸びてはいますが、かなり横ばいに近いことがわかります。つまり、日本の賃金は世界各国に比べ伸びが緩やかで、世界に後れを取っているということがわかります。

■日本の経済状況の背景

昔は日本ではお金を銀行に預けておくだけで増える時代でした。そして世界的に見ても経済の競争力が強い国でした。しかし、世界各国が競争に勝ち上がってきて、日本は年収が下がってきたわけではないものの伸び率が低く、世界各国の競争に後れを取っているという状況です。では、なぜこのような状況になっているのでしょうか。人口の推移に着目してみましょう。

(1)日本の人口の推移

日本の経済が世界各国に比べ伸び率が良くない理由の一つが人口です。国の人口が多いということは、その分衣・食・住が必要となります。それらに関係する企業が増え、雇用も増えます。そうすると消費活動につながり、その結果、経済成長につながります。つまり、基本的に人口が増えていくと経済は成長すると言われています。日本は1950年代から人口が増え続けていましたが、ピークは2008年の1億2,808万人となっています。そのピークを越えて徐々に人口が減っています。将来の人口の予測も含めるとかなり下がっていくと見込まれているのが日本の現状です。

一方、世界ではどうでしょうか。世界全体の人口は現在およそ80億人で今後も増えていく予測が立てられています。主な国の人口増減を見るとインド、アメリカは増えていく予測となっていて、中国はピークを迎え、その後は減っていく予測が立てられています。世界全体で見ると人口増加へ向かっていく予測ですが、経済の成長はどのようになっているか確認してみましょう。

(2)主要国の実質GDP

この20年間ほどはほぼ右肩上がりであることがわかります。2009年に下がっているのは、リーマンショックによる金融危機によるものです。また、2020年に下がっているのは、新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動への影響が反映しているためです。このような景気の悪化は数十年に1回ありますが、それでも経済は復活して右肩に上がっていることが読み取れます。それは人口が増えて、経済も成長しているためです。

(3)日経・東証平均株価(長期系列)の推移

日本は1990年に日経平均株価が最高値を付けて以来下がり、近年少しずつ株価が上がっているものの、まだ1990年の株価にはたどり着けていないというのが現状です。

以上、さまざまなデータで日本の状況を見てきましたが、実際に日本人がこの経済下でも十分に貯蓄していて豊かな生活が送れていれば問題はありません。しかし、平均給与はほぼ横ばいにもかかわらず、2022年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、総合指数(変動の大きい生鮮食品を除く)が104.1というように、物価上昇しているにもかかわらず、平均給与は変わらないという現実があります。今後、物価上昇に合わせて、大手企業をはじめ賃金も上げるという報道がされていますが、国民全体の給与所得が増えているとは言えません。

【7】国の政策としての投資

2022年(令和4年)11月28日、岸田総理は第13回新しい資本主義実現会議を開催し、資産所得倍増プランを決定しました。プランの概要は、国民が金融資産を貯蓄から投資に振り向けるように促し、所得向上を図ること、そして、家計の資金が企業の成長投資の原資となり企業の成長が促進されることで、「成長と資産所得の好循環」を生み出す政策です。このプランでは、当面の目標として、NISAの恒久化や投資上限額の引き上げなどで、今後5年間でNISAの対象口座数と累計の買付額を倍増させることを掲げています。目標を実現するために、投資未経験者を投資に踏み出せるようにするための政策など、以下の「7本柱」の取り組みを一体として推進するとしています。

第一の柱

家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化

加入第二の柱

可能年齢の引上げなどiDeCo制度の改革

第三の柱

消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設

第四の柱

雇用者に対する資産形成の強化

第五の柱

安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実

第六の柱

世界に開かれた国際金融センターの実現

第七の柱

顧客本位の業務運営の確保

中でも、国民にとってわかりやすく影響する政策は、NISA制度の拡充、iDeCo制度の改革や中立的で信頼できるアドバイス提供の促進、金融経済教育の充実、企業による資産形成の支援強化に取り組むことが挙げられます。すでに動き出しているのが、2022年12月16日に公表された「令和5年度税制改正大綱」にて、2024年1月以降のNISA制度(新しいNISA)についてです。非課税投資枠の大幅な拡大と制度の恒久化等が明記されています。関連法案の可決を経て成立するため、2023年3月現在、決定事項ではありませんが、金融庁のホームページでは既に新しいNISA制度の説明がされています。このように国は今後国民を投資に振り向けることに一層力を入れていることがわかります。

【8】投資詐欺に合わないために

投資は正しい知識を持って行うことによって、リスクを踏まえた上で利益を得られるものです。しかし、「投資=あやしい=損するもの」といった根強い思い込みが日本に浸透しているのも事実です。なぜなら投資を語って、詐欺まがいの事件や悪徳商法を行う犯罪が後を絶たないからです。「必ず元本保証します」「確実に儲かります」「絶対に投資した方がいい」などおいしい話にすぐに飛びつかず、冷静になることが大切です。投資に関する困りごとに巻き込まれないように、どのような事例があり、どのような注意を払ったらいいのかを見てみましょう。

■過去の投資詐欺事件から学ぼう

投資詐欺というと、金融リテラシーが低い人や高齢者が巧みな言葉に騙されてお金を騙し取られてしまうというイメージがあるかと思います。金融知識がなくて騙されてしまう場合も確かにありますが、そのような詐欺のみならず、年齢問わず、金融知識があっても騙されてしまう場合があることに注意が必要です。

例えば、高配当の特別な金融商品が購入できるという話を持ち掛けられたとします。近しい人間関係にある人からの話だったり、公的機関を装った演出だったりでその金融商品を購入しても問題ないと思わせるのです。さらに実際に利回りの良い配当金がもらえることで投資した人を安心させます。信じ込ませる手口が用意された後、気づかないうちに配当金が出なくなり、最終的に金融商品を販売した人と連絡がとれなくなり、お金がだまし取られていたとかお金が返ってこなかったなどがあるのです。最近では、芸能人の多額な投資詐欺に関与していたというニュースがありました。FXでの投資の失敗を不動産投資で取り返そうとしたため、出資した金を運用して高い利益を出すおいしい話にのめり込み、さらに周囲の人を勧誘して巻き込んだと言われています。このような出資金を運用して利益をだましとる投資詐欺手法をポンジスキームと言います。では、投資詐欺に巻き込まれないようにするためにはどのような対策ができるでしょうか。

■こんな話に気をつけよう~未公開株、出資金、元本保証~

投資詐欺ではよく使われる言葉というのがあります。トラブルに巻き込まれる前にできることは、これらの怪しい言葉に十分に注意することです。「未公開株で儲かる」「出資金を出してくれれば倍以上になる」「絶対に元本保証される」などです。このような言葉に遭遇した場合、まず次のことを確認しましょう。

・金融商品は金融庁に届け出てあるのかを確認

・金融商品を扱っているのなら、証券仲介業や投資顧問業などの登録を確認

また、「不審な投資の勧誘を受けた」「しつこい勧誘に困っている」「投資のトラブルに遭ってしまった」など、投資に関する困りごとがあるときや投資を持ち掛けられたけど自分で正しい判断しかねるときなど、投資詐欺の被害相談を取り扱う消費者ホットラインなどに相談してみることで未然に詐欺に合うことを防ぐこともできます。ここも押さえておきましょう。

・投資詐欺の被害相談を取り扱う消費者ホットラインへの相談

これまで投資詐欺に合わないようにするためにはどのようにすればよいのかをみてきました。よくわからない話は正しい情報だとしてもあやしく感じる人がいます。しかし、投資の知識と経験を積み重ねることによって、適切な情報を取捨選択できる力が得られます。投資の話は勉強不足でわからないから、最初から全く手を出さないというのは、有利な制度があるにもかかわらず、損に近いことをしている可能性があります。少しずつでも知識や経験を積むことが投資詐欺に合わないことの第一歩となることを忘れないようにしましょう。

第2章 iDeCoとNISAとは

【1】iDeCoとNISAの歴史

■iDeCo(個人型確定拠出年金)とは

iDeCoは自分が拠出した掛け金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度です。

少子高齢化が進む日本では、公的年金だけで豊かな老後生活を送ることはますます難しくなっていくと考えられます。そのため、公的年金を補うために、老後資産の準備をしておく自助努力の制度として国が整備したのが「個人型確定拠出年金」制度、iDeCoです。つまり、iDeCoは老後のための資産形成を後押しする国の制度であり、このような位置付けから、税制優遇が用意されています。

■iDeCoの歴史

2001年10月1日に制度がはじまりました。資産運用における他の非課税制度「NISA」や「つみたてNISA」よりも長い歴史があります。iDeCoという愛称がつけられたのは2016年9月で、それまではiDeCoがアメリカの制度の401kをモデルとして制度化されたため「日本版401k」や「個人型確定拠出年金」と呼ばれていました。「個人型確定拠出年金」は英語表記で「individual-type Defined Contribution pension plan」(個人型の拠出額が決まった年金制度)となり、この頭文字の大文字と小文字を組み合わせてiDeCoと呼ばれています。

制度開始時は、自助努力で老後資金をためる制度が整備されていない方向け、つまり、自営業者(=国民年金保険第1号被保険者)や企業年金が実施されていない企業に勤務している会社員の方(=一部の国民年金保険第2号被保険者)のみが加入できました。

しかし、ライフスタイルが多様化してきたこと、また、国民の自助努力による資産形成を促す観点から、2017年1月から国民年金の第3号被保険者(以下、「専業主婦(夫)」と記載いたします)の方もiDeCoに加入することができるようになりました。

■iDeCoの加入者数の推移

2017年(平成29年)1月から加入対象者が大幅に拡大し、ほとんど全ての現役世代が利用可能な制度に生まれ変わり、加入者数が増加していることがわかります。

最近では、2022年5月施行の法改正により、iDeCoの加入可能年齢が国民年金被保険者であれば65歳未満まで引き上げられました。また、2022年10月の法改正以降、DCと呼ばれる企業型確定拠出年金の制度がある場合、その中で金融商品を選んで資産運用をしている方についても、原則としてiDeCoに加入できるようになり、全員が加入できる制度が整ってきています。このように、国民全員がiDeCoを利用できるように、ますますiDeCoが普及していく見込みです。

■NISA(少額投資非課税制度)とは

通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。NISAは証券会社等で開設したNISA口座で、これらの金融商品から得られる利益、その配当金等や譲渡益が非課税になる制度です。NISA口座は投資金額に上限はあるものの、一定の期間内の所得については非課税となるため、中長期の資産形成に向いた制度となっています。(※2024年以降は新しいNISAに変わる予定です。)

NISAには一般NISAとつみたてNISAがあります。つみたてNISAは2018年から開始された積立投資に特化した少額投資非課税制度です。一般NISAと併用はできません。

ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)は2016年から開始された子どもの将来に向けた資産形成をサポートするために導入された非課税制度です。利用者が少ないため、2023年末制度廃止予定となっています。

■NISAの歴史

NISAは2014年1月1日から始まりました。イギリスの少額投資を優遇する非課税制度であるISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにした日本版ISAとして、NISA(ニーサ・Nippon Individual Savings Account)という愛称がついています。

NISA制度の創設の背景には、2013年末の証券優遇税制の廃止があります。2003年(平成15年)1月に5年間の時限措置で、上場株式などの配当や売却益にかかる税率が本来20%から10%に軽減される制度が導入されました。この証券優遇税制が2013年末で終了し、代わりに、イギリスのISA制度を参考に家計の自助努力に基づく資産形成を支援・促進を図るため、NISAが考え出されました。

このような背景でNISA制度が創設され、着実に普及はしていたものの、若年層や退職前の中高年層の口座開設が少なかったり、口座開設をしていても一度も買付けを行っていない口座が多かったり、利用者が広がりませんでした。そのため、少額からの積立、分散投資の促進を図るため、つみたてNISAが創設されました。同様に子どもも長期的に将来に向けて資産形成ができるように、ジュニアNISAが創設されました。

【2】iDeCoとNISAの制度

iDeCoとNISAは、その制度の中で投資を行った場合に税制メリットのある枠組みです。通常、金融商品に投資して売却時に利益を得た場合や受け取った配当金に、税金が課税されますが、それぞれの条件に合う運用内であれば非課税になります。国を挙げての後押しのある制度を理解し、上手に活用していきましょう。

■iDeCoの制度

iDeCoは自分が拠出した掛金を自分で運用し、資産形成する年金制度です。公的年金に自分でさらに上乗せして老後資金を作るものとなっています。

毎月最低5,000円から拠出できます。掛金は65歳(※1)になるまで拠出可能であり、60歳以降(※2)に老齢給付金を受け取ることができます。基本的に20歳以上65歳未満の全ての方(※3)が加入でき、多くの国民の皆様に、より豊かな老後の生活を送っていただくための資産形成方法のひとつとして位置づけられています。

(※1)60歳以降は公的年金に加入している人だけが対象

(※2)60歳になるまで、原則として資産を引き出すことはできません。iDeCoの老齢給付金を受給した場合は掛金を拠出することができなくなります。

(※3)一定の条件があります。(詳細は加入者資格にて説明)

加入できるのは、自営業者、フリーランス、専業主婦(夫)、企業型年金に未加入の民間企業の従業員、公務員などで、企業型年金に加入している方も要件を満たせば加入できます。また、海外に居住している方も国民年金に任意加入している場合は加入できます。

■iDeCoの加入資格

国民年金に加入している人ほぼすべてがiDeCoの加入資格があります。

■掛金

掛金とは積み立てる金額のことです。月々5,000円から1,000円単位で自由に設定できます。年金資産となるため、基本的に60歳まで引き出せません。自分が無理なく拠出することができる金額をよく考えて決める必要があります。なお、掛金額は、年1回見直しができます。また、掛金の拠出を止めることはいつでもできます。

■掛金の拠出限度額

掛金の拠出限度額は、公的年金の加入区分や勤務先の企業年金の加入等により異なります。

■年金資産の受け取り方

iDeCo老齢給付金の受け取りは、次の3通りあります。

(1)年金として受け取る

iDeCoを年金で受け取る場合は有期年金(5年以上20年以下)として取り扱います。受給を開始する時期は、75歳になるまでの間で選ぶことができます。受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達したら、5年以上20年以下の期間で、運営管理機関が定める方法で受け取れます。

※金融機関によっては、終身年金として受け取れる場合もあります。

(2)一時金として一括で受け取る

受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達したら、75歳になるまでの間に、一時金として一括で受け取れます。

(3)一時金と年金を組み合わせて受け取る

受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達した時点で一部の年金資産を一時金で受け取り、残りの年金資産を年金で受け取る方法を取り扱っている運営管理機関もあります。

※受給開始年齢

原則60歳から年金資産を受け取ります。受け取りを開始時期は、75歳になるまでの間で選ぶことができます。75歳までの間で自分で選択します。60歳から年金資産を受け取るには、60歳になるまでにiDeCoに加入していた期間等(確定拠出年金の通算加入者等期間)が10年以上、必要です。通算加入者等期間が10年に満たない場合は、受給可能となる年齢が繰り下げられます。

■iDeCoのメリット:最大の特徴は3つの税制優遇

iDeCoの最大の特徴は、積立時、運用時、受取時の3つに税制メリットがあることです。

1つ目の積立時のメリットは、掛け金が全額所得控除になることです。所得税を計算する際に、課税所得からiDeCoの掛け金分を控除でき、当年分の所得税と翌年分の住民税が軽減されます。

例えば、月に1万2,000円(年間14万4,000円)を積み立てる場合、課税所得が400万円の時、適用される税率は所得税と住民税を合わせて30%です。この場合、税負担軽減額は年間4万3,200円(=14万4,000円×30%)となります。これは1年間の税負担軽減額ですので、20年間積み立てた場合は、4万3,200円×20年間=86万4,000円の節税効果となります。課税所得が同じであれば、年間の掛け金が多ければ多いほど税制優遇も大きくなります。課税所得により税率が異なるため、下記の表にて自分の該当箇所を参考にしてみてください。

2つ目の運用時のメリットは、iDeCoで投資をすると得られる運用益に対して非課税となることです。本来なら税金として差し引かれていた資金を再び運用に充てられ、元本が大きくなり、得られる複利効果が高くなります。

3つ目の受取時のメリットですが、各種控除が認められていることです。一括で受け取るか年金形式で受け取るかにより控除の違いがあります。一括で受け取る場合、退職所得とみなされて課税されます。退職所得控除という形で、会社からの退職金と同じ計算方式で控除が認められます。年金形式で受け取る場合、雑所得として課税され、公的年金等控除の対象となります。

【一括の場合の計算式】

退職所得の金額=(収入金額ー退職所得控除額)×1/2

【年金形式の場合の計算式】

雑所得の金額=収入金額ー公的年金等控除額

【退職所得控除額計算式】

勤続年数 退職所得控除額

20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)

20年超 800万円+70万円×(勤続年数ー20年)

■iDeCoの留意点

(1)原則60歳までお金を引き出せない

iDeCoは、老後の公的年金の補完を目的とした制度であるため、原則60歳になるまで年金資金(老齢給付金)を受け取ることはできません。

(2)運用結果は自己責任・元本割れリスクがある

商品の選び方によって、受取時の運用の結果が良くない場合、元本割れのリスクがあります。ただし、iDeCoには元本確保型の金融商品が用意されているため、元本割れしたくない場合でも選べる金融商品があることは覚えておくとよいでしょう。

※「元本確保型」の商品もありますが、投資信託等の商品の場合は元本が下回る可能性あります。

(3)各種手数料がかかる

国民年金基金連合会や運営管理機関、事務委託先金融機関に対し、iDeCoへの加入・移管時手数料や管理手数料などの各種手数料がかかります。(手数料は毎月の掛け金や年金資金から差し引かれます。)

■iDeCoの手続きの流れ

離職・転職の際、それまでに積み立てた年金資産を持ち運ぶこと(ポータビリティ)ができます。iDeCoの加入者等が転職・離職した場合、転職先の企業が企業型確定拠出年金を導入していれば、企業型確定拠出年金に年金資産を移管することができます。

■NISAの制度

NISAには、成年が利用できる一般NISA・つみたてNISA、および未成年が利用できるジュニアNISAの3種類があります。

(1)一般NISA

一般NISAは、NISA口座の非課税管理勘定で新規購入した上場株式や公募株式投資信託等の譲渡益や配当金、分配金について、取得した年から最長5年間非課税となる制度です。NISA口座の投資額は、年間の購入額(手数料等を含まない)の合計額で120万円までとなっています。

(2)つみたてNISA

つみたてNISAは、NISA口座の累積投資勘定で定期かつ継続的な方法で購入した公募株式投資信託・ETF(一定の要件を満たすものに限定されます。)の譲渡益や分配金について、取得した年から最長20年間非課税となる制度です。

(3)ジュニアNISA

ジュニアNISAは、ジュニアNISA口座で購入した上場株式や株式投資信託などの譲渡益や配当金、分配金について、取得した年から最長5年間非課税となる制度です。ただし、ジュニアNISAは2023年12月31日で廃止となります。この変更により、今までは18歳未満で引き出すと課税対象となっていたものが、18歳未満でも非課税で引き出すことができます。

■NISAの注意点

口座を開設する金融機関は1年単位で変更することも可能ですが、開設済みのNISA口座において、すでに株式・投資信託等を購入している場合、その年は他の金融機関に変更することはできません。NISA口座内で、つみたてNISAと一般NISAを1年単位で変更することは可能です。

■2024年以降のNISA制度について:新しいNISA

令和5年度の税制改正大綱にて、2024年以降のNISA制度の抜本的拡充と恒久化の方針が示されました。新しいNISAでは投資枠が年間360万円に増えるほか、投資した商品を売却した金額を再活用できる生涯にわたる非課税限度額が1,800万円となり、非課税で保有できる期間が無期限へと変更され、またこれらの制度を恒久化するなどの大幅な拡充が予定されています。令和5年度税制改正大綱は次年度以降の予定が盛り込まれており、法案可決されたものではありません。しかしながら、新しいNISAについて、すでに金融庁のホームページに説明が掲載されています。

※令和5年度税制改正大綱は今後予定されている制度であるため、今後の動きによって変わる場合もあります。

新しいNISAの注目すべき点は、現行のNISA制度を利用している方はそのままその制度を継続しての利用が可能で、新しいNISAは別枠で利用可能であることです。現行NISA制度を利用している方にとっても、2023年にNISAを利用し始める方にとっても、不利になることはありません。一定の期間、運用益が非課税になるNISAは、抜本的拡充・恒久化の方針が示され、世代間で不利になることがなくなったため、利便性が向上するといえるでしょう。

【3】iDeCoとNISAに対する国の方針

■iDeCoは全員加入の方針へ

2022年12月時点で約278万人の方が加入しています。加入者数が増えているのは、国が制度を利用しやすいように法改正を進めているためです。令和5年度の税制改正大綱では、「iDeCoの加入可能年齢の70 歳への引上げや拠出限度額の引上げについて、2024年の公的年金の財政検証にあわせて、所要の法制上の措置を講じることや結論を得るとされていることも踏まえつつ、老後に係る税制について、例えば各種私的年金の共通の非課税拠出枠や従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論も参考にしながら、あるべき方向性や全体像の共有を深めながら、具体的な案の検討を進めていく」と言及されています。iDeCoの利用が推奨され、個人で年金を運用するための利用者拡大の方向性が見られます。近年の主な法改正でも同様の傾向があります。

以下に、近年の主な法改正(今後の予定も含む)をまとめます。

(1)2022年5月:iDeCoの加入年齢要件などが拡大

以前:iDeCoに加入できるのは、60歳未満の方のみ

2022年5月以降:以下の方が加入可能

・会社員・公務員など(国民年金第2号被保険者)で60歳以上65歳未満の方

・60歳以上65歳未満で国民年金に任意加入している方

・国民年金に任意加入している海外居住の方

(2)2022年10月:企業型DCの加入者の利用拡大

・iDeCoに加入できなかった企業型DC加入者の方もiDeCoに加入可能

・iDeCoの掛金額は、各月の企業型DCの事業主掛金額と合算して月額5.5万円(確定給付型(DB)の他の制度にも加入する場合は、月額2.75万円)を超えることは不可

※要件

①掛金(企業型DCの事業主掛金・iDeCo)が各月拠出であること

②企業型DCのマッチング拠出(加入者掛金拠出)を利用していないこと

(3)2024年12月:iDeCoの拠出限度額が変更(確定給付型に加入する場合)

・確定給付型の他制度に加入する場合(公務員を含む)のiDeCoの拠出限度額が1.2万円から2万円に引き上げられる。

・iDeCoの掛金額は、各月の企業型DCの事業主掛金額と確定給付型ごとの他制度掛金相当額(公務員の場合は共済掛金相当額)と合算して月額5.5万円を超えることは不可。

■新しいNISAの制度化

令和5年度税制改正大綱によると、2024年以降、NISA制度は大幅に変更される予定です。

改正のポイントは以下の通りです。

・制度利用期間の恒久化

・非課税期間の無期限化

・非課税投資枠の増額

・旧制度との併用可能

2022年11月に開催された「新しい資本主義実現会議(第13回)」での資産所得倍増プランでも言及され、さらに2022年12月の令和5年度税制改正大綱で具体的な制度が打ち出されたことから、国としても本気でNISAの改革に取り組み、国民に投資を促し、所得を増やせるようにしたいという意気込みが伺えます。

【4】結局利用した方がいいの?

NISAとiDeCoの両方の枠を上手に活用することで資産形成がしやすくなっています。では、結局どのように利用したらよいでしょうか。iDeCoは原則として60歳までお金を引き出せない「老後資金」を貯めることが目的となります。一方、NISAはいつでも自由に引き出すことができます。必要な時に一部解約し引き出すことができます。ただし、投資であるため、すぐに使うお金をこれらに回すことは向いていません。こうしたことを踏まえて、使い分けが必要となります。余裕があれば両方を利用することが良いですが、目的や自分の年齢や家族構成などの属性によって、使い分けが必要になってきます。

「子どもの教育費(主に大学進学費用)」「住宅購入費」「老後の生活費」をイメージしながら、具体的に考えてみましょう。

■「老後の生活費」

iDeCoの利用を優先して考えましょう。税制優遇が手厚いため、iDeCoを利用することによって効率的に老後資金を作ることができます。iDeCoで積み立てたお金は60歳まで引き出しができない点をデメリットと感じるかもしれません。しかし、「老後の生活費」の準備を始める覚悟を決めたなら、この目的で半ば強制的に貯められることはメリットとなります。引き出しができない点を考慮し、決して無理のない範囲の金額で利用することが大切です。掛金の変更が年1回できることも頭に入れておきましょう。また、どうしてもiDeCoで積み立てたお金を60歳まで引き出さないと決めてしまうのが心配だという場合には、老後資金をつみたてNISAで準備するのも一つの方法となります。

■「子どもの教育費」

必要になる時期や金額をある程度見通すことができます。いつでも売却して、お金を引き出せるつみたてNISAであれば、売却するタイミングに注意が必要とはなりますが、あらかじめお金が必要な時期に引き出すことが可能です。ジュニアNISAも活用できます。制度の特性上、まだ低年齢の方が長期積み立てを行う場合に有効となります。2023年度で終了する制度となりますので、終了後はつみたてNISAの活用となります。

■「住宅購入費」

「住宅購入費」はいつ必要とするのかは、ライフプランの中で見定めていくのが良いと考えられます。仮に、「できれば早く購入したい」と考えている場合には、必要となったときにすぐにお金を引き出せるように預貯金で準備するのが適しています。

少し先であれば、NISAの活用、また、勤め先に財形貯蓄制度があれば、制度の内容を確認した上で検討しましょう。財形貯蓄制度とは会社が従業員の給与から本人の希望する額を天引きして貯蓄する制度で、「一般財形貯蓄」「財形住宅貯蓄」「財形年金貯蓄」があります。「財形住宅貯蓄」は使い道が住宅取得等と限定されている代わりに、財形年金貯蓄との合算で合計550万円の元本に対する利息が非課税になるというメリットがあります。

目的や資金を必要とする時期がある程度明確であれば、どの制度を使えば良いのかを決めやすいです。若い人など資産形成の目的がはっきりしていない場合にはどうすれば良いでしょうか。「つみたてNISA」で(将来の)子どもの教育費、財形住宅貯蓄で住宅購入費、「iDeCo」で老後の生活費と振り分けるだけの余裕があればいいのですが、現実的には難しいと思われます。「iDeCo」は早く始めるほど効果が大きいので、誰もが必ず迎える老後の生活費については、少額からでもなるべく早い時期から「iDeCo」を利用して準備を始めることをおすすめします。それ以外は「つみたてNISA」と預貯金を併用しておき、余裕ができたら、「iDeCo」や「つみたてNISA」の積立金額を増やすという方法で資産形成を行うと長期的な資産形成を着実に行うことができます。

■出口戦略

「つみたてNISA」や「iDeCo」などを利用して長期の資産形成を行うと決めたら、金融商品の日々の値動きに一喜一憂することなく、腰を据えて取り組みましょう。ただし、長期といってもその間何もしなくて良い、というわけではありません。子どもの大学進学やセカンドライフのスタートなど、資金が必要な時期が近づいてきたら、保有する金融商品を売却して預貯金などのリスクの小さい商品に移し替えるという見直しが必要になります。

第3章 投資信託とETF

【1】株式とは?

■株式投資とは

株式投資とは、会社の株式を購入し資金を提供することですが、その株式を買うとは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。大きく分けて2つの方法があります。

(1)すでに発行されている株式を買う方法

証券会社に買い注文を出して、その会社の株式を売りたい投資家から買う方法です。日々行われている株式の売買はこの方法です。投資家から証券会社に出された売買注文は、証券取引所に集められ、値段が折り合うと取引が成立します。その後、株式の受け渡しと売買代金の決済が行われます。したがって、株式を買った投資家のお金は、株式会社ではなく、株式を売った投資家に渡ります。

(2)株式会社が新たに発行する株式を買う方法

株式会社が事業拡大などで資金が必要になったときに、新たに発行する株式を買う方法です。この場合は、証券会社に応募して買うことになります。投資家が買った代金は、株式会社に渡ります。

■株式投資の特徴

株価変動によって利益と損失が生じるリスク商品です。安全性は低くても大きな収益性が期待できるのが株式への投資です。株式への投資は、個別の会社に投資をし、その会社の成長によって運用成果を得ることができます。どのような会社に投資をするのか事前に調べたり、分析することが必要になります。気になる会社の業績や経営・財務状況を確認し、成長の見込みや安定性などを多角的に分析します。そして、市場や銘柄を決めて投資を行います。なお、株取引には禁止事項があります。そのうちの一つがインサイダー取引です。立場上知り得た重要な株価の動きを左右するような情報の公開前にその会社の株を売買する行為で、このような禁止事項に注意が必要です。

〔株式投資の魅力〕

購入した株式により、下記のメリットが得られます。

・譲渡益(キャピタルゲイン):買った時よりも高く売れると、譲渡益が得られる

・配当金:会社が得た利益を株主に還元する「配当金」が受け取れる

・株主優待:会社の製品やサービスなどの優待を受けられる場合もある

〔株式投資のリスク〕

・価格変動リスク:買った時よりも、値上がりする場合も値下がりする場合もある

・信用リスク:投資した会社が将来存続している場合も破綻する場合もある

・為替変動リスク:外国の金融商品に投資する場合、換金・満期の際に、為替の変動により円での手取り額が、購入(預入)時の金額を上回る場合も下回る場合もある

・カントリーリスク:投資先の国や地域の政治経済・社会環境など、その国や地域の特有の問題や変化などから生じる価格の振れ幅

〔株式投資のメリット〕

・配当や株主優待などそのほかの収入もある

・会社が倒産しても株主の責任は出資額のみ

〔株式投資のデメリット〕

・企業が倒産すれば、株券は紙切れに。

・銘柄が多く情報分析が大変

・信用取引では出資額以上に損失が膨らむこともある

【2】投資信託とは?

■投資信託とは

投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、資産運用の専門家が株式や債券などに投資・運用し、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配される仕組みの金融商品です。投資信託はファンドとも呼ばれます。投資信託は、株式や債券、不動産などの詰め合わせ商品であり、安全性を重視したものから収益性を重視したものまで、様々な種類があります。

■投資信託のリスク

投資対象が何かによってリスクやリターンが変わります。

■運用方法

投資信託が運用成果の目安としている指標(日経平均株価やTOPIXなど)を「ベンチマーク」といいます。投資信託の運用方法には、ベンチマークへの連動を目指す「パッシブ運用」と、ベンチマークを上回る成果を目指して積極的に運用する「アクティブ運用」があります。なお、「パッシブ運用」に似ている運用方法で、特定の指数に連動することを目指す「インデックス運用」もあります。

■投資信託の種類

大きく分けて2つの区分があります。また、購入期間が限定されている単位型(ユニット型)といつでも購入できる追加型(オープン型)という分け方、投資対象地域あるいは運用方法などによる分け方もあります

公社債投資信託

株式を一切組み入れず、国債や社債などの債券(公社債)を中心に運用する投資信託です。

株式投資信託

株式を組み入れて運用することができる投資信託(実際には、株式を組み入れずに運用している投資信託もある)

■投資信託の魅力

(1)少ない金額から購入可能

株式や債券に投資するには、ある程度まとまった資金が必要になります。例えば、株式投資では、少額の資金で投資できる制度として、株式ミニ投資(*)や株式累積投資(*)がありますが、通常は数10万円といったまとまった資金が必要になります。一方、投資信託には1万円からという少額からでも投資できる商品がたくさんあります。その1万円を通じて、世界各国の株式や債券へ分散投資することが可能になるのです。

*株式ミニ投資

通常の取引の10分の1単位で売買できる現物株式投資

*株式累積投資(るいとう)

毎月一定金額を決めて買い続ける現物株式投資

(2)株式や債券などへの分散投資

投資信託は、投資家から集めた資金をさまざまな株式や債券などの資産に投資し運用します。つまり、投資信託を購入することで、分散投資を行うことができます。

(3)専門家による運用

投資信託は、運用のプロフェッショナルであるファンドマネージャーが、情報収集や分析を十分に行える環境下で運用されます。そのため、投資家はそのような労力や時間、コストをかけずに投資することができます。投資に費やす時間的な余裕がない人や投資経験が少ない人にとっては、有用な投資手段の一つと言えます。

【2】ETF

■ETF(イーティーエフ)とは

証券取引所に上場し、主に株価指数などに代表される指標に連動を目指す上場投資信託で、「Exchange Traded Fund」の頭文字を取ってETFと呼ばれています。一般的な投資信託とは異なり、ETFは証券取引所に上場され、市場で売買が行われているため、上場株式と同じように売買を行うことができます。

■ETFのメリット

(1)手軽に分散投資ができる

ETFはさまざまな銘柄で構成されており、1つのETFを持つことで、個別企業の株式に投資するよりもリスクを抑えながら分散投資を行うことが可能です。

(2)コストが安い

ETFは、一般的な投資信託と比べて保有コストが安いのが特徴です。

(3)取引所でリアルタイムに売買できる

ETFは、取引所が開いている時間帯では株式と同様にリアルタイムで取引が可能です。信用取引もできます。

■ETFのデメリット

(1)自動積立投資ができない場合がある

ETFは、基本的に市場価格をチェックしながら自身で売買を行うため、自動積立投資ができない場合があります。

(2)分配金が自動的に再投資されない

ETFの分配金は、自動で再投資する仕組みがないため、再投資する場合は手動で買い付けを行わなくてはなりません。

■長期

投資を始める場合、基本的には長期的な視点で運用することが重要です。最初から長期を見据えた方法を選ぶことで、リスクを減らしながら効果的な資産運用を行うことができます。

(1)単利と複利の違い

複利とは発生した利子を元本に加え、新しい元本として利子を計算するものです。同じ利率で預けた場合、期間が長くなればなるほど、複利の方がより多く増やすことができます。

(2)長期的視点

株価は上がったり、下がったりします。上昇し続けるわけではなく、下落することもあります。長い目で見て、利益が出るタイミングを見計らって売却することで、チャンスが見落とされずに利益を得られます。

■積立

投資の方法には手持ち資金を使ってまとまった資金で一度に購入する一括購入と毎回決められた金額ずつ購入する積立購入があります。両者の違いを合計4万円の投資をする例を考えてみましょう。

この例の場合、毎月1万円ずつ購入していた場合の方が、平均購入単価を安くすることができました。定額購入は、金額が毎回同じであるため、価格が安い時には購入する数量が多くなり、価格が高い時には購入する数量は少なくなります。定額購入の方が、株数が多く、平均購入単価が低くなっています。定額購入は、機械的に購入することでリスクを抑える効果を期待できます(ドルコスト平均法)。

■分散投資

「卵は一つのカゴに盛るな」という格言は投資の世界で有名です。一つのカゴにすべての卵を盛っていた場合、そのカゴを落とせばすべての卵が割れてしまいます。しかし、いくつかのカゴに分けて卵を盛っていれば、カゴの一つを落としてもすべての卵が割れることは避けられます。これは、投資でも同様で、リスクを減らし、バランスよく投資を分散させる考え方が重要です。

■分散投資の方法

(1)資産の分散

1つの資産だけに投資するよりも、値動きが異なる複数の資産に分散投資を行うことで、価格の変動が小さくなります。

(2)地域の分散

投資先の地域を分散することで、より安定的に世界経済の成長の利益を得ることが期待できます。

(3)時間の分散

投資を行うタイミング、つまり、購入や売却のタイミングを複数に分けることによって、下落相場にまとまって投資をするというリスクを抑えられます。

【4】事例

では、実際に長期、積立、分散投資を行った場合、どのようになるのでしょうか。過去の株価変動に基づいて、確認してみましょう。

日経平均株価指数に毎月1万円を30年間積立投資をした場合、総積立額(元本)が363万円となり、資産評価額は472万円となります。日経平均株価自体は下がっていますが、このように長期分散で積立を行うと効果的な資産形成ができていることがわかります。

次のグラフは、金融庁作成の「つみたてNISA早わかりガイドブック」に掲載されている長期・積立・分散投資の効果を具体的に表しているものです。

全世界株式に毎月1万円を20年間積立投資をした場合、投資総額(元本)が240万円となり、資産評価額は624万円となります。年利に換算すると約9%です。一方、日本株式(日経平均)の場合、投資総額(元本)に対し、資産評価額は503万円となります。年利約6.9%となることが分かります(年複利、非課税で計算)。

いずれも過去の実績であり、将来の投資効果を保証するものではありません。しかし、上がったり、下がったりする投資商品に対して、長期的に分散投資を行うと、資産を減らすリスクが軽減されることが見て取れます。

第4章 債権・REIT・不動産投資

【1】債券とは?

債券とは、国や企業など(発行体)が投資家から資金を調達するために発行する有価証券のことです。発行体には、国、地方公共団体、企業や金融機関などがあります。

国が発行する「国債」、地方公共団体が発行する「地方債」、民間企業(事業会社)が発行する「社債(事業債)」、金融機関が発行する「金融債」などがあります。

債券には満期が定められており、投資家が債券を購入すると保有期間中はその利子(クーポン)と、満期となる償還日には額面金額が投資家に払い戻されます。

投資家は満期まで保有することもできますし、途中で売買することも可能です。一般的に、債券は株式や投資信託などの他の金融商品に比べると、償還日まで保有していれば「安全性が高い投資商品」と言える一方、債券の時価は変動するため額面金額よりも高くなることもあれば低くなることもありますので、償還日より前に売却すると元本割れのリスクがあります。

■債券価格の種類について

債券の価格には、「発行価格」と「額面価格」があります。新規に債券が発行される際には、「発行価格」が決まります。この発行価格は額面価格と必ずしも同じ金額であるとは限りません。「額面金額100円」の債券を98円で発行することもあれば、101円で発行することもあります。発行価格は、金利動向によって上昇または下降します。例えば、発行価格101円で売り出された債券を額面価格100万円分購入した場合は、購入価格は101万円となります。ただし、債券の保有中に受け取るクーポンは額面金額に対して付き、償還日に払い戻される金額も額面金額となります。

なお、発行価格が100円の場合をパー発行、100円未満の場合をアンダーパー発行、100円より高い場合をオーバーパー発行といいます。

■国債

国債とは、国が発行し、利子および元本の支払い(償還)を行う債券です。割引方式で発行されるものを除き、利子は半年に1回支払われ、元本は満期時に償還されます。

国債には、さまざまな種類があります。個人向け国債は、個人投資家を対象として発行される商品です。固定(3年・5年満期)と変動10年満期の3種類があります。固定の場合は、満期まで利率が変わらないため、発行時点で投資結果を知ることができます。変動の場合は、実勢金利に応じて半年ごとに適用金利が変わります。

固定利付債には、満期が2年・5年・10年・20年・30年・40年があり、変動利付債には15年満期のものがあります。その他にも、元本が変動する10年満期の物価連動国債や、途中で利払いがないが額面金額を下回る価格で発行され、満期時には額面金額で償還されるためその差額(利子相当)を受け取ることができる割引国債などがあります。また、東日本大震災後の平成24年・25年には、復興応援国債(変動10年個人向け)も発行されました。

国債には、期間が短いものから長いものまでがあります。

・短期国債:償還期間1年以内

・中期国債:償還期間が2年~5年以内

・長期国債:償還期間5年~10年以内

・超長期国債:償還期間が10年を超えるもの

新聞やテレビなどで報じられている「長期金利」は、長期国債(10年物国債)の利回りを指しており、経済における長期金利の代表的な指標として使われています。

ちなみに、債券の価格は金利と逆の動きをします。つまり、金利が上昇すると債券の価格は下がり、金利が低下すると債券の価格は上昇するということです。

■地方債

地方債とは、地方公共団体が財政上必要とする資金を外部から調達することによって負担する債務で、一会計年度を超えて行われるものです。地方債は原則として、公営企業(交通、ガス、水道など)の経費や建設事業費の財源を調達する場合(地方財政法第5条各号)などにおいてのみ発行できることとなっています。地方公共団体が地方債を発行する際には、原則として、都道府県及び指定都市では総務大臣、市町村では都道府県知事と協議を行うことが必要とされています。また、総務大臣は同意または許可をしようとするときには、あらかじめ財務大臣と協議することとされています。

地方債は発行対象によって分類されます。

・市場公募地方債は、投資家を対象に市場で発行されます。

・銀行等引受債は、金融機関を対象に発行される地方債です。

■政府保証債

政府保証債とは、政府が資金を調達するために発行する債券のことです。主に機関投資家に向けて販売されます。購入方法も限られているため、個人向けの政府保証債はほとんどありません。

■社債(事業債)

社債(事業債)とは、金融機関を除く、株式会社などの一般法人が資金調達のために発行する債券のことです。投資家が事業会社にお金を貸すことと同じですので、社債は企業の借用書のようなものとなります。社債と株の違いは、株は出資であり、お金が返ってこないものですが、社債は事業会社にお金を貸すということですので、期限が来ると投資家に利子とともに返済しなければなりません。社債(事業債)は発行主体によって、電力債、NTT債、JR債、JT債、および一般事業会社が発行する一般事業債などに分類できます。リスクとしては、社債は企業の経営状況に大きく影響されるため、信用力の低い企業の社債は返済できなくなるリスク(信用リスク)があります。また、金利の変動によるリスク(金利変動リスクまたは価格変動リスクと呼ばれる)が生じる可能性があります。

また、一般事業債の他に、転換社債という設定された株価に値上がりすると株式に転換できる権利が付いた社債や、ワラント社債という債券に行使価格(新株購入が可能な価格)が設定されており、その価格を超えると有利な条件で株式取得ができる権利がある社債もあります。

■外国国債

(1)円建て債券(外債)

円建て債券とは、購入や利払い、償還金の受け取りが日本円で行われる債券です。外債と言っても、外貨建てではないため、為替リスクは発生しません。

・サムライ債:サムライ債とは、外国の発行体が円建てで発行する債券のことです。

・ユーロ円債:ユーロ円債とは、海外市場で発行される円建ての債券のことです。

(2)外貨建て債券

外貨建て債券とは、購入や利払い、償還金の受け取りが外貨建てで行われる債券です。利回りが魅力的な場合が多いですが、為替変動リスクを伴います。

・各国の国内債券:米ドル建て、豪ドル建て、ユーロ建て債券など、外国の発行体がその国の市場でその国の通貨建てによって発行する債券のことです。

・ショウグン債:外国の発行体(企業や政府、国際機関など)が日本市場で、外国の通貨建てによって発行する債券のことです。発行場所が日本であること以外は各国通貨建ての債券と同じです。

(3)二重通貨建て債券

二重通貨建て債券とは、購入や利払い、償還金の受け取りが二種類の通貨で行われる債券のことです。外貨建てと円建ての両建てにすることで、為替差益が得られるメリットがあると同時に、為替差損のリスクを軽減する働きも期待できます。

・デュアルカレンシー債:購入と利子の受け取りが日本円、償還金の受け取りが外貨で行われるものです。利子の金額は日本円で確定される一方、償還金については、為替によって変動するリスクがあります。

・リバースデュアルカレンシー債:購入と償還金の受け取りは日本円、利子の受け取りについては、外貨で行われる。償還金は日本円で確定される一方、利子の金額は、為替によって変動するリスクがあります。

■仕組債

仕組債とは、文字通り、一般的な債券にはないような特別な「仕組み」をもつ債券です。この場合の「仕組み」とは、スワップ(金利(固定金利と変動金利)や通貨(円と外貨)を交換する取引)やオプション(あらかじめ約束した価格で、一か月後、一年後など将来に売ったり買ったりできる権利)などのデリバティブ(金融派生商品)を利用することにより、投資家や発行者のニーズに合うキャッシュフローを生み出す構造のことを指します。こうした「仕組み」により、満期やクーポン(利子)、償還金などを、投資家や発行者のニーズに合わせて比較的自由に設定することができます。この仕組ももちろん重要ですが、仕組債を検討する際には、組み込まれている商品の中身についてもしっかり確認することが必要です。

■リスクについて

(1)金利変動リスク(価格変動リスク)

債券は、金利の変動に大きく影響されます。満期前に売却する場合、市場の取引価格となるため、市場環境によっては額面金額よりも下回るリスクがあります。つまり、金利の変動によって資産の価値が変動する可能性があるということです。市場の金利が上がっている場合、債券価格は下がります。なぜならば、金利が上がると利回りも上昇するため、すでに持っている債券を売ってより有利な投資をしようとする人が多くなるからです。金利が下がった場合は、この逆の動きとなります。

(2)信用リスク

債券の発行体の財務状況(倒産など)により、利払いや償還が行われない可能性があります。

(3)為替変動リスク

外国の通貨で利子や償還金が支払われる外国債券の場合、受取り時点の為替レートによって、円の受け取り金額が変動する可能性があります。購入時の為替レートよりも換金時の為替レートが円高の場合、為替差損が発生する可能性があります(逆に円安の場合はその差が利益となります)。

■債券(利付債)の利回り計算について

利付債の利回り計算は、以下の3種類があります。

(1)応募者利回り:新規発行された債券を購入し償還まで保有する場合の利回り

(2)最終利回り:既に発行された債券を購入し償還まで保有する場合の利回り

(3)所有期間利回り:所有している債券を償還日よりも前に売却する場合の利回り

■投機にあたる、その他金融商品について

まず、「投資」と「投機」の違いについて整理しておきましょう。

投機とは、短期的な価格変動を予測して、その変動に基づいて投資をすることを指します。投機はマネーゲームやゼロサムゲームとも言われ、頻繁に市場動向や値動きのチェックが必要で、取引時間中は売買画面に向かうことになります。リアルタイムに損益が変化していくため、素早く取引することができなければ大きな損失を被るリスクがあります。投機は、投資に比べてリスクが高く収益も不確定なため、主に中長期の運用を目的とした投資とは区別されることがあります。

一般的な投機には、株式(短期的なデイトレードなど)、商品(先物取引やオプション取引)、FX(外国為替)、仮想通貨などが挙げられます。投機はリターンを追求することを目的としているため、投資と比べ収益が高い反面、損失も大きい傾向があります。そのため、投資家は「投資」と「投機」を区別し、自身のリスク許容度に合わせ、十分な情報収集と分析を行うことが重要です。

【2】REITとは?

■REIT(リート)とは

Real Estate Investment Trustの略で、Real Estate=不動産、Investment Trust=投資信託、つまり日本語で表記すると「不動産投資信託」です。

アメリカで生まれた仕組みのため、日本ではJAPANのJをつけて「J-REIT」と呼ばれることもあります。その名前の通り、不動産に投資をする投資信託です。投資信託とは多数の投資家から資金を集め、それを専門家が運用する仕組みの金融商品です。

REITの場合、集めたお金をオフィスビルやマンションなどの不動産へ投資し、その運用から得た賃貸収入や売却益を投資家へ分配します。

■REIT運用の仕組み

まず、REITを理解する上でポイントとなるのは、REITは法律上「会社」のような形態であるということです。これを不動産投資法人と呼びます。この不動産投資法人は、法律によって直接の運用や保管管理などの実際の業務を行うことを禁止されています。そのため、運営・運用のために資産運用会社、資産保管会社や事務受託会社、不動産管理会社などの専門業者への委託が必要となります。

・資産運用会社

・資産保管会社/事務受託会社

・不動産管理会社など

不動産投資法人は投資証券を発行し、投資家は証券会社を通してこの投資証券を株と同じように売買することができます。不動産投資法人は投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設・マンションなど様々な種類の不動産の中から複数の不動産を購入・取得します。先述した通り、不動産投資法人は法律により直接運用などができないため、資産運用会社へ委託し、その資産運用会社が代わりに運用をすることになります。具体的には、購入する不動産の選定や金融機関等からの資金調達、賃貸戦略等の運営方針の決定、さらに不動産価値の維持のための修繕計画や売買決定等を行います。また、保有している資産の保管については資産保管会社に委託されることとなります。信託銀行に委託されることが多く、不動産の権利証等の保管や金銭の出納管理業務を行います。(会計に関する事務は事務受託会社)さらに、建物の管理・メンテナンスやテナントとの賃借契約などの業務は、資産運用会社の指示のもと、不動産管理会社が行うこととなります。そのように運用されて生じる賃貸収入や売却益を、投資家に分配する仕組みとなっています。また、投資家は、株式会社の株主総会にあたる「投資主総会」に参加することができ、意思を示すことができる仕組みになっています。

■REITの金融商品としての特徴

(1)現物の不動産投資に比べて、少額から投資が可能です。

不動産投資と聞くと、実際にマンションなどの不動産を購入して行う現物不動産投資を思い浮かべる人も少なくないでしょう。不動産に直接投資をする場合、通常数千万円以上の多額の資金が必要となりますので、借入などで資金調達も必要になります。これに対して、REITは銘柄によっては数万円から数十万円といった少額から投資できます。

(2)分散投資によりリスクの分散が可能です。

REITはたくさんの投資家から資金を集めて運用するため、複数の不動産に分散して投資が可能となります。そのため、一部の不動産で空室が増えたとしても賃貸収益全体が大きく減ることがない等、一つの不動産に投資する場合に比べてリスクが低減されます。

(3)運用や物件の管理などを専門家がしてくれます。

不動産に直接投資する場合は、物件の選定、運用や管理などの業務を自分で行うか、業務を委託する業者を自分自身で選定しなければなりません。さらに、その業者がきちんと運用しているかを確認するなど多くの手間がかかります。その他、保有している不動産からテナントが退去するなど空室が増えてしまうと賃貸料が減るので、その状態が続くと不動産の維持が難しくなります。これに対し、REITは不動産投資の経験豊かなプロが運用し、物件の管理やメンテナンスなどの運用以外の業務を行う業者の選択や監督も行うので、投資家が不動産に直接投資するような費用や手間がかかりません。

(4)インフレリスクに強い。

不動産投資はインフレ対策としても知られています。インフレとは「物価が継続的に上昇すること」で、物価上昇により現金や預金の価値が目減りする一方、不動産価格や賃料が上昇し、それに伴いREITの価格や分配金も上昇することが考えられます。また、一般的に不動産価格は株価などと比べて変動が小さく、比較的安定しているため、REITは「ミドルリスク・ミドルリターン」の金融商品とされています。

・家賃収入の上昇による影響

REITは不動産物件に投資し、家賃収入を得ます。インフレが進行すると、家賃が上昇する可能性があります。そのため、REITのポートフォリオに含まれる物件からの家賃収入が増加し、分配金も増加することが期待されます。

・不動産物件価値の上昇による影響

インフレが進行すると、不動産物件の価値が上昇する可能性があります。この場合、REITのポートフォリオに含まれる物件の価値も上昇し、評価益も増加することが期待されます。

・借入れコストの低下

REITは不動産物件取得の際に銀行などから借入れを行います。インフレが進行すると金利が上昇する可能性がありますが、REITは物件キャッシュフローに対する利回りを考慮した借入れを行っているため、借入れコスト上昇に比較的強いとされています。

・不動産物件需要の高まり

インフレが進行すると、株式や債券などの金融市場資産に対するリスクが高まります。そのため、不動産物件への投資需要が高まる可能性があります。このような状況下で、REITは不動産物件への投資を代行し、投資家にとって魅力的な投資先となることが期待されます。

(5)高い安定した利回り

REITは年2回または1回決算を行い、投資家に分配金を支払います。株式会社では利益に対して法人税がかかりますが、REITは配当可能利益の90%以上を分配することで法人税が免除されます。そのため、法人税や内部留保などを差し引いた後の配当に比べて、相対的に高い利回りが期待できます。つまり、不動産に直接投資するのと同様に、不動産からの収益のほとんどを決算期ごとに分配金として受け取ることができます。また、不動産の賃料は、あらかじめ決められた金額が定期的に入ってくるため、安定した分配金が期待できます。

■REITのリスクについて

(1)価格変動リスク

不動産市況など様々な要因によって、不動産の評価額や賃料などが影響を受けるため、場合によっては売却時の市場価格が買い付け価格を下回る可能性があります。

(2)信用リスク

投資法人の信用状況や財務状況が悪化し、損失を被る可能性があります。

(3)収益分配リスク

分配金のほとんどが賃料収入によるものであるため、空室率や賃料下落によって分配金に影響が及ぶリスクがあります。

(4)災害リスク

投資対象は実物の建物などであるため、自然災害や環境問題など様々な予期せぬ事象により、減損、破損、劣化などが起こり、資産価値が減少し、分配金などに影響が及ぶリスクがあります。

その他にも、不動産に関する税制や建築規制などの法制度の変更に伴い、規制が強化されたり、新しい規制が設けられたりすることで、不動産やREITの価値に影響を受ける可能性があります。

【3】REITの事例

夫婦は定年を迎え、住宅ローンを完済した後、退職金と年金をもとに生活していました。しかし、年金だけでは生活が厳しく、将来の収入不安を感じていました。そこで、夫婦は投資の勉強を始め、不動産投資信託(REIT)に注目しました。

夫婦は、老後の生活費を補うためにREITの配当金を受け取ることを目的に、いくつかのREITを選び、投資を始めました。選んだREITは、住宅、オフィス、商業施設などの不動産に投資するものでした。夫婦は、分散投資の原則に従い、複数のREITに投資することでリスクを分散しました。

以下は、その時に使ったREITの3つの例です。

夫婦が投資を始めてから数か月後、REITからの配当金が安定的に入るようになりました。

夫婦は、その配当金を生活費に充てることで、年金だけではカバーできなかった生活費を補うことができました。また、彼らが投資したREITの価値も上昇し、将来的には売却することで一時金を得ることもできるようになりました。夫婦は、REITの投資によって老後の収入不安を解消し、豊かな生活を送ることができました。

REITは、定期的な配当金を受け取ることができ、現物の不動産投資に比べて手軽でリスクも低いという利点があります。しかし、投資にはリスクがあるため、投資前には注意深く情報収集を行い、リスクとリターンのバランスを考慮した投資を行うことが重要です。また、REIT投資をすることによって、全員が事例で紹介したような結果になるわけではありません。REIT投資には、不動産市場の変動リスク、利回りの変動リスク、利回りと株価の関係リスク、資産の流動性リスク、利益配分の不確実性リスクなど、さまざまなリスクが存在します。自身の投資目的やリスク許容度に応じてREITに投資するかどうかを慎重に考慮し、事前にどんなリスクが起こる可能性があるかをしっかり理解しましょう。

【4】不動産投資とは?

■不動産投資とは

ここでは、実際に不動産を購入して運用する現物不動産投資について解説します。

不動産投資とは、不動産を購入して他者(テナント)に貸し出し、賃料収入として利益を得る(運用益/インカムゲイン)、または購入した金額以上で売却し、その差額を利益として得る(売却益/キャピタルゲイン)という投資方法のことです。わかりやすく表現すると、大家さんになることです。

■投資する不動産物件の種類

不動産投資物件の種類についても把握しておきましょう。

・区分マンション投資(ワンルームマンションなど)

・一棟マンション(アパート)投資

・戸建て・土地・駐車場など

また、「新築か中古の物件どちらか」「都心か郊外か」なども重要です。

■不動産投資の初期費用について

不動産投資を始める際に必要な費用について把握しておきましょう。

・投資物件の購入(建築)費用

・不動産取得税などの税金

・不動産投資ローンの手数料

・火災保険などの保険料

・管理委託費用

・入居者募集の広告費用

不動産物件の管理や入居者募集等を委託する場合は、その費用と委託先も考慮する必要があります。

■不動産投資のメリットとリスクについて

(1)メリットについて

• 保有している不動産にテナントが入っていれば、安定した賃料収入(インカムゲイン)を得ることができます。

• 不動産市況によって、購入した金額以上で売却できると売却益(キャピタルゲイン)を得ることができます。

• 不動産への投資はインフレ対策になるとも言われています。

• ローンなどの融資によって、手元資金にレバレッジをかけることができます。

• 資産家の方などは相続対策になることもあります。

(2)リスクについて

不動産投資において、リスクを把握することは非常に重要です。物件所有者は、投資に関するリスクを避けることはできませんが、リスクを認識し、対策を講じることで、うまくリスクをコントロールすることができます。以下では、不動産投資における代表的なリスクについて説明します。

• 空室リスク

空室リスクとは、物件が空室になってしまい家賃収入が得られなくなるリスクのことです。物件が空室になると家賃収入が得られなくなるため、物件所有者にとっては大きな収益喪失につながります。さらに、空室期間が長引くと、家賃収入が減少し、物件所有者にとって収益の喪失につながります。空室リスクを軽減するためには、物件の魅力を高め、入居希望者にアピールすることが必要です。

• 家賃下落リスク

家賃下落リスクは、市場環境が変化することによって同じエリアの物件に比べて家賃相場が下落することがあるリスクです。このリスクが発生すると、物件所有者は収益減少に直面することになります。市場環境の変化に対応するためには、市場調査を行い、物件の家賃相場を常に把握することが必要です。

• 家賃滞納リスク

家賃滞納リスクは、入居者が家賃を支払わない場合に発生するリスクです。入居者の支払い能力が低下すると、家賃滞納が増加する可能性があります。家賃滞納が発生すると、物件所有者は収益減少や法的手続きの必要性に直面することになります。家賃滞納を防ぐためには、入居者の信用調査や保証人の確保などが必要です。

• 物件価格下落リスク

物件価格下落リスクは、市場環境の変化によって、物件の価格が下落するリスクです。物件の価格下落が発生すると、物件所有者は売却益が減少することになります。物件価格下落リスクを軽減するためには、物件の魅力を高め、需要を取り込むことが必要です。

• 修繕費リスク

修繕費リスクは、物件の老朽化や自然災害などにより、修繕が必要になるリスクです。修繕費が予算外になると、物件所有者は予期せぬ費用負担に直面することになります。修繕費リスクを軽減するためには、定期的なメンテナンスや予算の見直しが必要です。

• 固定費リスク

固定費リスクは、物件の維持管理にかかる固定費用が予算外になるリスクです。水道代や電気代などの光熱費は、毎月の支出として必要ですが、予期せぬ費用が発生すると物件所有者は予算超過に直面することになります。固定費リスクを軽減するためには、光熱費の節約策の検討や予算の見直しが必要です。

• 災害リスク

災害リスクは、自然災害や事故などにより、物件や入居者に被害が発生するリスクです。物件所有者は、保険に加入することでリスクを軽減することができますが、保険料や自己負担額が負担となります。災害リスクを軽減するためには、保険の見直しや地盤調査などが必要です。

• 事件事故リスク

事件事故リスクは、入居者や周辺地域に発生する事件や事故により、物件に影響が及ぶリスクです。事件や事故が発生すると、物件の評価が下がる可能性があります。事件事故リスクを軽減するためには、入居者の信頼性や周辺地域の治安状況の確認が必要です。

以上が、不動産投資における代表的なリスクの説明です。リスクを理解し、適切な対策を講じることで、不動産投資のリターンを最大化することができます。

■不動産投資の利回りについて

ここでの利回りとは、物件価格に対して年間でどのくらいの利益がでるか(どのくらい回収できるのか)を表す指標のことです。

利回りには、表面利回り・実質利回り・想定利回り・現行利回りなどさまざまな利回りがあります。基本的な表面利回りと実質利回りはしっかり理解しておきましょう。

(1)表面利回り

表面利回りとは、年間の家賃収入から物件価格を割った数字です。利回りが高ければ高いほど収益性が高い可能性があることを意味します。

(2)実質利回り

実質利回りとは、年間の家賃収入から家賃収入を得るために必要な経費(固定資産税、火災保険料、各種管理修繕費、その他手数料など)を引いた金額から物件価格を割った数字です。表面利回りと比べると、実質利回りの方がより正確な収益力を判断できる指標となるといえます。

【5】不動産投資の事例

ワンルームマンションは、単身者向けの小型物件で、投資用不動産として人気があります。以下に、ワンルームマンションの投資の事例と利回りについて説明します。

物件価格:3000万円

賃料:10万円/月

管理費・修繕積立金:1.5万円/月

固定資産税:8万円/年

表面利回り:4%

実質利回り:3.1%

この事例では、物件価格が3000万円であり、賃料が10万円/月です。表面利回りは、年間の家賃収入額を物件価格で割ったもので4%となります。実質利回りは、年間の家賃収入から必要経費(管理費、修繕費、税金など)を差し引いた額を、物件価格で割ったもので、3.1%となります。管理費、修繕積立金、税金などの必要経費を考慮した上で、利回りを算出しています。

ワンルームマンションの利回りは、物件の立地や条件、市場の需給バランスなどによって異なりますが、一般的には5%~10%程度が目安とされています。ただし、物件価格が高額な場合や、管理費や修繕費が多額にかかる場合は、利回りが低下することがあります。また、利回りだけに注目するのではなく、物件の購入価格、ローンの金利や返済期間、物件の維持管理費など、総合的な収支を考慮して投資を検討することが重要です。さらに、築年数によって修繕に大きな金額がかかることもありますし、リスクも存在しますので慎重に検討していくことをお勧めします。

■不動産投資詐欺に注意しましょう

これまで、不動産投資について解説してきました。正しい知識を身につけることで詐欺にあうリスクは低減しますが、念のためどのような投資詐欺の手口があるか知っておきましょう。まず、詐欺といわれるものには、手付金詐欺、満室詐欺、デート商法詐欺、二重譲渡詐欺や海外不動産投資詐欺などがあります。

手付金詐欺とは、通常不動産売買の際には買主は売主に対して手付金を支払うのですが、その手付金を持ち逃げされ、さらに物件も手に入らないという詐欺の手口です。満室詐欺は、空室にサクラを入居させたり、実際には空室なのに満室に見せかけて利回りが高いように見せかけたり、相場より高額で物件価格を設定する詐欺です。デート商法詐欺(婚活・マッチングアプリ詐欺)とは、親密になったところで投資用物件を勧められるという好意を利用して契約をさせ、契約後に全く連絡がとれなくなる詐欺です。二重譲渡詐欺とは、1つの物件を異なる2人に売りつける詐欺です。売買契約をして購入代金を払ったにもかかわらず、登記ができなかった場合(もう一方の購入者が先に登記をしてしまった場合)には物件の所有者であることを主張できないため購入代金を騙し取られ、物件も手に入らない詐欺です。特に現金で購入をする場合には注意が必要です。海外不動産投資詐欺とは、実態のない不動産を販売したり、実際の価格より高額に売りつけられる詐欺です。投資先の物件が海外にあり、現地調査がしにくいため起こる手口です。不動産投資詐欺にかかわらず、「必ず儲かる」「将来価値が上がる」「今すぐ決めないと…」というようなフレーズが出たら要注意です。また、リスクを隠したり説明を省いたりするような業者も存在しますので、不動産投資を始める際には、信頼できる不動産会社かどうかしっかりと見極めましょう。

第5章 ポートフォリオ

【1】資産の振り分け

■資産の振り分け

これまで見てきた資産運用は、比較的安全と言われる投資信託商品を選んだとしても、リスクを伴う商品であることに違いはありません。投資信託は、長期に投資しているからこそ、投資時期のリスク分散にもなりますが、短期で取り崩す資金には向いていません。そこで、目的別にリスクを考慮したお金の置き場所と期間を決めて、振り分けることが重要になります。つまり、「何のために」「いつ」「いくら必要」を整理する必要があります。

■目的と置き場所と期間

短期・中期・長期でお金の置き場所を考える必要があります。お金は直近で使う生活費とは別に、短期・中期・長期にためる資金に分けて考えると分かりやすく振り分けられます。

短期・・・近く使う予定のお金+予備費

→普通預金、定期預金、個人向け国債など

元本保証あるいは元本保証に近いもので、

いつでも引き出せるお金として確保

中期(3~10年くらい)・・・中期的にためる必要がある費用

→代表的な費用・・・旅行、車の購入費、結婚資金、

住宅購入の準備資金、教育費など

長期(10年以上)・・・長期的にためる必要がある費用

→代表的な費用・・・老後資金

中・長期→ここをまず投資でふやすことを考えましょう。

■貯め方

あらかじめ決めた目標金額を月額か年額にそれぞれの貯蓄先に振り分けることが理想となります。先取貯蓄、投資などで半強制的に余計な支出をしないよう防ぐ方がお金が貯められると言われています。

お金の貯まる人たまらない人

「収入-支出=貯金」と「収入-貯金=支出」の方法を比較すると「収入-貯金=支出」ができる人の方がお金が貯まりやすいのです。

【2】日本、アメリカ、イギリスの資産の違い

■日本、アメリカ、イギリスの資産の違い

NISAはイギリスの制度、iDeCoはアメリカの制度をモデルとして、それぞれ制度が作られていることからわかるように、アメリカやイギリスでは日本よりも先に国が推進して資産運用のしやすい制度を整えてきました。そのため、日本よりも投資が一般家庭において浸透しています。そのことが表れているといえるのが次の家計金融資産の構成の円グラフです。各国、お金をどのように分類しているのかを見てみましょう。

家計金融資産の構成の日米英比較

アメリカのグラフを見ると、現金・預金の割合が12.8%となっています。債権、投資信託、株式、出資金等、年金のうちDC(確定拠出年金)、IRA(個人退職勘定)の間接保有を含めた投資の割合は、74.3%です。イギリスでは、現金・預金が27.2%、債権、投資信託、株式、出資金等、年金のうちDC(確定拠出年金)の間接保有を含めた投資には、30.7%となっています。日本は54.9%が現金・預金です。現金の貯金が圧倒的に多いということがわかります。つまり、アメリカ、イギリスでは金融資産を現金・預金以外で投資信託や株式などの金融資産として保有する考えが浸透していて、日本よりも多くの人が積極的な資産形成をしていることがわかります。

家計金融資産の推移の日米英比較

次に家計の金融資産の推移を見てみましょう。2000年から2021年までの資産の伸びと運用リターンを表しているグラフです。家計金融資産がアメリカでは3.4倍、イギリスでは2.3倍、日本では1.4倍の増加にとどまっています。これらの結果により、アメリカやイギリスでは積極的な資産形成を行っており、その結果、金融資産を増やしているということがわかります。

国民性や国の制度、金融教育の背景の違いにより、このような家計金融資産の違いが生じていると考えられます。今までの日本の投資への関心の低さがわかります。

今後は、国は資産所得倍増プランにより、国民に投資を根付かせたいという考えが打ち出されていますので、国民が投資の割合が増やしていくことを目指しています。投資の割合が74.3%のアメリカは運用リターンによる家計金融資産が3.4倍にもなっています。投資の割合が30.7%のイギリスでも運用リターンによる家計金融資産が2.3倍となっています。投資に正解はありませんが、いきなりアメリカのように資産の7割を投資とするのは難しいため、イギリスくらいを目安に考えると投資の割合を資産の半分くらいにすることができると考えられます。

【3】ポートフォリオの組み方

これまで見てきたNISAや確定拠出年金などの資産形成支援制度や金融商品の特徴を踏まえ、自分の資産全体を見渡し、具体的に運用する金融商品を決めることがポートフォリオを作るということになります。では、実際に自分が資産運用を行う上で、どのように金融商品を組み合わせればよいのでしょうか。

■日本の年金資産運用の構成割合

年金も資産運用をしていることから、その割合をみることで分散の考え方の参考にしてみましょう。下記のグラフは私たちが国に年金としてお金を預けて資産運用している構成割合の中身を表しています。私たちの年金はどのように運用されているかというと、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式に対してほぼ4分の1ずつに分散して運用しています。

運用を始めた2001年から2022年度第二四半期までの累積収益額は約100兆円までに増えています。実は国も年金を運用しており、その理由としては正しく行えばきちんと利益が出るということがわかっているからなのです。もちろんリーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた時期は損失が出たりします。しかし、長い目できちんと運用していけば、お金が増えていくということの証明をまさに国が示しているのが年金の資産運用といえます。

■実際のポートフォリオの組み方

リスクを抑える目的はもちろんですが、配分や組み合わせを変更することで自分が期待する結果に近づけることができます。一度ポートフォリオを決めたら、長期運用が基本となりますので、そのまま運用し続けますが、市場の大きな変化やライフイベントの変更など、何かあった場合にはリバランスと言われるメンテナンスも重要となります。長期の資産運用でも、一度決めたものをそのままにはせず、投資の意識を忘れずにいることが重要です。近年の経済状況を踏まえた金融商品であることを前提とし、以下に3種類のポートフォリオを例として見てみましょう。

・成長重視型:収益重視で大きな利益を目指す場合は、株式などのリスクの高い金融商品の割合を高くします。リスクとリターンの関係から、金融商品のリスクも大きくなることを踏まえた上で組み合わせる必要があります。

・バランス型:リスクと収益のバランスをとって投資をする場合は、収益重視と安定重視の中間のバランス型ということになります。株式と債券を組み合わせてリスクを分散させ、適度なリターンを目指すポートフォリオです。

・安定重視型:安定重視で、リスクをあまりとりたくない場合は、株式などリスクの高い金融商品の割合を低くします。この場合は、大きな利益は期待できないのが一般的です。債券や預金など安定したリターンが期待できる金融商品を中心に組むことが特徴です。

【4】目標設定

投資を始める上で何が大切でしょうか?日本では投資がまだ一般的ではないものの、岸田内閣が掲げる資産所得倍増計画やNISA制度の整備などを考慮し、今後お金を増やす一つの選択肢として投資について学んでいく必要があります。なぜなら、投資は正しい知識を身につけることで資産形成ができ、楽に稼げるものではないからです。楽に稼げるものはギャンブルや投機になってしまいます。正しい知識を身につける第一歩として、今回は投資を始める上で大切なことをお伝えします。

■投資を始める際に大切なこと

投資に関する相談を受ける際、「株式のチャートの見方を知りたいです」、「どのような投資信託を選べばいいのでしょうか」、「iDeCoやNISAについて教えてください」、「どの株を買ったら儲かりますか」のような質問を受けることがあります。このような具体的な内容も大事ではあるのですが、投資を始める上で、最も重要であると考えている3つのことがあります。それは目標設定、資金管理、リスク管理です。

(1)目標設定

「投資をしたい」という方に「なぜ投資をしたいのですか」と質問すると、たいていの方は「お金を増やしたいからです」と答えます。次に、「では、なぜお金を増やしたいのでしょうか」と質問すると、「お金が多いに越したことはないからです」や「なるべく早く1円でも多く増やしたいからです」といった答えが返ってきます。この答えはとても曖昧で具体的ではありません。例えば、旅行したいと思ったときに、その行先が大阪なのか北海道なのか、九州なのかアメリカなのかによって、交通手段、宿泊日数、用意するものが異なります。当然、準備資金も変わります。投資についても同じです。つまり、お金を何のためにいつまでにいくら用意したいのか、いくら増やしたいのかを考えなければならないのです。目標がないと、そもそもその目標に対して達成する手段を選ぶことができません。投資における手段というのは金融商品を選ぶことです。その金融商品の種類には、国債、株、投資信託、REITなどがあり、中身はもっと細かく分かれています。

また、金融商品によって特徴があるので、どの金融商品を選ぶかによって、目標達成までにどれくらい時間がかかるのかが変わってくるのです。したがって、目標が定まっていないと、どの手段を選べば良いかわからないということになります。勉強するときの目標、スポーツにおける目標を達成するために何を行えばいいのか考えるのと同じように、投資も目標を立てて達成するための手段を考えることが大事なのです。

(2)資金管理

では、目標を立てて1年後に100万円を120万円に増やしたいと考えます。しかし、持っている全ての財産が100万円とすると、この全てを投資に充てるということはやってはいけません。極端な例ですが、投資というのは、元本の100万円が減るという可能性があるからです。投資は利益を見込んで自己資金を投入することであり、元本保証の金融商品にお金を投じるのではありません。つまり、増えることもあれば損をしてしまうこともあるわけです。例えば、子どもが大学に行くための資金としてコツコツ貯めた貯金を、投資に充てるというのは、リスクを取らなければならないので注意が必要です。ただし、絶対にリスクを取ってはいけないのではなく、ジュニアNISAなどの手段を利用する方法もあります。しかし、減らしたくないお金というのは、基本的に投資には入れない方がいいでしょう。そのようなお金は預貯金で置いておくということが重要です。自分がこれから稼いで得られるお金の中で、どれくらいの比率を投資に充てていくのかを考える必要があります。これが資金管理です。資金管理を考えるときのポイントは、自分の今までの貯金や、これから貯めるお金の何%を投資に充てられるのか、減るリスクを踏まえた上であらかじめ投資する金額を決めることです。

(3)リスク管理

前述の通り、投資には元本が減るリスクが存在します。減るリスクをどこまで受け入れることができるのかをきちんと理解する必要があります。例えば株を買って、その株価が下がった場合、この株は含み損を抱えていることになりますが、この株をずっと持ち続けて、いつかは株価が上がることに期待し、長期保有していると、長い間売るに売れない株を持っていることになり、いわゆる塩漬け状態になります。含み損が長く続くのはあまり良い状態ではありません。投資をする以上常に増やし続けることはできません。世界の情勢が悪い時期であれば、比較的リスクの低い投資信託でもマイナスになる時期もあります。金融商品にもよりますが、どこまで下がったらこの投資から手を引くのか、この株がどうなってしまったら手放すのか、ということを考えることがリスク管理ということになります。

そもそも銀行に置いておいてもお金が増えないため、少しでも増えるものを投資に充てたいと考えて投資をする方が多いですが、含み損の状態で長期間持っているというのは銀行にお金を置いておくよりも良くない状態です。なぜなら、普通預金はお金を引き出したいときにいつでも引き出せますが、含み損を抱えている株などの売り時を先延ばしにするということは、損失の確定を先延ばしにするだけでなく、その間に別の投資ができたかもしれない機会損失しているからです。なるべく含み損を多く持たないために、投資先である金融商品一つひとつの株や投資信託などに対してどこまでのリスクを設定するのか、つまり、自分が投資した金額がどこまで下がったら投資をやめようという判断をするのかということが大事なのです。

さて、ここまで投資における3つの重要なポイントについてご説明しました。投資を行うにあたって、まず上記の3つを考えるところから始める必要があります。では、どのように考えていけばいいのでしょうか。いつまでにいくらにしたいのか、そしてそれは何のためなのか、そのために負うリスクはどれぐらいなのか、これを具体的に考えていきましょう。

■具体的な目標を考えよう

例えば、1年後に旅行に行くために貯めた20万円があります。1年後に20万円を24万円にして、プラス4万円で少し豪華な旅行にすると考えます。一方、20万円が18万円になっても、宿泊先とお土産のランクを下げることを検討するというリスクを負っても大丈夫な場合、20万円を投資に回してよいと考えます。

少し金額を上げて考えてみましょう。200万円の貯金があり、3年後に200万円の車を買おうと思っている方がいたとします。今のままであれば200万円の車が買えます。でも、もし250万円に増やすことができれば250万円のグレードアップした車が買えます。しかし、もしこの200万円を減らしてしまった場合、150万円のグレードダウンした車を買うことにします。簡単に言うと、このような例を受け入れられるかどうかがリスクを取れるかどうかを判断する要素です。これはわかりやすいように極端な金額の差を示しています。旅行、車の購入の例を出しましたが、つまり、子どもの教育費、自分の老後費用、住宅購入用の頭金、住宅ローンの繰り上げ返済などの目的をきちんと決めて、貯金のうち、いくらをどの費用に割り当てるのか、足りない部分は毎月いくら貯めるのか、あるいはいくら増やしたいのかを考えることが目標設定となります。

■どのくらいの金額を投資に充てるべきか?

投資に充てる金額は、自分のライフプランから決めます。まず、銀行に置いておくべき金額を把握しましょう。これには、子どもの教育費や日常の生活費など、減らしてはいけない金額が含まれます。保険料も万が一の備えとして重要です。これらを引いた残りの余剰資金を投資に割り当てることになります。特に、中長期的に引き出す必要がないお金を投資に回すのが良いでしょう。ただし、投資初心者は少額から始めることをおすすめします。練習が必要だからです。将来的には、自分の全資産のうち、アメリカの平均の7割やイギリスでは3割を投資に回していることから、そのくらいまでが目安となります。

■リスクの取り方は?

投資に充てる金額がどれだけ減ることを許容できるか、一般的には半年から1年分の生活費をすぐに引き出せる状態を維持することが求められます。もし1円でも減ることが許せない場合、投資はおすすめできません。そのような方は、無リスク資産にお金を置いておくべきです。無リスク資産は元本保証がほぼされているものの、インフレに対応できない点に注意が必要です。

リスク資産への投資では、お金が増えることと減ることがセットになります。増えることと減ることの確率が50/50だと、それはギャンブルになります。しかし、過去20年間で世界のGDPが拡大し、経済成長が続いたことで、世界株式の投資信託を継続して保有している人はお金を増やすことができました。もちろん、次の20年も同じようになるかは分かりません。リーマンショック級の株価下落や金融危機が起きると、投資信託でも含み損が発生します。それでも分散投資を行えばリスクを減らせることができます。お金が増える確率が高く、自分にとって許容できるリスクを持つ投資対象を見つけることが、リスク管理のポイントです。

■具体例

目標達成のための投資手段を選ぶ際に、具体例を考慮しましょう。例えば、13年後に住宅ローンの繰り上げ返済を行いたいとします。毎月1万円を13年間貯めると、合計で156万円になります。毎月1万円を13年間、年利5%で運用すると、元本の156万円が約219万円になりますが、税金を引いた後の金額は約205万円です。つまり、目標金額が205万円の場合、年間5%のリターンが期待できる金融商品を選ぶことが適切ということが分かります。

第1章 住宅購入と賃貸

私たちが日々の生活する上で大切な要素は「衣食住」と言われ、体を守る衣服の「衣」、生命を維持していくための「食」、そして安心して生活をするための住まい「住」は欠かせないものとなります。

ここではその住宅について、購入と賃貸という方法で住まうための流れを説明します。

【1】住宅取得の費用と購入方法

■住宅取得にかかる費用総額の把握

住宅を取得するには、物件本体価格(本体工事費)だけでなく、それ以外にも購入時にかかる諸費用や、購入後にかかるローン返済や維持費用などがあります。新築マンションや建築住宅などには消費税もかかり、特に注文住宅の場合は、別途工事費、設計料、土地を購入するならそれに関わる諸費用なども発生します。表面的に見えている価格は諸費用を含んでいないため、予算組みには注意が必要です。資金計画書を作成するなどして、かかる総額を把握しておきましょう。

資金計画書に含まれる項目には以下のようなものがあります。本体工事費以外にかかる費用が分かるため、全体像をつかみやすくなります。資金計画書は不動産会社や建築会社に依頼すれば作成してもらえます。

■手付金の種類と目的

手付金とは、売買契約を締結する際に支払う金銭のことです。手付金には証約手付・解約手付・違約手付の3種類の手付金があり、同じ手付金でも意味が違います。当事者が手付金の意味を決めない場合は、解約手付と推定され、不動産取引では、一般的に「手付」と言えば解約手付を意味します。手付金は証拠金であり、最終的には売買代金に充当されるといった考え方が正しいと言えます。

(1)証約手付

マンションや売建て・戸建て、中古物件、土地などの購入時に、購入の意思を示し、契約が成立したことを証明する証拠金として、買主が売主に預ける金銭のことを証約手付と言います。

(2)解約手付

買主と売主いずれかが契約を解除したい場合、相手側が履行を着手する前であれば、それが買主ならば支払い済み手付金を放棄し、売主ならば手付金を倍返しすることで、契約解除が可能となります。

(3)違約手付

買主と売主いずれかが契約違反をした場合に、それが買主ならば手付金を没収され、売主ならば手付金を倍にして買主に返還しなければならないとされています。

■住宅の購入方法

住宅を購入するには、(1)現金で購入する、(2)ローンを組んで購入するという2つの方法があります。

(1)現金で購入する場合

住宅の取得には高額な費用がかかるため、住宅ローンを組むのが一般的です。しかし、十分な資金が準備できる場合は、現金一括払いで購入するという方法もあります。

不動産を現金で購入する最大のメリットは、抵当権設定費用やローンの金利や手数料、および保証会社への保証料や団体信用生命保険料などの費用がかからないことです。ローンのための事前審査なども不要なため、契約と引き渡しを一度に行うことも可能で、すぐに引越し・入居できるといった時間短縮もできます。

他方、ローンの借り入れがないため、住宅ローン控除の適用がないことはデメリットでもあります。手元のまとまったお金がなくなり、いざというときに金利の高い不動産担保ローンなどを借りて、かえって高くつくことがないように慎重に取り組むことが必要です。

・前に住んでいた家を売る

買い換えによって住宅を取得する場合には、売却先行型と購入先行型があり、仮住まいや二重ローンが発生する可能性もあります。そのため、タイミングに配慮して計画する必要があります。

・親の援助

住宅購入にあたり親から資金援助を受ける場合には、「住宅取得等資金贈与の非課税」や「相続時精算課税」などの制度をうまく利用し、税金を抑えることもできます。

(2)住宅ローンを組んで購入する場合

住宅ローンは、最長35年にもわたる借金です。返済のためには、継続した安定収入が必要となります。返済期間が長ければ長いほどその総返済額は大きく、利息の負担も大きくなることに注意したいところでしょう。「借りられる金額=返済できる金額」と安易に考えず、月々いくらなら無理なく返済ができるのか、ライフプランを考慮して返済計画を立て、ローンを組むことが大切です。

【2】売買契約時にかかるお金

現金一括でも住宅ローンを組んで支払うにしても、住宅を購入して入居する(引き渡し)までには、以下のような税金や諸費用がかかります。

■印紙税

不動産売買契約書、建築請負契約書に貼付する収入印紙代は、契約金額により以下のようになっています。

■不動産仲介手数料

売買契約が成立すると、仲介した業者は不動産仲介手数料を請求できます。買主に対する仲介手数料の金額は、宅地建物取引業法により下記のように上限が決まっておりますが、これは上限なのでそれ以下でも問題はありません。一般的に契約締結時に手数料総額の50%、不動産の引き渡し時に残りの50%を支払うことが多いと言えます。なお、不動産仲介手数料には消費税が別にかかります。

売買契約が成立した後に、契約が解除されると、手付解除の場合は、仲介手数料が発生し、住宅ローンの審査が通らなかった場合の特約による解除の場合は発生しません。また、仲介業者を通さない場合(売主物件)にも、不動産仲介手数料は発生しません。

■登録免許税

土地取得については、前の所有者から新しい所有者に、所有権移転登記を行います。建物については、新築住宅の場合は所有権保存登記、中古住宅の場合には所有権移転登記を行います。これらの登記は不動産のある住所を管轄する法務局で行い、その際に納付するのが登録免許税です。住宅取得に住宅ローンを利用する場合には、別途抵当権設定登記が必要になります。

■司法書士への報酬

登記手続きを司法書士に依頼する場合には、司法書士への報酬が発生し、その金額は司法書士事務所によって異なります。

■購入代金の支払い

不動産の購入代金を一括で支払う場合は、売買契約時に手付金を払い、その後引き渡し時に残額を支払います。ローンを組む場合は、引き渡し日に、金融機関から買主の口座に振り込まれ、その資金によって買主が売主へ残額を支払うことになります。

■消費税

不動産売買において消費税の対象となるのは以下の取引です。

・建物の購入代金、マンションの場合は建物価格

・建物の建築工事やリフォームの代金(建築請負代金)

・仲介手数料

・司法書士への報酬

中古住宅・マンションなど売主が事業者ではなく個人の場合は、消費税は非課税。また、土地の売買についても非課税となります。

■不動産取得税

土地や住宅を取得すると、固定資産評価額を基準に不動産取得税が課税されます。取得した日から60日以内に、不動産の所在地を所管する都道府県税事務所に申告します(不動産取得税の納付書は引き渡しの半年後くらいに送付される)。

(1)土地

平成33年3月31日までに宅地等(宅地および宅地評価された土地)を取得した場合は、取得した不動産の固定資産税評価額の2分の1を課税標準額として、「1㎡あたりの価格」に税率(3%)をかけて算出します。なお、住宅用土地の控除額45,000円か、一定の計算式※に基づいて算出した額の多いほうを控除できます。

(2)住宅

新築住宅については1,200万円まで控除が認められており、長期優良住宅であれば1,300万円まで控除されます。中古住宅の場合は、新築された年により控除額が異なりますが、1997年4月1日以降に新築されたものであれば、1, 200万円まで控除されます。

【3】購入後・入居後にかかるお金

不動産の引き渡しが済むと、不動産が自分のものになり、そこに住むための費用やさまざまな税金がかかってきます。

■固定資産税・都市計画税

毎年1月1日現在の土地・建物の不動産所有者は、固定資産税・都市計画税を負担します。売買契約をした年については、引き渡し日を基準にして日割り計算で、売主と買主の割合を決め、売買代金の決済時に精算します。地方税(市町村税)であるため、地区によって適用される税率、軽減条件等が異なります。

■固定資産税

固定資産(土地、家屋)の所有者に課される地方税です。税率は、固定資産課税標準額の1.4%で、一定の条件で固定資産税の特例があり、減額されます。新築住宅については一定期間軽減されますが、軽減期間が過ぎた後の増額に留意しましょう。

■都市計画税

都市計画法による市街化区域内に所在する土地と建物に課される地方税です。税率は、固定資産課税標準額の0.3%ですが、一定の条件で特例があり、減額されます。

■引越し費用・家財道具購入費・メンテナンス等

新居に入居するには、当然ですが引越し費用がかかります。建て替えで仮住まいに住む場合には、2度の引越し費用がかかります。引越しを機に家具や家電を買い替えたり、カーテンを新調するなどの費用がかかることもあります。自動車を所有している場合には、別途駐車場代が必要になることもあり、その他、定期的なメンテナンスや設備修理、リフォームなど、家を維持・管理するための費用も、今後の資金プランに入れておきましょう。

■マンション等の管理費・修繕積立金

マンションに入居すると管理費と修繕積立金の支払いが必要となります。支払い先はマンションの管理組合で、金額はマンションの価格、規模、戸数、設備、所有面積などによってさまざまです。ローンの返済額のほかに、毎月この費用がかかってくることに留意しておきましょう。最近ではコンシェルジュ付きやエントランス、ゲストルーム等の共用施設が充実したマンションもあり、管理費がそれらに見合うものか、長期修繕計画が合理的であるかなどもしっかりチェックしたいところです。大規模修繕工事の際に工事費が不足すると、修繕費の追加負担を求められることもありますので注意が必要です。

・管理費

管理費は、マンション等の共用部分の日常的な管理費用として使用されます。管理人の人件費、清掃費用、エレベーター等の点検・管理等のほか、マンションが警備会社と提携している場合には、その費用も含まれます。管理人は常駐、日勤管理、巡回のみの場合があります。

国内のマンションの90%以上は管理会社に管理業務を委託していますが、自主管理しているマンションもあります。自主管理は、管理コストを抑えられ、居住者間のコミュニティを形成しやすいというメリットがありますが、安定した管理が難しいと言われています。修理やメンテナンスが不十分になる場合があるなどのデメリットもあります。

・修繕積立金

マンションの耐用年数は50年とも100年とも言われており、その長期的な維持管理に使われるのが修繕積立金です。管理会社・管理組合は、定期的な診断と長期修繕計画に基づいて、外壁の塗装や屋上防水、給配水管の維持管理等、大規模修繕工事を行っています。

入居後、段階的に金額が上がっていくケースが多いでしょう。なお、国土交通省は、2011年にマンションを購入する消費者を対象とした「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を出して、修繕積立金の目安を示しているので参考にするのも良いでしょう。

【4】賃貸契約の流れ

■賃貸物件を借りる場合の流れ

まずは、毎月家賃としていくらくらいの出費が可能か、最寄り駅やエリアはおおよそどのあたりか、譲れない条件などを確認しましょう。

住む場所によっては思わぬ交通費がかかってしまう場合もあり、生活エリアの徒歩圏内に借りた場合の方が得な場合もあるでしょう。

条件を確認したら、最寄り駅の不動産会社やインターネットなどを利用して物件を探します。気に入った物件が見つかったら取り扱い不動産会社に連絡し、下見をします。

下見をすることで建物全体の管理状況や、室内の様子を確認できるとともに、運び入れる家具のサイズが部屋に合うかなどの細かい部分も知ることができます。

その上で希望に合うようでしたら、次は取り扱い不動産会社に契約にあたっての費用について具体的に確認をします。物件によって敷金や礼金の設定、仲介手数料、管理費など条件が違う場合があります。必ず見積もり書などをもとに、初期費用と入居後の費用を事前にしっかり確認しましょう。

ここまで、問題がなければ次に申し込みの手続きを行います。

取り扱い不動産会社に入居申込書を提出し、この書類を持って貸主による入居の審査が行われます。また、この時に本人確認書類の提出や連帯保証人が必要な場合にはその連絡先の提出が求められます。

審査に通過後、不動産会社より契約前の重要事項説明を受けます。

重要事項の説明にはその物件の情報や、賃貸の条件、入居後の注意点などが記載されています。この重要事項説明をしっかりと受け、理解しないと、後々に問題が起こるケースもあるため、おかしなところがないかを細かく確認しましょう。

そしていよいよ契約となります。契約に必要な書類としては住民票や印鑑証明などがあります。契約書に署名・捺印し、契約成立となります。

初期費用を入金し、鍵の引き渡しを受けます。

【5】賃貸契約と入居後にかかるお金

それでは、賃貸契約ではどのような初期費用が必要でしょうか。

一般的に初期費用には、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・火災保険料・保証料等があります。最近では敷金・礼金が無料という物件もあるようですが、その分、家賃が相場より割高になっていないかや、解約時の違約金などの条件がないかなどの確認が必要です。

■敷金

敷金は原則として退去するときに返金されるお金となります。しかし、一般的な経年劣化以外の修繕が必要な場合に、敷金から相殺される場合もあるようです。また、家賃を滞納した場合には敷金から引かれることもあります。

地域によっては敷引き(式引き)と呼ばれる、退去時の返金に関する地域の慣習がある場合もあるようです。

■礼金

最近では礼金が設定されていない賃貸物件も増えてきているようですが、貸主へのお礼としてに礼金を支払うものとされています。

■仲介手数料

貸主と借主を結び、契約事項を取りまとめる不動産会社に対して支払う手数料です。

一般的に仲介手数料は家賃の1ヶ月分という場合が多いようです。

■前家賃

賃貸契約では翌月の家賃をその前の月に支払うとされる場合が多いでしょう。初期費用では契約月の賃料とその翌月分の賃料をまとめて最初に支払います。

契約が月の途中である場合、その賃料は日割りされます。

■火災保険料

借りた物件にもしものことが起こったときに備えて、賃貸契約時には火災保険に加入することが必要とされています。賃貸契約の期間に合わせて、2年更新ならば2年分の保険料を支払う場合が多いでしょう。

■保証料

契約時に連帯保証人を立てるのが難しい場合などには、保証会社に保証人の代わりになってもらうことがあります。その場合には保証会社へ保証料を支払います。

■その他

契約時の条件として鍵の交換費用などを、借主が支払う場合もあります。

【6】賃貸契約初期費用の相場

それでは、以下の賃貸物件を借りる場合の初期費用をシミュレーションしてみましょう。おおよそ1ヶ月分の家賃の5ヶ月~6ヶ月分がかかるといわれています。

また、上記の費用に加えて引っ越しの費用、家具家電の購入、カーテンや照明器具の購入など、追加の費用も想定しておくと安心です。

【7】持ち家と賃貸の比較

■総住居費という考え方

持ち家と賃貸の比較はよく行われていますが、ここでは生涯に渡って持ち家に住んだ場合と賃貸の場合を比較し、総住居費という視点で比較してみましょう。

・Aさん30歳が、日本人男性の平均寿命である82歳までの52年間を、持ち家に住み続けた場合と賃貸住宅に住み続けた場合の総住居費を単純比較してみました。

<持ち家の総住居費>

・3,500万円の住宅ローン総返済額 約4,839万円

(35年元利均等・固定金利1.960%)

・諸費用300万円

・管理費・修繕積立金 1,872万円

(全期間の平均を月3万円として×12ヶ月×52年間)

・固定資産税 832万円(年間16万円×52年間の場合)

▶合計金額 7,843万円

<賃貸の総住居費>

・月12万円の家賃 12万円×12ヶ月×52年間=7,488万円

・2年に1ヶ月分の更新料 26回×12万円=312万円

▶合計金額 7,800万円

上記の条件で3,500万円の物件が12万円で賃貸された場合、総住居費という考え方ではおおよそ同額となります。

しかしながら大きな違いは、82歳の時に持ち家という資産が手元に残るか、何も残らないかということです。

もしAさんが購入したマンションが52年後に2,000万円で売却できれば、Aさんの手元には現金資産が2,000万円残るということです。

それでは、住宅費以外での持ち家と賃貸の違いはどのようなところでしょうか。

■ コスト面以外での考えられるメリットとデメリット

<持ち家メリット>

・建築時およびリフォーム時など間取りや設備など自由度が高い

・不動産の資産として家族に残すことができる

・住宅ローン完済後のコストが安い

・団体生命保険に加入することで、万が一のリスクを減らすことができる

・インフレに強い

・資産価値が上がる場合もある

<持ち家デメリット>

・購入時の初期費用が高い

・転勤などがあった場合も転居しづらい

・毎年の固定資産税の支払い

・修繕費用を自身で賄わなければならない

・資産価値が下がる場合もある

<賃貸メリット>

・持ち家に比べ、入居時の初期費用が安い

・住宅ローンの審査に比べ、収入が低い場合でも借りることができる

・転職や生活変化に伴う転居が楽である

・更新時に払う更新料以外、賃料以外の負担がほとんどない

<賃貸デメリット>

・収入の有無に関係なく、賃料の支払いは発生する

・保証人もしくは保証会社による保証が必要

・貸主の承諾なしに、リフォームなど仕様変更はできない

・借り物であるため賃料を払い続けても、自身の資産にはなり得ない

【8】家賃から考える住宅購入の目安

これまで総住居費という考え方で比較をしましたが、現在の家賃から考える住宅購入金額の目安を考えてみます。

■現在の家賃で住宅ローンはいくら借りられる

まず、現在お支払いの家賃と同程度の返済額であれば、いくらの住宅ローンが組めるのでしょうか。

下記の表は「毎月の家賃の金額=毎月の住宅ローン返済可能額」だと仮定した場合、月々の返済額から逆算して借り入れ可能な上限額を単純計算したものです。(住宅ローンの借入可能額は、年収や勤続年数や金利などによって異なります)

現在13万円の家賃を支払っている場合、それをそのまま住宅ローンの返済に充てると考えた場合には約5,000万円までの住宅ローンを組むことが可能となります(住宅ローン金利0.5%、35年返済元利均等、頭金・ボーナス時加算なしの条件で試算)。

■家賃と住宅ローンの返済額が同じ場合の費用比較

家賃と住宅ローンの月々の返済額が同じでも、その中身はかなり違います。賃貸住宅に住み続けた場合と、一戸建てを購入した場合とでかかる費用を比較してみましょう。賃貸の場合には2年に1度、更新料として家賃の1~2ヶ月分を支払うことが一般的です。また、家賃は更新の際に値上がりすることもありますので、注意が必要です。

一戸建ての購入は将来の資産にもなります。また現在、家賃の他に月極駐車場代を支払っている場合は、駐車スペース付きの一戸建てを購入することで、月々の支払いを抑えることができます。

【9】ライフプランと住まい

現在賃貸にお住まいの方が住宅購入を検討するにあたっては、今支払っている家賃があなたの家計の中で占める割合が現在から将来にわたりどの程度になるか、その割合は問題ではないのかなどを見極めていくことも大切です。同じ12万円の家賃、もしくは住宅ローンの支払いであっても、月額収入が25万円の方と50万円の方ではその意味合いは変わってくるからです。そしてそれは、家族の人数や今後のライフプランによっても変わります。このようにして検討した後に手に入れたマイホームは、将来あなたの資産となります。ご家族で将来のライフプランを考えながら、住宅について検討してみてはいかがでしょうか。

これから家を建てる方に向けてアドバイス①

■最初にすべきこと

まず、家を建てようと思ったとき、最初にすべきことは何でしょうか。それは、家を建てる目的について、家族やパートナーとしっかり話し合うことです。

家を建てる際に重視したいことは何か。家の住み心地なのか、子どもの将来に備えるためなのか、それとも親のためなのか。このように家づくりを通して何を一番達成したいのか明確にすることが大切です。

また、家族、夫婦間での考え方を一致させることも大きなポイントとなります。ここで家族やパートナーとイメージを共有しておかないと、いざ建てる際に意見のすれ違いなどが起き、家づくりがスムーズに進まなくなってしまうこともあります。話し合うべきことは、お金、広さ、場所の3つについてです。収入と自己資金のバランスを考え、家や土地の広さ、場所について検討していきましょう。

これから家を建てる方に向けてアドバイス②

■購入前の客観的な視点

実際に購入する際の価格差について考えていきましょう。

住宅価格は施工業者によって500万、1,000万円と価格差が生じます。その為、施工業者を選ぶ際には、金額と品質のバランスについて考えることが大切です。もちろん、安いことは良いことですが、それによって将来不具合が生じてしまっては意味がありません。住宅価格を比較すると大手ハウスメーカーは高額になる傾向があります。他の施工業者と500万、1,000万といった差が生じた時に、どの施工業者から購入するかを判断するのは、購入者本人となります。その際に、将来を見据えた正しい判断をするためには、現在の生活様式・将来の生活設計・家族構成・年齢などを踏まえた明確なライフプランを準備しておくことが必要となります。

住宅は大きな資産となりますので、将来に訪れる相続も考慮に入れ、ローンを残したまま相続となってしまうのなら、その建物の価格は自分には合っていない可能性を冷静に検討する必要があります。

その際に手を借りるべきなのが、ファイナンシャルプランナーです。

これから家を建てる方に向けてアドバイス③

■建物についての考え方

単純な購入時の費用だけでなく、購入後のメンテナンス費用などで、購入時の差が逆転することがあります。

大手の施工業者では、30年から50年先のメンテナンスにかかる費用を一覧化しており、メンテナンス費用がその他の施工業者と比較すると25%~50%ほど安くなることがあります。また、保証期間や範囲が充実している場合もありますので、そのような施工業者から購入を検討するのも良い方法でしょう。メンテナンスについての考え方は、購入後の住宅に対する購入者の価値観が重要となってきます。

日本は地震大国だけでなく、様々な災害に見舞われます。大手の施工業者は大きな地震の発生ごとに、被災エリアに自社物件が何棟あり、何棟が全壊・半壊したのかをデータ化しているところが多く、なぜ全壊したのかの理由まで分析・把握し、購入検討者に説明してくれるところもあります。

また、住宅性能なども判断基準の一つとして考えられます。過去に起こった東日本大震災などは、誰も想定することができない地震だったと言われています。しかし、そのような極めて稀な事象もできる限り想定に入れ、対策を行っている施工業者は信頼がおけるでしょう。最近では、津波が来たときに水に浮く家なども作られています。まずは情報を集めて、自分に合った施工業者を探していきましょう。

これから家を建てる方に向けてアドバイス④

■会社の見極め

おおよそ希望の施工業者が絞られてきて、最後の2社、3社になったとき、どう判断していけばよいのかについて見ていきましょう。まず、契約前にすべきことは設計の提案力と、営業担当者のきめ細かさについて観察することです。

すぐに契約させようとせず、自分の話をしっかりと聞いてくれる人。また、契約が決定した後の2年間、何をしてくれるのかを具体的に説明できる営業担当者。契約前に説明ができるか否かをしっかりと見極めておきましょう。契約して、引き渡しまでにしっかりとしたフォローをしてくれ、理想では一生の付き合いもできる営業担当者。そんな営業担当者がいる施工業者を選びましょう。

逆に良くないのは、契約した後に営業担当者が退職してしまったり、転勤してしまったりした場合です。長く続いている地元の施工業者などはそのようなケースに陥る可能性が低いことが多いです。一方で、倒産の心配や、環境問題に対する大掛かりな対策などは難しいという難点もあります。

自分に合う営業担当者は長く住み続ける際に大きなポイントのひとつになりますので、その点を考慮に入れて施工業者を選びましょう。

第2章 住宅ローン

【1】

■住宅ローンの歴史

住宅ローンの歴史は古く、1897年に不動産会社が住宅の割賦販売を始めたのが最初といわれています。その後、1950年に政府系金融機関の公的住宅ローンを取り扱う住宅金融公庫が設立され、自己資金が少なくても、ローンを組んで(融資を受けて)住宅が購入できるようになりました。高度経済成長期には、鉄道網が拡充され、多くのベッドタウンが開発されました。そのような環境変化の中、持ち家志向が高まり、民間の金融機関も住宅ローンの販売に乗り出しました。また、住宅金融専門会社(住専)が相次ぎ設立され、住宅金融公庫の融資を受けられなかった人たちの受け皿として大きく成長しました。

1989年に平成という新しい時代に入り、バブル経済が崩壊すると、民間金融機関が住宅ローン販売に本格的に進出したことで競争が激化し、住専の融資は行き詰まり、相次いで経営破綻していきました。

1994年には住宅ローン金利が自由化され、民間金融機関が住宅ローンの商品設計を自由に行えるようになり、その後政府の低金利政策が始まると住宅ローンの金利も連動して低下していきました。

2003年、住宅金融公庫は、独立行政法人化し住宅金融支援機構となります。

それに伴い、住宅ローン債権の証券化支援事業を開始。市場で調達した資金を長期固定金利で住宅購入者に貸し付けるのが「フラット35」です。また、預金を原資としない住宅ローン専門の「モーゲージバンク」が続々と誕生いたしました。

固定金利で安心して自宅を購入したい方に向けての、安定した役割となっています。

【2】住宅ローンの窓口

(1)公的金融機関

住宅金融支援機構。2007年、住宅金融公庫が独立行政法人住宅金融支援機構に改組し、それまでの融資をすべて引き継ぎました。主要な業務は、民間金融機関やノンバンクの住宅ローン債権の買い取りによる金融支援と、住宅ローン債権の証券化を行い機関投資家に販売する証券化支援業務となります。新規の融資は、災害復興融資や弱者向けの融資などに限られています。

(2)民間金融機関(銀行等)

銀行、信託銀行のほか信用金庫、信用組合、農業協同組合、労働金庫なども含みます。銀行等が取り扱う住宅ローンは、貸金業務のひとつであり金融庁の監督下にあります。インターネット上にしか店舗を持たない「ネット銀行」でも住宅ローンを取り扱っています。

(3)モーゲージバンク

住宅ローン専門の金融機関。住宅事業者やノンバンクなどを設立母体としており、上記(2)の民間金融機関との違いは、預金業務を行っていない点となります。2005年、国土交通省と住宅金融支援機構をオブザーバーとして「日本モーゲージバンカー協議会」が設立され、加盟している16社が「フラット35」全体の約8割の件数を取り扱っています。

(4)住宅事業者

ハウスメーカー、住宅販売会社など。住宅ローンの申し込みを仲介する場合には貸金業の登録が必要ですが、金融機関に取り次ぐだけの場合は不要となります。

【3】住宅ローンの金利

■住宅ローンの金利

住宅ローンの金利は「年利」表示となっています。金融機関が独自に設定する店頭金利(基準金利、表面金利)は、市場の金利、特に金融市場の需要と供給によって変動するプライムレートに伴って変動します。プライムレートには長期と短期があり、現在、住宅ローンの変動金利は、ほぼ短期プライムレートの変動に連動しており、経済がインフレ傾向になると金利も上昇します。変動金利は、キャンペーンや融資条件などによって優遇されることが多く、すべてを適用した一番低い金利を適用金利(表示金利)として表示することが多くみられます。住宅ローン金利は毎年2回、4月1日と10月1日に金利の見直しを行っています。1990年に住宅金融公庫の固定金利は5.5%、銀行の変動金利は1991年に最高8.5%を記録しました。2009年から「ゼロ金利政策」が開始され、住宅ローンの変動金利の基準金利はおおむね2%台で推移していましたが、2016年2月からは「マイナス金利」となり、住宅ローンの変動金利は実質下げ止まり状態にあります。

【4】住宅ローンのリスク

■景気の変動や金利上昇のリスク

住宅ローンの返済は長期にわたるため、その間のさまざまな変化や予想外の状況の影響を受けるリスクがあります。住宅ローンの契約から完済までの間には、経済状況も変わり、不動産市場もさまざまに変化することが予想されるからです。住宅ローンの金利は、景気、物価、為替相場、海外金利などによって変動する市場金利に影響されるため、変動金利型を選択した場合は、金利の上昇によって返済額が膨らむリスクが大きくなります。金利の上昇分が住宅ローンの借り手の返済額に転嫁されるためです。

固定金利型を選択しても、全期間固定金利ではない場合は、期間終了後に金利が予想以上に上がってしまう場合もあり、全期間固定金利型は変動金利型よりも高めに設定されるため、金利がそれほど上昇しなかった場合には、変動金利型の場合より返済額が多くなります。

また、住宅ローンの原資となる預金金利が上昇して、住宅ローンの固定金利を上回ると(逆ザヤ)、金融機関の収益は圧迫されることになります。固定金利が変動金利より高めに金利が設定されるのは、このリスクを回避するためです。土地や建物などの不動産自体も、景気の変動に伴って価格が変動する商品です。このため、住宅ローンの返済後やローンの支払い途中で、不動産を売却する際に売却価格が総返済額を下回る場合もあります。なお「住宅ローン」の商品性およびリスクについての説明責任は、住宅ローンを取り扱う金融機関にあります。

■家庭の事情や家計の変化に伴う返済遅延・不能のリスク

住宅ローンには、長期間にわたって元金の返済と利息の支払いを続けるという仕組みから、その間の借り手の経済状況の変化や事情により返済が滞ったり、返済ができなくなるリスクもあります。これを防ぐために、金融機関は借り手に完済できる安定した収入や預貯金があるか、返済額に無理がないか、購入する物件に十分な不動産担保価値があるかなどをチェックする「審査」を行います。また、審査が通って融資が実行された後も、その後の家族や家計の変化がリスク要因となることがあります。

例えば、勤務先の業績悪化により給与やボーナスが下がったりすることで収入が減り、返済計画に支障をきたすこともあるでしょう。また、子どもが生まれて家族が増え、予想以上に教育費がかかることになるなど、ローンの返済を圧迫するような状況も考えられます。返済中に返済者が死亡したり高度障害になった場合は、団体信用生命保険(団信)で残りの返済額をカバーすることもできますが、病気が長期化して就労不能になったり、継続して働くことができなくなった場合には、ローンの返済は著しく家計を圧迫することとなります。こうした不安を回避するため、団信では、3大疾病付、8大疾病付など、特定の疾病に罹患した場合に保障を受けられるものがあります。また、給与所得者の場合は、転勤で引越しをしなければならないというリスクも考えられます。

夫婦で返済をする「ペアローン」や「収入合算ローン」では、どちらかが病気になって働けなくなったり離婚したりして、返済に充てる予定だった収入をなくすと、たちまち返済が困難になることがあります。これは親子で継続して返済する「親子リレーローン」でも同様です。こうしたさまざまなことを想定した上で、余裕を持った返済計画を立てる必要があると言えるでしょう。

政策や市場ニーズを踏まえた住宅や住宅ローンに関わる税制等の改正が行われていますので、返済者の負担を軽くする減税や優遇策の動向についても注視していきましょう。

【5】住宅ローンの種類

■公的ローン

(1)財形住宅融資

1年以上勤務先で財形貯蓄を行っており、残高が50万円以上ある勤労者が利用できます。勤務先から利子補給や住宅手当等の援助を受けられることが条件で、財形貯蓄額の10倍か最高4,000万円のいずれか少ない額まで借り入れできます。借入時の金利は低めですが、5年固定の変動金利で5年ごとに見直され、その都度返済額も変更されます。金融機関の住宅ローンや「フラット35」と合わせて利用することも可能です。

(2)自治体融資

都道府県や市町村などの地方自治体が、地域住民に対して独自の融資制度を行っている場合があります。自治体が直接融資を行うタイプのほか、自治体指定の金融機関への斡旋を行ったり、借入利息を一定期間補助するタイプもあります。自治体ごとの地域政策や住宅政策が反映されており、対象となる住宅もバリアフリー化や高耐久住宅、耐火住宅・耐震住宅・地域の木材を使った住宅などの条件が付くことが多いです。

■民間ローン

民間金融機関は住宅ローンの商品設定や金利を自由に設定できるため、公的ローンや「フラット35」に比べて、借り入れ条件や金額、期間などに幅広い選択肢があります。また、金融機関同士を比べても金利タイプや諸経費、手数料にさまざまな違いがあります。

銀行ローンの主な金利タイプは、変動金利型、固定金利選択型、全期間固定金利型の3つです。変動金利型は一定期間で金利が見直されるタイプで、金利変動を織り込んだ返済額は5年ごとに見直されます。固定金利選択型は、契約時点の金利が一定期間固定され、固定期間が終了すると、その時点の金利で再び固定にするか変動金利にするか決めるタイプとなります。固定期間は1年から20年で、金利は金融機関が自由に設定できます。金利固定期間を過ぎても、どちらにするか利用者からの申し出がない場合は、自動的に変動金利が適用されます。全期間固定金利型は、借入時の金利が返済終了まで変わらないタイプです。

一般的に公的ローンに比べて、融資の審査は厳しいと言われていますが、その金融機関で他のサービスを利用している場合や、他の取引の内容、取引年数などによって金利が優遇される場合もあります。

■提携ローン

物件を扱う不動産会社や住宅販売会社が金融機関と提携し、その物件を購入する人のために紹介する住宅ローンを提携ローンといいます。不動産会社やモデルハウスなどでパンフレットが配布されています。融資条件に合うかどうかという物件の審査が終わっているので、申し込み手続きが簡単であり、金融機関で行う「本人審査」も比較的短期間でできることが特徴です。

提携ローンだからといって融資条件が優遇されるということはありませんが、優遇金利が適用されるケースはあります。必要な書類や手続き、ローン契約までの手順なども不動産会社が管理してくれますが、その場合不動産会社に事務代行手数料が発生する場合もあります。

提携ローンは利用者にとっても利便性があるため、利用者が住宅ローン契約者全体の約80%とその比率は高くなっています。しかし一方で提携している金融機関の商品に限定されるため、他の商品と比較検討するチャンスを失うというデメリットもあるでしょう。

■ 「フラット35」

「フラット35」は、住宅金融支援機構と民間金融機関が協力して制度をバックアップしている住宅ローンです。民間金融機関が貸し出した住宅ローン債権を住宅金融支援機構が買い取り、それを住宅ローン担保証券という債権にして投資家に転売した資金でローンを貸し出しています。

「フラット35」は、300を超える民間金融機関とモーゲージバンクで取り扱っており、金利や事務手数料は取り扱う金融機関によって異なります。

住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫の時代から、住宅ローンの提供によって単に持ち家を増やすというだけでなく、日本の住宅の性能向上を促進する目的を持っていたことから、「フラット35」の利用にあたって、接道の条件、断熱構造、遮音構造、住宅の耐久性など独自の建築基準を提示し、これが住宅の基本的な性能の向上の底上げにつながっています。

■「フラット35」の特徴

(1)全期間金利固定型

借入時に決められた金利が返済期間中に適用されるため、借入時に金利と返済金額が確定します。また、返済期間は最長35年までとなっています。全期間固定金利のため市場金利が上がっても金利が変わらず、計画的に住宅ローンを返済することができます。ただし、市場金利が下がっても返済額は減りません。

(2)手数料・保証料無料

保証会社を使わないため、借り入れにあたって保証料、保証人が不要です。また、返済中に繰り上げ返済や、返済方法の変更を行う場合の手数料も不要となります。

(3)建築基準法を上回る独自の建築基準

「フラット35」の融資条件では、日本の建築基準法を上回る基準が要求されます。さらに省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性など質の高い住宅を取得する場合には、借入金利を一定期間引き下げる「フラット35S」があります。

(4)返済期間中のサポート

万一のことがあった場合に備えて、新機構団信や新3大疾病付機構団信を用意しているほか、多様な返済方法変更のメニューをそろえています(団体信用生命保険は外すことも可能)。このほか、他の住宅ローンを組んだ場合だと、その金融機関に返済用の口座を持つ必要がありますが、「フラット35」では、すでにある口座を返済口座として利用することができるため、給与振込口座の変更に伴う、公共料金の引き落とし口座やクレジットカード利用代金の引き落とし口座の変更などの手間はありません。なお、火災保険は加入義務があります。

「フラット35」には、住宅金融支援機構が債権を買い取る「買取型」と、利用者や投資家からのお金の流れが滞った時に機構が保証会社の役割を担って残りの返済額を肩代わりする「保証型」があります。「買取型」の融資条件はどの金融機関でも同じですが、「保証型」は異なります(2021年9月6日現在「保証型」の新規受付を行っているのは9社のみ)。

(5)返済方法による住宅ローンの種類

住宅ローンは1人の名義で返済することが一般的ですが、高齢のため長期のローンを組むことができない、今は夫婦共働きだが、どちらかが仕事を辞めた場合に収入の変化が予想されるなど、家族の事情に応じた返済ができるローンもあります。

・親子リレーローン

親が組んだ住宅ローンを将来子どもが引き継ぐことを前提とした返済方法で、親が高齢の場合も最長35年の返済期間が設定できます。子どもが就業していて収入があることが前提ですが、同居していない、将来的に同居するなど、借入時の条件を緩和したローンも出ています。

・ペアローン

親子、または夫婦の収入を合算してローンを返済する方法で、親と子、夫と妻でそれぞれの収入プランに合わせて返済期間を変えることもできます。夫婦の場合は、共働きの期間は多めに返済し、妻が出産、育児等で働けない間のことを考慮して、それぞれの返済額や返済期間に差を付けたり、異なる金利タイプを選んで返済方法を調整することが可能です。

(6)つなぎ融資

住宅ローンはすでに竣工している物件を対象としているため、これから一戸建てを建築する注文住宅などの場合は、住宅が完成して、住宅ローンの申し込みができるまでの間に必要な土地取得費用、着工金、中間金などは自己資金を用意する必要があります(分譲住宅や分譲マンションの場合は建物が出来上がっているので必要がありません)。これらの費用も含めて借り入れをしたい場合に、建物が竣工して住宅ローンを正式に融資実行してもらうまでの間のつなぎとして利用するのが「つなぎ融資」です。

つなぎ融資を借り入れしている間は、利息のみを支払い、建物引き渡し時に実行される住宅ローンで精算します。つなぎ融資の金利はおおむね2~4%と住宅ローンより高めに設定されていることが多く、住宅ローンを利用せずにつなぎ融資だけを利用することはできない場合が多くなっています。なお、つなぎ融資に住宅ローン減税は適用されませんので、注意しましょう。

これからマンションを購入する方に向けてアドバイス①

■最初にすべきこと

マンション購入の場合も戸建てと同様、最初にすべきことは、購入の目的について考えることから始まります。

主に話し合うべきことは、お金、広さ、場所の3つについてですが、中には投資目的の場合もあるでしょう。収入と自己資金のバランスを考え、新築マンションか中古マンションか、いわゆる出口戦略と言われる最終的に購入したマンションを手放す場合には、再販が可能かどうかなども含めて広く検討していきましょう。

■購入前の客観的な視点

購入の目的が決まったら、注意すべき点を客観的な視点で見ていきましょう。

・地震や災害のリスクはないか

マンションの建築年度や耐震性能、洪水や津波などの災害リスクについて確認します。

・管理組合の状況確認

管理組合とはそのマンションの共用部分や共用設備の維持や管理を行っている所有者の組合です。管理費や修繕積立金をどのように使うかを長期的な計画に沿って運営します。そのため修繕歴や財政状況を見れば、しっかりと管理されているマンションかどうかは一目瞭然となります。

・周辺環境について

日常生活に必要な施設が周りにあるかどうかは重要な点でしょう。また、通勤や通学のアクセス、治安や生活環境など、ライフスタイルに合っているかどうかをしっかり確認します。

【6】住宅ローンの返済が困難になった時

昨日まで当たり前だったことが、今日突然変化してしまう、そんなことは自分の身には起きないだろうと多くの方は思っているかもしれません。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の影響のように世の中の状況が突然変化し、それまで安定していた収入が急に途絶えるということが、今後起きないとは決して言えないでしょう。

もし収入が途絶えてしまったら、月々の住宅ローンの返済は大きな負担として生活にのしかかってしまいます。

それでは、住宅ローンの返済が困難になりそうな場合、どうすればよいのでしょうか。

■最初に確認しましょう

方法1 <固定費の見直し>

収入が大きく変化した場合に、最初に行うのは固定費の見直しです。

何にいくら使っているのかわからずに、「収入が減った=ご自宅を手放す」というのは早計です。まずは家計をチェックし、お金の流れを把握することから始めましょう。

その中で、固定費は一度見直すと大きな効果があり、効率的に節約が可能となります。特に保険料・通信費・光熱費・車の維持費・スポーツジムの会費や有料アプリの月額料金など、銀行口座から自動引き落としになっている費用を見直しましょう。見直しにより、例えば保険料などでは年間で万単位の削減になる場合があります。また、自家用車を週末しか利用していない場合は、レンタカーや電車などを利用することで車を売却することを可能にし、売却代金を得るだけでなく、その後の税金や保険料・駐車場代などの削減に繋げることができます。

■金融機関に相談しましょう

方法2 <住宅ローンの見直し>

固定費の見直しをしても、返済が難しい場合は速やかに住宅ローンの借り入れをした金融機関に相談しましょう。無理に返済を継続しようとしてキャッシング等のほかのローンを利用したり、延滞を繰り返したりする方が、その後の状況を悪化させることに繋がります。

金融機関では住宅ローンの返済が困難になったとき、当初の借入条件の変更に応じてくれる場合があります。これをリスケジュールと言います。

借入条件の変更内容は交渉次第となりますが、下記のような借入条件の見直しに対応してくれる金融機関もあります。

・返済期間の延長

・一時的な返済猶予

・一定期間に限り利息のみを返済

・月々の返済額の減額

・固定金利と変動金利の変更

・元利均等返済と元金均等返済の変更

・ボーナス返済の見直し

リスケジュールに際しては改めて審査があります。また、リスケジュールにより返済期間が延長された場合には、優遇金利がなくなったり総返済額が増えたりなど、デメリットもありますので、あらかじめどのような条件になるのかをしっかりと確認するようにしましょう。

「フラット35」については住宅金融支援機構が返済期間の延長、一定期間における返済額の減額、ボーナス返済額の変更や取り止めなどの対応をホームページに掲載していますので、参考にしてみましょう。

※フラット35での月々の返済でお困りになったときは:

また、住宅金融支援機構では、新型コロナウイルス感染症の影響により、住宅ローンの返済が困難となった方に対して、今後の返済について相談に乗ってくれる窓口を開設しています。まずは相談してみましょう。

※住宅金融支援機構相談窓口のご案内:https://www.jhf.go.jp/files/400352876.pdf

■返済ができなかったとき~競売について

借り入れをしている金融機関へ返済ができなかったときは、一般的に以下のような流れとなります。

・住宅ローンの返済が一定期間以上滞ると金融機関より督促状・催告書が届きます。

・住宅ローンの返済が一定期間以上滞ると金融機関より督促状・催告書が届きます。(約3ヶ月~6ヶ月)

・約6ヶ月程度延滞が続いた場合、金融機関から保証会社へ住宅ローンの一括返済の請求が行われます。

・保証会社より金融機関へ住宅ローンの残債が返済され、ご自宅は勝手に処分できないように、差し押さえの登記がされてしまいます。

・その後、保証会社が住宅ローン債務者へ不動産競売の申し立てを裁判所に行います。

■競売にならないために

方法3 <任意売却>

通常の不動産売却により、抵当権が設定されている住宅ローンを全額返済できれば問題ありませんが、売却金額だけでは住宅ローンを完済できない場合には任意売却する方法があります。住宅ローンの返済ができない、または行わない場合には、金融機関が裁判所に対して対象となる住宅の競売申し立てをし、その住宅は競売にかけられてしまいます。そして売却された場合には住宅の売却代金はすべて返済に充てられることとなります。

競売は入札によって金額が決定するため、通常の相場価格の50%~70%で売却されることが多いと言われており、できれば避けたい選択です。

そのために、任意売却という方法があります。

任意売却をすることで、市場価格に近い金額での売却が可能になるほか、売却金額だけでは住宅ローンを完済できない場合には、金融機関との交渉により住宅ローンの残債について返済計画の相談ができ、引っ越し費用などの諸経費も考慮してもらえることがあります。

■ご自宅に住み続ける

方法4 <リースバック>

任意売却によりご自宅を手放した場合でも、リースバックという方法を活用することで、そのままご自宅に住み続けることが可能な場合があります。

リースバックは、ご自宅を不動産会社や投資家に売却し、新たに賃貸借契約を結ぶことで、売却後でも家賃を支払うことにより、住み慣れたご自宅に住み続けられるというものです。

引っ越しにはまとまったお金が必要になりますが、リースバックをすることで、引っ越しせずに済み、余分なお金も使わずに済むということも利点と言えます。

また、いずれはご自宅を買い戻したいとお考えの場合には、購入者との交渉により契約時に買い戻しの内容の特約をつけることも可能です。

とても便利なリースバックではありますが、デメリットもあります。

個人間の取引であれば、ご自宅を気に入ってくれる購入者を1人見つければよいのですが、リースバックの場合、購入者は不動産会社や投資家であり、住宅を事業収益の目的で賃貸にします。そのため、売却代金は周辺相場よりもどうしても下がる傾向があります。

また、住宅ローンの残債を売却代金だけでは完済できない場合には、金融機関がリスクが高いと見做し、リースバックが利用できない場合があります。

家賃の決め方は売却価格に対して、8%~12%程度の金額を12ヶ月で均等割りするケースが多く、場所や物件内容によって決定しますが、毎月の家賃は周辺の相場よりも高く設定されるケースが多いでしょう。

■リースバックとリバースモーゲージ

リースバックと混同しやすいものにリバースモーゲージがあります。ご自宅に住んだまま、まとまったお金を調達できることは似ていますが、2つは大きく異なります。

ご自宅を売却するリースバックに対し、リバースモーゲージはご自宅を担保にしてお金を借りる方法となります。退職金や今まで貯蓄してきた預金など、まとまったお金を残しておくことで、老後の生活資金を減らさずに、住み慣れた環境のままで生活資金が確保することを目的とします。亡くなった後にご自宅を売却して完済するという特徴があるため、高齢者が利用する傾向が多くあります。その時の状況や将来的な希望など、ご家族にあった選択ができるよう、情報を集めていくことが必要です。

【7】住宅ローン控除の制度

住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の0.7%が13年間にわたって控除される制度です。1992年3月22日に住宅ローン控除の見直しを含む「所得税法等の一部を改正する法律案」が、参議院本会議で可決・成立しました。これにより、下記の表の通り、住宅ローン控除の制度が、1992年4月1日に施行されています。

上記の表を見ると、取得対象住宅の区分が、「認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)」、「ZEH水準省エネ住宅」、「省エネ基準適合住宅」の省エネルギー性能が施されている3つの区分と、それ以外の省エネ基準を満たさない「その他の新築住宅」の区分になっていることが分かります。「その他の新築住宅」について、1994年度以降では、1993年12月31日までに建築確認を受ける住宅、または、登記簿上の建築日付が1994年6月30日以前の住宅についてのみ適用となっていることから、これらの期限以降の「その他の新築住宅」は住宅ローン控除の適用外となります。

「その他の新築住宅」では住宅ローン控除が受けられないと懸念されるかもしれません。確かにその通りではあるものの、実際はそれほど心配する必要がないかもしれません。なぜならば、1991年6月18日に政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によれば、新築住宅のうち、建築物省エネ法に基づく省エネ基準を達成している戸建住宅は約7割です(2018年度)。

ZEHは大手住宅メーカーに限れば約5割に達しますが、注文戸建住宅の全体で見れば2割(全体の13%)(2019年度)という状況であると報告されており、多くの戸建住宅は省エネルギー性能を施しているとの見方ができるからです。一方、ZEHの普及は課題となっています。住宅ローン控除の制度において、新設区分となる「ZEH水準省エネ住宅」や「省エネ基準適合住宅」は、「認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)」よりも少ない年末残高限度額となるものの、省エネ基準を満たさない「その他の新築住宅」よりも控除対象となる年末残高限度額が多くなります。このメリットが得られる制度を利用するためにも、これらの環境性能別の住宅の種類について今一度確認してみましょう。

■認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)

(1)認定長期優良住宅

認定長期優良住宅とは長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅のことです。長期優良住宅の建築および維持保全の計画書を作成し、所管行政庁に申請して認定を受けます。

・長期優良住宅の認定基準

①住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること

②住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること

③地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること

④維持保全計画が適切なものであること

⑤自然災害による被害の発生の防止、軽減に配慮がされたものであること

・具体的な措置として、以下の認定基準をすべて満たさなくてはなりません。

劣化対策、耐震性、可変性(共同住宅・長屋)、維持管理・更新の容易性、バリアフリー性(共同住宅等)、省エネルギー性、住戸面積、居住環境、維持保全計画、災害配慮

■認定低炭素住宅

低炭素住宅として認定を受けるためには、以下の3つの基準をすべて満たすことが必要です。

①省エネルギー基準を超える省エネルギー性能を備えていること、かつ低炭素化に資する措置を講じていること

②都市の低炭素化の促進に関する基本的な方針に照らし合わせて適切であること

③資金計画が適切なものであること

また、低炭素住宅の具体的な認定基準は、以下の2点です。

①省エネ法の省エネ基準に比べ、一次エネルギー消費量がマイナス10%以上となること

②その他の低炭素化に資する措置が講じられていること

上記②の低炭素化の具体的な措置として、以下のうち、2項目以上で該当することが求められています。

・節水対策

・エネルギーマネジメント

・ヒートアイランド対策

・建築物(躯体)の低炭素化、または標準的な建築物と比べて、低炭素化に資する建築物として所管行政庁が認めるもの

■ZEH水準省エネ住宅

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、略称:ゼッチ)とは、外皮の断熱性能を大幅に向上させ、高効率な設備システムを導入して室内環境の質を維持しつつ、再生可能エネルギーを導入することで年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロを目指す住宅です。

ZEH水準省エネ住宅は、以下の(1)~(4)を満たすことで、家庭での年間エネルギー消費量を正味でゼロまたはマイナスとする住宅とされます。

(1)(断熱性能)ZEH強化外皮※基準

地域区分1~8地域の平成28年省エネルギー基準(令和7年までに義務化)を満たし、高い断熱性能(UA値:1・2地域:0.40以下、3地域:0.50以下、4~7地域:0.60以下)を持つ建築物であること

(2)(省エネ)再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減

(3)(創エネ)再生可能エネルギーを導入(容量不問)

(4)(創エネ/省エネ)再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減

※外皮とは、建物の外周部分の構造体、すなわち建物の外壁、屋根、外気に接する床(ピロティ)、窓などを指します。

ただし、寒冷地、低日射地域、多雪地域などの住宅では日射が少なく十分な発電量が得られない場合や、都市部の狭小地の住宅では太陽光パネルの設置面積が少ない場合があります。そのため、これらの地域の特性を考慮して「ZEH」の基準を緩和したものが、「Nearly ZEH」(ニアリーゼッチ)や「ZEH Oriented」(ゼッチオリエンテッド)です。

「Nearly ZEH」(ニアリーゼッチ):寒冷地や低日射地域、多雪地域では、創出するエネルギーが消費エネルギーを上回ることは難しいため、特別なZEH基準が設けられています。高性能・省エネによって「20%以上」の消費量を削減し、かつ太陽光などで創出されたエネルギーを加えて「75%以上」の省エネが実現できる住宅と定義されています。

「ZEH Oriented」(ゼッチオリエンテッド):寒冷地等のみならず、都市部狭小地も太陽光パネルを載せるには屋根が小さく、十分なエネルギー創出が難しいため、高性能・省エネによって「20%以上」の消費量の削減を実現できる住宅で、創エネ基準はありません。都市部狭小地とは、北側斜線制限の対象となる用途地域等で敷地面積が85㎡未満の土地と定義されています。ただし、平屋建ての住宅は含まれません。

■省エネ基準適合住宅

「省エネ基準適合住宅」とは、現行の省エネ性能を満たす基準、すなわち、日本住宅性能表示基準における、断熱等性能等級(断熱等級)4以上かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)4以上の性能を有する住宅が該当します。

■住宅ローン控除の取得住宅区分のまとめ

上記を踏まえて、「認定長期優良住宅」「認定低炭素住宅」「ZEH水準省エネ住宅」「省エネ基準適合住宅」の違いをまとめると以下の通りになります。

認定長期優良住宅:長く住むためのトータル性能の高さを認定した住宅

認定低炭素住宅:二酸化炭素の排出量を抑えること(低炭素化)に特化した住宅

ZEH水準省エネ住宅:年間エネルギー消費量を正味でゼロまたはマイナスにすることに特化した住宅

省エネ基準適合住宅:断熱等性能等級(断熱等級)4以上かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)4以上の性能を有する住宅

環境への配慮の方向性がそれぞれ異なっていることが分かります。なお、住宅ローン控除の制度上の「ZEH水準省エネ住宅」は、創エネの部分について求められていません。つまり、省エネ性能がZEH水準(断熱等性能等級(断熱等級)5かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)6)であることのみが求められており、必ずしも太陽光パネルを設置するなど再生可能エネルギーの導入は必要ありません。そのような意味で住宅ローン控除の制度上では、ZEHの要件が緩和しているといえます。

他に、ZEHについては、「ZEH、LCCM住宅関連事業(補助金)」や「こどもみらい住宅支援事業(補助金)」があります。ただし、補助金事業は予算の終了や併用不可の場合もあるので、実際に利用を検討する場合には事前に調べておく必要があります。また、先の話にはなりますが、令和4年10月より「フラット35」S(ZEH)が始まり、【フラット35】Sの金利引き下げにおいても省エネルギー性の基準が強化されるなど、支援事業が充実しています。

第3章 住宅購入の適性額

【1】返済計画の立て方

(1)月々の「無理なく返せる金額」を把握する

住宅ローンを組み、長期にわたり月々の返済を滞りなく行うために、まず「無理なく返せる金額」を把握するのが重要です。

そのためにはキャッシュフロー表の作成と年間の収支計画を把握することが必要となります。キャッシュフロー表で将来的にローン返済をし続けることが可能であるかを確認しつつ、毎年の収支計画を作成し、ローンを組んだ後の生活が苦しくなってしまわないかを見ていきましょう。

ここではまず、以下の内容をもとに実際の返済計画について確認をしてみましょう。

収支計画を作成する際の手順は、まず第1ステップとして毎月の住宅関係費(A)を把握し、第2ステップで住宅購入後に新たに発生する維持費等(B)を把握します。

毎月の住宅関係費とは、賃貸物件に支払う家賃(共益費等も含む)や駐車場代が該当します。住宅購入後に新たに発生する維持費は、主たるものに、固定資産税と都市計画税があります。このほか、マンションの場合は管理費や修繕積立金、駐車場代を追加します。一戸建ての場合、管理費や修繕積立金が定期的に発生するわけではありませんが、その代わりに建物が古くなり修繕が必要になった際の出費を予定して準備しておく必要があります。

持ち家を取得して従来の住宅よりも床面積が広くなる場合は、その分の光熱費の増加も考慮しておきたいところです。

一方、収入として期待できるもの(C)も考慮しておきましょう。一戸建てなら太陽光発電システムを付けると光熱費が安くなるほか、売電プランを使うことで収入が得られることもあります。

また、住宅ローンを組むと住宅ローン減税を受けることができますので加味しましょう。

住宅取得前後の年間収支を求める手順

▶STEP1

現在の月々の住宅関連費用を把握 ①⇒ A

①現在の家賃&駐車場代 ( 万円)

▶ STEP2

持ち家取得後に新たに発生する住宅関連費用を把握

② + ③ + ④ + ⑤⇒B

②固定資産税・都市計画税 ( 万円)

③建物の管理・修繕代金

マンションの場合:管理費・修繕積立金 ( 万円)

一戸建ての場合 : 将来の修繕を見込んで計画的に積み立て( 万円)

④駐車場代(マンションの場合) ( 万円)

⑤光熱費等の増額分 ( 万円)

▶ STEP3

持ち家取得後に新たに発生する収入金額を算出

⑥+⑦⇒C

⑥太陽光発電による光熱費の削減分 ( 万円)

⑦住宅ローン減税で戻ってくる税金 ( 万円)

(2)額面年収から無理のない返済額を確認

返済額を決める際、もし生活費が分からないなど、キャッシュフロー表や年間収支表の作成が困難な場合は、額面年収から目安を考える方法もあります。

この場合に押さえたいのが「返済負担率(返済比率)」という考え方です。

これは年収に対する年間の返済額(元金+利息)の割合のことで、この場合の年収とは世帯年収を指します。ローンの審査の際は世帯年収で判断されますが、将来配偶者が仕事を辞める予定があるなどの場合は、他一方の年収のみで判断していくのが理想といえるでしょう。

また、金融機関等では借り入れ条件(融資条件)として、返済負担率の上限を設定している場合があります。返済負担率は金融機関や年収により異なりますが、通常は最大35~40% 以内の水準とされています。ただし、特に将来年収が減る可能性がある場合や、金利が上がると返済額が増える変動金利型のローンを利用する場合など、金融機関が提示する借り入れ条件の範囲であるからと油断せず、余裕を持った水準で月々の返済額を決めるのが好ましいといえるでしょう。

一般的には返済負担率35%は非常に危険であり、極力30%以下を目指し、さらには25%を切る水準だと安全なローンであると見ることができます。

ただし、この返済負担率のみでは将来のライフプランを加味していないため、その家庭の生活費が高額であったり、教育費の負担が大きい時期とぶつかったり、さまざまな予測不能な事態が起きたりするため、住宅取得を機にライフプラン表を作成することが望ましいでしょう。

なお、審査を行う際の審査金利は、「フラット35」の場合は実効金利を使いますが、金融機関のローンでは3%前後で見ているケースが多く、購入可能額を判断するためには、安全に審査金利3%を想定するのが理想です。

(3)無理なく返し続けられる年数とあわせて試算

これまで説明したとおり(1)と(2)の内容で「無理なく返せる金額」が確認できたら、それを何年間継続できるかを検討してみましょう。さらに退職年齢や年金支給額、繰り上げ返済も視野に入れながらライフプランに組み込んでいきましょう。

住宅ローンの返済計画を立てる際はキャッシュフロー表を作成して、支払いを継続した場合、資産はどのように推移するのかを可視化するのが望ましいといえるでしょう。

【2】住宅ローンの金利タイプ

■固定金利型と変動金利型

住宅ローンの金利タイプには、大きく分けて「固定金利型」と「変動金利型」の2つがあります。

(1)固定金利型

住宅ローンを組んだ当初から完済までの金利が固定されるタイプで、代表的なものには住宅金融支援機構が提供するフラット35があります。また、一部の銀行などでは自行のローンで固定金利型を用意するところも多くみられます。固定される金利は、ローンの申し込み時点、または融資実行時の金利で決定されます。

固定金利型の種類としては、返済当初から完済まで金利が一律である全期間固定金利型と、当初に設定された期間以降は金利が変わる固定金利期間選択型があります。また、固定金利型の一種である段階金利型では、途中で金利が変更されますが、変更後の金利はその時点での金利が適用されるため、ある程度の予測を立てることが大切といえます。

(2)変動金利型

変動金利型は、住宅ローンの返済期間中に市場金利に合わせて金利が変動するタイプで、金利は半年ごとに見直しされ、短期プライムレートに連動するタイプが主流となっています。

実際には、半年ごとに金利の見直しをする点は共通で、返済額が5年ごとに改定され、その変動幅はそれまでの返済額の1.25倍までに抑えるように設計されるタイプがあります。

■固定金利型のメリットと注意点

固定金利型のメリットは、ローン返済開始時から完済までの金利が固定されているため、返済額も途中で変わることがない点です。そのため、将来の金利上昇リスクを心配する必要がなく、家計管理がしやすくなります。総返済額も事前に決められるので、教育資金や老後資金の準備などの計画が立てやすいのが大きな特徴と言えるでしょう。

注意点としては、金融機関で提供される住宅ローンの商品では、変動金利型より固定金利型の金利が高めに設定されている場合が多いことが挙げられます。また、申込時、もしくは融資実行時に決定された金利で完済時まで固定されるので、その後に市場金利が下がった場合には借り換えを視野に入れる必要があります。

【固定金利型(全期間固定金利型)のイメージ】

ローンの借入時から完済まで金利が一定

【メリット】

・借り入れ後に金利が上昇しても、完済まで借入時の金利を基に返済額が確定

・借り入れ時に返済期間全体の返済計画が確定するので不安要素が限定的

【デメリット】

・借り入れ後に金利が低下しても返済額が減ることはない

■変動金利型のメリットと注意点

変動金利型のメリットは、前述の固定金利型の注意点として触れた通り、固定金利型より金利水準の低い商品が多い点です。また、ローン返済開始後に市場金利が下がった場合は、ローン金利も下がり返済負担が下がることもあるため、場合によっては変動金利有利になることもあります。

ただし、将来の金利を予測することは難しく、変動金利型のローンの総返済額は未知数であるため、この点は要注意です。生活設計を立てにくくなる点がデメリットとも言えるでしょう。

変動金利型で特に注意したいのは、金利上昇により元本が減らず、後々返済負担が増える可能性がある点です。住宅ローンの返済方法では、毎月の返済額が変わらない元利均等方式というタイプがありますが、この場合、半年ごとの金利見直しによって金利が上昇した時に、月々の返済額に占める利息の返済部分が膨らんでしまうため、元本がなかなか減らず、利息ばかりを支払うという事態も起こり得ます。

また、変動金利型では、返済額を5年ごとに改定し、その変動幅はそれまでの返済額の1.25倍までに抑えるように設計されるタイプがあると前述しましたが、利息額が毎回の返済額を超えてしまう未払い利息が発生する可能性もあります。

未払い利息分の精算方法は、ローン期間延長か、完済時に一括返済するか、金融機関によって対応が異なりますが、いずれの場合も後の負担が増えることは認識しておく必要があります。

【変動金利型(全期間変動金利型)のイメージ】

金融情勢の変化に伴い定期的に金利が変動する

※金利は原則として半年に1度見直し。増える場合は最大1.25倍まで

【メリット】

・借り入れ後に金利が低下すると、返済額が減少

・借り入れ時は固定金利型よりも金利水準が低い商品が多い

【デメリット】

・借り入れ後に金利が上昇すると、返済額が増加

・借り入れ時に将来の返済額が確定しないため、返済計画が立てにくい

・借り入れ後に金利が大幅上昇した場合、未払い利息が発生する可能性がある

■固定金利型と変動金利型の組み合わせ

固定金利と変動金利のそれぞれのメリットを活かし、短所を補うために両者を組み合わせて使う方法もあります。また、「固定金利期間選択型」という商品も存在します。

【固定金利期間選択型のイメージ】

「当初3年間は○%」など、固定金利が一定期間適用される

【メリット】

・固定金利期間中は返済額が確定できる

・固定期間終了後は変動金利を選択できるので、固定期間終了後に金利が低下すると返済額が減少

【デメリット】

・固定期間終了後に金利が上昇すると、返済額が増加

・借り入れ時に固定金利期間終了後の返済額が確定しないため、返済計画が立てにくい

■組み合わせタイプのメリットと注意点

変動金利型が固定金利型よりも金利水準が低いため、「変動+固定」の組み合わせタイプでは、すべて固定型で組んだ場合よりも借り入れ時点の金利を抑えることが可能で、毎回の返済額も少なくできます。一方、固定金利タイプは完済時まで金利が固定され、返済額が一定という安心感を得られるメリットがあります。そのため、すべて変動型で組んだ場合よりもある程度の安心感を確保できます。

つまり、変動と固定のお互いの長所を半々で取り入れて、不安要素を少し減らしながら金利水準が低いメリットも享受するという効果が得られることとなります。

ただし、組み合わせの場合でも、変動金利型が含まれている場合は、将来の金利上昇リスクを抱えている点は変わりません。それを踏まえて、すべてを変動金利にする場合や一部のみを変動金利にする場合のいずれでも、極力金利が低水準で返済負担が軽い時期に貯蓄を進め、金利上昇時に備える取り組みが重要になります。

また、金利タイプを組み合わせるために2本のローンを組むと、事務手数料が2本分発生してしまうことになります。この点にも留意しながら選択していく必要があります。

【3】元利均等返済と元金均等返済

住宅ローンは金利タイプで分類されるほか、返済時の方法によっても2種類に分類されます。それが「元利均等返済」と「元金均等返済」です。

■元利均等返済

(1)仕組み

元利均等返済は、元金と利息で構成される毎月の返済額が完済時まで一定額となる返済方法で、一般的によく利用されるタイプです。下図のように、返済額のうち、元金部分と利息部分の内訳が返済時期によって変わっていくのが大きな特徴です。返済当初は月々の返済金額に占める元金部分が少なく、返済が進むにつれ徐々に元金返済分が増えていき、反対に利息部分は返済当初は多いが、返済が進むにつれ減っていく仕組みとなっています。

(2)メリットと注意点

元利均等返済のメリットは、図で示した通り、毎月の返済額が一定なので返済計画が立てやすい点です。一般に多く利用される返済方法なので、多くの金融機関が商品として提供しており、分かりやすく馴染みやすいのが特徴です。

ただし、特に変動金利で元利均等返済を選ぶ際は、金利上昇により将来の返済負担が膨らむリスクがあるため、注意が必要です。

【元利均等返済のイメージ】

ローンの借入時から完済まで毎月の返済額は一定です。

【メリット】

・毎月の返済額が一定なので返済計画が立てやすい

・元金均等返済に比べ、当初の返済額が少なく済む

・ほとんどの金融機関で取り扱われている

【デメリット】

・返済期間が同じであれば、元金均等返済よりも総返済額が多くなる

・元金均等返済に比べ、返済開始当初の元金の減り方が遅い

元利均等返済の返済プラン

借入額3,000 万円、全期間固定金利1.4%、借入期間30 年の場合

■元金均等返済

(1)仕組み

元金均等返済は、毎月の返済額に占める元金の部分を一定にして、常に残った元金に対しての利息額を上乗せして返済していく方法です。下図のように、元金は返済が進むにつれ減っていくので、それに伴って利息額も減り、元金と利息で構成される毎月の返済額も徐々に減少していく仕組みとなります。

また、元利均等返済と比べた場合、返済当初から毎月返済額に占める元金部分が多いため、その分元金の減り方がより早くなります。その結果、支払う利息の総額も元金均等返済のほうが元利均等返済より少なくなる特徴があります。

(2)メリットと注意点

メリットとしては、毎月の返済額は返済が進むほど少なくなるため、年齢を重ねるごとに返済負担が軽くなる点が挙げられます。ただし、当初の返済負担が重くなるため、元利均等返済に比べて住宅ローンの借入可能金額が少なくなるのは注意したい点といえます。

また、元利均等返済が主流であるため、すべての金融機関で取り扱われているわけではない点も要注意といえるでしょう。

【元金均等返済のイメージ】

ローンの借入時から完済まで毎月同額の元金を返済

毎月の返済額は徐々に減少します。

【メリット】

・毎月の返済額(元金+利息)は返済が進むほど減少し、負担が軽くなる

・返済期間が同じなら元利均等返済より総返済額が少なくなる

・元利均等返済に比べ、返済開始当初の元金の減り方が早い

【デメリット】

・返済当初の返済負担が重い

・元利均等返済に比べ、借入可能額が少なくなる

・扱う金融機関が限られている

【4】頭金について

■頭金の考え方

かつて住宅ローンを組む際には旧住宅金融公庫を使う人が圧倒的に多く、その際の融資条件は「物件価格の8割まで」であったため、2割は頭金を準備する必要がありました。

しかし、現在ではほとんどの銀行ローンにおいて100%まで住宅ローンを組むことができるようになっており、また、低金利、住宅ローン減税の恩恵もあるため、一概に頭金が多ければいいというロジックは通用しなくなってきています。

ライフプランを立てることにより、住宅ローン減税を受けることのできる金額と銀行に支払う利息や諸費用を計算し、あえて10年間はローンを借りて住宅ローン減税の恩恵を最大限受け、10年後に繰り上げ返済をするという選択肢も検討することも必要となります。時代の移り変わりに合わせて、すべての選択肢を知っておくことが何より重要です。

また、住宅ローンは物件の担保価値を下回らない水準で組むことで安心ができるという見方もあります。その場合でも、特に新築物件では、人が住むと中古物件となり価値が下がる傾向があるため、その点に留意する必要があります。物件購入後、早い段階でその物件を売却しなければならない事態になった場合、担保割れを起こして物件売却代金で住宅ローンを完済できない可能性があることは認識しておきたいポイントです。

頭金として購入金額の2割準備した場合の効果:

●購入金額4,000 万円、返済期間30 年、金利1.4% で全期間固定金利・元利均等返済の場合、①頭金なしと②頭金800万円(購入金額の20%)の比較

ただし、10年間のローン減税で税金が戻ってくることや、10年後に繰り上げ返済をすることによるメリットを加味すると、上記の効果が逆転する可能性もあります。

■購入時にかかる諸費用

頭金の準備や購入金額については、物件の価格に加えて諸費用も含めて考える必要があります(住宅ローンの諸費用については●●ページ参照)。

一般に、諸費用の金額の目安は、建築費・購入価格に対し、新築なら5~7%、中古なら7~10% 程度とされています。

税金をはじめとするこれらの諸費用は住宅ローンの融資対象外となるので、諸費用ローンを使うという選択肢もあります。ただし諸費用ローンは金利が高いため、できれば自己資金で用意しておきたいところです。

■頭金準備の際の注意点

住宅取得向けに資金を振り分けすぎて、その後の家計を圧迫しないかにも十分配慮することが重要です。住居費以外の家計費として出産・子育て費用、教育資金、医療・介護費用、自動車の維持や買い替え費用、老後への蓄えなども確保しておかなければなりません。そのため、少なくとも毎月の生活費の6ヶ月分程度は頭金とは別に残しておくのが望ましい状態です。特に子育て世代はゆとりを持った資金管理が求められます。

また、適切に資金の確保をするために、子どもの進学や自動車の買い替え時期など、まとまった資金が必要になるライフイベントを事前に把握しておくよう心掛けましょう。

【5】返済期間

■返済期間はライフプランと照らし合わせて考える

住宅ローンの返済期間を考える際は、現在の家計状況だけでなく、長いスパンで世帯全体のライフプランを考慮しながら決定するのが重要です。今は無理がないプランでも、将来、予定外に出費が膨らんだり、収入が減少したりするリスクがあることも念頭に置いて慎重に考えましょう。

住宅ローンの完済時期は金融機関により異なりますが、80歳前後を完済条件とするケースが多く見られます。ただし、住宅ローンを組む本人が会社員等で給与所得のみの場合は、定年、または退職時を完済時期とするのが安心できるプランとされています。この点はそれぞれの世帯の事情などを勘案しながら検討したい部分です。月々の返済額と返済期間の関係を見た場合、同じ金額の借り入れをするなら、返済期間を短くするより長くするほうが月々の返済額は少なくて済みますので、月々の返済負担を少しでも減らしたい場合は借入期間を長くするのも一考です。一方で、借入期間が長くなるほど利息の負担も重くなるということは十分に理解しておきたいです。

返済期間と返済額の関係:

●借入額3,000万円 全期間固定金利 1.4% 元利均等返済の例:

■住宅ローンが組める年齢

住宅ローンを新規で組むことができる上限年齢は金融機関により異なります。例えば全期間固定金利の「フラット35」は満70歳未満が対象で(親子リレーローンを使用しない場合)、金融機関の提供する民間の住宅ローンでも65~70歳前後をローン申し込みの上限年齢とするケースが多くあります。最近は老後にマイホーム取得を希望する人も増えていますが、高齢になると希望する金融機関で住宅ローンが組めなくなる場合もあるため、計画的に動く必要があります。

また、特に退職者の場合は、年金収入等を確認しながら、ローン返済の手段が確保できるかをよく考えて実行に移すよう心掛けましょう。

全期間固定金利「フラット35」の借入期間の条件

15年(申込者本人、または連帯債務者が満60歳以上の場合は10年)以上で、かつ、次の(1)または(2)のいずれか短い年数(1年単位)が上限です。

※(1)または(2)のいずれか短い年数が15年(申込者本人または連帯債務者が満60歳以上の場合は10年)より短くなる場合は借り入れ対象とならない。20年以下の借入期間を選択した場合は、原則として、返済途中で借入期間を21年以上に変更できない。

【6】月々の返済額の計算

■年収に応じた借入限度額

住宅ローンの月々の返済額を決める際は、購入する物件価格以外に購入者の年収に対するバランスも考慮すべきです。このバランスは、返済負担率という率を基準に判断されます。返済負担率は、「総返済負担率」や「返済比率」とも呼ばれ、年収に対する年間の返済額(元金+利息)の割合のことを指します。住宅ローンなどを借りる際の収入基準の一つとされ、金融機関等では借り入れ条件(融資条件)として、返済負担率の上限を設定しています。返済負担率は金融機関によって異なりますが、通常は最大35~40%以内の水準とされます。

ただし、将来年収が減る可能性がある場合や、金利が上がると返済額が増える変動金利型のローンを利用する場合は、金融機関が提示する借り入れ条件の範囲であるからと油断せず、余裕を持った水準で月々の返済額を決めるのが好ましいといえます。

住宅ローンは世帯年収での審査ですが、配偶者が仕事を辞める場合には注意が必要です。

■返済負担率(返済比率)の上限から借入限度額を求める

35年間固定金利の「フラット35」の場合、年収により2段階の返済負担率の基準が定められています。返済負担率は、年収400万円以上の場合は35%以下、年収400万円未満であれば、30%以下となります。この返済負担率の上限と返済期間から借入可能額を求める方法もあります。なお、「フラット35」の場合、返済負担率を求める際は、「フラット35」以外の住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、カードローン(クレジットカードによるキャッシング、商品の分割払いやリボ払いによる購入分を含む)も月の返済分に含んで計算されます。

WORK

「フラット35」の場合の借入可能額の計算例

年収 : 700万円 年齢 : 30歳(これから組む住宅ローン以外に借り入れなし)

物件価格 : 4,000 万円 融資上限額:物件価格の100%

「フラット35」の金利 : 1.4% 元利均等返済

▶STEP1 年間返済額を計算

●年間返済額=①年収×②返済負担率基準-③他のローンの年間返済額

① 700 万円×② 35% −③ 0 円→年間返済額は④ 245 万円

▶STEP2 返済期間を確認

フラット35の場合は、返済期間はA「15年以上35年以下」かB「80歳到達までの年数」の

いずれか少ない年数

事例の場合はAのほうが少ない年数なので35 年

▶STEP3 借入可能額の計算

●借入可能額=④年間返済額÷12 ヶ月÷⑤100万円あたりの毎月返済額× 100 万円

④ 245万円(年間返済額)÷12 ヶ月÷⑤3,013円×100万円≒⑥6,776万円

借入可能額は計算で求められた⑥ 6,776 万円と「物件価額の100%」のいずれか低いほうになるので、借入可能額は4,000 万円となる

参考までに、同じ返済期間で銀行ローンを使用した場合の借入可能額は次ページの表の通りとなります(ここでは、銀行ローンの審査金利を3%と仮定します)。

【参考資料】

② : 年収に応じた返済負担率の基準(「フラット35」の場合)

年収400万円未満→30%以下

年収400万円以上→35%以下

⑤ : 金利1.4%の場合の100万円あたりの毎月返済額(返済期間35年)

→3,013円(●●ページの返済額早見表より)

銀行ローンの場合の年収・返済負担率別の借入可能額

査金利3%、返済期間35 年とした場合の例(ここでは物件価格は考慮しない)

■ボーナス返済

住宅ローンの返済方法には、毎月返済のほか、「ボーナス併用返済」という返済方法もあります。ボーナス併用返済は、ボーナス支給の月に返済額を毎月より増額して返済を行います。ボーナス返済に振り替えられる割合は、「フラット35」では借入金額の40%以内、他の民間金融機関の住宅ローンは一般に借入金額の50% 以内とされています。

ボーナス併用返済を使うと月々の返済を減らすことができますが、ボーナスは景気や会社の業績に大きく影響を受ける場合があることを注意しておきましょう。そのため、返済全体の中でボーナス返済分の比重が大きくなりすぎないようにすることが大切です。

また、退職後もローンが続く場合には注意が必要です。無理にボーナス併用返済の形を取らなくても、ボーナスを繰り上げ返済向けの資金として確保しておく方法もあります。

■返済額早見表と融資限度額の算定

返済額早見表は、100万円を借り入れた場合の毎月の返済額を示す一覧表です。これを活用すると、ローン金利と返済期間が分かれば、借入金額の毎月返済額の試算が可能となります。

【試算例】

下記条件の住宅ローンの毎月の返済額を早見表から求める

借入金額 : 2,500 万円 適用金利 : 年利1.4%

返済期間 : 25 年 返済方法 : 元利均等返済

▶STEP1

返済額早見表の金利→1.4%、返済期間→25年の交差する値を確認すると「3,953 円」

▶STEP2

毎月の返済額=借入金額2,500万円×(3,953円÷100万円)=98,825円

ここで求められた「98,825円」が毎月の返済額と試算できる(ただし、早見表からの試算は多少の誤差が発生することがあります)

■住宅ローン計算~元利均等返済の場合

元利均等返済は、毎月の返済額(元金+利息)を完済時まで一定にしつつ、あらかじめ決めた返済回数でローン金額を完済する返済方法です。

元利均等返済の毎月の返済額は次ページの計算式で求められます。

なお、1円未満の端数の取り扱いについては、金融機関によって異なる場合があります。

この他、金融機関の計算方法の違いにより、算出した値と若干数値が異なる場合がある点は理解しておきましょう。

■住宅ローン計算~元金均等返済の場合

元金均等返済の毎月の返済額は元金と利息と別々に計算します。

(1)元金の求め方

元金の返済額は毎回変わらないので、当初の借入金額(元金)を単純に返済回数で割った値となります。

(2)利息の求め方

利息は借入残高に対してかかるので、金利1.4%の場合は借入残高に1.4%を掛けて12で割った値となります。

(3)借入残高の求め方

借入金額が2,000万円の場合、2回目返済時の借入残高は「2,000万円−初回の元金返済金額」の値となります。

3回目以降の借入残高は、「2回目の借入残高−初回の元金返済金額(元金均等返済なので初回も2回目以降も元金の返済金額は同じ)」と計算し、以降この手順を繰り返して計算していきます。

【例】借入金額2,400 万円、返済期間10 年(返済回数120 回)

【全期間固定金利1.4% の場合 】

①毎月の元金部分の返済額 2,400 万円÷ 120 回→ 20 万円

②初回の利息部分の返済額 2,400 万円× 1.4% ÷ 12 → 2 万8,000 円

③ 2 回目返済時の借入残高は2,400 万円− 20 万円→ 2,380 万円、

3 回目返済時の借入残高は2,380 万円− 20 万円→ 2,360 万円となる

4 回目返済時の借入残高は2,360 万円− 20 万円→ 2,340 万円となる

……以降、同じように借入残高に金利を掛けて計算

④初回の返済額は① + ②の22 万8,000 円となる

【元金均等返済の毎月の返済額 】

①元金=当初の借入金額÷返済回数

②利息=借入残高×金利÷ 12

③毎月返済額=①+②

■住宅ローンの返済条件の変更

ボーナス併用払いの変更、ボーナス比率の変更など、条件変更の手数料やその方法は金融機関によって異なるため、相談の上、どれだけのメリットがあるかを考慮しながら慎重に進めていきましょう。当然ながら、何度も条件変更に踏み切ると手数料の負担が大きくなります。条件変更に踏み切る前に、家計のなかでもっと工夫できる点がないかについて十分に検討することが必要になります。

【7】返済比率と購入額

住宅を購入する際に、多くの人が考えるのは「いくらの住宅が買えるのか」ということです。全額を現金で払える場合は単純ですが、通常は住宅ローンを借り入れて住宅を購入します。住宅ローンを組む場合の理想的な金額の目安をどのように考えるかと、それをもとに実際に無理のない購入額の考え方について学びます。

■返済比率とは

金融機関が住宅ローンの審査を行う際に目安にする比率で、年収に占める年間返済額の割合を指します。その割合は以下の計算式で求めることができます。

返済比率(%)=(ローン返済額の年間合計÷年収)×100

<例>

年収500万円、毎月のローン返済額12万円の場合

(12万円×12ヶ月)÷500万円×100=28.8%

住宅ローン以外の借入がある場合、その借入も加えて計算されます。

・車のローン

・奨学金の返済

・クレジットカードのリボ払い

・その他分割払いになっているもの等

■返済比率の目安

返済比率が低いほどその返済にゆとりがあるとされ、返済比率の一般的な理想範囲は25%~35%と言われています。もちろんこの数字は金融機関によって様々ですが、返済に対し安心できる目安範囲と言えるでしょう。

■個人特性による違い

上記の返済比率は、主に給与所得者の場合の考え方であり、個人事業主の場合には確定申告書の所得の合計を確認されることが多くなります。個人事業主の場合に、所得とは年間売上から経費を差し引いた利益となり、売上があっても利益が少ない場合、住宅ローンの審査で厳しい判断をされることもあります。

■返済比率から見る借入可能額と物件価格

以下の表は、額面年収500万円の給与所得者の場合の、返済比率から見た借入可能額の目安です。この金額にどれだけの頭金を用意できるかで、無理のない住宅の購入が可能となります。

これから家を建てる方に向けてアドバイス⑤

■購入後の注意点

新しい住宅に住んだ後のメンテナンスやお手入れ、新たに住んでいく上で気を付けるべきことについて学んでいきましょう。

大手の施工業者でも、1、2年では保証はついていないところがほとんどです。逆に1、2年でメンテナンスが必要となってしまう家は、しっかりと建てられていないということになるからです。

新たに住んでみて、最初の1ヶ月に無償で行われる1ヶ月点検があります。これは、購入後に気になっている箇所を無償で直してもらえるチャンスです。入居してから1ヶ月は、実際に住んでみて、少し不具合に感じる箇所、不便に思う箇所、変えたい箇所などを徹底的に探していき、それをメモに取っておくことが大切です。1ヶ月点検の際に、そのメモを渡せば、施工業者の方々は修繕すべき箇所を具体的に把握できるようになります。気になる箇所は1ヶ月点検の際にすべて直していきましょう。

住宅の建設時だけでなく、その後の点検の際に自分の理想の家へ近づけていくことで、満足のできる住宅が完成します。言いたいことは言い切って、きれいに直してもらった良品を提供してもらえるようにしていきましょう。

第4章 購入後~住宅ローンの見直し

【1】低金利が続く市場の環境

■リーマンショック後の金融庁の対応

20年や30年という長期にわたって返済を続けることになる住宅ローンだが、その期間には、経済環境、金融環境も変化し、また、個々の家族や家計の事情も当初の予測とは違ってくることも多くあります。2008年に起きた「リーマンショック」以降、世界的な金融不安(いわゆる2008年の金融危機)を背景に、企業の収益の悪化やそれに伴う賃金の低下などが相次ぎ、住宅ローンの返済が厳しくなったり、滞る事案が多発しました。これを受けて、2009年に金融庁は「(現在の)経済金融情勢において、特に厳しい状況にある中小・零細企業の事業主の方々や、住宅ローンの借り手の方々を支援するため、貸し渋り・貸しはがし対策の検討を開始する」ことを公表し、「金融機関が、中小企業や住宅ローンの借り手の申し込みに対し、できる限り、貸付条件の変更等を行うよう努めること」とする中小企業金融円滑化法が施行されました。

この法律は2013年3月末で期限を迎えたが、金融庁は「引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべきということは、今後も何ら変わらない」というコメントを出し、引き続き金融機関が住宅ローン利用者の希望に柔軟に対応することを求めています。

■マイナス金利の継続

2016年1月に日本銀行が「マイナス金利」の導入を決定し、翌2月から各金融機関が日銀に預けるお金について、これ以降新規で預ける分についてはマイナス金利(-0.1%)が適用されることになりました。

金融機関が日銀に預金すると利息を支払うことになるため、日銀に預けておくより、市場に出させることを目的とした政策です。これを受けてまず長期金利を中心に金利が下落、金融機関は金利を引き下げるなどして、住宅ローンをはじめとする融資を積極的に増やすものと期待されました。

「フラット35」の金利も2016年の年初には1.5%を超えていましたが、同8月には0.9%にまで下落しています。2016年9月に日銀が、「長期金利(10年物国債利回り)をゼロ%程度にする」という新たな金融緩和政策を導入したため、金利は下降モードに入りました。不景気で企業の設備投資が控えられ、金融機関の企業への融資が伸び悩み、金融機関は個人向け住宅ローンに力を入れ始めました。そのため、住宅ローンの店頭金利からさらに金利を引き下げる優遇金利競争が激化して変動金利の適用金利が1%を切るなど、住宅ローンの表面金利はほぼ下げ止まりとも言える低いレベルとなりました。 長期金利が将来邸にどうなるかという予想は大変難しいため、動向を慎重に見守る必要があります。

【2】住宅ローンの見直し

■金利の下降局面は住宅ローンの見直しの良い機会

住宅ローンは借入金額が大きく、返済期間が長いため、総返済額は金利の状況に大きく影響を受けます。このため、金利が下がっている局面は、住宅ローンを見直す絶好のタイミングといえるでしょう。現在、「フラット35」の金利が1%前後で推移する状況は、数年前に比べて非常に低く、今後の動向は不明ですが、借り換えを行うなら金利が低いうちが有利となります。固定金利は一般的に変動金利よりも先に上昇することが多いため、変動金利が上昇し始めてから固定金利に切り替えると、借り換えのメリットが小さくなることがあります。

■返済条件の変更(リスケジュール)

金融機関によっては、住宅ローンの返済条件の変更(リスケジュール、またはリスケ)に応じてくれる場合があります。例えば、家計が苦しく返済が困難になった場合には、

・返済期間の延長

・一時的な返済猶予

・一定期間のみ利息だけを返済する

などの方法があり、いずれも総返済額が増えたり返済期間が長くなることがあります。

また、このほかにも

・月々返済額の増額(一時的、恒常的)

・「固定金利」と「変動金利」

・「元利均等返済」と「元金均等返済」

・「ボーナス返済あり」と「ボーナス返済なし」

などの条件の見直しに対応してくれる金融機関もあります。

リスケに際しては改めて審査があるため、リスケにより返済期間が延長された場合には、優遇金利がなくなったり総返済額が増えるなどデメリットもあるので、事前にどのような状況になるのか確認しましょう。

民間金融機関では、リスケの対応を公表していないところが多いですが、「フラット35」については住宅金融支援機構が返済期間の延長、一定期間の返済額の減額、ボーナス返済額の変更などへの対応をホームページで公表しています。

※「フラット35」のHP → 「ご返済中の方」 → 「金融円滑化への取り組みについて」を参照

■月々の返済が困難な状況になった場合

長い年月の間には、会社の業績が悪化して給料が減る、病気や事故で働けなくなるなど、月々の返済が予定通りに進まないこともあるでしょう。子どもが学費の高い学校に進学するなど、家計を圧迫することもあるかもしれません。そのような場合は、速やかに金融機関に相談することをお勧めします。無理に返済しようとしてキャッシング等の他のローンを利用したり、延滞を繰り返すほうが、その後の状況を悪化させることが多いでしょう。金融機関としても、ローンを全額回収できないという事態に陥るよりは、早めの対策をとったほうが得策といえます。

■家計に余裕ができた場合

返済を続けている状況で、一時的に余裕が出た場合には、繰り上げ返済も選択肢に入れることができます。繰り上げ返済を行うことで、元金が減り、利息負担が軽くなるため、総返済額の削減につながります。

【3】繰り上げ返済

■繰り上げ返済とは

住宅ローンの返済途中で元金の一部もしくは全部を返済することを繰り上げ返済と言います。元金が減ることで、その部分の利息もなくなり、総返済額が減ります。繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」があります。期間短縮型は、利息の減少効果が返済額軽減型よりも高くなります。

(1)期間短縮型

期間短縮型は、月々の返済額を変えず、返済期間を短縮する方法です。元金が減るため、利息も減り、総返済額が縮小します。繰り返し行うことができ、その都度返済期間を短縮できます。ローンの返済額を減らしたい、また、返済を早く終わらせたい場合に効果的です。ただし、手元の現金が減ることにはリスクも伴うため、ライフプランを立てて繰り上げ返済の計画を立てることが必要です。

(2)返済額軽減型

返済額軽減型は、ローンの返済期間を変えず、月々の返済額を下げる方法です。繰り上げ返済時点のローン残高から、繰り上げ返済額を差し引き、残りの返済期間で月々の返済額を再計算します。返済額軽減型は、将来の支出増や収入減に備えて返済額を抑えたい、金利上昇による返済額アップに備えたい、借り換えで返済期間を短縮したくない場合に、長期的な視点で計画的に活用すれば効果的です。

■繰り上げ返済のタイミング

ローン開始時期からの期間が短い(ローン残高が大きい)ほど、総返済額削減の効果が高くなります。例として(1)の借り入れ条件で期間短縮型の繰り上げ返済をした場合、ローン開始から1年後(約91万円)と5年後(約79万円)では、約12万円の差が出ます。

■一括全額返済

ローン残高を一度に全額返済することも繰り上げ返済の一つです。例えば、返済途中で定年を迎え退職金を使って返済することや、相続によってまとまったお金が入って返済する場合があります。残りの元金がなくなるため、利息分が軽減されます。ただし、繰り上げ返済には手数料がかからないことが多いですが、一括返済には手数料がかかることがあります。

住宅ローン減税は、住宅購入後10年間、毎年末の住宅ローン残高の1%が、納めた所得税額から控除される制度です(給与所得者の場合)。購入後10年以内に一括返済をしてしまうとローン残高がなくなるため、利用できなくなります。ローン控除を受け終わってから一括返済をする方が得かどうかは、それぞれの場合で計算が必要です。

■繰り上げ返済の手続き

繰り上げ返済ができる金額や手数料は金融機関によって異なるため、それぞれ確認が必要です。一般的には、以下の手続きが必要となります。

なお、決済は毎月の返済日とするところが多いですが、最近では繰り上げ返済を申し込むと即日決済する金融機関もあります。

■保証料の返戻(へんれい)

ローンの保証料を外枠方式で支払っている場合は、繰り上げ返済をしてローン返済期間が短縮されると、その分の保証料が戻ってきます。保証料はローン期間に対して先払いで支払うため、期間が短くなるとその割合に応じて減ります。ただし、返戻に対する手数料は差し引かれ、残年数の按分で戻ってくるわけではありません。

【4】繰り上げ返済と住宅ローン控除

住宅ローン控除を上手に活用することで、最大13年間の控除が受けられる場合があります。そのため、早期に住宅ローンの繰り上げ返済をするよりも、控除を全て受けてから繰り上げ返済を検討した方がお得になるケースもあるでしょう。それでは、どのような条件が該当するのでしょうか。

■控除対象となる年末残高限度額

認定住宅の場合、住宅ローン残高の最大5,000万円が控除対象となります。一方、他の新築住宅では、最大3,000万円が対象となります。そのため、これらの限度額を超える残高部分については、繰り上げ返済しても問題ないと考えられます。

■控除は所得税+住民税の一部から

住宅ローン控除は、支払っている所得税と住民税の一部から、税金控除の形で還元される仕組みです。もし支払っているこれらの税金が、住宅ローン控除の上限金額である5000万円×0.7%の35万円以下の場合であれば、それ以上の控除はありませんので注意が必要です。また、所得税には上限がないものの、住民税については97,500円が上限となります。したがって、どのくらい税金を納めているかの確認が必要です。

また、支払っている税金が控除額よりも少ない場合には、その税額の100倍までが控除の対象となる住宅ローンの残高になります。それを超える額は繰り上げ返済をしても影響がないと言えます。

■住宅ローン金利から考える

住宅ローン控除では、その年の年末のローン残高の0.7%を上限に減税されます。そのため、現在借り入れている住宅ローンの金利が0.7%よりも低い場合、その差額は得と言えます。認定住宅であれば、13年間の住宅ローン減税を受けてから、その後に繰り上げ返済を検討しても遅くないでしょう。逆に、現在借り入れている住宅ローンの金利が0.7%よりも高い場合、繰り上げ返済が有効であると言えます。

【5】住宅ローンの借り換え

■借り換えの仕組み

住宅ローンの借り換えとは、現在住宅ローンを借りている金融機関から返済途中で別の金融機関のローンに切り替えることです。具体的には、A銀行から3,000万円の住宅ローンを3%の金利で借りている場合に、現在のローン残額を新たに金利が2%のB銀行から借りてA銀行に支払い、今度はB銀行に返済を続けるということです。

■借り換えのメリットとデメリット

A銀行からB銀行のローンへ乗り換えるメリットは、住宅ローンを借りるための費用(利息)を安くすることによって、総返済額を下げられることです。ローンを借りたときよりも、金利が下がっている状況でないと、基本的には借り換えのメリットはありません。

デメリットは、借り換えによって発生する手数料や諸費用、印紙税など、借り換えをしなければ発生しない費用がかかることです。したがって、金利を下げることによって削減できる返済額より、諸費用等の金額が上回るかそれほど差がない場合は、借り換えをするメリットがないといえます。

また、以下の場合には借り換えることでメリットが出やすいとされます。

・ローン期間が残り10年以上ある

・ローン残高が1,000万円以上ある

これは、ローン残高が少ない、残りの返済期間が短いなどの場合は、低い金利に借り換えても効果が低いからです。

また、これまでは「借り換え先の金利との差が1%以上ある」ほうが良いといわれてきましたが、保証料がない、事務手数料が安いなど借り換えの諸費用を低く抑えられるローンもあり、その場合には、金利差が1%なくてもメリットが得られる場合があります。

■借り換えのタイミング

一般に、借り換えを検討するのに良いタイミングとしては、

・現在の金利水準が借り入れしている住宅ローンの金利より低い

・変動金利、もしくは短期間の固定金利の住宅ローンを借り入れている

場合とされています。

月々の返済額を少し抑えたい場合に、現在の金融機関で返済額の見直しをするより、金利の低いローンに借り換えたほうが良い場合もあります。住宅ローンの返済中にリフォームを行う場合は、リフォーム資金も含めて借り換えることができます。別途リフォーム資金を借り入れるのとどちらが良いかは検討すべきところでしょう。

また、大きな病気等をすると、借り換え先で団信への加入が難しくなることがあるので、できれば健康なうちに借り換えを検討するのが望ましいでしょう。

■借り換えの諸費用

借り換え時の諸費用は以下のようなものがあります。基本的には新規にローンを組む場合と同様である。また、諸費用を含めて借り換えのローンを組むこともできます。

■借り換えの手順(手続き)

借り換えのシミュレーションができるウェブサイトがいくつもあるので、それを使って借り換え後の毎月の返済額や総返済額がいくら減らせるかなどの概算金額を知ることができます。

借り換え先のローン(金融機関)を選んだら、改めて試算してもらい、その後、新規で借り入れをするときと同様に、審査を受けます。審査に必要な書類は、おおむね以下のようなものです。

【自分で用意するもの 】

・借り入れ申込書

・住宅取得以外の借り入れ内容に関する申出書

・団体信用生命保険に関する書類

・本人確認書類(健康保険証、運転免許証、パスポートなど)

・現在住んでいる物件の確認書類(売買契約書・登記簿謄本等)

・現在の住宅ローンの返済予定表のコピー

・住宅ローン返済分直近12 ヶ月分が記載された銀行通帳のコピー

【役所で発行してもらうもの 】

・住民票(「フラット35」は発行後3ヶ月以内、金融機関によっては1ヶ月以内)

・納税証明書(または源泉徴収票)

審査の結果、借り入れができることになったら、借り入れ実施日を決めて、今借りている金融機関にローンの完済申込書を提出し、借り換え先の金融機関にはローンの本申し込みを行います。この先は新規のローン借り入れと同様の手続きとなります。

■借り換えと金利の選択

借り換えで金利によるメリットを受けるには、現在借りている金利よりも低い金利の住宅ローンに借り換えをする方法と、先を見越して低金利の今のうちに変動金利から固定金利に借り換える方法が考えられます。当初設定した固定金利期間が終了する時は、借り換えを検討すべきタイミングといえます。

「フラット35」を借りている場合でも、残りの借入期間が20年以下になると、21年以上の場合より金利が低くなります。また、金利の高い時の「フラット35」から金利が低い「フラット35」への借り換えも可能です。

固定金利は変動金利に先んじて上昇することが多いので、変動金利が上がり始めてから固定金利へ借り換えるのでは、借り換えのメリットが少なくなることがあります。

固定金利へ切り替える場合は、今後のライフプランと照らし合わせ、子どもの教育費等があと10 年で終わるような場合には10 年固定、5年後まで共働きができず収入が減るということが分かっている場合には5年固定にするなど、金利の変動リスクを最小に抑えられるようにします。

【6】借り換えと住宅ローン減税

■借り換えと住宅ローン減税

住宅ローン減税の対象となる住宅ローンは、住宅の新築、取得または増改築等のためのローンであることが前提です。したがって、借り換えは、以前の住宅ローンを完済するための借り入れであり、厳密には住宅ローン減税の対象ではありません。しかし、以下の要件を満たす場合には、借り換えローンも住宅ローン減税の対象となります。

・新しい住宅ローン等が当初の住宅ローン等の返済のためのものであることが明らかであること

・新しい住宅ローン等が10年以上の償還期間であることなど、住宅借入金等特別控除の対象となる要件に当てはまること。例えば、住宅の取得等の際に償還期間が10年未満のつなぎ融資を受け、その後に償還期間が10 年以上となる住宅ローン等に借り換えた場合も同様です。

住宅ローン控除を受けることができる年数は、住み始めてから一定期間(現在は10年)であり、住宅ローン等の借り換えによって延長されることはありません。

借り換え後の住宅ローン減税の対象となる年末残高は以下のようになります。

A= 借り換え前の住宅ローンの残高

B= 新たに借り換えたローンの金額

C= 借り換え後の住宅ローンの年末残高

・A ≧ B の場合(ローン残高と同額を借り入れた場合)

住宅ローン減税の対象額=C

・ A < Bの場合(ローン残高に諸費用等を含めたり、リフォーム資金をあわせてローンを組み直した場合など)

住宅ローン減税の対象額=C × A/B

ちょっと一息 コラム①

契約不適合責任(瑕疵担保責任)

■契約不適合責任(瑕疵担保責任)

瑕疵担保責任とは、不動産の売買において売主が買主に対して、物件に隠れた瑕疵があった場合に物件の補修や損害を請求できるといった物件の瑕疵に関する売り手側の法的な責任のことを指します。

■瑕疵担保責任が発生する場合の例

・建物の構造に欠陥がある場合

・水回りや電気設備、空調設備などの不具合がある場合

・地盤沈下やカビなどの問題がある場合

・雨漏り

・シロアリなどの虫食い

・地中埋設物の存在や土壌汚染

・心理的欠陥

期間は法律で定められていますが、瑕疵の程度や責任の割合は事情によって異なります。売買契約書や不動産業者のアドバイスなどを参考に、買主も売主に対して瑕疵の有無を十分に確認し、瑕疵担保責任について理解しておくことが重要です。

ちょっと一息 コラム②

不動産と相続

■相続時の注意点

実際に自分が亡くなる時の相続の仕方で気を付けるべきことは何でしょうか。

相続の際に、自分が建てた建物や、土地について、どのように相続させるかを考えておくことも重要です。土地も建物も、きっちり半分に分けることはできません。ここからはまず、大きい土地の場合について考えていきましょう。

最初に考えるべきことは、その土地をどう分割していくかです。この土地の分割の仕方を失敗してしまうと、土地の値段が相場よりも低くなってしまうことがあります。

例えば、場所は一等地の良いところだったのに、そこに建設してあった建物を売却してしまい、その後の法律の改正で再建築ができなくなってしまった場合などです。この場合だと、土地はとても良いところなのに、再建築のできないただの土地となってしまうため、その土地の価値は、相場の5分の1以下になってしまいます。つまり、その土地の坪当たりの価格が50万円であったものが、10万円以下にまで下がってしまうことになります。

また、相続を今から考えている人の中には、自分の建てた家を残しておきたいと考える人もいるかもしれません。しかし、時代とともに考え方は変わっていくため、永遠にその資産を残していくことは、ほぼ不可能といえるでしょう。上記のような希望を持たれている方は、将来的に収益を生む不動産として相続していくことも視野に入れてみましょう。資産の所有者が子供や孫へと移っていく中で、目先の資金需要を充足させるためにその資産を売って現金化しようと考える人も出てくるのを抑制できるかもしれません。

その他にも、子供が複数いると、相続財産を巡り揉めてしまうことも多々あります。それを防ぐためには、自分であらかじめ遺言書を書いておくことが大切になります。そのためには、自分の人生設計がしっかりしていることが必要不可欠です。50歳を過ぎたあたりから、子供の数、現在の収入や資産などを考慮に入れて、相続はどのようにするのかを考えていきましょう。万が一の際にもスムーズに相続をするためのポイントとなります。

第1章

POINT!

保険には民間の保険と国の保険の2種類があり、それぞれ異なる保障・補償範囲や保険料が設定されています。自身にとって必要な保障・補償が何かを明確にし、保険商品の選定を行うことが重要です。

「保険」という言葉を、皆さん一度は耳にしたことがあるでしょう。ここでは、私たちの人生をより安心して過ごすための仕組みである保険について学んでいきましょう。

【1】保険について

■保険とは

そもそも保険とは何でしょうか。

保険とは、日常に潜んでいるけがや病気、事故、災害などのリスクに備える仕組みのことを言います。

突然の事態に遭遇した時、個人の預金では対応しきれないことが多くあります。その場合に備え、みんなでお金を出し合い、もしもの時に保障や補償を受け取ることができる、これが保険です。保険には国が用意しているものと、民間の会社が用意しているものの2種類があります。

■国の保険

国の保険は、社会保険と呼ばれ、社会保障制度の一部として様々な種類の保険が用意されています。

■民間の保険

自助努力で生活をより安心なものにするために利用するのが民間会社の保険となります。安心を感じて日々の生活を送るためには国の保険では不足していると感じる部分を民間会社の保険で賄うことになります。

民間会社の保険には、生命保険、損害保険、医療分野保険など、国による保障・補償を補完するための様々な保険種類が提供されています。

【2】保険の種類

■国が用意している保険

国が用意している保険は主に5種類あります。

(1)健康保険

健康保険証を提示することで、医療機関窓口での受診者の医療費負担を軽減してくれる仕組みのことを指します。具体的には、健康保険証を提示することで、医療費の3割のみが自己負担、残りの7割は保険によって負担されます。また、医療費負担の上限を設けるという機能も提供してくれています。このおかげで、私たちは突然のけがや病気の際にも、過大な負担とならずに医療を受けることができます。

また、支払う医療費が高くなってしまった場合に給付を受けることができる高額療養費制度、出産時に一時金がもらえることで分娩費用などに充てることができる出産一時金制度等があります。

(2)労働者災害補償保険

仕事中のけがや死亡に対する保険です。労災と認められた場合は、治療などにかかる費用負担や、けがにより休業した期間分の休業給付を受けられます。また、仕事中の事故などにより死亡した場合、遺族給付が受けられることがあります。その他にも障害や介護などの給付もあります。

(3)雇用保険

雇用保険とは、病気やケガで働けない・退職後仕事が見つからないなど、さまざまな事情で働けない場合に傷病手当や失業手当などの給付を受けることができる保険です。また、子どもを育てるために取得する育児休業の給付金も雇用保険から給付されます。

(4)介護保険

40歳以上が被保険者となり、病気や加齢などで介護が必要となったときに、介護サービスを一定の負担で受けることができる保険制度となります。

(5)年金制度

老齢・障害・死亡など収入が減少してしまう場面で、給付を受けることができます。年金には国民年金と厚生年金があり、雇用形態などによって加入する年金が異なります。

■民間の保険の種類

民間の保険には様々な種類がありますが、主に以下の4つに分類されます。

・生命保険

人の死亡や一定年齢までの生存などを条件として、保険金を支払う保険です。

・医療傷害保険

病気やケガの際の治療費や入院費用などの保障を目的とする保険です。

・年金保険

老後生活に備えて、老後に年金を受け取る保険です。

・損害保険

偶然の事故などによって生じた損害を補償する保険です。

保険には主契約と特約という2つのパートがあります。

主契約はベースとなる契約で、特約はその主契約とセットで契約ができるオプション部分となります。

現在、日本では様々な保険商品が販売されており、生命保険と医療傷害保険など、異なる種類の保険がセットになっている商品や、特約で付加できる商品もあります。

■保険でよく使われる用語

・契約者

保険会社と契約を締結する人で、契約を結び解約する権利などを有し、保険料を支払う義務を負います。

・被保険者

保険契約の対象となる人。被保険者の生死や病気、傷害、罹災などの状況が保険金の支払いの事由となります。損害保険の場合、保険金を受け取る権利を有します。

・保険受取人

生命保険の保険金を受け取る人。保険契約者が指定します。

・保険料

契約者が保険会社に支払うお金。月払い、半年払い、年払い、一時払い、前納、一括払いなど、支払い方法は様々です。年齢、性別、契約内容などによって金額は異なります。

・保険金

被保険者が死亡した場合や一定の年齢まで生存した場合などの保険契約で決められた状態になった場合に、受取人に支払われるお金です。

・給付金

医療傷害保険などで被保険者が保険契約で定められた入院や手術をしたときに支払われるお金です。

・解約返戻金(解約返還金)

保険契約を解約、解除された場合に保険契約者に払い戻されるお金です。解約返戻金はすべての保険にはついておらず、有無や金額は保険契約内容によって異なります。

第2章 生命保険

POINT!

生命保険は、予期せぬ事態に備え、家族やビジネスを守るために非常に重要な商品です。生命保険は自身や家族の将来を考慮して選ぶことが大切です。保険料や保障内容を比較し、自身にとって最適な保険商品を選びましょう。

【1】生命保険とは

生命保険とは、人の死亡や一定年齢までの生存などを条件として、保険金を支払う保険契約のことです。人は生きていくうえで、万が一のリスクを負っています。生命保険を準備しておくことによってリスクが現実化した際の経済的困窮に備えることができます。

なお、生命保険については民間会社から受取人に支払われている保険金、給付金、年金は年間で約31兆円となっています。これはつまり、1日平均で約849億円が支払われている計算となり、契約関係者およびそのご家族の経済的な安心に繋がっています。

■生命保険の歴史

生命保険の仕組みは、中世ヨーロッパで生まれました。その当時の労働組合であるギルドが、冠婚葬祭など組合員の経済的マイナスをギルド全体で分担しあったことが始まりといわれています。その後、17世紀のイギリスで、教会の牧師たちが組合を作り、自身に万が一のことがあった際に遺族へ生活資金を出すために保険料を支払う制度を始めました。しかし、これは全員が同じ保険料を支払うため、不公平感が高まり、その組合はほどなくして解散してしまいました。その後、イギリスのジェームズ・ドドソンという人によって公平な保険料分担の方法が発見され、18世紀後半に世界で初めて、近代的な生命保険会社が設立されたのです。

日本では、初めて生命保険について触れられたのは、福沢諭吉の著書である「西洋旅案内」という本の中でした。その後1881年に日本で初めて、欧米の保険制度を参考にして生命保険会社が設立されたのです。その生命保険会社が明治生命保険相互会社であり、その後明治生命保険相互会社を基盤として現代につながる多くの生命会社が誕生していきました。

■生命保険の仕組み

生命保険の基本は、主に3つの考え方に基づいて成り立っています。この仕組みによって、保険は公平性を保っています。

(1)大数の法則

大数の法則とは、発生した事象が一見偶然に見える場合であっても、大量に観察すればその事象がある規則性をもっていることがわかるという法則です。例えば、裏表のあるコインを何百回、何千回と投げると、次第に裏表が出る確率がそれぞれ2分の1に近づいていきます。この法則は、保険料を決定するときに使われています。男女の平均寿命や、ある年齢から何年くらい生きられるのかを表す平均余命などの値から、年代や性別、健康状態ごとに保険料を算出していきます。

(2)収支相当の原則

収支相当の原則は、出ていくお金と入ってくるお金が一定となることを指します。生命保険では、多数の保険契約者が保険料を負担し、その保険料から病気になった人や死亡した人の保険金や給付金をまかなう「助け合い」の仕組みによって成り立っています。その為、生命保険は、契約者が支払う保険料の総額と保険会社が支払う保険金の総額が等しくなることが基本となります。

(3)公平の原則

生命保険における公平の原則は、それぞれの契約間で公平性が保たれていることを指します。保険金や給付金を受け取る確率に差があれば、その差分を保険料で埋めなくてはならないのです。年齢の若い人と高齢の人の場合、一定期間内に高齢の人の方が保険金や給付金を多く受け取ると考えられます。その為、支払っている保険料が同じ額であったとすると、不平等になります。そこで、若い人の保険料を安く、高齢の人の保険料が高くすることで、公平性を保っています。

■生命保険の基本形

生命保険には、主に3つの基本形があります。

(1)死亡保険

死亡保険というのは、死亡した際の保険金や重度障害等の一定の障害状態となった時の給付金を受け取ることができる保険のことを指します。

(2)生存保険

生存保険は死亡保険の逆で、一定の期間生存したことに対して保険金を受け取ることのできる保険のことを指します。期間中に死亡した場合は除き、決められた期間中は保険料を支払い、満期になったら決められたお金を受け取ることができるので、貯金のような仕組みに似ています。純粋な生存保険ではありませんが、年金保険や子どもの教育資金準備に活用される学資保険なども生存保険の一種となります。

(3)生死混合保険

生死混合保険というものは、死亡保険の保険金・給付金の受け取りに加えて、契約時に一定の期間(満期)を定め、その期間が満了したら満期保険金を受け取ることのできる仕組みのことを言います。

【2】生命保険について最初に考えること

■必要な保障は何か

生命保険について考える時、最初に考えるべきことは、我が家にとってどのような保障が必要なのかということです。

・もしも自分が亡くなってしまった時、家族にはどのくらいのお金が必要なのか。

・もしも自分が、貯蓄がないまま死んでしまったら、お葬式代は家族の貯蓄から負担してもらうこととなります。その場合のお葬式代はいくら必要なのか。

・もしも働いている自分が亡くなってしまうとその分の収入がなくなってしまいます。今の貯蓄で、これまでと変わらずに子どもや家族は生活していくことができるのか。

仮に貯蓄が3億円あれば、保険に入らずとも何の心配もないかもしれません。しかしながら、日本の一般家庭はそのような状態にはありません。亡くなってしまったり、大きな障害を負ってしまったりといった事態に備え、その後の自身や大切な人の生活を守っていく備えが生命保険となります。

生命保険文化センターの2021年の調査では、生命保険の世帯加入率は、89.8%となっています。また、世帯主の年齢が40代の世帯に注目してみると、加入している世帯の割合が93.6%であることが明らかになっています。このデータからも日本の多くの世帯が、生命保険に加入して万が一に備えていることがわかります。

■生命保険以外の保障

生命保険を考えるにあたり、生命保険以外の死亡に関する保障としてどのような保障が受けられるのかを知ることは非常に重要です。具体的な例を2つみていきましょう。

(1)遺族年金

国の年金制度に加入している人が亡くなられた時、国は遺族年金を支給することにより、残された人の生活を保障します。遺族年金は大きく2種類に分類されます。

・遺族基礎年金

遺族基礎年金は、国民年金に加入している人がなくなった場合に、遺族が受け取ることができる年金です。国民年金は20歳以上60歳未満の国民に加入義務があるため、自営業の人や専業主夫(主婦)の方がなくなった場合でも、条件を満たすことにより残された配偶者や子どもが遺族基礎年金を受け取ることができます。遺族基礎年金は子どもの人数などで金額が異なります。

・遺族厚生年金

遺族厚生年金は、厚生年金に加入している人が亡くなった場合に、遺族が受け取ることができる年金です。金額は、厚生年金に加入していた人の収入をもとに計算されます。

(2)団体信用生命保険

団体信用生命保険は住宅ローンを組んだ本人が亡くなった時に、住宅ローンと受け取る保険金を相殺することにより、以後の住宅ローン支払いがなくなります。この生命保険は、住宅ローンを販売した金融機関と保険会社とが契約を締結することによって、住宅ローンの支払者が返済期間中に亡くなった時に、保険会社から金融機関へ保険金が支払われる仕組みとなっています。団体信用生命保険には、特約として、がんに関する保障などをつけることもできます。この団体信用生命保険は、一般的には、本人が死亡した際に適用されますが、重度の障害を負った場合などにも例外的に適用されることがあります。

それでは、これら2つがどの程度の残されることになるご遺族にとってどの程度の保障となっているか、Aさんを例にとって確認します。

事例

[家族構成] Aさん(会社員)、配偶者、長女、長男

[Aさん平均月収] 25万円

[住宅ローン] あり、団体信用生命保険加入済み

遺族基礎年金:約8.3万円/月(約122.5万円/年)

遺族厚生年金:約3.3万円/月(約40万円/年)

住宅ローン支払い:0万円

Aさんの住宅ローン団体信用生命保険に加入していたこともあり、死後の住宅ローン残高は無くなり、住宅ローン支払いは必要がなくなりました。また、遺族年金として11.6万円が月々支払われることとなっています。

しかし、遺族年金額だけでは十分な生活を送ることは難しいでしょう。もちろん、人によって受け取れる金額は異なりますが、遺族年金のみでは、残された家族が幸せに生きていくことは難しいと想像がつきます。

では、遺族が十分な生活を送るために不足するお金はいくらなのでしょうか。それを考えることで、Aさんにとっての生命保険の必要性を考えることに繋がります。

■生命保険の検討

生命保険を検討するために、保障内容以外にも以下の点について理解をしておきましょう。

・告知

生命保険会社に告知(または医師による診査)を行います。告知とは健康状態等を保険会社に伝えることです。保険会社はこのデータをもとに、保険に加入できるか否か、標準的な健康状態にあるか否か、標準から外れた場合にどの程度の保険料を割り増しするか等の条件を判断します。これは、公平の原則に基づいており、事実に反する告知をした場合に保険金が支払われなかったり、告知義務違反として罰則を課されたり、保険契約が解除されることがあります。必ず、ありのままの状態を告知しましょう。

・支払い方法(回数)

支払い方法の特徴を理解して、生活に合った支払い方法を選択することが大切です。

①回払い

月ごと、半年ごと、年ごとのいずれかを選んで期間ごとに支払う方法

②一時払い

保険金額の全部または一部に対する保険料を一時期に全て支払う方法。契約が途中で消滅しても保険料の返還はありません。

③前納払い

回払いの保険料を前倒しして支払う方法。前払いした保険料は本来の保険料払い込み時期が到来する度に保険料に充当されます。途中で契約が消滅した場合は、本来の払い込み時期が到来していない部分は保険会社から返還されます。

・支払い方法(経路)

保険料の支払いが行われず、その後一定の条件を満たしてしまうと、契約の効力を失ってしまいます(失効)。そのような状態になると、再度告知(または医師による診査)をすることが必要となり、その時の健康状態によっては契約を有効に戻すことができなくなります。その為、口座残高の有無を常に確認することは非常に大切です。一般的に生活口座と呼ばれる、給与振り込みや生活費を管理している金融機関口座を指定することで、失効のリスクはある程度回避できますので、お勧めです。

また、クレジットカードの支払いに対応しているケースが数多くありますので、こちらもお勧めです。

・保険料と保険種類

一般的に、掛け捨てと呼ばれる満期保険金がない保険種類や保険期間が一定期間に限定されている保険種類の方が保険料は安く、その逆の性質をもつ養老保険や終身保険と呼ばれる保険種類は保険料が高い傾向にあります。また、それらの保険にも様々な派生型があるため、ライフプランや生活に合った保険を選択することを心がけましょう。

【4】主な生命保険商品

生命保険には様々な種類がありますので、目的別に主な保険種類と一般的な特徴を紹介していきます。

(1)定期保険

定期保険は期間が定められている保険で、「何歳まで」「何年間」と設定し、その期間の満了を迎えると保険が終了する種類の保険を指します。期間内は、大きな保険金額を比較的安い保険料で得ることができます。一方で、期間が満了を迎えると、保険契約が終了するだけで、今まで支払った保険料などのお金は戻ってきません。いわゆる「掛け捨て」と呼ばれる保険種類となります。

保険の対象者が保険期間中に死亡・高度障害になると、保険金が支払われますが、

①一括して受け取ることのできる仕組み

②毎月年金のように受け取ることのできる仕組み(※(2)で後述)

が主にあります。

期間は10年間や60歳までのように設定することが可能です。保険料も終身保険よりも安いため、必要な期間のみ大きな保障を確保したい方や教育費や生活費の負担が大きい方におすすめです。

定期保険の特徴は、以下のとおりです。

・保険期間を設定する

10年間、60歳までなど保険期間を定め、その期間死亡・高度障害になると保険金が支払われます。

・解約返戻金がない

保険契約を解約した場合に返礼される解約返戻金は定期保険の場合、ほとんど発生しない。いわゆる「掛け捨て型の保険」です。その分、終身保険等の貯蓄性のある保険種類よりも割安な保険料で保障を確保することができます。

・更新できる場合がある

保険期間が終了しても、契約を更新することで保障を継続することが可能なケースが多い。自動で更新されるものもありますが、保険料は更新の度に再計算されるため高くなることが一般的です。

(2)収入保障定期保険

収入保障保険は定期保険の一種で、保険の対象者が死亡・高度障害になると、保険金を定期的に分割して受け取る仕組みとなっています。

当初設定した保険期間にわたり保険金が支払われる保障とした場合、保険期間の経過とともに支払われる保険金の総額は年々減少していきます。死亡・高度障害となる時期が遅くなればなる程、一般的には必要な遺族の生活資金も減少していきますので、合理的な保険といえます。

そのため、契約時点での保険金額が同額である場合、一般的には受取保険金額が変わらない定期保険よりも更に保険料を抑えることができます。

収入保障保険は、60歳や65歳までなど、定年退職を迎えるまでの期間を保障期間と設定する場合や子どもの教育期間を保障期間と設定する場合などが見受けられます。

働いている方が亡くなってしまった場合、給料や報酬の受け取りが途絶えることにより、遺族年金はあるものの家計が苦しくなってしまいます。毎月のお給料等の収入と遺族年金との差分を埋める機能として活用を検討することも良い方法と言えます。

収入保障の特徴は次の通りです。

・受け取り方法を選択できる

契約内容としては分割で一定期間受け取る方法が一般的ですが、一括で受け取ることも選択できることがあります。また、一部を一括で受け取り、残りを年金形式で受け取ることも可能である場合があります。いずれの場合でも、分割で受け取る時の受取総額より少なくなります

・受け取ることができる保険金が減少していく

今後必要となる生活費や学費は少なくなっていくため、その必要額に応じて受け取る保険金総額は減少させることが可能です。一方で、保険期間終了が近い場合、受け取れる保険金額は非常に少なくなることがあります。

・分割受け取りの最低保障期間がある

最低でも保険金を受け取れる期間として2年や5年などを設定することができます。

(3) 終身保険

終身保険は保障が一生涯続く保険のことで、被保険者が亡くなった場合や所定の高度障害状態に該当した場合に契約は終了します。一般的に保険料は定期保険よりも高くなりますが、払込期間中に上がることはありません。

亡くなったら必ず発生する費用を確保する目的として利用されることが多く、遺族の老後資金や相続税、葬儀費用などの支払いに活用できます。また、老後まで保障を確保し、自身の年金に移行するといった活用方法もあります。終身保険は毎月一定額の保険料を支払うため、保障とともに計画的に貯蓄したい方や、相続税非課税枠の活用をしたい方におすすめです。

また、変わった活用方法として、保険料払込期間を10年や15年といった教育資金が必要になる前に設定し、解約返戻金を教育資金に充てる学資保険代わり(解約する前はとして利用されることもあります。

終身保険の特徴は、以下のとおりです。

• 保険料が一定

いつ亡くなっても死亡保険金は同じで、支払う保険料が一定です。

• 終身型の保障

保険期間の定めがなく、一生涯の保障です。

• 契約によっては解約返戻金がある場合がある

途中で生命保険契約を解約することになった場合、その時点での解約返戻金を受け取ることができる場合があります。ただし、解約時期によっては、支払った保険料総額よりも少ない解約返戻金となることがあります。解約返戻金の有無や多さは契約内容により異なるため、契約内容をしっかり確認することが必要です。

• 保険料払込期間を自由に設定できる

保険期間は一生涯ですが、保険料を支払う期間を10年間や60歳までなど一定年齢や一定期間で満了する支払い方法を選択できます。

※解約返戻金や払込期間の設定は終身保険以外の他の商品でも設定できるものがあります。

図を見て解るとおり、終身保険は保険料の支払いが終了しても、保障は一生涯に及びます。定期保険と同様、終身保険にも様々な種類があります。一定期間の解約返戻金を通常の終身保険よりも抑えることで保険料を安くするタイプのものは、払込期間が終了すると、支払った保険料を上回る解約返戻金を受け取れることが多くあります。

終身保険には、ほかにも外貨建てのタイプや保険金額が変動するタイプのものがあります。リスクを伴うタイプもあるため、契約時に慎重に判断しましょう。

(4) 養老保険

養老保険は、貯金と保険を合わせたような仕組みで、保険が満期を迎えた時に支払った保険料総額を上回る満期保険金が支払われることや、死亡や高度障害状態に該当した時に満期の際に受け取る予定だった保険金額と同額の保険金を受け取れるといった特徴があります。

その為、保険期間を定めることは定期保険と同様ですが、保険金額・保険期間が同一の定期保険と比較して保険料が高くなります。

例えば、保険金額500万円の養老保険(60歳満期)に加入していた場合、45歳で死亡しても、60歳まで生存した場合でも、同額の500万円を受け取ることができます。

その為、何年後にいくら貯めたいかをイメージしたうえで、保険期間と満期保険金額を設定し、いずれ必要となる将来資金を計画的に準備することに活用が可能です。

養老保険の特徴は、以下のとおりです。

• 保険期間を設定できる

ライフイベントに合わせて資金形成をすることができます。

• 保険期間中に死亡した場合、満期保険金と同額の死亡保険金を受け取ることができる。加入期間が短い場合でも同額を受け取ることができます。

(5) 積立利率変動型の保険

積立利率変動型の保険は、その多くが終身保険で見られ、想定を上回る市場金利の変動によって保険金や解約返戻金が変動する保険です。保険料の一部を保険会社が運用し、保険契約で定める積立利率を市場金利の変動に合わせて期間ごとに見直しを行います。

積立利率変動型保険の積立利率は最低保証が設定されており、最低保証されている利率より適用される利率が上回った場合は、保険金や解約返戻金など受け取れる金額の増加が期待できます。

積立利率変動型保険の特徴は、以下のとおりです。

• 積立利率の最低保障が設定されている

死亡保険金や解約返戻金は最低保障されており、積立利率が上昇すればそれらの額が増加する可能性があります。

• 金利の変動に対応している

市場金利に対応しているため、加入時より利率が上がっている場合は、受け取ることができる金額の増加が期待できます。利率が下がってしまった場合には積立利率の最低保障が設定されている為、大きな影響を受けることはありません。

(6)変額型の保険

変額型の保険は、株式・投資信託・債券・為替などの運用メカニズムを保険に取り入れ、運用実績によって死亡保険金や解約返戻金、満期保険金などの受取額が変動する商品となります。資産形成と死亡保障を同時に実現する目的で開発されていることが多いタイプの保険となります。変額保険を長期間にわたり保有することで、一般の保険よりも受取額が大きくなる可能性がありますが、運用リスクもあるため、満期保険金や解約返戻金が当初の想定金額を下回る可能性もあります。

死亡・高度障害保険金に関しては、契約時に設定した保険金額(基本保険金額)が保障されているため、運用実績にかかわらず基本保険金額を下回ることはありません。

一般的な保険の場合、保険期間を通じて契約時の保険金額が変わらないため、インフレーションが起きた場合に保険金額が実質的に目減りしてしまいます。変額保険では、運用成果が良ければ受取金額が増加するため、インフレ対策ができる商品と言えます。

変額型の保険には保険期間が決まっている「有期型」と、一生涯保障が継続する「終身型」があります。有期型は満期を迎えると満期保険金として運用残高を一括で受け取り、終身型は死亡時に保険金が支払われますが、生存中に運用残高を現金化したい場合には契約を解約し、解約返戻金として受け取らなければいけません。

話しが逸れますが、個人年金保険を変額型にした商品もあり、一定期間保険料を納め、年金支払い開始年齢から分割して保険金を受け取ることができます。運用実績に応じた年金額を受け取ることができるので、運用成績によっては支払った保険料からの増加が期待できます。一時払いや毎月の積立等、商品によっていろいろなタイプがあります。受け取り期間が決まっているものや、終身で受け取れるものなど、保険商品によって様々です。

変額保険は、運用に左右されますので大きく資産を増やすことが出来る可能性もありますが、同時に元本割れのリスクもありますので特徴を理解した上での検討が必要です。

(7)外貨建の保険

外貨建の保険とは、保険料を米ドルや豪ドル、ユーロ等の外貨で運用する保険です。日本では歴史的な低金利が続いていますが、外国の金利は日本よりも高く、外貨で運用する外貨建の保険は高い運用益を期待することが出来ます。保険料を外貨で支払うことになりますが、日本円で支払った保険料を保険会社が外貨に両替してくれるため、外貨を保有していなくても加入は可能です。また、保険金や解約返戻金等も基本的には外貨建てとなっていますが、日本円で受け取ることができる商品も多くあります。その分、外貨の取り扱いに対する費用(為替手数料等)がかかります。

このような保険は、為替レートの変動により受け取れる円換算の金額が下振れする「為替リスク」があるということを理解することが必要です。

外貨建の保険には個人年金保険、終身保険、養老保険等様々な種類の商品があり、それらは死亡保障を準備しながら、貯蓄性の要素も強い商品となっていることがあります。外貨建ての保険に加入していると、保有資産の通貨分散にもなり、円の価値が下がってしまったときに資産の減少リスクを減らす効果が期待できます。

このように、生命保険会社の保険には様々な種類があります。

この他にも、がんに罹患した際に治療費を保障してくれる保険、三大疾病に罹患した際に保障してくれる保険、介護状態になった時に保障してくれる保険、個人で年金を準備する為の保険、子どもの教育資金を貯めるための保険など、人生における様々な経済的なリスクに対応するための保険が用意されています。

また、特約にも多くの種類があり、全ての生命保険商品を理解することは大変です。その為、大切なことは自身にとって必要な保障は何なのかを理解・判断し、必要性に応じた保険を選択することなのです。

必要保障額は家族構成やライフステージによって変化していきます。

独身者の場合、将来のライフイベントに対する備えに加えて死後の整理資金である葬儀代等が必要です。扶養家族がいる場合は、子どもの教育費や残された家族の生活費も必要になります。また、子どもの人数や年齢によってもその必要額は変化します。年齢が増すことにより病気になる確率も増しますので、治療費の備えも必要となります。一方で子どもが独立すると、教育費負担はなくなるのに加え、日々の生活費も少なくなり、定年退職後は退職金や預金で生活していくことも可能となります。

このように、時期によって必要な種類の保障、その額は一律ではありません。自らのライフプランを踏まえ、必要な保障を考え保険を選択することが重要です。

コラム:生命保険の事例

もし、Bさんが40歳で亡くなった場合、家族が受け取ることができる遺族年金と保険金はいくらでしょうか。

※保険はすべて受け取り事由に該当しているとします。

■受け取れる遺族年金と保険金

遺族年金

年額:1,562,712円(月額約130,000円)

・遺族基礎年金 年額1,001,600円※(月額約83,000円)

※777,800円+子の加算額223,800円

・遺族厚生年金 年額561,112円(月額47,000円)

収入保障定期保険

受取保険金総額:36,000,000円(月額150,000円×12ヶ月×20年間)

終身保険:5,000,000円

■解説

・遺族年金(基礎年金)

遺族基礎年金は、国民年金に加入している夫が死亡した場合に、残された家族に対して、一定条件のもと生活保障として支給されます。遺族基礎年金は子どもが18歳になる年度末まで受け取ることが可能です。

・子のある配偶者が受け取るとき

年額777,800円+子の加算額

・子が受け取るとき(次の金額を子の数で割った額が、1人あたりの受け取り額となります。)

年額777,800円+2人目以降の子の加算額

・子の加算額とは

1人目および2人目 年額223,800円/人

3人目以降 年額74,600円/人

事例は4歳の子どもが1人いる配偶者が受給するため、年金額は1,001,600円(777,800

円+224,000円)となります。

※遺族基礎年金の受給要件を満たしていることを前提に計算しています

◆遺族年金(厚生年金)

遺族厚生年金とは、厚生年金に加入している人が死亡した場合に、残された家族に一定条件のもと生活保障として支給されます。事例では夫が会社員であるため、遺族厚生年金を受け取ることが可能です。

年額 561,112円(月額約47,000円)

※受給額の計算は次のとおりとなります。

受給年金額=老齢厚生年金の報酬比例部分×3/4 相当

={ [平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入月数]+[平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数] }×3/4 (加入月数が300月に満たないときは、300月で計算されます)

※今回は加入期間が300月(25年)未満とし、死亡した夫の厚生年金加入期間を300月とみなし計算しています。

※2003年4月以降に導入された総報酬制により、厚生年金の受給額の計算は平均標準報酬額が採用されていますが、ここでは標準賞与総額を前月収の30%として計算しています。

※今回は遺族厚生年金の受給要件を満たしていることを前提に計算しています。

また、Bさんの配偶者が条件を満たす場合は中高齢寡婦加算を受け取ることができます。中高齢寡婦加算とは、妻が40歳から65歳になるまでの間、年額583,400円が加算される制度です。夫の死亡当時、40歳以上65歳未満の子のない妻、または、子どもが18歳到達年度末日に達したため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合に支給されます。

・収入保障定期保険

本人60歳まで加入している収入保障定期保険では、本人60歳までの残り20年間分、月額15万円を受け取ることが可能です。

・終身保険 500万円

30歳から加入している終身保険の保険金500万円を一括で受け取ることが可能です。

第3章 医療傷害保険

【1】医療傷害保険とは

医療傷害保険とは、病気やケガの際の治療費や入院費用などの保障を目的とする保険契約を指します。この保険により、医療費等が高額になる場合に備えることができ、治療時の経済的負担を軽減することができます。医療傷害保険も、国が用意している公的医療保険制度と、民間会社が用意している保険商品の2種類に分かれます。私たちは、国が用意している公的医療保険制度を理解しつつ、それでは不足する部分を民間会社の保険商品でカバーしていくという姿勢が大切です。

■国の公的医療保険制度

日本では、生まれてから死亡するまで誰もが公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」を採用しており、病気やケガをした際の医療費の自己負担は1割~3割となります。また、医療費の自己負担分が1ヶ月間に一定額を超えた場合に、その差額が支給される高額療養費制度もあります。

公的医療保険は大きく分けて2種類あります。

(1)健康保険

健康保険は、給料から保険料を支払うことで、医療費の負担が1割から3割になる仕組みです。企業などに勤めている人が加入することができ、健康保険の保険料は会社と従業員で半分ずつ負担します(労使折半)。保険料は収入や住んでいる場所により異なりますが、家族の形態での差はありません。また、健康保険に加入している人には、出産や病気・ケガで会社を休むことにより十分な報酬が得られなくなった場合の手当金が支給されます。

(2)国民健康保険

国民健康保険は、健康保険の適用がされない人が加入する保険です。上述の健康保険と違い、会社で勤務しているものの健康保険の加入基準に達していないパートの人や自営業の人も加入します。保険料は全額自己負担で、収入、住んでいる場所、家族の形態によって金額が変化します。国民健康保険では、出産や病気・ケガの休みに対する手当金は支給されません。

○高額療養費制度

医療機関や薬局の窓口での支払い額が、1ヶ月間で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。自己負担額の上限は年齢や収入によって異なります。1ヶ月間に別々の医療機関で診療や院外処方を受けた時でも、合算した金額が上限額を超えた場合は支給を受けることができます。また、同じ健康保険に加入している世帯内(会社の健康保険に加入している被保険者とその扶養家族など)では、医療機関の窓口で支払った金額を世帯全体で合算することができます。一方で、個々人が別々の健康保険に加入している時には住所が同じでも合算ができず、それぞれの自己負担額で上限を超えた場合に支給を受けることができます。

高額療養費制度では、上限額を超えた金額が後から支給されますが、後から戻ってくるとは言え、一時的に負担が大きくなります。その為、事前に加入している健康保険から「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受け、医療機関の窓口でこれらの認定証を提示することにより窓口での支払いを自己負担限度までとすることができる制度もあります。

■民間で取り扱っている保険商品

国の公的医療保険制度では、医療費の自己負担軽減や高額療養費制度で個人の支払額が過大とならないよう保障されています。しかしながら、入院となった場合には医療費のほかにも様々なお金がかかります。入院時の食事代や、寝巻・スリッパ・洗面道具などの身の回りの品の他、個室を希望すれば差額ベッド代が必要となります。入院が長引いた場合には、これらの費用がかさむことになります。また、健康保険で受けられる治療の範囲を超えて行う先進医療についても、自己負担となりますので注意が必要です。

このような公的医療保険でカバーできない部分の経済的な負担に、民間の医療傷害保険は備えることが可能になります。

民間の医療傷害保険は手術や入院日数などに応じてその給付金が支払われることが一般的です。実際に医療機関の窓口に支払う金額の多寡に関係なく受け取ることができるため、病気によって負担が増えた家計の助けになるでしょう。

○先進医療

先進医療とは厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた新しい治療方法や手術を指します。公的医療保険制度の対象とすべきかどうかを評価している段階の医療技術なため、保険診療の対象外となります。先進医療の費用は全額自己負担することになり、その費用は先進医療の種類や病院によって異なります。また、先進医療以外の通常診療と共通する保険診療対象部分の費用は、公的医療保険制度の対象となり一部自己負担となります。

なお、先進医療は、受けられる病院などが限定されており、技術料が数百万円単位など高額になることもあります。

【2】民間の医療傷害保険の種類

医療傷害保険には様々な種類がありますので、目的別に主な保険種類と一般的な特徴を紹介していきます。

■医療傷害保険

契約で定められた病気やけがによる入院・手術、通院等に対して給付金が支払われる保険です。契約時に定めた入院保障日額などの給付を受けることができます。様々な商品が存在し、三大疾病に特化したものや女性疾病に特化したものもあります。

■がん保険

がんと診断された場合の一時金給付や、入院・手術、通院等に対する給付金が支払われます。一般的に、契約後90日間の免責期間が設けられており、この期間中にがんと診断された場合は保障を受けることができません。

医療・傷害保障への加入方法

以下の医療・傷害保障に加入する方法は、医療傷害保険商品に加入するか、別種の保険商品に特約として付加するかの2通りがあります。

・入院保障

病気やケガでの入院が対象となる保障です。入院1日あたり1万円など、入院日額を決めて契約することが一般的で、4日未満の入院に免責が適用される場合もあります。

・手術保障

手術が対象となる保障です。内容に応じて入院日額の5倍、10倍、20倍などと設定されており、その倍率は商品ごとに定められている場合が多くあります。

・通院保障

病気やケガで通院を対象とする保障です。退院後の通院に限定されていることもあります。

・先進医療保障

厚生労働省が認めた先進医療を対象とする保障です。

※保障の対象や細かな条件は、保険会社や商品により異なります。

WORK 加入している医療傷害保険を整理しよう!

ご自身が加入している保険の内容を整理してみましょう。加入している保障が不足していたり、過剰だったり、重複していたりすることが多々あります。また、子どもが未成年のときは必要だった保障が、現在は必要なくなっている場合もあります。定期的に見直すことが大切です。

■就業不能補償保険

病気やケガで働けなくなり、長期間にわたり収入を得ることができない就業不能状態になった場合に給与のように給付金を受け取ることができる保険です。

<給与所得者が長期の就業不能になってしまった場合>

<自営業者が長期間働けなくなってしまった場合>

給与所得者は公的医療保険制度が充実していますが、自営業者はその内容が限られており、長期間働けなくなった際のリスクは相対的に大きくなります。

■就業不能保険の給付要件

就業不能保険の一般的な給付要件は次のとおりとなります。

・ケガや病気の治療を目的として、日本国内の病院または診療所において入院している状態であること。

・ケガや病気により、医師の指示を受けて自宅などで在宅療養をしている状態であること(在宅療養の具体的な内容としては、保険会社が定めた特定障害状態や、国民年金法で定める障害等級1級または2級に認定された状態、医師の指示を受けて自宅などで軽い家事や必要最低限度の外出(医療機関への通院など)以外は療養に専念する状態など、保険会社によって基準はさまざま)。

・うつ病などの精神障害を原因とする就業不能は、入院・在宅療養いずれも保障の対象外となっていることが一般的ですが、入院を条件に就業不能時の保障を付加できる特約もあります。

【3】医療傷害保険の検討

医療傷害保険を選ぶ際には実際にかかる医療費を考慮して、保険商品選択に進むことをお勧めします。以下に、いくつかの例を挙げます。

・子どもの医療費

子どもの医療費には自治体が補助を提供している場合が多くあります。子どもにかかる医療費は、健康保険を利用することで1割から3割の負担になりますが、自治体がその自己負担額を全額または一部補助しています。自治体によって内容が異なりますが、例えば、東京都の場合、小学校就学前の乳幼児の自己負担部分全額と、6歳~15歳までの児童の自己負担部分の200円を超える全額が補助されます。ただし、一部の自治体では医療費の補助対象に所得制限を設けていることがあります。住んでいる自治体の保険制度を調べ、知識を得ることは大切です。

・年齢別の医療費の自己負担割合

一般的には、6歳以上の人の医療費は3割負担、70歳以上は2割負担、75歳以上は1割負担となっています。ただし、所得によっては70歳以上の人も3割負担となることがあるため、注意が必要です。

事例

Aさん…70歳未満、年収770万円以下

医療費…100万円

①健康保険による自己負担

自己負担額 30万円

→健康保険に加入していることで、医療費の3割負担となります。

②高額療養費制度の利用

自己負担上限額 9万円

高額療養費対象額 21万円

→自己負担限度額を超えた21万円は申請することで支給を受けられます。

Aさんは100万円の医療費に対して約90万円の給付を受けることができました。ただし、この額は年齢や年収によって変化します。今回は70歳未満で年収770万円以下の人を例としましたが、例えば年齢が70歳以上で75歳未満、年収は370万円未満の人だとすると、最終的に自己負担額は4万円程になります。更に、75歳以上の人ですと、年収の上限がなくなり、自己負担額が減少します。このように、年齢と年収によって負担額が変化するため、自身がどの範囲に分類されるかを見極めることが重要です。

ただし、ここで注意すべき点は、先進医療には高額療養費制度も公的医療保険制度も適用されない点です。例えば、がんの治療で陽子線治療などの先進的な治療を受ける場合、その分の医療費には健康保険が適用されず、全額自己負担となります。そのため、公的医療保険制度でカバーしきれない部分は、民間の保険会社で補うことが必要となります。その際には、医療傷害保険がどのような場合に保障をしてくれるか、支払限度は何日か、がん保険や介護保険など、どの保障を民間会社でカバーすべきかなどを明確にしておくことで、効果的に保険を利用することができます。

【4】医療傷害保険の選び方

保険は主契約と特約という二つの要素から成り立っています。主契約では主に、病気にかかった際に保障がどの程度されるのかを確認します。そして特約では、主契約だけでは保障が不足する部分、例えば先進医療や三大疾病などのカバーされない範囲の保障を追加で付保しましょう。また、保険が適用される年齢の範囲や、自身がどの年齢までその保険を利用したいかを考慮することも重要です。一生涯にわたり保障を得られることが望ましいですが、それだけでなく、様々な事態を想定して特約を追加し、給付金額を増やすことで、将来のリスクに備えることも大事なことです。

医療傷害保険に関する話のポイントは、国が用意している公的医療保険制度を理解し、不足分を民間の保険会社で補うという考え方となります。

第4章 年金保険

POINT!

国から受け取れる年金額は、保険料の納付期間や受給開始時期、収入額などによって異なります。老後の生活費が不足しないように、受給額と必要とする老後の生活費の差額を把握することが重要です。

【1】年金保険について

年金保険とは、老後の生活費を準備するために保険商品を利用するもので、現役時代に保険料を払い、老後に年金を受け取るものです。日本では、国が国民に対して、生活を保障するための年金が支給されています。この公的年金だけでは足りない部分を民間の年金保険で補うことが必要です。

■国の年金

・国民年金

国民年金は、20歳以上60歳未満の人が全員加入する年金です。自営業の人や、厚生年金保険に加入していないアルバイト・パートの人などは国民年金に加入します。

・厚生年金

厚生年金は、主に公務員や会社員が加入できる年金です。厚生年金には国民年金部分が含まれています。

日本の公的年金制度は、国民年金を1階、厚生年金を2階、そして民間会社による個人年金保険や確定拠出年金が3階となる、3階建ての構造で成り立っています。1階、2階に位置する国民年金と厚生年金は、対象者であれば自動的に加入することとなりますが、3階部分の個人年金保険や確定拠出年金は、個人で加入する必要があります。加入の検討に当たっては、公的年金では不足する分を補っていく姿勢が大切になります。

【2】個人年金保険とは

さて、ここからは実際に私的年金について見ていきましょう。公的年金と異なり、個人で積み立てる私的年金は、大きく分けて個人年金保険と確定拠出年金の二つに分類されます。確定拠出年金のうち、個人型確定拠出年金となるものはiDeCo(イデコ)とも呼ばれています。

個人年金保険は、民間の保険会社が提供する老後の資金を調達する目的で活用される保険です。主な流れは、一般的に契約者が契約時に保険の支払い開始となる年齢を決め、その年齢に達するまでに保険料を支払い、無事にその年齢に達したら年金が支払われます。もしも、受け取り年齢までに亡くなってしまった場合には、それまでに納めた掛け金と同等程度の保険金が支払われます。

公的年金からの受給額と必要とする老後生活費に差がある場合、個人年金保険に加入することで、その不足部分を補うことが可能となります。将来の生活費が不足しないように、適切な年金保険に加入することが重要です。また、ライフスタイルの変化や経済状況が時間経過とともに変化していきますので、適切な保障を維持するために定期的に保険の内容を見直すことも必要となります。

■個人年金保険の受け取り方

年金の受け取り方について学んでいきましょう。年金の受取り方は主に6種類に分類されます。

(1)終身年金タイプ

保険の対象者が生存している限り、一生涯年金を受け取り続けることができます。長生きするほど年金受取期間も長くなりますので、受け取る年金総額が大きくなります。なお、亡くると同時に年金受け取りが終了しますので、早期に亡くなると、支払った保険料の累計額より少なくなります。

(2)保証期間付終身年金タイプ

保証期間中は保険の対象者の生死に関係なく年金を受け取ることができ、保証期間経過後は生存している限り年金を受け取ることができます。なお、保証期間中に保険の対象者が亡くなった場合は、遺族に対して年金が支払われます。

(3)有期年金タイプ

被保険者が生存している限り、一定期間年金を受け取ることができます。期間中に保険の対象者が亡くなった場合は、その時点で年金の支給が終了します。なお、保険の対象者が定められた期間を経過した後に生存していても、加入時に決められた一定期間のみしか年金を受け取ることができません。そのため保険料は終身年金より割安となります。

(4)保証期間付有期年金タイプ

保証期間中は被保険者の生死に関係なく、年金を受け取ることができます。保証期間経過後は加入時に決めた期間に限り、保険の対象者が生存している限り年金を受け取ることができます。

(5)確定年金タイプ

生死に関係なく加入時に決めた期間中、年金を受け取ることができます。年金受け取り開始後の保険の対象者の生死に関わらず、決められた期間受け取ることができます。なお、保険の対象者が受け取り期間中に亡くなってしまった場合は、遺族に年金が支払われます。

(6)夫婦年金タイプ

2人以上の被保険者を対象とする連生保険と呼ばれる保険種類の一種で、夫婦のいずれかが生存している限り年金を受け取ることができます。

【3】確定拠出年金とは

次に、確定拠出年金について見ていきましょう。確定拠出年金(DC)は投資に似ています。自身で掛金を支払い、用意されている商品の中から自身で選んで運用し、その結果を60歳以降に受け取る仕組みとなっています。受け取る年金の原資が運用次第で変わるため、受け取れる金額は確定していません。

確定拠出年金のメリットは、

・掛金が全額所得控除できること

・運用期間中に利益が発生しても税金がかからないこと

・60歳以降の年金受け取りの際に税制優遇を受けられること

の3つがあります。所得控除とは、所得税を算出する際に、その基準となる所得金額から差し引くことを指し、結果として所得税が軽減される効果があります。これにより、税負担を減らすことができ、所得の高い人ほど(適用税率が高い人ほど)大きな節税効果が期待できます。

確定拠出年金のうち、事業主が主体となって実施されるものを企業型DCと言います。加入者は事業主に雇用されている従業員になります。運用の手数料等は事業主負担となります。定年退職を迎える60歳以降に、積み立てた年金資産を一時金(退職金)、または年金の形式で受け取ります。掛金の額は他の企業年金がない場合は上限月額55,000円で、厚生年金基金、確定給付企業年金等の他の企業年金がある場合は上限月額25,000円となります。掛金は事業主が拠出するほか、従業員が上乗せできる(マッチング拠出)制度がある企業もあります。マッチング拠出の掛け金には、「従業員が拠出する掛金の金額が、企業が拠出する掛金の金額を超えないこと」さらに「企業が拠出する掛金と、従業員が拠出する掛金の合計額が、掛金の拠出限度額を超えないこと」というルールがあります。

一方、個人で加入できる確定拠出年金は、個人型確定拠出年金(iDeCo)と呼ばれています。国民年金基金連合会が運営主体となります。一定の条件はありますが、基本的に20歳以上65歳未満のすべての方が加入可能です。掛金は加入区分によって限度額が決まっています。月額5,000円から1,000円単位で上限額まで自由に設定できます。企業型DCとは異なり、手数料は個人が負担する必要があります。当初は企業型DCに加入している人がiDeCoに加入することはできませんでしたが、2022年10月から、事業主掛金と合算した金額が限度額を超えない範囲で可能になりました。

しかし、確定拠出年金には、

・運用がうまくいかないと元本割れを起こしてしまう

・60歳以降でないと受け取ることができない

・途中で解約して、手元現金を作ることができない

といったデメリットがあります。

このようなことから、住宅の購入や教育資金などに充てる資産としては適していません。あくまで老後資金のためという長期運用をするという認識で利用する必要があります。普通の投資信託を選ぶべきか、確定拠出年金を選ぶべきかをよく考え、ニーズに合った方法を選択することが必要です。

ここまで、国による公的年金と自身で準備する私的年金について大雑把に説明してきました。

公的年金は、ある一定の年齢に達すると受け取ることができると述べましたが、一般的にその年齢は65歳以上となります。公的年金制度への理解を深めてもらう為に、日本年金機構は毎年の誕生月に「ねんきん定期便」という年金記録等が記載された通知を郵便で発信していますので、お手許に届いたら是非参考にしてみてください。なお、「ねんきん定期便」は、年齢によって記載されている内容が若干異なりますので留意が必要です。50歳以上の人には、今と同じ納付状況が60歳まで継続した場合に受け取ることができる「年金見込額(年額)」が記載されています。一方、50歳未満の人への通知では、「これまでの加入実績に応じた年金額(年額)」が記載されているため、想像以上に金額が少ないと感じることがあります。この点に留意のうえで、将来いくら年金を受け取ることができるのかを確認しましょう。

ここまで考えたとき、老後生活を安心して送れるだけのお金が手元にあるのであれば、私的年金保険は必要ないのかもしれません。しかしながら、公的年金の制度は改正される可能性があり、年金の受け取り開始年齢が70歳以降になることもそう遠くない未来に起こると考えられています。これからの社会では、公的年金に頼り過ぎず、自助努力で老後生活に向けた資産形成をすることが必要となってくるかもしれません。

第5章 損害保険

【1】損害保険について

損害保険とは、偶然の事故などのリスクに対して生じた損害を補償する保険です。損害保険は生命保険や医療傷害保険、個人年金保険と異なり、人だけでなく物品や損害賠償責任などに対して補償を提供することができます。そのため、世の中には様々な損害保険が存在しています。損害保険は主に民間の保険会社などから提供されています。

【2】自動車保険について

自動車保険には大きく2種類の保険があります。

■自賠責保険

自賠責保険は自動車、バイク、原動機付自転車などを運転する際に加入が義務付けられている保険です。自賠責保険に加入せずに自動車などを運転した場合は法律などにより処罰されます。

自賠責保険は、交通事故で相手にけがをさせてしまった場合は120万円を限度として、相手が後遺障害状態となった場合は最大4,000万円を限度として補償がなされます。また、相手が死亡してしまった場合は3,000万円が限度額となります。あくまでも、交通事故による被害者救済を目的としているため、車や物、事故を起こした本人のケガ等に対する補償はありません。

自賠責保険は、保険会社や共済から加入することができますが、保険料や補償内容は国により定められている為、自賠責保険の保険料に保険会社等の利益は含まれていません。

■自動車保険

自動車保険は、民間の保険会社などが販売している保険です。補償内容や価格などは様々で、事故相手への補償以外に、相手や自身の車両、自身のケガ、自身が単独で起こした自損事故なども補償される商品があります。

自賠責保険の加入が義務となっているため、自賠責保険で十分で、自動車保険は不要だと感じるかもしれません。しかし、自賠責保険の保険金では、ほとんどの場合、相手への賠償金を払い切ることはできません。過去には、損害額が5億円もした例もあります。そのような時、最大3,000万円の保険金では不足します。また、交通事故と言っても、その補償は対人の場合、対物の場合、自損の場合、相手が無保険だった場合や自身の車両が壊れた場合など、様々なケースに対応できる必要があります。ですので、強制保険では足りない分は民間会社の任意保険で補うという姿勢が大切なのです。

民間会社による損害保険商品は、どのような保険商品に加入すれば良いのかと困る人も多いと思います。

必ず加入しておくべき補償は対人補償となります。これは、事故を起こしてしまった際に、相手に対して賠償金を払わなければいけない時に役立ちます。一方、車両保険は、加入するべき場合と、加入しなくてもいい場合があります。自身が保有している車両が製造年から年数を経て古いものなら、車両保険を付けるよりも事故が起こって損害を受けたときに買い替えるほうが良いという場合もあります。自身が保有している車の状態をよく考え、車両保険に加入するかどうかを決定することが大切です。

【3】火災保険・地震保険、個人賠償について

火災保険と地震保険は「住まいの保険」と称されるほど、重要な保険です。特に火災保険は賃貸であっても加入する必要が高い保険種類となります。同じように扱われる2つの保険ですが、複雑な点も多々あるのでしっかり理解をすることが必要です。

■火災保険とは

火災や落雷、風災、雪災などにより建物や家財に損害が発生した際に保険金が支払われます。建物や家財を対象とする一般的な火災保険では、様々な事故による損害が補償されます。火災保険を大きく分けると、「住宅火災保険」と「住宅総合保険」に分けることができます。

「住宅火災保険」では、火災・落雷・風災などの基本的な災害をカバーできますが、更に、水災や盗難も補償範囲としたものが「住宅総合保険」になります。

各保険の補償対象の一例です。

火災保険の保険金は実損払いとなります。火災などが原因で建物や家財が損害を受けた時に補償する損害保険です。また火災保険の補償対象は「建物」と「家財」、またはその両方です。以下、補償となる対象の例です。

・火災保険の必要性

事故や災害に対するリスクヘッジは常に想定しておくことが必要です。その中のひとつが火災保険になります。火災事故の恐ろしい点は、自身が被害者にも加害者にもなり得る点です。

特にもらい火の場合は注意が必要となります。もらい火とは隣家などの失火により延焼被害を受けることですが、実は「失火責任法」により、相手の重大な過失がある場合を除き、損害賠償請求ができないと法律で定められています。つまり、火災に巻き込まれて損害が発生しても、相手に重大な過失がない限り相手方に請求することはできず、自身で加入している損害保険で対応するしかないのです。

・火災保険を選ぶコツ

①補償内容を精査しましょう。

火災保険では任意で選択可能な補償があります。その中から具体的な補償を例示します。

・水害に対する補償

一軒家、特に川や海が近い場所に住んでいる人は是非とも加入を検討するべき補償です。一方で、マンションの上層階に住んでいる人や水による被害にあわない地域に住んでいる人は、リスクが極めて軽微とも言えますので、加入しないことを検討しても良いかもしれません。

・損傷や汚損に対する補償

例えば、家に石を投げられたなどの損傷を受けた場合に保険金を受け取ることができます。これも水害と同様、セキュリティが保たれているマンションに住んでいる場合等は、補償は不要という選択肢を取ることも可能です。

②補償対象を細かく決めましょう

先述したとおり、火災保険ではその対象を「建物のみ」「家財のみ」またはその両方から選びますが、家財と建物の両方に付けておくことを強く推奨します。損害保険は、建物一棟の単位で付けるのが一般的とされています。もし建物の中の家財に補償をつけなかった場合、火災発生時に建物に対しては保険金が支払われますが、家財に対しては支払われないといった状況になります。建物が損害を受けた場合、その中の家財も一緒に損失を受けることが大半です。そのため、建物と家財の両方に保険をかけておくことで安心感が増します。

なお、賃貸住宅の場合は「家財のみ」とすることが基本です。

③「構造級別」を確認しましょう

火災保険の保険料は、補償の対象となる建物が燃えやすいか・燃えにくいかによって変わります。火災のリスクが高いと保険料は高くなり、一方リスクが低い建物だと保険料は安くなる仕組みです。その際の判断基準となるのが「構造級別」です。

構造級別は建物がどのような素材で造られているかの指標で、リスクを大きい、小さいで分けています。住宅物件の構造級別は、「M構造」「T構造」「H構造」に分けることができます。M構造はマンション、T構造は耐火構造(鉄骨等)、H構造は非耐火構造(木造住宅等)を示しています。耐火性は、M構造>T構造>H構造の順になります。つまり、保険料の金額は耐火性の強いものほど安くなり、弱いものほど高くなります。

構造級別を理解して、おおよその保険料の見積もりを立てることをお勧めします。

④契約金額設定について考える

火災保険の契約金額は、主に、再調達金額で考える場合と、時価で考える場合の2種類があります。再調達価格は、同等の価値のものを新たに建てたり、購入するのにかかる金額のことを指します。時価は、再調達価格から、年月経過や使用による消耗分、つまり、新品の状態から価値が下がった分を差し引いた金額のことを言います。建物の現在価値を時価と考えて良いでしょう。

保有している建物を2,000万円で購入したという例で保険金について考えてみます。

・再調達価格で契約した場合

その建物をもう一度立て直すのにかかる費用は、2,500万円ほどとなります。そのため、再調達価格で契約した場合の契約金額は2,500万円、この建物が火災などにより全焼してしまった際に支払われる保険金は2,500万円となります。

・時価で契約した場合

消耗分が600万円と仮定した場合、この建物の時価は「再調達価格2,500万円ー消耗分600万円=1,900万円」となります。時価で支払う場合は、主に3つのケースに場合分けされます。

1つ目は、保険金額が時価よりも低い場合。例えば、時価1,900万円の建物に対して、保険金額を1,000万円とした時などです。この時、建物全焼で支払われる保険金は、1,000万円となります。時価が1,900万円のため、損害額のすべてが支払われず、もう一度その建物を立て直す際には、自身でお金を用意する必要があります。

2つ目は、保険金額と時価が同等の場合。例えば、時価1,900万円の建物に対して、保険金額も1,900万円とした場合です。この時、建物全焼で支払われる保険金は1,900万円となり、建物時価の満額となります。時価で契約する際には、「保険金額=時価」とすることが基本となります。

そして最後に、保険金額が時価よりも高い場合。時価1,900万円に対して、保険金額が3,000万円の場合です。この場合、支払われる保険金は1,900万円となります。契約金額を時価より高く設定しても、実際損害額を限度とした保険金しか支払われないため、時価以上に補償に対する保険料が無駄になってしまいます。前述しましたが、時価で契約する際は「保険金額=時価」を基本にして考えることが重要となります。

なお、再調達価格で契約した場合、時価よりも多額の保険金を受け取ることもできますが、支払うべき保険料もその分多くなります。再調達価格と時価のどちらで契約するべきか、よく考えてから契約するようにしましょう。

■地震保険

地震保険とは、地震や噴火、津波を原因とする建物や家財の損害を補償する保険です。

火災保険と異なる点は、単独での加入ができないことです。つまり、火災保険などとのセットで加入する必要があります。地震保険は、民間の保険会社と国が共同で仕組みを運営しているため、保険料が同一となっています。ただし、保険料の割引制度も存在します。

地震保険は、再建費用などの補填という位置付けで、“被災した人々の生活の安定”を目的にできた制度です。ですから補償金額は、火災保険で設定した金額の30~50%でしか設定することができません。また、保険金額の上限も建物5,000万円、家財1,000万円と決まっています。

つまり、地震保険は実損を補償する保険ではありません。填補(比例填補方式)であり、地震や津波での被害の規模を基に、保険会社が限度額の範囲内で、実際の事故などで発生した損害額に対して契約時に定めた割合の金額だけを補償するものです。

損害状況の認定基準は建物の状況や液状化などを踏まえて、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つに区分されています。次の表がそれぞれの区分に支払われる補償額についてです。

・全損

保険金額 100%(時価額が限度)

・大半損

保険金額 60%

・小半損

保険金額 30%

・一部損

保険金額 5%

・地震保険で注意したい点

地震保険では、工場や事務所などの住居として使用されていない建築物は補償の対象外となっています(店舗併用住宅、事務所併用住宅などは可能)。また、有価証券(小切手や株券など)、1個・1組の価額が30万円を超える貴金属、自動車、印紙、切手なども地震保険の対象外となっています。つまり、自家用車が地震を原因とした火災で燃えた場合、地震保険では補償対象外となっています。

・地震保険の必要性

地震保険に加入していないと、地震・噴火、津波を原因とする損壊・埋没・流失による損害は補償されません。また先述したように、地震などによる火災損害についても補償の対象となりません。地震保険の加入は地震大国の日本では前向きに検討する必要があるでしょう。いつ起こるか分からないからこそ、今から準備しましょう。

・地震保険を選ぶコツ

保険料は建物構造と都道府県によって異なります。

地震保険の構造は、セットで契約する火災保険の構造で区分が決まり、家財もそれを収容する建物の構造で決定します。先述した仕組みと似ていて、耐震性の強い建物は保険料が安く、耐震性が弱い建物は保険料が高くなります。

また、同時に加入する火災保険などの特徴もしっかり調べましょう。保険によっては火災保険の特約として「上乗せ特約」を付帯すれば、地震保険による損害を100%の全額補償にすることも可能です。

【火災保険・地震保険まとめ】

ここまで、火災保険と地震保険について詳しく見てきました。最後に2つの保険を比較してみましょう。

火災保険 地震保険

保険の対象 建物・家財 建物(居住用のみ)家財(高価なものは対象外)

補償される損害 火災、破裂、爆発、落雷 地震、噴火、津波

保険会社ごとの差異 会社によって内容が異なる 公共性が高く差異は少ない

保険金が支払われる仕組み 実損填補 比例填補

■個人賠償保険

個人賠償責任保険とは、個人またはその家族が、誤って他人にケガを負わせたり、他人のモノを壊したりして、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害を補償する保険です。

対象の事故例は下記の通りです。

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①購入前の商品を壊してしまった

②飼い犬や飼い猫が他人にケガを負わせてしまった

③自転車乗車中に、他人にケガを負わせてしまった

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他人の「身体」や「モノ」に損害を与えた場合が対象となりますので、プライバシーを侵害した等の精神的なダメージのケースは補償の対象外となります。

・個人賠償責任保険の必要性

今の時代、いつ何をきっかけに他人を傷つけることになるか分かりません。もちろん、何も起こらないことが1番ですが、もしもの時のリスクヘッジとして考えてみてください。

また、世帯主が個人賠償責任保険に加入すれば、同居している子どもが起こした事象も補償の対象となります。同居していない子どもの場合でも、親から仕送りを受けていて、未婚の場合については補償の対象になります。なお、「生計を共にする同居の親族」に限定せず、「同居の親族」であれば補償の対象になる保険商品もあります。

つまり、自身だけではなく、自身の大切な人も守ってくれる保険なのです。

・個人賠償責任保険を選ぶコツ

①示談交渉サービスがついているかどうか

②日本だけでなく、海外での事故等も補償してくれるか

個人賠償責任保険は、日常の身近なトラブルから補償で守ってくれるものです。個人賠償責任保険として単独で加入するケースは少ないため、先述した火災保険等に付帯するなどで加入を考えてみてはどうでしょうか。

【4】その他の損害保険

■自転車保険

自転車保険とは、まず「自転車保険」は2つの保険がセットになった総称です。

自転車運転中における自身の事故を補償する傷害保険と、自身が加害者となってしまい、被害者への損害賠償に備える個人賠償責任保険です。傷害保険は乗車中に自身が怪我を負った場合、入院や後遺症を負った時等に保険金を受け取ることが可能です。個人賠償責任保険は自転車事故で加害者になり、相手側に身体の怪我を負わせた場合や、相手の備品を壊してしまい損害賠償責任が発生した際に保険金が支払われる仕組みです。

老若男女問わず、手軽で身近な乗り物である自転車。通勤時の混雑緩和、またコロナ禍という背景も後押しし、政府も自転車通勤を推奨しているほどです。そんな便利な自転車でも事故は絶えず発生しており、都内で2022年度に発生した自転車事故件数は約13,000件にも及びます。だからこそ、自転車保険についてより一層の知識が必要となっています。2015年に兵庫県での義務化を皮切りに、東京都も条例により2020年4月以降から自転車保険の加入を義務化しました。

・自転車保険の必要性

自転車の利便性や危険性は先述した通りですが、自転車事故による高額賠償も自転車保険への加入を後押しする要因です。過去には加害者側に約1億円の損害賠償責任が発生した事例もあります。

・自転車保険を選ぶコツ

①示談交渉サービスがついているかどうか

②家族が補償対象かどうか

③賠償上限

・自転車保険:補償内容

・運転中に第三者にケガを負わせた場合

・第三者の自転車運転でケガを負った場合

・示談交渉サービスや弁護士費用

・ロードサービス

■ペット保険

ペット保険とは、大切な家族の一員であるペットたちを守ってくれる保険です。突然の怪我や病気の際の、動物病院での診療費を補償してくれます。イヌ・ネコが主な対象ですが、保険会社によっては鳥や爬虫類、ハムスターやウサギなども対象とする保険もあります。

・ペット保険の必要性

ペット保険の必要性が高まっているのは、ペットの診療費が高額な傾向にあるからです。ペットには公的医療保険制度がないため、ペットの診療費は飼い主が100%自己負担しなければなりません。ペットの平均寿命が伸びていることや医療が発達していることも相まって、ペットの診療費も高額になり続けています。東京都の2006年度「犬の飼育実態調査」によると、飼い主が1年間出費する額は8割以上の飼い主が3万円以上と回答。また、手術などの緊急を要する場合には、50万円以上の費用がかかっています。このような場合も踏まえ、ペット保険の加入を検討する必要があります。

・ペット保険を選ぶコツ

①愛犬愛猫のなりやすい病気などを把握する

②期間制限の有無を把握する

③継続割引、無事故割引などを把握する

・ペット保険:補償内容

・ペットの病院での診察や入院費用

・ペットの手術費用

・ペットセレモニーの費用

・賠償責任

■ゴルファー保険

ゴルファー保険とは、年を重ねると、趣味や付き合いでゴルフをする機会も増えてくることがあります。そんな時に加入を検討してほしいのがゴルファー保険です。ゴルファー保険は、ゴルフ場や打ちっ放し練習場、自宅などでのプレー、練習、指導中に発生した事故や損害を補償するものです。いわゆるレジャー保険の範疇に入ります。補償内容には、ゴルフ中に起こった他人に対する損害賠償、自身のけが、ゴルフ用品の破損や盗難、そしてホールインワンなどのプレーで発生する贈呈記念品・記念植樹・祝儀の費用が含まれます。

・ゴルファー保険の必要性

ゴルフ場でカートの運転中に事故を起こしたり、前の組に打ち込んでがをさせてしまったりするなど、ゴルフ場での偶発的な事故は数多く発生しています。楽しいゴルフを安心して続けるためにも、ゴルファー保険はぜひ検討しておきたい保険のひとつです。

・ゴルフ保険の選び方

キーポイントは、補償期間の長さです。ゴルフを本格的にしている人は長期的な保険をお勧めします。一方で、付き合いでゴルフをする程度なら1日からの補償もあるので検討してみてください。

・ゴルフ保険:補償内容

・第三者への事故による損害賠償

・ゴルフ用具の盗難や破損

・プレーまたは練習中の事故、けが、入院費用

・ホールインワンなどでの祝儀や記念品費用

第1章 ライフプランとキャッシュフロー表

【1】ライフプランを考える

あなたが思い描く理想の人生はどのようなものでしょうか。

人生は長く、理想に向かって一気に進められるものではありません。

その時その時にさまざまな選択肢が現れて、その都度、良いであろうと思う選択をし、その判断に納得したり後悔したりしながら少しずつ前に進み、作り上げていくものなのかもしれません。

ここでは一般的によくあるライフプランを例に、ライフプラン表やキャッシュフロー表の作成のメリットや分析方法について学びます。

お金は、あなたの人生の目標を実現するために欠かせない存在です。

漠然と「とにかく貯めなければ!」と考えるのは、お金との上手な付き合い方とは言えません。どうやって貯めるか、いくら貯めるかという前に、まずは、なぜ・何のためにお金が必要なのかを考えてみましょう。

■人生を俯瞰してみましょう

「ライフプラン」とは、人生設計を指します。マネープランを建てるために、まずはライフプランを立ててみると良いでしょう。

何歳まで働くのか、お子様は何人欲しいかといったことはもちろん、自動車を買いたい、海外旅行に行きたい、留学したいなど、人生の夢や目標を明確にすることは、いつ・どのくらいのお金が必要になるかを考え、把握できるようになる最初のステップとなります。

その第一歩として有効なのが、「人生を俯瞰してみる」ことです。

■ライフプラン表とキャッシュフロー表の作成

多様な個人や家族の生き方をイメージし、どのような生活を送りたいか、いつ頃、何をしたいかを具体的に記入した表を「ライフプラン表」といいます。そして、それらにかかる費用を概算で数値化し、年間収支表としてお金の流れを可視化したものを「キャッシュフロー表」と呼びます。

■ライフプラン表の作成

経済・社会環境の変化により、人々のライフプランの考え方は大きく変化しています。少子化や超高齢化社会の進展、終身雇用制度の変化や雇用形態の流動化、そして新型コロナウイルス感染症の蔓延などがその大きな要因となっています。

これからの時代に必要となるのは、社会に依存し過ぎるのではなく、自立化に向けた計画を立て、準備することと言えるのではないでしょうか。

ライフプランを立てる上では、ライフイプランに合わせたお金の流れを把握する必要があります。そのためにも個人や家族の多様な生き方をイメージした「ライフプラン表」を作成してみましょう。この設計がより具体的であればあるほど、事前に準備することが可能となり、さらには理想の未来の実現が可能になってくるでしょう。

<ライフプランチェックリスト>

□個人、ご夫妻、ご家族の夢(毎年〇〇したい・いつかは〇〇が欲しいなど)

□ご家族構成について(お子様は何人欲しいかなど)

□お仕事について(ご夫妻ともに働くのか、いつまで働くのか)

□お子様の教育方針

□お住まいのこと(賃貸・持ち家・二世帯住宅、どこに住まうのかなど)

□老後の生活のこと

□やるべきこと・やらなければならないことなど

表:サンプル

上記の表はご夫婦が30代の4人家族の例です。このようにご家族のライフプランを大まかに表にしていきましょう。ライフプラン表を作成するときは、前ページのチェックリストを参考に、人生を俯瞰して考えます。

また、将来を考える指標となる表のため、一生涯について、今想像できる限りのすべての項目についてイメージを具体化してみましょう。

■将来の目標を立てる

ライフプランをイメージする上で忘れてはならないのが、ライフステージの変化です。育児で配偶者が働けない時期、お子様の教育費がかさむ時期や家計の変化など、年代によって、ご家族の構成や支出は変わります。ライフステージを意識して計画を立て、備えることが重要となります。

あなたは今何歳でしょうか?下記の図を見ながら、自分が人生のどのあたりにいるのかを確認してみましょう。このような図にしてみると、いつどのくらいのお金が必要になるか、その時の自分や家族は何歳か、といった情報が整理でき、貯蓄の計画を立てやすくなります。

厚生労働省発表のデータによると、1947 年の平均寿命は、男性が50.06 歳、女性が53.96 歳でした。ところが、2022 年には男性81.47 歳、女性87.57 歳となっています。かつては「50 年」と言われていた人生が、今や80 年どころか90 年に届きそうな世の中となっています。つまり、以前よりも非常に老後の生活期間が長くなっていると言えます。30 歳から60 歳までと、60 歳から90 歳まではどちらも同じ30 年ということがわかります。

■ 人生の3 大資金とは

中でも大きなお金が必要になるのが、教育資金、住宅資金、老後資金の3つです。これらは人生の3大資金と呼ばれています。

・教育資金

お子様の教育資金は、必要になる時期をずらすことができないのが大きな特徴です。一方で、いつ必要になるかが明確であるため、計画的に準備しやすい資金であるとも言えます。公立か私立か、自宅通学か下宿かなど、進路によって必要な金額に差が出る資金となります。

・住宅資金

人生で最も大きな買い物となるマイホーム。教育資金と住宅資金は必要になる時期が重なることが多いため、ライフプランと照らし合わせて返済計画を立てることが大切です。

・老後資金

人生においてお子様を持たない、家を買わないという選択はできても、誰もが年を取らないという選択はできません。すなわち老後資金は、どのようなライフプランを立てても、必ず準備しなければならない資金です。医療の進歩などに伴い、私たちの老後は以前よりもずっと長くなっています。年金受給開始年齢の引き上げも近い将来現実になりそうな今、計画的な貯蓄や資産運用で老後生活の資金を確保することが必要です。

人生設計というと多少大げさな感じもしますが、人生の中で「やりたいこと」と「いつ」を表にして書き出してみるだけで十分です。あらかじめいつ頃、どのくらいのお金が必要になるかが分かっていれば、準備することができます。明日突然大金を用意するのは無理でも、10年後、20年後に向けて今から準備することは可能だからです。

■ キャッシュフロー表の作成

ライフプランを立てたら、次はそれを実際の金額に置き換えてキャッシュフロー表を作成しましょう。可視化することで、以下のようなメリットがあります。

・収入、支出をデータ化することで、貯蓄残高の変化が明確になる。

・この先いくらの収入が必要で、どのような準備をすれば良いかの資金計画を立てることができる。

・住まいの購入や建築時期はいつが適正なのかの判断基準が持て、安心して借り入れすることができるローン金額が分かる。

・住宅ローン破綻を予期して避けることができる。

・固定費の中でも見直し可能なもの(生活費・通信費・レジャー費・保険料など)を見直すきっかけとなる。

・老後に必要な資金やその準備方法が見えてくる。

■ キャッシュフロー表の分析ポイント

家計簿が過去と現在を表すとするならば、キャッシュフロー表とは未来のことを表すものとなります。作成されたキャッシュフロー表を分析することにより、あなたのライフプラン上の課題点が浮き彫りになってきます。次のことに注意して分析してみましょう。

・年間収支が単年度のみマイナスの場合、その年以降、再びプラスであれば、大きな問題となることは少ないと考えられます。

・年間収支が継続的にマイナスの場合、保険料や家賃、住宅ローンなどの固定費に問題はないかなど、早急に収支の検討をするべきだと考えられます。

■ キャッシュフロー表の見直し

キャッシュフロー表は一度作成すれば良いというものではありません。転勤や転職、不意の病気や事故、親の介護や同居など、作成時には想定していなかったことが起きる場合もあります。また、教育方針の変更やお子様の意思を尊重した結果、教育資金に大きな変更が生じることもあるでしょう。

その都度見直しをするよりも、定期的な見直しをすることでお金の不安も少なくなります。

第2章 家計の見直し

【1】家計の見直し

自分の人生を俯瞰して、いつ頃・どのようなことにお金がかかるのかが明確になったら、将来の備えや目標に向けてお金をやり繰りし、備えていきましょう。この章では、お金の出入りを確認し、貯めるための仕組みを学びます。

■ 家計の管理方法

「何にいくら使っているかわからない」では、計画的な貯蓄も節約もできない可能性が高いです。そのような方は、第一歩として、明日から家計をチェックし、お金の流れを把握することから始めましょう。ポイントは支出を把握することです。「何にいくら使っているのか」を明らかにすることで、家計の問題点を洗い出すことができるようになります。

■ いろいろな家計管理方法

家計管理の方法は様々あります。大きく2つの例を挙げてみます。

(1)支出管理型 ~お金をいくら使ったのかを管理する方法です。

・ノート

いわゆる「家計簿」です。大学ノートや市販の家計簿などに手書きで書き込む、昔ながらの方法です。

・パソコン

パソコンを使い、Excelなどを利用して家計簿をつける方法です。

・カレンダー

毎日の支出をカレンダーに記入していく方法です。

・レシート

買い物時のレシートを取っておく方法です。一週間ごとにお財布に入っているレシートを全て出して、何にお金を消費したかを見直します。

・クレジットカード

日々の支払いをクレジットカードに集約させ、明細書を家計簿代わりに使う方法です。利用状況を随時把握するために、紙の明細書ではなく、Web明細を活用するのがポイントです。

・アプリ

家計簿アプリを使う方法です。レシートをカメラで撮影して読み込むことができたり、クレジットカードの取引を自動で記録したりといった便利な機能があるアプリもあります。

(2)残高管理型

・銀行口座

銀行の口座の残高を記録し、チェックする方法です。前月と比較して口座の残高が減っていると、その月はマイナスの収支であったことがわかります。

・デビットカード

利用した金額がリアルタイムに口座から引き落とされるデビットカードを使って、残高を管理する方法です。

・現金

手元で管理する、最もシンプルな方法です。1ヶ月に必要なお金をまとめて引き出し、その範囲内でやり繰りをします。

どれが良いという正解はなく、10人いたら10通りの管理方法があります。家計簿はあくまで家計管理のための手段です。「記録する」こと自体が目的になってしまわないように注意しましょう。無理なく続けられ、収入と支出が把握できればどんな方法でも構わないのです。自分のスタイルに合った方法を見つけましょう。

【2】預貯金のルール

いざという時の備えとして欠かせないのは預貯金です。

金融広報中央委員会が実施した2022年「家計の金融行動に関する調査[二人以上世帯調査]」[安達1] によると、預貯金での貯蓄がない世帯は全体の23.1%。年収1,200万円以上の世帯でも13.0%は貯蓄がないという結果が出ています。これらのデータからも分かるように、貯蓄ができないことと収入の多さ少なさは関係が薄いと言えます。つまり、節約の習慣がない、方法を知らない、実践していないだけということが推測されます。

貯蓄のルールについて学び、正しい「貯め方」を理解しましょう。

※「老後とお金に関する調査」 回答者:全国の20歳以上の男女1,200人(複数回答)

■3つの財布(金融機関)とは

お金は大まかに3つに分けて目的別に管理することをお勧めします。

(1)使う財布

家賃や水道光熱費、食費など毎日の生活に必要なお金を入れる財布です。生活費の3ヶ月分程度の金額をここに入れておくようにします。

(2)貯める財布

5年以内に使うお金を入れておきます。例えば、住宅購入のための頭金、お子様の大学入学にかかる費用、自動車や大型家電などの買い替え資金、旅行費用などです。

(3)増やす財布

老後資金など、5年以上使わないお金をここに入れておきます。この財布に入れたお金は投資信託や債券、株などの長期目線での投資を検討可能な資金となります。

まずは(1)の財布に入れておくお金を貯めていきます。1ヶ月の生活費が25万円の場合、75万円が目標になります。収入に波があり、社会保険などの保障が少ない自営業のご家庭の場合は、生活費の6ヶ月分を目標にすることをお勧めします。(1)の財布に目標金額が貯まったら、次は、(2)の財布にお金を貯めていきます。(2)の財布にも必要なお金が貯まったら、最後に(3)の財布にお金を貯めて行くようにします。

上手に貯蓄を行うにためには、この貯める順番を守ることが大切です。

「先取り貯蓄」は、貯蓄の基本の考え方となります。余ったお金を貯蓄に回すのではなく、お給料等の収入を得たら、先に貯蓄分を取り分けてしまい、残りのお金でやり繰りするようにします。これが「先取り貯蓄」です。この方法で決まった額を毎月コツコツと積み立てていくことが確実な貯蓄に繋がります。給料天引きなどを利用し、毎月の給料から自動的に貯蓄分を先取り確保できるような仕組みを作ってしまうことをお勧めします。勤務先に財形貯蓄制度や社内預金制度がある場合は、積極的に活用することもお勧めです。

■財形貯蓄(一般財形貯蓄)

財形貯蓄は、定期的に賃金からの天引きにより金融機関などで積立を行う制度です。勤務先を通じて申し込みが行えます。財形貯蓄のうち一般財形貯蓄は開始から1年経過すれば、自由に払い出しすることができます。

■社内預金

社内預金は、毎月給料から天引きで積立を行う制度である点は、財形貯蓄と同じです。勤務先が社員から預かった貯蓄金を管理する仕組みで、厚生労働省で定める利率(下限利率)以上の利子をつけなければならないため、金利が高めであることがメリットですが、導入している会社は減少傾向にあります。

勤務先に上記の制度がない場合や、自営業・フリーランスの場合は、銀行の積立定期預金を利用することが選択肢のひとつとなります。

積立定期預金は、毎月決まった額を定期預金に自動で振り替えて貯めていく仕組みです。引き落とし日を指定できる銀行なら、給料日直後に設定しておくことにより「先取り貯蓄」となります。

× 収入-生活費=貯蓄

〇 収入-貯蓄=生活費

ただし、引き落とし日が固定の銀行もあるので注意が必要です。また、途中で解約すると定期預金金利が適用されず、普通預金と同じ利率になることがあります。

貯蓄に回す適切な金額は、お子様の年齢や人数、サラリーマン家庭か自営業か、共働きか否かなどによって異なりますが、収入の10%から25%を目安にすると良いでしょう。独身・実家暮らしであれば、さらに割合を増やし、収入の40%程度を目安することが望ましいです。無理な金額を設定すると気持ちにも余裕がなくなり、生活に潤いがなくなってしまいます。「楽に続けられそう」と思うくらいの割合にしておくのがコツです。

【3】銀行口座の管理とサービス

■ 銀行口座の管理方法

2023 年4月27日現在、都市銀行の普通預金の金利は年0.001% 。100 万円預けても10 円しか利子がつきません。

また、ゆうちょ銀行は2022 年に「ATM 硬貨預払料金の新設」を発表しました。ゆうちょ銀行ATM での貯金の預け入れ・払い戻しに硬貨を伴う場合は、硬貨預払料金という手数料がかかります。預け入れをする際、硬貨1〜25 枚で110 円、26〜50 枚で220円、51〜100枚は330円、払い戻しの際には、1枚以上110 円がかかります。これは、ゆうちょ銀行だけでなく、三井住友銀行、みずほ銀行や三菱UFJ 銀行など、様々な銀行で行われています。

さらに、紙の通帳の発行に手数料がかかる銀行も増加しています。紙通帳作成費用だけでなく、毎年かかる手数料や繰り越し料として500 円~1,000 円の費用が掛かることもあります(年齢や口座開設時期などの条件で対象外となるケースもあり)。

このように、今まで無料で活用できていたサービスの有料化の流れが続いています。

そのため、使っていない口座がある場合は、解約を検討する必要性も生じています。

長い間取引がない口座は休眠口座と呼ばれ、手数料が必要となるケースがあります。休眠口座と見做される条件は、銀行等によって異なります。 例えばりそな銀行の場合は、「最後の預け入れ、または払い戻しから2 年以上にわたり、預け入れまたは払い戻しがない残高1 万円未満の普通預金口座」と定義されており、休眠口座となった場合、年間1,296 円の管理手数料を負担が生じます。他の銀行等では、概ね5 年~10 年経過により休眠口座となることが定義されています。詳細は各銀行等でご確認ください。

預金口座を上手に活用するためには、まずメインバンクを決める事が重要です。お給料の振込、公共料金の引き落としやクレジットカードの引き落としなど、様々な入出金を1つにまとめることにより、お金の流れを把握しやすくなり、管理がしやすくなります。メインバンク選びでは、振込手数料の安さ・投資商品の豊富さ・資産管理ツールの利便性などの情報にも注目しましょう。

■ 銀行を選ぶときのポイント

(1)利便性

・店舗やATM が自宅や勤務先の近くにあるか

・インターネット取引ができるか

(2)取扱商品やサービスの豊富さ

・預金、ローンの貸出、投資信託、株、個人向け国債や保険などの取扱い

・利用したい商品やサービスがそろっているか

・カウンセリングやセミナーなどの顧客向けサービスがあるか

(3)手数料と営業時間

・ATM 手数料、振込手数料が安いか

・手数料が割引や無料になる会員サービス・制度があるか

・利用したい時間帯に営業してるか

上記以外の銀行選びのポイントは、銀行特有の優遇サービスがあるかという点もあります。三菱UFJ 銀行では「メインバンクプラス」、三井住友銀行では「SMBC サービスパック」、みずほ銀行では「みずほマイレージクラブ」など、それぞれの銀行でサービス内容が異なるため、比較検討をして、自分に合った銀行を選びましょう。

銀行口座を上手に活用するためには、インターネットを活用することも重要です。インターネットバンキングは、インターネットを活用した銀行等の金融取引のサービスです。オンラインバンキングとも呼ばれることがあります。インターネットバンキングでは、銀行の窓口やATM に行かなくても、24 時間365日、銀行窓口と同じようなサービスを低コストで受けることができます。このような便利さから、インターネットバンキングの利用は急速に拡大しています。

(1)インターネットバンキングのメリット

・いつでもどこでも取引ができる(365日 24時間)

・手数料が安い(もしくは変わらない)

・家計簿アプリと連携できることが多い

(2)インターネットバンキングでできること

・残高照会・入出金明細照会・振込

・ローンの返済・投資信託申し込み・住所変更などの届け出 など

現在、インターネットバンキングは、個人向けにほぼすべての銀行等が提供しています。インターネットバンキングには 2種類あります。1つ目は、都市銀行など店舗型の銀行口座にインターネットからアクセスするもの。2つ目に、店舗をもたない銀行が店舗の代わりに電話やインターネットを介して取引を行うもの。例えば、楽天銀行やソニー銀行、paypay銀行があります。インターネット専業の銀行は、店舗を持っているインターネット銀行と比較すると、店舗の家賃やスタッフの人件費がないため、メリットが多い傾向にあります。振込手数料が低い・金利が高い・ローン金利が低いなどのメリットが受けられることが多くなっています。

近年は、パソコンだけでなく、携帯電話やスマートフォンなどからも利用できるサービスが増えています。日々のお金の管理について、メインバンクとインターネットバンキングの上手な活用法を見つけましょう。

■ ペイオフとは

銀行等が破綻した場合に、預金保険制度により原則預金者一人あたり預金1,000万円+その利息までが保護される制度です。1,000万円を超える分は、銀行等の財務状況により保護されない可能性もあります。

【3】クレジットカードについて

■クレジットカードについて

ネットショッピングや海外旅行時に便利なクレジットカード。現金を持ち歩くことなく決済ができるだけでなく、ポイントやマイルを貯めたり、保険がついていたりなど様々なサービスを受けることができます。ただし、間違った使い方をするとトラブルを招く危険性もあります。

■ クレジットカードの選び方

クレジットカードは、ライフスタイルに合わせて選ぶことをお勧めします。例えば、頻繁に利用するスーパーや百貨店が発行するカード、仕事で出張が多いのであれば航空会社が発行するカードなど、ライフスタイルに応じたクレジットカードを利用すると効率的にポイントを貯めることができます。

銀行系のクレジットカードはATM手数料や時間外手数料が無料になるという特典があるケースもあります。コンビニに設置されているATM時間外手数料が月数回まで無料になるケースや、自行ATMでは回数無制限で手数料が無料になるケースもあります。キャッシュカード機能とクレジットカード機能が一体化しており、財布をスリムにできるのも魅力のひとつとなります。

ライフスタイルが変わった時は、所有しているクレジットカードを見直す良い機会です。

例えば

・結婚した

・お子様が生まれた

・転職をした

・引っ越しをした

などです。生活が変わると買い物の仕方や利用する店も変わるためです。

■クレジットカードの管理方法

クレジットカードを数多く所有していることが良いというわけではありません。お付き合いや勧誘で何気なく作ってしまったクレジットカードや使用回数が年に数回程度のカードがある場合は、貯蓄の観点では解約をお勧めします。所持しているクレジットカードの枚数が多いとポイントやマイルが分散されてしまい、非効率となるケースがあり、また、支出金額などの管理が煩雑になる恐れがあるためです。少数のカードに押さえておく方が良いでしょう。

日常持ち歩くクレジットカードは2枚まで。1枚は普段の買い物などに利用するメインカード、そして、もう1枚はメインカードが使用できなかった時の予備として持つ、サブカードにするといった方法が望ましいと言えます。

クレジットカードにはVISA、Master、JCB、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブという5つの代表的な国際ブランドがあり、それぞれ使える加盟店が決まっています。日本国内では、どの国際ブランドであってもほぼ問題なく利用できますが、海外では利用できない場合もあります。海外旅行が多い人は、メインカードがVISAならサブカードはMasterにするなど、複数の国際ブランドを持つようにすると良いでしょう。

■ その他のカードについて

クレジットカード以外にも決済に利用できるカードがあります。代表的なものが、電子マネーとデビットカードです。

(1)電子マネーの特徴

日常の細かな支払いを、カードをかざすだけで決済できる電子マネー。交通機関、コンビニなどの利用ですっかり一般的になってきました。電子マネーは、クレジットカードでの小額支払いを取扱ってもらえないケースや、財布のかさばり、コロナ感染症の流行下においては紙幣や硬貨への接触への忌避感等、その他の支払方法でのデメリットを補い、スピーディーに支払いを済ませることができる手段として、飛躍的に普及を果たしました。さらに、決済に応じてポイントが貯まることもあるのでお得感もあります。

(2)電子マネーの分類

電子マネーは大きく分けて交通系と流通系の2つがあり、支払方法によってプリペイドタイプ、ポストペイタイプに分類できます。

交通系の電子マネーにはJR東日本のSuica、JR西日本のICOCA、首都圏の鉄道・バス事業者のPASMOなどがあります。電車やバスに乗車する際のICカードとしても使うことができます。

流通系にはWAON、nanaco、楽天Edyなどがあり、系列のコンビニやスーパーなどで利用できます。

電子マネーの中には、利用時にポイントがつくものもあります。その場合、チャージをして使うプリペイドタイプの電子マネーならば、クレジットカードからチャージを行う設定にすると「ポイント二重取り」と言われるお得な使い方ができます。クレジットカードでチャージをする際にクレジットカードのポイントがつき、電子マネーを使った際には電子マネーのポイントがつくことになります。

一方、利用代金を後払いでクレジットカード決済するポストペイタイプには、QUICPay、iDなどがあります。事前のチャージが不要のため、残高を気にせず、必要な時にサッと使うことができます。ポイントを電子マネー、マイルに交換できるなど、利用に応じてポイントを貯めやすいのも特徴です。

最近話題になっているApple Payは、SuicaやQUICPay、iDとiPhoneを紐付けて利用する決済方法です。Apple Payのマークの他、QUICPay、iD、Suicaのマークが付いている店舗でiPhoneなどを使って電子決済ができます。

■デビットカードの特徴と分類

デビットカードとは、銀行口座の金額から即時決済できるカードのことです。銀行のATMから現金を引き出す手間を省き、ショッピングやサービスが利用できる利便性から注目が集まっています。大きく、J-Debit、デビットブランドの2種類があります。

(1)J-Debit

金融機関のキャッシュカードをそのままデビットカードとして利用できるサービスです。「J-Debit(ジェイデビット)」のマークのある加盟店で、キャッシュカードを提示すればデビットカードとして使うことができます。

つまり、「銀行のキャッシュカード=J-Debitカード」です。

(2)ブランドデビット

国際ブランドのついたデビットカードです。JCBデビットとVISAデビットの2つがあり、クレジットカードと同じように、JCB加盟、VISA加盟店で利用することができます。

デビットカードは、銀行の口座から即時に引き落とされるため、利用できる限度額は口座残高の範囲内です。そのため、クレジットカードのように買い物をしすぎる心配はありません。

第3章 家計の引き締め

【1】「ものの価値」は人それぞれ

何でもかんでも節約しようとすると、心に余裕がなくなってしまいます。締めるところと使うところのメリハリをつけ、削るべきところはきっちり削り、お金をかける部分にはケチケチせずに出すことが大切です。そのために重要になってくるのが、自分の価値観です。すなわち、「何に対してお金をかける価値があると思っているか」ということです。

例えば、他は倹約してオーガニック食材にこだわりたい人もいれば、閉店間際のスーパーに駆け込み見切り品を買うことに喜びを見出す人もいます。ファッションには興味がないけど旅行が好き、旅行に出かけるよりも家でのんびり寛ぐ方が好き、など、人の価値観は様々です。

どこにお金をかけて、どこを削るかは価値観によって異なってくるのです。

■出費は消費・無駄遣い・自己投資に分ける

自分の価値観に照らし合わせて、「その出費が本当に必要か?」を判断するときに考えたいのは、それが消費・無駄遣い・自己投資のどれに当てはまるのかということです。

・消費:生活していく上で必要になるものにお金を使うこと。家賃や食費、水道光熱費、被服費などが該当します。

・無駄遣い:なくても生活に支障がないもの、役に立たないものにお金を使うことです。ギャンブル、ゲーム、嗜好品などが代表です。無駄遣いが全くないと生活に潤いがなくなるので、適度に必要なものです。

・自己投資:教育資金や資格取得の勉強、スキルを磨くための書籍代などが該当します。貯蓄や資産運用も投資に含まれます。消費は現在の生活のために必要な出費で、自己投資は未来の生活に備えた出費です。

無駄遣いは現在・未来のどちらにも不要ですが、リフレッシュや息抜きのために必要な出費とも言えます。浪費を極度に切り詰めると生活に余裕がなくなってしまうので、一定の枠を決め、それ以下に抑えるのが良いでしょう。

10万円のコートは、ある人にとっては消費かもしれませんが、無駄遣いと考える人もいます。あるいはそのコートを買ったことでモチベーションがアップして仕事がはかどるようになったということなら自己投資と考えることもできます。必要以上の自己投資は「言い訳消費」になります。「自己投資だから」という言葉を免罪符にして出費しすぎないように注意が必要です。

■要・不要を見極めて買い物をする

節約をしていると「安い」「お得」という言葉に踊らされることがありますが、「必要もないのに安売りをしていたから買った」、「AとBではAの方が自分の好みだけどBの方が安いからBを買った」というのは正しい節約ではありません。

一袋50円のもやしが、「3袋買うと100円」で売られていたとしても、3袋も必要でなければ無駄な買い物です。結果、使いきれずに2袋を腐らせてしまったら、50円損することになってしまいます。

そもそもお金は、自分の夢や目標を叶え、幸せな人生を送るために「使う」ことが目的です。

節約すること、貯めること自体が目的になってしまわないようにしましょう。

【2】固定費と変動費

毎月の支出は、毎月決まった額が出て行く固定費と毎月出ていく額が異なる変動費に分類されます。

■固定費と変動費の例

固定費には以下のようなものがあります。

・住居費(住宅ローン、家賃)

・保険料

・教育費(子どもの習い事、学習塾代や学校給食費など)

・新聞の購読料

など

夫や妻が毎月定額のお小遣いでやりくりしている場合はこれを固定費に含めます。

変動費とは、その月の生活によって額面が変わる費用のことです。以下のようなものがあります。

・食費

・水道光熱費

・日用雑貨費

・理美容費

・趣味娯楽費

・交際費(メジャーや冠婚葬祭)

など

通信費は定額制の場合は固定費に、そうでない場合は変動費に含めます。

■節約の基本

第2章で、先取り貯蓄について学びましたが、収入から貯蓄分を取り分けた後にもやりくりの順序があります。それを図にしたのが以下です。

毎月の収入から先取り貯蓄に回す部分をまず引き、その残りからさらに固定費を引き、残った分で生活をやりくりします。

1ヶ月経ってお金が残れば、「後取り」として貯蓄に回しましょう。

お金を貯める方法には「収入を増やす」「支出を減らす」という2つがあります。

「固定費を減らすこと」「変動費を減らすこと」で支出を抑えるのが節約です。

■見直しは固定費から

支出を減らすためには固定費、変動費、どちらのチェックも欠かせませんが、まず固定費から見直すと良いでしょう。固定費は一度見直すと効果が持続するものが多く、効率的に節約ができるからです。対して、変動費は切り詰めすぎるとストレスになり、反動による浪費にもつながりかねません。食事を抜いたり、人付き合いを断ったりといった節約は避けるべきです。

【3】固定費の削減

固定費は引き落としになっているものが多く、無駄を見落としがちです。クレジットカードの明細や銀行口座の取引履歴をチェックして、通っていないスポーツジムの会費、使っていない月額制の有料アプリなど、毎月知らないうちに支払われているものがないかチェックしてみてください。その他、見直しておきたいのは以下の項目です。

■保険の見直し

保険の見直しをすると万円単位の支出削減ができることがあります。ただし、保険はもしもの時の備えとして大切なものです。むやみに解約するべきではありません。保障が重なっていないか、多すぎないかなど、ライフプランに合わせて専門家に相談してみましょう。病気や怪我で高額の医療費がかかったり、仕事ができなくなったりした時には、公的な制度でカバーできることもあります。

■住宅ローンの見直し

住宅ローンは「残りの返済額が1000万以上」「返済期間が10年以上」「変動金利型、または固定型でも現在のローンと1%以上の差がある」ならば、借り換えをすると返済額を減らすことができると言われています。その他、以下のタイミングで検討するのも有効です。

・住宅ローンを借りたときよりも現在の金利が安い場合

・収入が増えて返済額を増やすことが可能な場合

・今後住宅ローンの金利が上昇する見込みがあって、現在変動金利型の借り入れをしている場合

ただし、ローンの見直しの際には手数料や諸費用などもかかりますので、効果をしっかり比較することが重要です。気になった場合には金融機関に相談する方法もあります。

■自動車にかかる費用の見直し

駐車場代やローンなど、車周りの費用は見逃せない固定支出です。交通の便が良い都市部に住んでいる場合は、車を使う頻度や時間をチェックしてみて、手放すことも検討してみましょう。レンタカーやカーシェアリングを利用する方が節約になるケースもあります。

■夫婦のお小遣いの見直し

夫婦のお小遣いはなかなか手を入れにくい固定費ですが、節約を考えるなら再考してみる価値はあります。あまり削り過ぎると家庭不和にもつながりかねないので、夫婦で話し合い、ストレスのない落とし所を見つけましょう。

【4】水道光熱費の節約~①電気代

水道光熱費の中で最も大きな割合を占めるのが電気代です。こまめな電源オンオフなど、小さな努力の積み重ねが大切ですが、ここでは、ちょっとした工夫や見直しで効果が持続する電気代の節約方法を紹介します。

■契約アンペア数の見直し

電気代を節約する際に、まずチェックしたいのが契約アンペアと電力プランです。東京電力をはじめとするアンペア制の料金制度を導入している電力会社(※)では、契約アンペア数に応じて基本料金が決定します。一般家庭の平均契約アンペア数は30~40Aと言われています。

(※ 北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、九州電力エリアの電力会社が採用)

適切なアンペア数で契約しているかどうか、今一度確認してみましょう。各電力会社のサイトにある「簡易シミュレーター」では、使っている電気器具のアンペア、台数を選ぶだけで、その家庭に適したアンペア数が分かります。40Aで十分な家庭が、50Aで契約していた場合、基本料金分を余計に払っていることになります。契約アンペア数を1段階下げると月数百円程度の節約になります。

例えば東京電力(従量電灯)の場合、契約アンペアの基本料金および電力量料金、最低月額料金は以下の通りです。

※電力量料金は、燃料価格の変動に応じて燃料費調整額を加算あるいは差し引きます。

※まったく電気をご使用にならない場合の基本料金は、半額となります。

※電気料金を算定する際は、再生可能エネルギー発電促進賦課金を加算します。

契約アンペアを下げるだけで年間の費用を大幅に下げることができます。

■料金プランの見直し

東京電力の場合、一般家庭では標準の「従量電灯B・C」(東京電力の場合)がほとんどですが、これが生活スタイルに合っているかどうか確認しましょう。同じプランは24時間同一料金ですが、例えば夜の時間帯の電気使用量が多い場合に割安になるプラン「夜トクプラン」や一定の使用量までは定額で、それ以上は従量料金となる「プレミアムプラン」などがあります。電気を主に使う時間帯や家族構成などから、その家庭にあったプランを選ぶと良いでしょう。

■電力会社の見直し

電力の自由化は世界的に進展しており、日本でも2016年に電力事業法が改正され、大手電力会社以外の電力会社が参入できるようになりました。それにより競争が生まれ、電力会社がより効率的に電力を供給し、消費者により低価格での電力供給が可能になることが期待されています。そして、消費者も電力会社を自由に選択できるようになりました。

新たに参入した電力会社の中には、家庭用ガス、インターネット、携帯電話、鉄道などのサービス契約と合わせたセット割引を導入しているところもあります。電力使用量が多いほど恩恵が大きくなるため、家族が多い家庭で検討してみると良いでしょう。条件や地域によっておすすめの電力会社やプランは異なります。電気料金比較サイトなどを活用して調べましょう。

■消費電力を抑える

家庭内の消費電力を効率的にカットするには、消費電力量の多い家電を知り、対策を考えることが重要です。一般的に、家庭の中で最も電気を使っている家電は24時間365日動き続ける冷蔵庫です。冷蔵庫の放熱部がふさがって本体に熱がこもらないように、冷蔵庫の上に物を置かない、壁から数センチ離して設置するなどの工夫をするだけで、無駄な電力消費を抑えることができます。

■電球の見直し

家庭内の電球を見直し、効率の良いものに交換すると無理なく節電ができます。LED電球は、価格は高いですが、寿命が約4万時間と長いのが大きな特徴です。1日5.5時間使用した場合、約20年間交換が不要ということになるので、ランニングコストを考えるととてもお得です。消費電力としては、電球形蛍光灯よりも省エネな程度ですが、それでも年間2430円の節約になるというデータもあります(資源エネルギー庁「家庭の省エネ徹底ガイド 春夏秋冬」より)。

■冷暖房の節電

夏場、冬場には多くなる冷房暖房の電気代。エアコンの設定温度を1度上げる(下げる)と、約10%の節電になると言われています(ダイキンHPより)。フィルターの目詰まりに注意し、こまめに掃除することも重要です。夏なら打ち水やすだれ、冬なら湯たんぽなどを利用して、なるべく冷暖房を使わない工夫をするのも良いでしょう。

■古い家電の買い替えも検討

電化製品の性能は日進月歩。次々と新しい製品が開発・発売され、省エネ性、節電性能が格段に上がっています。もちろん購入コストがかかるので慎重に見極めが必要ですが、10年以上使っている製品であれば買い替えで大きな節電効果が期待できます。

ウェブサイト・省エネ製品買換ナビゲーション「しんきゅうさん」では、今使っている電化製品と買い換えたい電化製品の年間電気代などを比較することができます。

(https://ondankataisaku.env.go.jp/shinkyusan/)

【5】水道光熱費の節約~②ガス代

2017年4月から都市ガスが自由化され、選べるプランが増えるなど、電力と同様のメリットが生まれています。

電気、水道と同様に、ガスもくらしにおいて重要なライフラインです。契約やプランなどを見直すことで、家庭を効率的に節約することができるようになります。

■ガス自由化について

ガス自由化の対象になるのは都市ガスと簡易ガスを利用している家庭です。都市ガスとはガス管を通じて供給されるガスで、簡易ガスとは団地やマンションなどに同じくガス管を経由して供給されるガスです。

ガスボンベで供給されるLPガス(プロパンガス)の自由化を筆頭に2017年4月より、ガス会社を自由に選び切り替えることができるようになりました。電力会社や石油会社など、異業種企業の参入によって、各種サービスとのセットプランやお得なサービスの提供などがあるため、確認してみると良いでしょう。

■ガス代の節約(キッチン編)

キッチンでのガスの使用量を減らすためには、調理時間(火にかけている時間)の短縮、火力の調節、熱効率アップが重要なテーマになります。

食材は火が通りやすいように切ってから調理します。野菜を電子レンジで下ごしらえするとガス代の大幅な節約になります。電子レンジを使って野菜を蒸した場合とガスを使って水を沸騰させた場合のコストを比較すると、年間およそ800円以上の節約になります。火力の調節では、ガスコンロの火口を確認。鍋ややかんの底からはみ出した炎は本当に伝わらず、ガス代が無駄になってしまいます。フライパンや鍋についた水滴を拭き取ってから火にかけるだけでガスの使用量を抑えることができます。鍋底が平たい方が熱効率が良く、節約になります。また、煮込み料理に鋳物ホーロー鍋のような保温機能の高い鍋を使用するのも効果があります。

■ガス代の節約(バスルーム編)

お風呂も大量のガスを消費しています。一度お風呂を沸かしたらできるだけ追い焚きせず、家族が連続して入るようにしましょう。続けて入浴できない場合は必ず蓋をして、湯温ができるだけ下がらないようにします。ホームセンターなどで購入できる保温シートなどを活用し、お湯の温度をキープするのも良いでしょう。

給湯の設定温度も夏・冬など季節ごとに見直し、ストレスがかからない程度に低くすることを習慣づけましょう。

■エコ給湯システムの違い

「エコ給湯システム」とは、地球にも家計にも優しいと言われている給湯器とその仕組みのことです。数十万円~の導入コストはかかりますが、上手に使えば月々のガス代、電気代を節約する効果が期待できるため、家のリフォームや新築時に取り入れる家庭が増えています。現在、ガスを熱源にしているエコ給湯システムにはエネファーム、エコウィル、エコジョーズの3つがあり、電気を熱源とするエコキュートというものもあります。

・エネファーム

家庭用燃料電池の仕組みを使った、最新のエコ給湯システム。CO2を発生させずに発電し、その排熱を利用して給湯暖房を行います。エンジンなどがないため騒音、振動もありません。自立運転が可能な場合は非常時に自家発電もできます。

・エコウィル

ガスエンジンで発電し、その排熱で給湯、暖房を行います。発電効率を高めるために太陽光発電との組み合わせも可能です

・エコジョーズ

熱効率を高めたガス給湯器です。従来のガス給湯器よりも排気ロスを減らし、省エネ性を向上させています。エコジョーズの熱効率は、従来のガス給湯器と比較して15%もアップしており、高効率のガス給湯器と言われています。

・エコキュート

電気で温水を生成して家庭の給湯や暖房などに利用できるシステムです。従来の燃料を使用する給湯システムと比較してエネルギー効率が高く、CO2の排出量が少ない環境に優しいだけでなく、災害時に電源を確保することも可能で、いざという時に非常に役に立ちます。

【6】水道光熱費の節約~③水道代

日常生活に欠かせない水。家庭では、朝起きてから夜寝るまでの間に、身支度、料理、トイレ、お風呂など、水を使う場面がたくさんあります。使っていない時には水を出しっぱなしにしないなど、家族みんなで心がけることが大切です。

■水道料金の仕組み

水道代の節約を考える前に、水道料金がどのように決められているか仕組みを知っておきましょう。水道料金は、住んでいる自治体によって計算方法が異なりますが、主に基本料金と従量料金で設定されています。

・基本料金

水を使ったかどうかにかかわらず、一定の金額で請求される料金です。水道メーターの口径によって金額が決められている自治体もあります。

・従量料金

水の使用量に応じて決まる料金で、自治体によって金額が異なります。使用量が増えるほど1立方メートルあたりの単価が高くなる(累進性)ように設定されているところが多いようです。

・下水道料金

水道の使用料を放流量と換算して下水道料金が請求されます。従量料金と同じように、放流量に応じて1立方メートルあたりの単価が高くなる自治体が多いようです。

水道料金は自治体によって差がありますが、その理由は水源の違いにあります。資源が豊富で、かつ水質の良い地域であれば浄水処理のコストを抑えることができるため比較的安い料金で提供されています。反対に、水質が良くなければコストがかかり料金は高くなる傾向にあります。

また、人口の多い地域ではそれだけ水道使用量が多くなるため、浄水処理施設や水道管の維持費用などにかかるコストも増えて割高になります。

■水道使用量の目安

家庭での水の使い方は、お風呂が40%、炊事が17%、洗濯が15%、洗面・その他が6%となっています(東京都水道局「平成24年度一般家庭水使用目的別実態調査」より)。様々な用途で水がどれくらい使われているのかを知ることで、節約を具体的に認識しやすくなります。

例えば、4人家族がそれぞれ洗面・手洗いを1分間流しっぱなしで行うと、水道使用量は約48リットルです。これを朝晩行うと約96リットル。

一般的な浴槽の容量は水位の70%でおおよそ150~200リットル程度と言われているので、2日間で、ほぼ浴槽のお湯と同じくらいの量が使われることになります。

また、東京都水道局「令和2年度生活用水など実態調査」によると、世帯人数別の一か月あたりの平均使用水量は以下のようになっています。

(※1㎥=1000リットル)。

3人以上の世帯では、世帯人数が一人増えても使用水量が一人分増えるわけではありません。

総務省統計局の「家計調査(家計収支編)長期時系列データの一世帯当たり年平均1ヶ月間の支出ー二人以上の世帯」によると、2020年の世帯人数別の上下水道代の平均は

2人・・・4,255円

3人・・・5,528円

4人・・・6,298円 となっています。

■節水グッズ、節水テクの活用

家庭で最も水を使うお風呂と洗濯で効率よく節水ができれば、かなりの水道料金を節約することができます。

・節水コマ

蛇口から出る水量を減らすため、カランについているコマを節水コマに取り替えます。東京都水道局が無料で配っている一般家庭用(13 mm の単水栓)の節水コマでは、最大50%近く節水できます。

・節水シャワーヘッド

お風呂のシャワーヘッドを節水シャワーヘッドに取り替えるだけで、30~70%の節水効果があります。節水コマに取り替えてシャワーの水勢が弱くなったと感じたら、節水シャワーヘッドをお勧めします。

また、お風呂の残り湯を洗濯に使ったり、庭木や花の水やりに雨水を有効活用したりといった工夫を積極的に取り入れましょう。

日常生活の中では、洗面や歯磨きの時の流しっぱなしを止めたり、トイレを流すときに、大と小をきちんと使い分けるのも効果があります。一回一回の水量が少なくても、毎日積み重なれば影響は大きくなります。食器洗いもなるべく水を溜めて行いましょう。最近のトイレや洗濯機は節水性能に優れたものが多く出ていますので、買い替えを検討してみるのも良いでしょう。

【7】通信費の節約

総務省の「家計調査」によると、携帯電話の通信料の世帯当たりの年間平均は104,192円(2020年度)です。

今や携帯電話やインターネットは私たちの生活に広く浸透し、通信費が食費に迫るケースもあり、生活水準はエンゲル係数よりも通信費で見た方が実態に合っているという声もあります。そんな通信費の節約方法を探ってみましょう。

■データ通信量の管理

携帯電話やスマートフォンの通信費節約の第一歩は、実際に自分が使っている毎月のデータ通信料や通話時間を把握することです。普段どんな使い方をしているのか振り返ってみてください。動画視聴はどのくらいしていますか? SNS は? ゲームは?通話は誰と何時頃することが多いですか?自分が契約しているプランが自身の利用に見合っているのかどうかを確認し、まずはそれをもとに適切なプランに変更してみましょう。

毎月のデータ通信量や通話時間把握しておくと、節約の基準も見え、管理しやすくなります。

データ通信で通話時間は、ほとんどの場合サイト上でも確認することができます。また最近は、データ通信量が確認や制限をする無料アプリもあります。モバイル通信とWi-Fi通信を別に確認できるタイプ、その月のデータ通信量が残り少なくなるとアラートを発するタイプなど、いろいろあるので用途や目的に合わせて活用すると良いでしょう。

また、自分が契約している通信会社の見直しという方法もあります。他の通信会社との比較も必要となってくるでしょう。

■通話アプリについて

スマートフォンの通話料金は通話アプリが登場して節約しやすくなりました。通話アプリは主に、電話回線、050から始まる番号の割り当て、IP電話の3タイプに分けられます。

その中でも、IP電話とはインターネットプロトコル(Internet Protocol)の技術をもとにインターネットの回線を利用して通話を行います。

アプリ同士の通話が無料なのはもちろん、固定電話への通話が安いことがメリットです。

これらの通話アプリのサイトに料金プランやキャンペーンが載っていますので、最新情報を確認して検討すると良いでしょう。また、通話アプリの通信品質やコストを比較したサイトなどもありますので、何が良いのか迷ったら活用することをお勧めします。

■格安SIMへの乗り換え

格安スマホとしてすっかり定着した格安SIMは、通信費の節約に大きく貢献してくれるアイテムです。家電量販店など訪れても専用コーナーが設置され、多くの人がその前で足を止めて関心を寄せています。

大手キャリアと比べてデータ通信料金が格安になるため、ちゃんと使えるのだろうかと不安を感じる人もいるかもしれません。しかし、ほとんどの格安SIMが大手キャリアの回線を使用しているため、通信品質は高く、問題ありません。

大手キャリアから格安スマホに乗り換える場合の注意点としては

・端末SIMのロック解除が必要

・キャリアのメールが使用できなくなる

などがあります。

しかし、格安SIMの場合契約期間が短く解約手数料も安価の場合が多いので、必要に応じてプランの見直しをするのも良いでしょう。ほとんどの格安スマホ・SIM会社のサイトでは、現在のスマホ代と乗り換え後のスマホ代を比較シミュレーションできるようになっています。

【8】車にかかるお金

車を保有する理由はそれぞれあると思います。生活必需品として、通勤やお仕事、日常生活の足として、また、お子様の送り迎えやご両親の介護のため、また、趣味やお出かけのためなど様々です。普段何となく利用しているマイカーですが、一年間でいくらぐらいお金がかかっているか、計算したことはありますでしょうか。

電気代や通信費を見直すことはあっても、マイカーについては細かい金額を知らない方も意外と多いものです。

車を保有すると具体的にどんな費用がかかるのか確認しましょう。

■車を購入するときにかかるお金

(1)車体費用

新車を購入する場合にかかる費用は車体価格+法定費用+販売店諸費用+任意保険料となっております。さらに詳しく見ていきましょう。

(2)法定費用

・自動車税(排気量による)

・自動車重量税(車体の重さによる)

・環境性能割(自動車所得税)

・消費税

・自賠責保険料(必ず加入しなければならない)

・リサイクル料金

(3)販売店諸費用(自身で行えるもの・新車の場合かからない費用もあります)

・車両登録代行費

・車庫証明代行費

・陸送費用

・納車費用

・点検整備費用

・クリーニング費用

・ナンバープレート取得費(希望ナンバー)

(4)任意保険料

法定費用にある自賠責保険料では補えない部分に対して任意で加入する保険です。

■車を保有する際にかかるお金

(1)自動車税・軽自動車税

自動車税は都道府県に納める税で、排気量によって課されます。軽自動車税は660cc以下の車に課される市区町村に納める税金です。

新車の登録から13年以上経過すると増税の対象となります。新車登録から数えるため、中古車を購入した方は注意が必要です。新車登録については、車検証を確認してみましょう。

(2)重量税

自動車重量税は、車両重量に応じてかかる税金です。車検時に納付し、普通車・軽自動車ともに対象となります。自動車重量税は、新車登録から13年未満、13年経過、18年経過で税額が上がります。

(3)車検費用

車検は国が定めた検査で、保安基準が守られているかどうかを確認するものです。車検が通った車は自動車検査証が交付されます。

車検証の有効期間は自家用乗用車の場合、初回の有効期間は3年、2回目以降は2年となります。その他、車種や用途によって車検証の有効期間は異なります。

また、車検時には車検証や車検適合証の交付を受けるための印紙代がかかることも覚えておきましょう。

(4)駐車場代・ガソリン代

ご自宅に駐車場をお持ちでない方は、駐車場を借りることになります。

駐車場はお住まいの地域によって大きな違いがありますが、毎月のお支払いとして必ずかかる固定費用として、予算に入れておきましょう。

また、月あたりのガソリン代はその用途によって大きく違います。総務省の「家計調査家計収支編 詳細結果表」によると、2021年のガソリン代の全国平均は年間59,446円でした。ガソリンの価格は世界情勢や原油価格の変動によって左右されるため、その価格は一定ではありません。

第4章 子どもにかかるお金

【1】妊娠・出産時にかかるお金

子どもは何人欲しいか、何歳ぐらいまでに産みたいかといったことは、マネープランにも大きく関わってきます。厚生労働省の「2020人口動態統計」によると、出産総数に対する35歳以上で出産した人の割合は、 2020年は約29%、 2015年は約28%、 2000年は約12%、1985年は約7%と年々増加傾向にあります。今や約3割の女性が高齢出産ということになります。このように、出産の年齢に幅が増えましたが、出産のタイミングによっては子育てが終わったらすぐに定年・・・ということになるため、教育費と老後資金を同時に貯めていく必要が出てくる場合もあります。これらのことを踏まえた上で、もう一度ライフプランを考えてみましょう。

■妊娠中にかかるお金

妊娠がわかってから出産までのおよそ10ヶ月には、主に妊婦健康診査と出産準備にお金がかかります。

妊娠は病気ではないため健康保険の対象にならず、病院での検診は、自費診療となります。しかし、その費用をカバーするための公的制度もいろいろあります。まず、どんなことにいくらぐらいかかるのか、おおよその金額の目安を見ていきましょう。

・妊婦健康診査(妊婦健診)

妊娠から出産直前までに妊婦健診を15~16回受けます。毎回の健診費用は3000~5000円程。また、風疹抗体や肝炎の有無、貧血などを調べるための血液検査が2~3回あり、1回につき1万円ほどかかります。

2009年、国は少子化対策として原則14回までの妊婦健診無料化を打ち出し、妊婦健診の負担は大幅に軽減されました。ただし、自治体によって助成内容や金額が異なります。

・出産準備

マタニティ用品、赤ちゃんの衣類、ミルク、おむつ、ケア用品、ベビーベッド、チャイルドシートなどの準備にもお金がかかります。

・不妊治療

晩婚化に伴い、不妊治療を受ける人は年々増えています。治療は保険適用外となるため、高額の費用がかかります。しかし近年、自治体による助成制度が拡充してきており、負担は軽減される傾向にあります。

妊娠の経過で異常が見られたり、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になると、医療的措置を受ける場合があります。助成制度はありませんが、健康保険の対象となり3割負担で治療を受けられます。

■出産時にかかるお金

出産も妊娠と同じく病気ではないため、健康保険の対象になりません。出産費用は個人病院か総合病院か、有名私立病院か、あるいは分娩方法などによってかなり異なります。赤すぐ総研の「出産・育児に関する実態調査2016」によると、出産時の入院・分娩費用の平均は42万5000円となっています。

帝王切開の場合は、健康保険が適用され、地域や医療機関にかかわらず手術代は22万2000円(32週未満の早産の場合などは24万2000円。平成28年診療報酬点数表より)です。このうち3割が自己負担額となります。手術以外にかかる費用(分娩料など)は、経膣分娩の場合と同様に自費となります。もし妊娠前に民間の医療保険に加入していれば、入院や手術について給付金が支給されます(※保険内容によって異なります)。

出産の費用には、健康保険から給付される出産育児一時金を充てることができます。一般的な分娩であれば、出産育児一時金でほとんどの費用を賄うことができます。

■妊娠・出産時にもらえるお金

妊娠や出産は保険診療の対象外となるため、トータルで40~50万円程度のお金がかかります。しかし実際には、公的制度から受給できるお金がいろいろあり、「実質ほぼ無料」で出産することができます。

■妊娠・出産時にもらえるお金(公的制度)

妊娠や出産は病気ではないため、保険診療の対象外となります。妊娠がわかってから出産までの費用は、15~16回に及ぶ妊婦健康診査で10万~15万円程度、分娩と入院で40万~50万円程度かかります。この費用は経済的に大きな負担となることから、少子化対策の一環として、妊婦健康診査費用助成と出産育児一時金が給付されます。

・妊婦健康診査費用助成

通常、妊娠期間中は健康診査を15~16回受けることが多いですが、国が打ち出した健診費用無料化によって、自治体が14回分を助成することになっています。

一般的に、母子健康手帳(母子手帳)に、14枚の妊婦健康診査受診票が収納されていることが多く、妊婦はこれを使って健診を受けます。自治体によって一回の助成金額にばらつきがあり、全額負担してくれるところもあれば、そうでないところもあります。厚生労働省によれば、 公費負担は平均10万2,097円になっています(2016年4月1日現在)。

里帰り出産するため住んでいる自治体とは違う場所で出産する人は、一旦、自己負担で受診し、産後に自治体へ申請することで助成分の払い戻しができます。

申請する期間は自治体ごとに異なり、助成を受ける時には未使用の受診票と受診した証明となる領収書が必要となります。

・出産育児一時金

出産による経済的負担の軽減を図るため、国民健康保険や健康保険、共済組合などの被保険者またはその非扶養者が出産した時に出産育児一時金が支給されます。原則、子ども一人につき42万円が支給されるため、多胎児(双子など)であれば子どもの人数分が支給されます。組合などによっては、付加給付がついて42万円以上となることもあります。出産育児一時金の受け取りには、直接支払制度と受取代理制度があり、出産を行う病院によって対応が異なります。どちらも健康保険から直接病院側に出産育児一時金を支払ってもらい、実際にかかった出産(分娩・入院)費用が42万円以上であれば、差額分を病院に支払います。42万円より安ければ、差額分の振込を申請することができます。万が一、流産もしくは死産という結果になった場合でも、妊娠85日以上経過していれば出産育児一時金の支給対象となります。

■働いている妊婦が対象となるもらえるお金(公的制度)

また、正社員や派遣社員、パート社員として働いている人が出産する時は、出産手当金や育児休業給付金が支給されます。

・出産手当金

産休中は会社から給与が出ないことがほとんどのため、出産手当金が健康保険や共済組合から支給されます。支給額は、給料を日給に換算した標準報酬日額の3分の2相当額で、対象期間は、出産日(予定日より後になったら出産予定日)の42日(多胎児の場合は98日)前から、出産日の翌日以降56日までです。

・育児休業給付金

雇用保険から育休中の補償として月給の67%、育児休業開始から6か月経過後は50%が給付され、最長で子どもが2歳になるまで受け取れます。派遣社員やパート社員であっても次の条件3つを満たせば、育児休業給付金の支給対象となります。

1.雇用保険に加入している

2.育休前の2年間に月間11日以上働いた月が12カ月以上ある

3.育児休業中に休業開始前1か月当たりの賃金の8割以上が支払われていないこと

(1.3割以上8割以下の賃金が支払われている場合は、減額にて支払われる)

出産手当金や育児休業給付金は、申請してからお金をもらえるまでしばらく時間がかかります。

出産手当金は、出産から56日過ぎてから申請し、育休がスタートして半年近く経って、ようやく振り込まれるということもあります。

【2】子どもにかかるお金

■子どもにかかるお金

「子ども一人につき1000万円」とよく言われますが、一度にそれだけの大金が手元になければ子どもを育てられないわけではありません。妊娠から子どもが22歳で大学を卒業すると仮定すれば、期間は約23年間。この間に少しずつ準備していけば良いのです。子どもにかかる出費のピークは、出産時、幼稚園入園時、小学校入学時、中学校入学時などと何度かやってきます。そのピークがいつやってくるのか、どれくらいお金が必要なのか知ることで、計画性のある貯蓄をして備えることができます。

■子育て時にもらえるお金(公的制度)

子育て期には給付金や助成金などの公的制度があります。2012年8月、「子ども・子育て支援法」が成立し、子育てしやすい環境づくりや社会作りに重点を置いた政策を推進しています。

ほとんどの子育て家庭に関係してくるのは、児童手当と乳幼児(子ども)医療費助成です。

(1)児童手当

中学校卒業(15歳の誕生日後の最初の3月31日)までの子どもを養育する人が対象で、原則として、毎年6月、10月、2月にそれぞれの前月分までの手当が支給されます。児童手当の額は子どもの年齢によって定められています。

子どもが生まれた時や他の市区町村から転入した時に現住所のある市区町村に認定請求書を提出する必要があります。また、認定を受けてから次年度も児童手当を受け取るには毎年6月に現況届を提出しなければなりません。

<児童手当制度 支給ルール>

1.原則として、児童が日本国内に住んでいる場合に支給します(留学のために海外に住んでいて一定の要件を満たす場合は支給対象になります)。

2.父母が離婚協議中などにより別居している場合

は、児童と同居している方に優先的に支給します。

3. 父母が海外に住んでいる場合、その父母が、日本国内で児童を養育している方を指定すれば、その方(父母指定者)に支給します。

4.児童を養育している未成年後見人がいる場合、その未成年後見人に支給します。

5.児童が施設に入所している場合や里親などに委託されている場合、原則として、その施設の設置者や里親などに支給します。

なお、児童手当には所得制限があり、定められた限度額以上だと、手当月額は子ども一人につき一律5000円となります(2023年2月現在)。所得制限限度額は扶養親族などの数によって異なります。扶養親族などの数とは、配偶者控除、扶養控除及び16歳未満の扶養親族のうち申告のあったものの合計人数をさします。共働きの場合は、夫婦合算の所得ではなく、生計を維持する程度が高い方(通常は所得が高い方)が対象となります。

(2)乳幼児(子ども)医療費助成

健康保険に加入している子どもの医療費を助成する制度です。かつては、就学前の乳幼児を対象としていた市区町村が多かったものの、近年では、就学前、小学校卒業(12歳年度末)、中学卒業(15歳年度末)対象年齢が広がる傾向にあり、22歳の年度末というところもあります。

また、入院・通院など援助範囲や、一応自己負担の有無、所得制限など、市区町村によって助成内容が異なるため、地域間の格差が生じているのが現状です。

乳幼児(子ども)医療費助成を受けるには、子どもの現住所がある市区町村へ申請し、医療費受給証を発行してもらう必要があります。名称は各市区町村で異なり、東京都では「マル 乳医療証」や「マル子医療証」と呼ばれます。

医療費受給者証を医療機関の窓口に提示することで助成を受けられます。旅行中の病気やケガなどによる医療費は、一旦自己負担で支払った後で、市区町村の乳幼児医療費助成担当課に申請することで助成が受けられます。

(3)その他、子育て時の助成制度

ひとり親の家庭を支援する助成制度として、所得に応じて子どもが18歳の3月31日まで受けられる児童扶養手当、健康保険に加入しているひとり親家庭の子どもが18歳の3月31日まで受けられるひとり親医療費助成があります。

また、子育て応援を目的として子育てクーポンを発行している自治体もあります。地元での買い物が割引になったり、特典を受けられたり、地域と連携したサービスを展開しています。実施の有無や内容については、各市区町村の広報やサイトで確認することができます。

■子どものおこづかい

子どものおこづかいは、渡し方や金額に指標があるわけではなく、いつ、どれくらい渡せばいいのか悩むことも少なくありません。月額を決める、欲しいときに必要な金額を渡す、お手伝いの報酬として支払う、など様々な方法があります。いずれにしても親が勝手に決めるのではなく、子どもと一緒に決めることが大切です。子どもの金銭教育の場として、お金の管理方法や貯め方などを話し合ってみましょう。

2015年の金融広報中央委員会の「子どものくらしとお金に関する調査」によると、小学校低学年では、おこづかいをもらう頻度について「ときどきもらう」が57.3%と最も多く、「月に1回」13.4%、「1週間に1回」9.3%、「毎日」4.2%となっています。中学年、高学年と学年が上がるにつれて、「ときどきもらう」が減少し、「月に1回」の割合が増加します。中学年までは月に1回よりもときどきもらう子が多いですが、高学年になると逆転し、月に1回が最も多くなります。

中学生からのおこづかいは、定額制が一般的です。毎月決まった金額でやりくりをすることによって、欲しいものを買うために必要な金額を貯めるのにどれくらいの期間が必要か、見通しを立てたり、お金を計画的に使う感覚を養ったりすることができます。また、お手伝いをするごとにおこづかいを渡す報酬制は、働くということへの理解を深める一歩となります。定額制と報酬制を組み合わせても良いでしょう。

【2】教育にかかるお金

子どもが幼稚園から大学まで進学した場合、教育費が必要な期間は約19年間にも及びます。さらに、子ども1人につき教育費は約1000万円とよく言われますが、これはすべて国公立に進学した場合の目安であり、私立に進学した場合総額はさらに上回ります。そのため、教育方針を両親で相談し、計画的に準備しておくことが必要です。

■幼稚園入園から高校卒業までの学習費

こちらは令和3年の文部科学省の学校種別学習費総額のデータです。この学習費総額には、学校教育費、学校給食費、学校外活動費が含まれています。

学校種別学習費総額表によれば、幼稚園は公立約16万5千円、私立約30万9千円、小学校は公立約35万3千円、私立約166万7千円、中学校は公立約53万9千円、私立約143万6千円、高等学校(全日制)は公立約51万3千円、私立約105万4千円となっています。

また、この中での項目分けの内容は以下のようになっております。

(1)学校教育費

授業料、修学旅行・遠足・見学費、学校納付金(入学金、学級費、PTA会費など)、図書・学用品・実習材料費、教科外活動費(クラブ活動、運動会・学芸会、林間学校など)、通学関係費(交通費、通学用品の購入費)

(2)学校給食費

(3)学校外活動費

補助学習費(家庭学習に使う物品・図書の購入費、家庭教師費、学習塾費など)、その他(体験活動、習い事)

この学習費の中で大きな割合を占めるのが、学校外活動費です。公立の場合、こちらの令和3年度のデータによると公立小学校で年額約24万7千円、学習費の中で70.2%を占めています。同様に、公立中学校では約36万8千円、割合は68.4%です。学校外活動費は、塾や習い事など、ある程度家庭でコントロールが可能な部分です。「かかるお金」と「かけるお金」は異なることを理解しましょう。私立の場合は、学校教育費の部分が高額になるため、学校外活動費の割合は低くなります。例えば、私立中学校では、学校外活動費の年額は36万7千円と公立中学校とほとんど変わりませんが、その割合が25.6%となっています。

学習費の総額は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の各教育機関が公立であるか私立であるかによって、大きな差が生じます。

単純合計してみると、全て公立のケースと全て私立のケースでは、約1263万円程度の差があることがわかります。子どもが高校を卒業するまでにかかる総額は全て公立であっても家計に負担がかかります。どれくらい学習費をかけるか、子どもが小さいうちに家族で話し合ってプランを立てて貯蓄しましょう。

幼稚園から高等学校第3学年までの15年間で全て公立だった場合約575万円、対して全て私立の場合は約1838万円ほどになり、その差額は1263万円となります。

■大学にかかる費用

より専門的な学術研究を進める大学教育においては、公立と私立の違いだけでなく、文系と理系の違いでも学習費用は大きく左右されます。

これ以外にも入学前に受験費用がかかるほか、下宿生であれば住居費や生活費の仕送りが必要になります。毎日の家計からやりくりするには大変な金額なので、資金計画は十分な時間を確保することが大切です。

■教育費の準備について

教育費については、子どもが自身で希望する年齢になるまでは、親の希望が大きく関わります。また学校が公立か私立かでかかるお金に大きな違いがあります。

先のことはわかりませんが、おおよその計画を立ててそのためにお金を準備することは可能です。

実際は子どもの希望に沿って最終的には決まるとは思いますが、「大学に進学させたい」「中高一貫の私立に入れたい」といった親の希望がある場合には、おおよその学費や、受験のための補習塾・予備校の費用、受験費用、大学が下宿を伴う遠隔地の場合などはその下宿費用などを今から確認し、前もって少しずつ蓄えておくことも必要になってきます。また、銀行や金融機関からの教育ローンの利用や国や自治体などからの支援を受ける奨学金制度などもあります。

子どもの教育費は家計にとって大きな負担になる場合がありますので、いろいろな方法を組み合わせしっかりと準備することが大切です。

【3】幼児教育・保育の無償化

少子化対策としての社会問題である幼児教育・保育の無償化が2019年10月にスタートし、それにより教育費は以前に比べて低くなっています。このような子育てサポート制度をうまく活用することが重要です。

■幼児教育・保育の無償化とは

幼稚園や保育所などに通う子どもがいる場合、一定の条件を満たせばどのご家庭でもそれらの利用料が無料となる制度です。

以前より、「第二子は半額」「住民税非課税世帯の負担軽減」などの対策はとられてきましたが、十分ではありませんでした。そこで、結婚・妊娠・出産など、少子化対策の子育て世帯の経済的負担を軽減するための重要施策として始まったのが「幼児教育・保育の無償化」です。

以下は内閣府の幼児教育・保育の無償化の案内にある無償化制度についての図になります。

※子どもが2人以上の世帯の負担軽減の観点から、現行制度を継続し、保育所などを利用する最年長の子どもを第1子としてカウントして、0歳から2歳までの第2子は半額、第3子以降は無料となります。なお、年収360万円未満相当世帯については、第1子の年齢は問いません。

※市区町村によっては、さらに独自の減免措置を講じている場合があります。

※通園送迎費、食材料費、行事費などはこれまで通り保護者の負担になります。ただし、幼稚園、保育所、認定こども園については、年収360万円未満相当世帯の子どもたちとすべての世帯の第3子以降の子どもたちの副食費用が免除されます。

※就学前の障害児のための支援を利用する子どもたちについても、3歳から5歳までの利用料が無償化されます。

目的としては、人生の基本となりうる幼少期を様々な経験をしながら知識を深め、小学校入学に備えることが挙げられます。そのため、幼児教育や保育の質を向上させる重要性も見直されています。

近年では共働き世帯が多く、子どもを幼稚園や保育所などに預けながら働く家庭が増えた中、ようやく実現した制度ともいえます。

このように「幼児教育・保育の無償化」は、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳児クラスの子どもたち、住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子どもたちの利用料が無料になります。以下が利用条件や制度の詳細になります。

■幼稚園、保育所、認定こども園など

【対象者・利用料】

(1)0歳から2歳の場合・無償

・月額上限2.57万円

・無償化期間は、満3歳になった後の4月1日から小学校入学前までの3年間。

→幼稚園については、入園できる時期に合わせて、満3歳(3歳になった日)から無償化。

・実費として徴収されている費用(通園送迎費、食材料費、行事費など)は対象外。

→年収360万円未満相当世帯の子どもたちと全ての世帯の第3子以降の子どもたちについては、副食(おかず・おやつなど)の費用が免除。

(2)3歳から5歳の場合・住民税非課税世帯を対象

・子どもが2人以上の世帯の負担軽減の観点から、現行制度を継続し、保育所などを利用する最年長の子どもを第1子とカウントして、0歳から2歳までの第2子は半額、第3子以降は無償化。

→年収360万円未満相当世帯については、第1子の年齢は問わない。

【対象施設・サービス】

幼稚園、保育所、認定こども園に加え、地域型保育(小規模保育、家庭的保育、訪問型保育、事業所内保育)、企業主導型保育事業(標準的な利用料)も同様に無償化の対象となります。

※参照:内閣府「幼児教育・保育の無償化概要」

(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/gaiyou.html#nintei)

■幼稚園の預かり保育を利用する子どもたち

【対象者・利用料】

・在住の市町村から「保育の必要性の認定」を受ける必要があります。

・原則、通われている幼稚園を経由しての申請です。

・「保育の必要性の認定」の要件については、就労などの要件(認可保育所の利用と同等の要件)があるため、在住の市町村に確認が必要です。

・幼稚園の利用に加え、月内の預かり保育利用日数に450円を乗じた額と、預かり保育の利用料を比較し、小さい方が月額1.13万円まで無償化されます。

■認可外保育施設などを利用する子どもたち

【対象者・利用料】

・在住の市町村から「保育の必要性の認定」を受ける必要があります。

・保育所、認定こども園などを利用できていない方が対象です。

・「保育の必要性の認定」の要件については、就労などの要件(認可保育所の利用と同等の要件)があるため、在住の市町村に確認が必要です。

(1)3歳から5歳までの場合

月額3.7万円(認可保育所における保育料の全国平均額)までの利用料が無償化されます。

(2)0歳から2歳までの場合

住民税非課税世帯の子どもたちであれば、月額4.2万円までの利用料が無償化されます。

【対象施設・サービス】

・認可外保育施設、子ども・子育て支援法に基づく一時預かり事業、病児保育事業およびファミリー・サポート・センター事業が対象です。

・認可外保育施設などとは、一般的な認可外保育施設、地方自治体独自の認証保育施設、ベビーホテル、ベビーシッター、認可外の事業所内保育などを指します。

・認可外保育施設などは、都道府県などに届出を行い、国が定める認可外保育施設の指導監督基準を満たすことが必要です。ただし、経過措置として、指導監督基準を満たしていない場合でも無償化の対象とする5年間の猶予期間を設けます。

■企業主導型保育事業

【対象者・利用料】

・標準的な利用料が減額されます。

・利用している企業主導型保育施設に対し、必要書類の提出を行う必要があります。

(1)0歳から2歳の場合

住民税非課税世帯であり、保育の必要性のある子どもたち

(2)3歳から5歳の場合

保育の必要性のある子どもたち

※保育の必要性のある子どもとは

①「従業員枠」を利用している子ども:全ての子どもが保育の必要性のある子どもとなります。

②「地域枠」を利用している子ども:市町村の保育認定(2号、3号)を取得している子どもが対象となります。

■「障害児通園施設」を利用する子どもたち

【対象者・利用料】

・就学前の障害児の発達支援(いわゆる障害児通園施設)を利用する子どもたちについて、利用料を無償化。

・幼稚園、保育所、認定こども園といわゆる障害児通園施設の両方を利用する場合は、両方とも無償化の対象。

【対象施設・サービス】

・児童発達支援 ・福祉型障害児入所施設・医療型児童発達支援 ・医療型障害児入所施設・居宅訪問型児童発達支援・保育所など訪問支援

このように「幼児教育・保育の無償化」は対象や詳細が異なるため、注意して確認しましょう。また、市区町村によっては、独自の減免措置を講じている場合もありますので、詳しくはお住まいの市区町村に確認してみるのが良いでしょう。

また、対象となるものは様々ありますが、幼保無償化の対象とならないものも多くあります。具体的には給食費(主食代・飲み物などを含む副食代)、通園送迎費(バス代など)、行事費、教材費、制服費、PTA会費、入園料などです。これらは保護者の負担になります。ただし、第3子以降の子どもの副食費用は免除の対象です。また、保護者の所得状況は子どもを預ける施設、自治体により、無償化の差があります。

子ども・子育て支援新制度の対象とならない幼稚園については、無償化認定制度や、市町村によって償還払いの手続きの有無に差がありますので、お住まいの市町村にご確認ください。また、自治体によっては副食費などを無償化する地域もあるので、改めて確認しておきましょう。

【4】高等学校等就学支援金制度

高校無償化とは「高等学校等就学支援金制度」を指しています。これは、2010年に開始した国の制度であり、受給資格を持つ生徒に対して国から支援金が出るため、高校の授業料が実質無償になります。

これは、子育て世帯から教育費補助を求める声が多かったことや教育費で悩んでいる家庭が多かったことからスタートした制度です。高校無償化では、高等学校教育にかかる経済的負担の軽減を図り、教育の実質的な機会均等に寄与することを目的としています。

現在では国公私立に問わず支援金が支給されています。公立高校では2010年からスタートした高校無償化により、授業料の実質無償化が実現しました。さらに2022年4月からは私立高校に通う生徒に対しても、授業料の一部が支援されています。

高校生への修学支援は大きく分けて、高等学校等就学支援金制度・高等学校等奨学給付金・その他の修学支援策高校生奨学給付金があります。子どもの進学先の選択肢を広げるためにも、自身のご家庭が支給対象内であるか、また対象であった場合どのくらいもらえるのか確認しましょう。

■高等学校等就学支援金制度

【受給資格条件】

・日本国内在住

・年収約910万円未満世帯の生徒

・年収約910万円未満世帯=保護者などの課税標準額(課税所得額)×6%―市町村民税の調整控除額→30万4200円未満

※政令指定都市の場合は「調整控除の額」に3/4を乗じて計算する

国公立高校に通う場合、年収約910万円未満であれば、基準額(年間11万8800円を上限)を受給できます。私立高校に通う場合、所得に応じて受給額が加算されます(年間39万6000円を上限)。

両親のうち一方が働いている場合と両親共働きの場合も支給額が異なるため、詳しく確認しましょう。さらに都道府県により受けられる制度が増える場合もあります。東京都では、「東京都私学財団による私立高等学校等授業料軽減助成金事業」により、授業料の一部が助成される制度があります。上記の支援に加算して、合計合わせて最大46万7000円が受給可能です。千葉県には「私立高等学校等授業料減免制度」があります。これは年収約640万円未満であれば上記支援で補えない授業料を全額補助が受けられる制度になります。大阪府では、「私立高等学校等授業料支援補助金」の制度があります。年収約590万円から800万円の世帯では扶養する子どもが3人以上の場合は無償になります。子どもが1人の場合20万円、2人の場合10万円を上限に授業料を負担します。このように都道府県によっては国の高校無償化に加算して支援を受けられることが多いようです。

■その他の修学支援策・高校生など奨学給付金

高校無償化で授業料が軽減されても授業料以外にかかる費用があります。その授業料以外の教育費負担を軽減するため、高校生などがいる低所得者世帯を対象に支援を行う制度が高校生など奨学給付金です。

授業料以外の教育費とは、教科書費、教材費、学用品費、通学用品費、教科外活動費、生徒会費、PTA会費、入学用品費、修学旅行費などになります。

その他の修学支援策として、家計急変への支援や学び直しの支援、高等学校などの専攻科の生徒への支援、在外教育施設の高等部の生徒への支援があります。収入が激減し低所得となった世帯の学生の選択肢を狭めないための制度は多くあります。各都道府県・進学先・各事業で、制度の詳細は異なるため、具体的な要件、手続きなどについては、進学先の学校または学校の所在する都道府県へお問い合わせください。

子どもが幼稚園から大学まで進学した場合、教育費が必要な期間は長期間に及びます。文科省の調査では、新入学の児童や生徒を対象に入学前に補助している自治体は全国の8割です(2021年度)。裏を返せば、まだ2割はそうした運用をしていません。自身の年収、家庭環境や自治体の場合どのような支援が受けられるのでしょうか。上記で記載した制度は自治体や所属する学校・施設により差があるため、自分にはどの条件が当てはまるのか調べ、利用しましょう。そして、教育方針を両親で相談し、数年後を見据えて貯蓄や保険の計画をしましょう。

第5章 医療と介護

【1】医療費~病気やケガに備える

例えば、病気や怪我で入院したときや、介護が必要になった時には保険に入っているかどうかで医療費負担が大きく変わります。思いの外、入院費や治療費がかかる場合、医療費控除や高額療養費といった制度を利用することもできます。また、病気や怪我によって障害が残ったり、死亡したりした場合には、障害基礎年金や寡婦年金など、公的年金でカバーできることもあります。

■高額な医療費がかかったら

病気やケガの治療や入院で費用が高額になったとき、お金が戻ってくる制度には医療費控除と高額療養費制度があります。

しかし、それぞれの成り立ちや仕組みは全く異なりますので、確認してみましょう。

■医療費控除と高額療養費制度

・医療費控除

1年間(1月1日~12月31日)にかかった医療費が高額だった場合に、所得控除を受けられる制度です。税務署へ申告書を提出することで受けられます。

医療費控除の対象となる金額は、(支払った医療費の合計額 - 保険金などで補填される金額) - 10万円となります。

保険金などで補填される金額には、生命保険で支給される入院費給付金や、健康保険で支給される高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などがあります。なお、その年の総所得金額が200万円未満の人は10万円ではなく総所得金額の5%になります。

2017年1月1日より、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)が始まりました。これは健康診断や予防接種などを受けている人がスイッチOTC薬と呼ばれる市販薬を購入した時に、購入費用について所得控除を受けられる制度です。

このような共通識別マークの付いた市販薬を購入した金額の合計が1万2000円を超えた場合、その超過分の金額(最大8万8000円)が控除の対象となります。

ただし、従来の医療費控除とセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)を同時に利用することができないので注意が必要です。

■高額療養費制度

公的医療保険の制度で、病院やクリニックなどの医療機関または薬局で支払った金額が、月初めから月末までに一定額を超えると、超過分の金額が支給されます。健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険などの医療保険に申請すると支払われます。

1か月あたりの自己負担額の上限は年齢や所得によって決まり、2015年1月の制度見直しによって所得の区分が細分化されました。

ただし、高額療養費は健康保険が適用される医療費が対象となります。入院中の食費や生活費、差額ベッド代、先進医療費は含まれません。

医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制は併用できませんが、高額療養費とは、どちらも併用することができます。

■病気やケガで働けなくなったら

思わぬ病気やケガで長期にわたる入院や治療が必要になれば、しばらく仕事ができない状況になることもあります。そんな時に心強い味方になる法的制度からの給付金と助成金について知っておきましょう。

■病気や怪我の際の法的制度による給付金・助成金

・傷病手当金

健康保険に加入している会社員が、業務外の傷病で仕事を続けられない際に支給されます。傷病手当金の支給には、以下の条件をすべて満たす必要があります。

1.業務外の事由による病気やケガでの療養のための休業であること

2.仕事に就くことができないこと

3.連続する3日間を含め4日以上仕事に就けなかったこと

4.休業した期間について給与の支払いがないこと

勤務先に申請すると、傷病手当金として日給の3分の2相当が最長1年6ヶ月支払われます。

・休業補償給付、休業給付

労災保険から支給される制度で、業務中の病気や怪我は休業補償給付(業務災害)、通勤中の病気やケガは休業給付(通勤災害)の対象となります。業務中または通勤中の病気や怪我によって仕事を4日以上休まなければならない時、4日目からの欠勤について補償されます。所轄の労働基準監督署に申請すると、再び働けるようになるまでの期間、休業前の収入の80%を目安に支給されます。

その他、業務中または通勤中に病気や怪我をした際に労災指定病院などで診療や治療を受けると労災保険から給付される療養補償給付・療養給付や、家族の介護が必要になった時に雇用保険から受け取れる介護休業給付金があります。

【2】高齢者人口と要介護

■高齢者人口と要介護(要支援)人数の割合

年々、介護が必要な方の人数は右肩上がりで増えており、厚生労働省令和2年度介護保険事業状況報告(年報)によりますと、令和3年3月末現在要介護(要支援)と認定された数は682万人であり、令和2年3月末の669万人と比べて13万人(2.0%)の増加となっています。

2020年の推定データでは65歳以上の高齢者人口は3619万人となっており、2021年3月末の要介護(要支援)認定者数682万人の結果から、おおよそ20%、5人に1人の人が、要介護(要支援)認定を受けて、介護生活に入っていることがわかります。

このように、介護の問題は本人にもその家族にも非常に身近な問題と言えるでしょう。

では、家族に介護が必要になったときどうすればよいのでしょうか。

まずは、「誰が、何を、どのような方法で介護するか」を考えましょう。

■介護の方法

状態にもよりますが、介護方法は大きく2つに分けられます。

(1)在宅介護

自宅で介護をすることを在宅介護といいます。在宅介護は近くで見守れるので安心感があります。また、住み慣れた家ならばさらに安心でしょう。

家族の負担が増えないように、デイサービスへ通う、ホームヘルパーを活用するなどを上手に利用し、無理のない介護を目指します。

(2)施設介護

施設介護は施設に入居し、専門の方に介護をお任せする方法です。

自宅で介護をしていた場合、施設への入居を考えるタイミングはそれぞれですが、要介護度が上がる、病気やケガなどで入退院後に自宅での生活が困難と思われる、認知症が進行した、家族の負担が大幅に増えたと感じたなどを、きっかけにしているケースが多いようです。

介護施設には公的なものから、民間企業が運営している有料老人ホームなどさまざまな種類があります。

また、さらに遠距離介護という見守り方もあります。遠距離介護は、その都度訪問して見守りを行い、日常の様子を電話などで確認していく方法です。ホームヘルパーさんや近所の友人たち、かかりつけの病院などと連携しておくと安心です。

比較的まだ自立ができている状態の場合には、お互いの生活スタイルを保つことができるため、負担は少ないと言えます。ただし、すぐに駆けつけられない距離の場合には、直接対応できないといった問題もあります。

【3】介護保険制度のしくみと介護サービス

一昔前では、親に介護が必要になった場合は、子どもや親族などが中心に自宅で介護を行うことが主流でした。核家族化や少子化などにより社会問題となっていた介護について、社会全体で支えることを目的として、2000年に公的介護保険制度が創設されました。

加入対象者は40歳以上65歳未満の健康保険組合、全国健康保険協会、国民健康保険などの医療保険加入者で、40歳になった月から徴収が開始されます。

また、原則として65歳から介護サービスを利用することが可能です。

【4】介護認定をうけるには

■認定調査

認定調査票の「基本調査」の調査項目は、右記の第1群から第5群によって構成されています。

【第1群の例】 「1-8 立ち上がり」 「1-9 片足での立位」 「1-10 洗身」「1-11 つめ切り」

【第2群の例】 「2-8 洗顔」 「2-9 整髪」 「2-10 上衣の着脱」

【第3群の例】 「3-2 毎日の日課を理解」 「3-3 生年月日や年齢を言う」

【第4群の例】 「4-5 しつこく同じ話をする」「4-10 いろいろなものを集めたり、無断でもってくる」

【第5群の例】 「5-1 薬の内服」 「5-2 金銭の管理」

■判定の基準の3つの軸

①能力を確認して判定する

②生活を営む上で 他者からどのような介助が提供されているか

③障害や現象(行動)の有無

要介護度の判定は、厚生労働省が基準を定める、「要介護認定基準時間(介護にかかる時間)」をベースに7段階に区分され、それに「自立」を合わせて合計8段階に分けられます。区分の種類は、最も介護度が軽い「要支援1」から、最も重い「要介護5」まであり、また介護や支援を必要としない人は「自立」となります。要介護認定には有効期間があり、原則12か月(初回認定6か月)となっております。状態の変化により介護の必要度に変化があった場合には、いつでも認定変更申請が可能となっています。

■受けられる介護サービスの種類

■サービス利用について

サービスを利用するには、お住まいの市区町村の介護保険課もしくは地域包括支援センターに相談をします。

地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」です。住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的としています。

【5】介護保険サービス利用限度額

介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割です。仮に1万円分のサービスを利用した場合に支払う費用は1000円となります。

■居宅サービスの1ヶ月あたりの利用限度額

居宅サービスを利用する場合は、利用できる支給限度額が要介護度別に定められています。限度額の範囲内でサービスを利用した場合は1割の自己負担です。

限度額を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担となります。

※所得により介護保険の自己負担が2割もしくは3割の場合があります

■施設サービスの場合

介護保険施設利用の場合は、費用の1割負担のほかに、その他(居住費・食費・日常生活費など施設によってまちまち)の負担があります。

ただし、所得の低い方や、1ヶ月の利用料が高額になった方については、別に負担の軽減措置が設けられています。

今後ますます高齢化が進み、それによって介護する側も、介護される側も増えていきます。労力はお金によって補うことが可能です。

そのためには、早い段階からシニアライフプランを考えていくことも重要です。


クレジットカード情報

カード名国際ブランド(頭文字)還元率年会費分割実質年利リボ払い金利キャッシング金利特典・備考
楽天カードM,A,V,J1%永年無料12.25%~15.00%15.00%18.00%楽天ポイント還元
PayPayカードM,V,J1%永年無料12.19%~14.95%18.00%18.00%PayPayポイント還元(旧PayPayボーナス)
オリコカードザポイントM,J1%無料12.2%~15.00%15.00%15.0%~18.0%オリコポイント還元、入会後6か月間ポイント2%(期間中5,000オリコポイント上限)
リクルートカードM,V,J1.20%永年無料カード会社によるカード会社によるカード会社によるリクルートポイント
dカードM,V1%永年無料12.00%~14.75%15.00%18.00%(dカードGOLD:15.00%)dポイント還元、電子マネーiD対応
2022年1月31日をもって一部カードのキャッシングサービス(キャッシングリボ・海外キャッシュサービス)のご利用枠の新規受付を停止。(これから新規でお申込みになるお客さまは該当しません。)
三井住友カード(一般)M,V0.50%1375円(税込)12.00%~14.75%15.00%18.00%インターネット入会で初年度無料。追加カード電子マネー有。Vポイント
三井住友カード(NL)M,V0.50%永年無料12.00%~14.75%15.00%18.00%2021年2月1日~の新カード。カードにクレジット番号等がなく、アプリで確認。Vポイント。一般カードと違いショッピング補償なし。特定のお店でタッチ決済/コンタクトレス利用で合計5%還元。
Delight JACCS CARDM1.00%無料12.25%~15.00%15.00%18.00%旧REXカードライト。2020年11月よりカード名称がDelight JACCS CARD、ポイント名称はDelight POINTに変更。
auPayカードM,V1%無料(※)12.25%~15.00%15.00%14.95% ~ 17.95%入会条件有、※au IDに紐付く契約がない場合、かつ、1年間カード利用がない場合年会費1,375円(税込)、旧au WALLETクレジットカード(2020年5月21日よりauPayカードへ名称変更)
P-oneカードM,V,J-standard:無料,G:3300円(税込),PremiumGold:11,000円(税込)standard:17.95%,PremiumGold/G:15%standard:17.95%,PremiumGold/G:15%14.95%~17.95%請求時1%割引特典 ,PremiumGold/Gはポイント還元有、standardはボーナスポイントのみ
ウォールマートカード セゾン・アメリカン・エキスプレス・カードA     セゾンカード内種類、西友・リヴィン・サニーで利用で毎日3%OFF( 3%OFFでのご利用時には、永久不滅ポイントは付与されません。)※サービス終了
イオンカードV,M,J0.50%無料10.05%~12.42%15.00%7.8%~18.0%毎月20日・30日はイオングループ対象店舗でお買い物代金が5%OFF。WAON一体型、キャッシュカード一体型などあり。
KASUMIカードV,M,J0.50%無料10.05%~12.42%15.00%7.8%~18.0%イオンカード内種類、毎週水曜日・金曜日は、KASUMI店舗でのクレジット払いご利用でレジにて5%割引き。WAONポイントはいつでも基本の2倍。毎週火曜日はWAONポイントが基本の3倍。毎月20日・30日はイオングループ対象店舗で各店舗でお買い物代金が5%OFF
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セディナカードクラシックV,M,J0.50%1,100円(税込)12.20%~14.96%15.00%上限18.0%わくわくポイント還元
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PARCOカードM,A,V,J0.10%永年無料,カラーが異なるアメリカン・エキスプレスカードは3300円(税込)- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類、永久不滅ポイント還元、パルコ各店で割引サービスやポイント還元、ご優待特典
JMBローソンPontaカードVisaV0.50%永年無料- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%15.0%~18.0%セゾンカード内種類,Pontaポイント還元
ヤマダLABI ANAマイレージクラブカード セゾン・アメリカン・エキスプレス・カードA0.10%550円(税込)10.3%~12.7%15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,ヤマダポイント + 永久不滅ポイント + ANAマイル,入会金初年度無料,入会月を含む1年間に1回以上、ショッピングまたはキャッシングのご利用がある場合は無料
LOFTカードM,A,V,J0.10%無料(※)- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,永久不滅ポイント還元,毎月最後の金・土・日の3DAYSは全国のロフトでのお買い物が、ご優待価格,※アメリカンエキスプレスカードは年会費3300円(税込)
MUJIカードV,A0.10%無料(※)- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,無印良品のお店での利用で、MUJIマイルがたまる。永久不滅ポイント還元,※アメリカンエキスプレスカードは年会費3300円(税込)
SEIBU PRINCE CLUBカード セゾンM,A,V,J0.10%無料(※)- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,永久不滅ポイント還元+ SEIBU Smile POINT,西武グループでの特典有,※アメリカンエキスプレスカードは年会費3300円(税込),タッチ決済はVisa、JCBのみ対応
タカシマヤセゾンカードM,A,V,J1.00%永年無料- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,タカシマヤのポイント還元
Amazon MasterCardM1.00%永年無料10.00%~12.50%15.00%18.00%Amazonポイント還元
クラブ・オン/ミレニアムカード セゾンV,A,J0.10%無料9%~11.2%15.00%12.0%~18.0%セゾンカード内種類,永久不滅ポイント還元+クラブ・オン/ミレニアムポイント,イトーヨーカドーハッピーデー5%OFF
JTB旅カードVISA/Mastercard®M,V1.00%1,760円(税込)12%~14.75%15.00%18.00%JTBトラベルポイント還元、2021年7月以降入会は三井住友カード株式会社発行
JRE CARDV,M,J0.50%524円(税込)12.0%~15.0%13.20%18.0%ビューカード内種類,初年度年会費無料,JRE POINT還元
「ビュー・スイカ」 カードV,M,J0.50%524円(税込)12.0%~15.0%13.20%18.0%ビューカード内種類,JRE POINT還元
ビックカメラSuicaカードV,J1%524円(税込)12.0%~15.0%13.20%18.0%ビューカード内種類,初年度年会費無料・前年度1回以上のカード利用で2年目以降も無料,ビックポイント・JRE POINT還元
ルミネカードV,M,J0.50%1,048円(税込)12.0%~15.0%13.20%18.0%ビューカード内種類,初年度年会費無料,JRE POINT還元,ルミネ・NEWoManでのお買い物がいつでも5%OFF
東京メトロ「To Me CARD prime PASMO」V,M,J0.10%2,200円(税込)7.92~18.00%(JCB),12.25%~15.00%(ニコス)8.04~18.00%(JCB),15.00%(ニコス)15.00%~18.00%(JCB),14.94%~17.94%(ニコス)初年度年会費無料・年間50万円以上のショッピングご利用で次年度も無料,PASMO機能有,Oki Dokiポイントorわいわいプレゼント還元
TOKYU CARD ClubQ JMBV,M1%1,100円 (税込)9.87%~12.20%15.00%18.00%初年度年会費無料,TOKYU POINT還元
OPクレジットV,M,J0.50%550円(税込)2.51~16.37%(JCB),12.25%~15.00%(VISA/Master)15.00%(JCB),15.00%(VISA/Master)15.00%~18.00%(JCB),14.95%~17.95%(VISA/Master)初年度年会費無料・前年度1回以上のカード利用で2年目以降も無料,2023年8月16日からJCB系列になる予定,
名鉄μ'sカードV,M0.50%1,375円(税込)12.25%~15.00%15.00%14.95%~17.95%初年度無料,MUFGカード種類,名鉄百貨店のお買物が最大10%割引,年間5万円以上(税込)のショッピングのご利用で次年度年会費無料
JQ CARD セゾン M,A,V,J0.50%1,375円(税込)(※)- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,JRキューポ還元,JR九州グループ特典有,※初年度無料、年間1回以上ショッピングのご利用で翌年年会費無料,
ENEOSカード PJ0.60%1,375円(税込)15.00%15.00%17.95%初年度無料,
出光カードV,M,J1%(※)1,375円(税込)10.23%~12.63%12.0~15%12.0~18.0%初年度無料 ※新規申し込み受付停止中
CLUB AJカードM0.50%2,200円(税込)12.25%~15.00%15.00%18.00%初年度無料・,当年度のカードショッピングご利用合計金額が10万円以上の場合次年度は無料,ラブリィポイント還元
コスモ・ザ・カード・オーパスV,M,J0.50%無料10.05%~12.42%15.00%7.8%~18.0%イオンカード内種類,コスモ石油で燃料油がコスモ・ザ・カード会員価格,毎月20日・30日はイオングループ対象店舗でお買い物代金が5%OFF
シェル-PontaクレジットカードV,M1%1,375円(税込)(※)12.25%~15.00%15.00%14.94%~17.94%三菱UFJニコスカード種類,初年度無料,※Ponta加盟のシェルSS、出光SS、apollostationで年1回以上のご利用で次年度の年会費無料,Pontaポイント還元
マツダm'z PLUSカードセゾンM,J1%永久無料15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類,m'z PLUSポイント還元※マツダ各販売店のみ可能,2023年3月31日に新規募集終了,
VIASOカードM0.50%無料12.25%~15.00%15.00%14.95%~17.95%三菱UFJニコスカード種類,たまったポイントは1ポイント1円でオートキャッシュバック(累計ポイント1000ポイント以上),
セゾンカードインターナショナルV,M,J0.10%永久無料- (ボーナス2回:3.79~10.29)15.00%2.8%~18.0%セゾンカード内種類、永久不滅ポイント還元、ナンバーレスカード有
りそなカードセゾンスタンダードV,M0.10%永年無料-15.00%15.00%~18.00%りそなポイント36還元

住宅ローン金利情報:

住信SBIネット銀行 変動金利0.44 固定当初5年1.69 固定当初10年1.79  -              -2.2         通期引き下げプラン(ネット専用住宅ローン)

auじぶん銀行 変動金利0.319% 固定当初5年1.76%     固定当初10年2.07%         -              -                2.2           全期間引き下げプラン

りそな銀行 変動金利 0.37% 固定当初5年 1.245% 固定当初10年 1.545%   0.2           55,000                2.2           全期間型

三井住友信託銀行                変動金利                0.445~0.995          固定当初5年                0.92~1.22              固定当初10年                1.09~1.39              0.25        33,000    2.2                変動→全期間引き下げ、固定→当初期間引き下げ

三井住友銀行        変動金利                0.475~0.725                固定当初5年        1.45~1.70              固定当初10年  1.54~1.84              -              -              2.2                全期間引き下げプラン

ソニー銀行            変動金利                0.397      固定当初5年    1.369      固定当初10年      1.395      -                44,000    2.2           新規購入で自己資金10%以上 変動セレクト住宅ローン

イオン銀行            変動金利                0.43        固定当初5年    1.07        固定当初10年      1.45        -                110,000  2.2           手数料 定率型:最低取扱手数料 220,000円(税込),定額型:借入利率に年0.2%上乗せ

三菱UFJ銀行       変動金利                0.475      固定当初5年    -              固定当初10年      0.88                        -              2.2           ネット住宅ローン

みずほ銀行            変動金利                0.575~0.875                固定当初5年        1.00~1.30              固定当初10年  1.45~1.75              -              33,000    2.2                店舗での手続き・ローン取扱手数料型

楽天銀行                変動金利                0.550~1.200                固定当初5年        1.108~1.758          固定当初10年  1.465~2.115          -              330,000  -               

SBI新生銀行         変動金利                0.42or0.65                固定当初5年        0.85        固定当初10年                1.1           -              55,000    2.2           自己資金10%以上、変動金利は2タイプから選べます(手数料2.20%または定額)

PayPay銀行          変動金利                0.38        固定当初5年    0.9           固定当初10年      1.04        -                -              2.2          

住信SBIネット銀行            フラット35           (買取型)        15年~20年         9割以下 1.40%     手数料                1.10%     最低手数料            110,000  機構団信付きの金利

住信SBIネット銀行            フラット35           (買取型)        15年~20年         9割超     1.54%     手数料                1.10%     最低手数料            110,000  機構団信付きの金利

住信SBIネット銀行            フラット35           (買取型)        21年~35年         9割以下 1.83%     手数料                1.10%     最低手数料            110,000  機構団信付きの金利

住信SBIネット銀行            フラット35           (買取型)        21年~35年         9割超   1.87%     手数料                1.10%     最低手数料            110,000  機構団信付きの金利

りそな銀行            フラット35           (機構買取型)                20年以下               9割以下 1.40%     手数料                1.87%     最低手数料            -              団信付き

りそな銀行            フラット35           (機構買取型)                21年以上               9割以下 1.83%     手数料                1.87%     最低手数料            -              団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料定率コース            20年以下               9割以下 1.40%                手数料    0.99%     最低手数料                220,000円(税込み)           団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料定率コース            20年以下               9割超     1.54%                手数料    0.99%     最低手数料                220,000円(税込み)           団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料定率コース            21年以上               9割以下 1.83%                手数料    0.99%     最低手数料                220,000円(税込み)           団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料定率コース            21年以上               9割超     1.97%                手数料    0.99%     最低手数料                220,000円(税込み)           団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料無料コース            20年以下               9割以下 1.51%                手数料    -              最低手数料            -                団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料無料コース            20年以下               9割超     1.65%                手数料    -              最低手数料            -                団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料無料コース            21年以上               9割以下 1.94%                手数料    -              最低手数料            -                団信付き

三井住友信託銀行                フラット35           手数料無料コース            21年以上               9割超     2.08%                手数料    -              最低手数料            -                団信付き

三井住友銀行        フラット35           超長期固定金利型プラン                10年超~15年以内             ※                1.63~2.53%          手数料    2.20%     最低手数料        -              団信付き ※お借入金額の50%以上超長期固定金利型でお借り入れの場合のご融資利率

三井住友銀行        フラット35           超長期固定金利型プラン                15年超~20年以内             ※                1.68~2.58%          手数料    2.20%     最低手数料        -              団信付き ※お借入金額の50%以上超長期固定金利型でお借り入れの場合のご融資利率

三井住友銀行        フラット35           超長期固定金利型プラン                20年超~35年以内             ※                1.81~2.71%          手数料    2.20%     最低手数料        -              団信付き ※お借入金額の50%以上超長期固定金利型でお借り入れの場合のご融資利率

イオン銀行            フラット35           融資手数料Aタイプ(定率)        20年以下               9割以下 1.40%                手数料    1.87%     最低手数料                110,000 円(税込)            新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Aタイプ(定率)        21年以上 35年以下           9割以下            1.83%     手数料    1.87%     最低手数料                110,000 円(税込)            新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Aタイプ(定率)        20年以下               90%超100%以内            1.54%     手数料    1.87%     最低手数料                110,000 円(税込)            新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Aタイプ(定率)        21年以上 35年以下           90%超100%以内              1.97%     手数料    1.87%     最低手数料        110,000 円(税込)            新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Bタイプ(定額)        20年以下               9割以下 1.60%                手数料    55,000円               最低手数料                -              新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Bタイプ(定額)        21年以上 35年以下           9割以下            2.03%     手数料    55,000円               最低手数料        -              新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Bタイプ(定額)        20年以下               90%超100%以内            1.74%     手数料    55,000円               最低手数料        -              新機構団信付き

イオン銀行            フラット35           融資手数料Bタイプ(定額)        21年以上 35年以下           90%超100%以内              2.17%     手数料    55,000円                最低手数料            -              新機構団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定額型                15~20年まで      90%以内                1.59%                手数料    33,000円               最低手数料                -              団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定額型                21~35年まで      90%以内                2.02%                手数料    33,000円               最低手数料                -              団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定額型                15~20年まで      90%超100%以内 1.73%                手数料    33,000円               最低手数料                -              団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定額型                21~35年まで      90%超100%以内 2.16%                手数料    33,000円               最低手数料                -              団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定率型                15~20年まで      90%以内                1.40%                手数料    1.87%     最低手数料            33,000円            団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定率型                21~35年まで      90%以内                1.83%                手数料    1.87%     最低手数料            33,000円            団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定率型                15~20年まで      90%超100%以内 1.54%                手数料    1.87%     最低手数料            33,000円            団信付き

みずほ銀行            フラット35           手数料定率型                21~35年まで      90%超100%以内 1.97%                手数料    1.87%     最低手数料            33,000円            団信付き

楽天銀行                フラット35           団信あり                15年以上~20年以下         9割以下 1.40%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信あり                21年以上~35年以下         9割以下 1.83%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信あり                15年以上~20年以下         9割超     1.54%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信あり                21年以上~35年以下         9割超     1.97%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信なし                15年以上~20年以下         9割以下 1.20%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信なし                21年以上~35年以下         9割以下 1.63%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信なし                15年以上~20年以下         9割超     1.34%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

楽天銀行                フラット35           団信なし                21年以上~35年以下         9割超     1.77%                手数料    1.430%(税込)  最低手数料                110,000円(税込)             楽天銀行をご返済口座にご指定の場合、手数料は借入金額×1.10%(税込)

ARUHI   フラット35                           15年以上~20年以下    9割以下 1.40%     手数料    2.20%     最低手数料        -              団信付き

ARUHI   フラット35                           15年以上~21年以下    9割超10割以下   1.54%     手数料    2.20%                最低手数料            -              団信付き

ARUHI   フラット35                           21年以上~35年以下    9割以下 1.83%     手数料    2.20%     最低手数料        -              団信付き

ARUHI   フラット35                           21年以上~36年以下    9割超10割以下   1.97%     手数料    2.20%                最低手数料            -              団信付き